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第十八話「クソゲー世界の危機」

「本当にごめんなさい!!」


「そんな……私のほうこそごめんなさい」


 ウンディーネには俺達の正体も、どうしてこの世界に来たのかも全部話した。


「まさか、そんな事情があったなんて……それなのに私ったら」


「気にしないでください。ウンディーネさんの言ったことは正論。私が目を背けていただけ」


「俺も……目を背けていた。いつかは自分の事を許せる日が来ると思って、何も考えないようにしていた」


 だけど、そうじゃなかった。


 考えたくなかったのだ。自分が好きな人を守れなかったことを。


 スピカも、たぶん同じような気持ちなんだろう。


「だけど、俺達はきちんと考えなくちゃいけなかったんだ。考えて考え抜いて、悩みぬいた結果に従わなくちゃいけなかった」


「……そうね。もしずっとこのままだったらお互いに罪の意識を抱えたままになっていたと思う」


 でも、それじゃ駄目だった。


 人は考えをやめている間は休める。楽ができる。


 だけど、辛いことをずっと抱えたまま、いつまでも解決しないまま苦しむことになる。


 もしかしたら、それが忘れて消える日が来るのかもしれない。


 だけど、大切な事の答えは自分自身で見つけないといけないんだ。


 その答えを見つけ出す時間を……ウンディーネさんはくれた。


「あなたのおかげで、俺達は答えを見つけることができたんだ……だからありがとう」


「アンタたち……」


「ありがとうございます。ウンディーネさん」


 スピカの言葉に思わず顔を背けるが、一瞬恥ずかしそうにした可愛い顔を俺達は見逃さない。


「ま、まぁ困ったことがあるなら言いなさい。私が助けてあげるんだからね」


 スピカと俺はお互いに顔を見合わせて笑った。


 そうだ、たぶんこのまま幸せな日々がずっと––––––––––––––。






 ドクンッ––––––––––––––。






「かはっ!!」


「た、タクミ」


 俺の額から、腕から、汗腺から一斉に汗が放出される。


 まるで今感じた絶対の感覚。何かとは言えない、絶対的な恐怖で息が止まり、鼓動がまくしたてるように鳴り響く。


 なんだこの感触……なんだこの違和感……なんだこの恐怖……!!!


「っ……みんな伏せろおぉーーーーーーーーー!!!!」






 俺の声に驚き全員が慌てて机の下に隠れた瞬間––––––––––––––。




 轟音と共にこの世界の平和は揺るがされた––––––––––––––。






 イテェ…………。


 ゆっくり覚醒していく。視界が戻り、意識がはっきりしてくる。


 俺が痛みを感じて後頭部を触ると、ぬるりと嫌な液体の感触があった。血だ……そ、そうか……スピカを庇った時に後頭部に何かぶつかったんだ。


 おそらく……この後ろの光景がそれを物語っている––––––––––。






 ––––––––世界は…………崩壊を始めていた。






「つっ……スピカ、大丈夫か?」


「ええ、何とか……みんなは?」


「無事です!! 今コジロウさんとウンディーネさんが戦っています!!」


 意識がはっきりしだしてくる。


 辺りはすでに火の海だった。さっきまで夕日に暮れていた空を隠していた酒場の屋根はあたりの外壁ごと吹き飛んでいた。


 なんだこれ……。なんで急にこんなことになった!?


 さっきまで平和だったこの世界は、跡形もなく消し飛んだ。


 すでになくなった外壁の先を見つめると、何人か倒れていた。


「ぐっ!」


 否、もうすでに人とも呼べない肉塊も存在していた。文字通り下半身を失い、臓物をこぼれたカップ麺のように垂れ流している。


 スピカもそれを見て口を必死に抑え、吐き気に耐えているようだ。


「タクミ殿!! 早く加勢を頼む!!」


「―――――はっ!!」


 やっと現実に感覚を戻した俺は、ペルの防壁治癒(スフィアヒール)の膜から出てじいさんに加勢する。


「タクミっ! とって!!!」


 声がする方向を見る、長い棒状のものをキャッチし、その正体を確かめる。


「天翔丸!!」


「タクミ! フォル、応援してる!! がんばっ!!」


「フォル……っ!! あぶない!!!」


「え……?」


 背後から忍び寄る黒フードの振り下ろした大剣は、すでにフォルの眼前まで来ていた。


 しかし、フォルの頭部を貫くはずだった部分は一陣の風と共に掻き消えた。


「キサマ……このわしの目の前でフォルに手を出すとはのう……その度胸くらいは認めてやる」


 じいさんが鞘で男の腹をつつくと、支えを失い細切れになった肉塊が崩れた積木のようにボトボトと落ちていく。


「名も顔も……もはやわからんがな」


 怒りを鎮めるように瞳を閉じる。その姿は歴戦の勇士を物語らせるようだ。


「フォル、ペル殿と一緒にいなさい」


「う、うん!!」


 少し涙目になりながらペルのほうへ駆けていく。


「じいさん!!」


 俺は天翔丸を鞘から解き放ち、じいさんに駆け寄る。


「わしは東に向かう!! タクミ殿は西を頼む!!」


「わかった!!!」


 走るとともにその変わり果てた街を見渡す。


「なんだここ……本当にあのシーファトか!?」


 火の海に囲まれたそこはもう平和の世界ではない。





 ––––––––––まるで俺が望んだ……いや違う!!





