第十七話「クソゲー主人公は手を差し伸べた」
「どうしよう……私……っ!」
遠くでフラフラになりながら、何かを探している人がいる。ウンディーネさんだった。
「ど、どうしたんだ!?」
よく見てみれば服もヨレヨレ。慌てて来たのがわかる。汗まみれなのか、全身がかるく濡れている。
「タクミ君……私、とんでもない事をしちゃった……ごめんなさい!!」
白い肌が真っ青になり、泣いてるのか言葉もうまく聞き取れない。
「落ち着いて!! どう言う事なんだ?」
「ここまで深い傷だって知らなかった……ううん。気付くべきだったわ。全部私のせいだっ!!」
事情を聞いた俺は街中を駆け巡った。
しかし、スピカはどこにもいない。
「クソ! どこにいるんだ!」
あ、そうだ! ペルならわかるかもしれない!!
アーノルドを探した時もペルが助けてくれた。俺は焦りながらもスマホを使いペルを呼んだ。
『もしもし、タクミさんですか!?』
「ペル! お願いしたいことが……」
『そんな事より大変です……助けてください!』
なんだと!? まさかペルにも、何か危険が迫ってるとでも言うのか!?
『ここ………どこですかぁ〜〜〜?』
「………」ピッ!
……事情を聞いた俺は街中を駆け巡った。
しかし、スピカはどこにもいない。
「クソ! どこにいるんだ!」
……俺はさっきからコール音がなってるスマホの通話ボタンを押した。
『なんで切っぢゃうんですかああぁぁぁ〜〜〜っ!!!』
ベソをかいた声で、すがるような醜い声がスマホから聞こえる。
「ウルセェ!! こっちはスピカがいなくなって急いでるんだ!! 迷子なら迷子センターだの交番だので自分で解決しやがれ!!!」
だいたい失踪した人を探すために電話したのに、なんでそいつが迷子になってるんだ? うん。やっぱりこいつは駄女神だ。
『やっぱりスピカさんいなくなっちゃいましたか。間に合わなかったです……』
「? どう言うことだ?」
『私ウンディーネさんと先程酒場で話してて、お節介をやこうとしてる事を知ったんです。私も止めようと追いかけたんですが……』
……道中で迷子になったわけだ。
「アーノルドの時みたいに草木に聞けないのか?」
『無茶ですよ。この辺ほとんど植物なんてないんですから』
そりゃそうだ。石造りの街だからな。あるとすりゃたまにある花壇くらいだ。
「とにかく、後で探してやるからお前そこで待ってろ!!」
『ありがとうございますぅ〜〜!!』
……ほんとコイツ置いていこうか?
とりあえず、スピカはどこに行った?
エストに戻った? いや、エストに戻る馬車はまだ出ない。ならば、歩いて行ける距離……そうだ地図!! ポケットの中に入ってた地図を開いて考えた。
猫獣人族の里? いやフォルもじいさんもここにいる。アテがあるわけがない。
そもそも、あいつはどうするつもりなんだ? どこにもアテはないはずなのに。
「……いや、待てよ」
俺があいつだったらどうする?
「やっぱ、ここしかないか」
「え!?」
来るわけがないはずって顔だな。そりゃそうか。
ここはスピカが捕まってた場所だからな。さすがにトラウマになってるアーノルドの精神干渉を受けてた場所ではなかったか。だったら次に俺から見つかりそうにない場所と言えば、クレンシエントの湖しかない。
普通に見つけようと思えば、トラウマになっているはずのここは、真っ先に排除すべき場所だからな。
「ウンディーネからある程度の話は聞いた。まぁ悪気がない事くらいわかってんだろ?」
「そうよ。ウンディーネさんは全く悪くない」
「––––––––悪いのは自分……か?」
「そう、悪いのは私」
やっぱそんな事考えてやがったのか。ずっとそんな自己嫌悪で押しつぶされていたのか。
「何度も考えてしまう。私がいなかったら? 君が助けなかったら? そんな事ばっかり考えてしまうの」
俺は、コイツのあまりの自己犠牲っぷりに長いため息をつく。
「ほんっとバカだなお前。お前の考えなんてシンプルすぎて、すぐに読めるっつーの! どんだけ単純なんだよ。あのアホ女神様に負けず劣らずのアホだ。しかも自分勝手にどっか行きやがってバカじゃねぇの」
「そうよ!! 悪い!? 私は……私はバカだよっ!!! ––––––––もしかしたら、この世界なら私は幸せを手にできると勘違いした!! 大バカ者だよ!!!!」
深い森で、囲まれた二人しかいない空間に絶叫がこだまする。
「だからそれがバカだっつってんだよ!!!」
泣きじゃくりながら、俺に自分への怒りを告白する、そのバカ野郎の肩をつかみ揺らした。
「考えりゃわかんだろ!! 俺が––––––––お前を見つけられないわけねぇだろ!!」
「っ!!」
「俺は約束を守る男だ!! お前がいなくなったらお前を守れねぇだろうが!! だったら死に物狂いで探してやる! この世界にいないなら、どこへでも転生してテメェの腕つかんで引き戻してやる!!!」
その目をまっすぐ見据える。そのライトグリーンの瞳に浮かんだ涙を、見えないようにしっかりと抱きしめる。栗色の髪が俺の腕にからんで、甘い匂いが切なく香る。
「だって! あなたは私が殺したようなものじゃない……私があの時一人で死んでたら……あなたは」
「バーカ! お前やっぱ、ほんっとうにバカだな!!」
「だって…だって私っ!! 私は……」
ふざけんなと思った。そんなの許せるわけねぇだろ。
「いいか、もしあの時、俺がお前を助けずにいたら、俺は俺をぜってぇに許さねぇ。それこそ殺してやりてぇよ!!」
俺が、俺を許せるわけがねぇ!