 ––––––––––––––俺が望んだのはこの世界じゃない!!!






 考えてる場合か!! この場を切り抜けたらいくらでも考えろ!!! 今は、絶対に守ると決めた人を守るんだ!!!


 前方からやってくる黒いフードをかぶり顔が見えない男達を前に、俺は吠える。


「どうしてこんな事できるんだよ……お前らぁ!!!」


 前方に三人! その後方に術を唱える敵が五~六人。全員同じフードを深くかぶった黒いコートを着ている。


 男の放ったボウガンを跳躍でよけ、上空からそいつの肩口から心まで叩き切る。


 その男を蹴飛ばして、横で剣を構える男に左から一文字に一閃。その軌道上にロングソードの防御が差し込まれる。


「それがどうしたああぁっ!!」


 そのロングソードごと、男の腹を斬りふせる。


 後方から殺気! 俺はそいつの剣筋を心眼でとらえ、体制を低くしてそれをかわす。


「っらぁ!!!」


 その反動を利用し、体を半回転させながら敵の顎をめがけて一突き。引き抜くと、生暖かい血液が全身に降りかかる。


 三人を切り捨て、さらに奥にいる同じコートを着た数人を見据える。


 術の詠唱はすでに終わったのか、火球が俺に向け一斉に放たれる。


 ……思い出せ、じいさんがやってたこと……っ!!!




 風の加護を––––––––––––––!!!!




 力の発動を感覚でとらえる。


「消し飛べッ!!」


 火球は俺の周囲を保護する無尽蔵の風の刃で掻き消えていく。


 その様子に面を食らった男達は、焦ったようにあたりを見渡す。


 その隙を俺は見逃さない。


 1kmは離れていた男達を一瞬で間合いに詰める。


「おせぇよ」


 一人目の首を飛ばした時、ようやく男達の悲鳴が聞こえた。


「なんでこんなことした? ……答えろ」


「あ……そ、それ……っあ……」


 そいつの台詞は言葉にならない。その様子に俺は苛立ちをあらわにしていく。


「さっさと答えろ。俺が我慢できなくて殺しちまうじゃねぇか」


「っ……ああああ!!!」


 後ろから数人の黒フード達の殺気を感じる。だが素人目にも統制がとれてなく、短剣を突き付けているだけだ。


 俺は体制を低くしながら遠心力を利用し右回りにそいつらの胴をいっぺんに裂く。


「ひあぁ!!!」


 さっきまで脅していた男のフードの上部がついでのように裂けて、顔を隠していたそれは、力をなくしたように外れ、情けない顔をさらけ出す。……そして、その人物がただの人間であることが判明した。


「二度目だ。答えろ…………」


 なぜこの世界の人間たちを殺した?


 なぜこの町を襲った?


「切られないと答えられないのか!?」


「お……お前がいるからだっ!!!」


 首を叩き切ろうとした刃が止まる。


「……なんだと?」


「ひ……ひひ……そうだ、お前が望んだハードモードって奴だ!! 満足したかクソ野郎ぉ!!!」


「……俺はこんな世界望んでねぇ。適当な事抜かすんじゃねぇ」


「いいや違うねぇ!! お前の記憶を読み取ったんだから間違いない」


 記憶を読み取った? ……っ!!


「どういうことだ……奴は俺がっ!!!」


「これからだぁ!! これからお前の望む世界が始まるっ!!! せいぜい楽しんで逝けやぁ!!! ハーッハハハハハッ!!!」


 男はひとしきり笑ったかと思うと白目をむいて倒れた。


 脈を確かめたが…………すでに、こと切れていた。


 殺したのは俺ではない。誰が……?


 いつの間にか振っていた雨を浴びながら、返り血を洗い流すように空を目を細めて見上げる。






 ––––––––––この世界は俺が望んだ世界なのか?






「そうとも言えるし、違うとも言えるね」


「……創造神(くそガキ)が一体何の用だ?」


 いちいち人の神経を逆なでる、そいつの邪気を孕まぬ言動に苛立ちを隠さずに聞き返す。


「––––––––––君はそろそろこの世界の真実にたどり着かなければならない……そうでなくては、この世界の勇者にはなれない」


「なんのようだっつってんだ!! ……俺はっ!!!」


「人殺しかい?」


「っ!!」


 俺はそのガキを睨みつけた。が優しすぎる笑みに何も言い返せなかった。


 俺の頬には雨でも血でもない他の雫が流れていた。


「ひどい顔だね……」


 その目は、まるで憐れむようで……悔しくなった。


「殺したくなかったかい? ……でも、殺さなきゃ勇者にはなれない……君もすでにわかってたはずだよ?」


 ……殺さなければ英雄にはなれない……わかってた、そんなこと。


「けどよ……俺は!!」


「それでいいと思うよ? 実際に君は僕との約束を守って、きちんとスピカちゃんを守った。それでいいんだよ」


「くっ……」


 それでも、俺は……。


「そうだね……このままじゃあんまりにもかわいそうだし、この世界の正体のヒントをあげようか?」


「ヒント?」


 ニヤリと笑い。帽子をさらに深くかぶった少年は、つぶやくように、だがはっきりと言った。


「こいつらは……そして君が倒した偽アーノルドは、転生者だよ」




 狂い始めたその世界は、この小さな襲撃事件によって幕を開く。


 そう、これから起こることからしてみれば……まだ小さな火の粉に過ぎなかったのだ。

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