「もし、あの時……お前だけ死ぬようなことがあれば、俺が時を超えてでも助けてやる!! 絶対にお前を守ってやる!! お前だけ死ぬなんてこと俺がぜってぇゆるさねぇ!!!」
「タクミ………タクミっ………!!!」
あーもう言葉がうまくまとまんねぇ!!!
「だーーー!! もう!!! 俺も何言ってんのかわかんなくなってきちまったじゃねぇか!!! お前のことが好きなんだよ!!! ほとんど一目惚れでお前の事知れば知るほどかわいいって思って!! 気が付いたらぞっこんだったんだよ!!! そんなお前が悲しい目をしてんのが見てて辛くなって苦しくなって、見てらんねーんだよ!!! ちょっとは人の気持ちを考えやがれこん畜生っ!!!」
多分一生俺は後悔するくらい頭の悪い赤っ恥な告白をしてしまった。あーそうですよ今死ぬほど恥ずかしいですよ顔真っ赤ですよ!! だから俺は絶対顔が見られないように––––––––さらにきつく抱きしめる。
「……しまらないなぁ……さすが中二病」
「うるせぇよ、ポエマー」
そう、彼女のすべてが可愛いと思った。ポエマーなところも、料理作ってるところも、こうやって逃げちゃうところも、何もかもが好きだ。超好きだ。
「だからよ。あんま離れんじゃねーぞ」
「うん。離れない。もう絶対離さない。私もタクミが好きだからっ!! だから……一緒にいさせてくださいっ!!!」
スピカと共に帰る道。
二人の間に流れる沈黙はどうにも気まずい。
そりゃそうかもしれないな。晴れて胸のつかえも取れて恋人同士になったわけだが、お互いの罪悪感から完全に逃れたわけじゃない。
俺達は恋人同士になったが、それだけはきっと一生胸の傷として刻まれるんだろう。
だけど、それは大した障害ではないと思える。コイツと一緒なら……。
さーて、それよりどうやって周りには話そうか?
とりあえず、ペルとウンディーネには話したほうがいいな。それからフォルの事だが……一応、一夫多妻制だしな。うんまぁ何とかなるだろう。
あれこれ考えているうちにウンディーネの待っている酒場に到着する。そういえばあとでペルを連れて帰らないとな。
そう思って酒場の扉を開けると、魂が抜けきって真っ青と言うより真っ白に燃え尽きているような感じのペルがそこに座っていた。
「はは……ははは……」
「な、何があったんだ?」
「タクミ殿……実は……」
じいさんも言いにくそうに言葉を濁らす。すると、フォルが無邪気な笑顔で答える。
「フォルねー。迷子のペルを助けたのーー! 偉いでしょーー!」
「そうなんですぅ……私ペルセポネ百十二歳は……六歳の女の子に……迷子の所を助けていただいたんですぅ…………」
「「………………」」
「いいんですよぉ……あはは……笑ってくださいよぉ……ここ笑いどころですよぉ?」
あかん、これ笑い転げそうだけど……笑っちゃいけない奴だ。
「撫でて撫でてー」
一切の悪気もない甘えん坊が頭を差し出し、俺は(爆笑顔を見られないように)顔を手で覆いながら空いた右手でフォルの頭をなでる。
「ペル……元気出せよ」
「そ、そうだよ……ククッ……ペルちゃんは笑ってないとだめだよ……」
「そ、そうじゃな……わ、わしも道がわからなくなるとこもない事はないしのう」
結局、周りのお客さんにも聞こえていたようで、笑いそうなのに笑えない謎の空間がその酒場には広まっていた。




