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第一話「クソゲー主人公はレベルを上げて物理で殴る」

「……ふぁ」


 一夜が明けた。朝日がカーテンから差し込み、目が覚めると俺の部屋のベッドでしたー。……なんてことはなかった。


 昨日借りた異世界の宿屋のベッドだ。六畳程の思ったより広い部屋で、軽食用のテーブルもあり奥にはカーテンで仕切られた洗面所もある。中世ヨーロッパ風の異世界だがある程度技術は発展しているようで、きちんとシャワーもあるようだ。日本人としてはお風呂に入りたい所だが……今度大浴場でも探してみよう。


 さて今日はギルド登録をするつもりだ。だが、昨日とは打って変わってギルドに行きたくない。


「はぁ……」


 俺もさ、他人のミスをいつまでも責めたくないわけさ。それでも、ワクワクしてやってきたこの異世界が––––––––。




「こんだけ平和とあっちゃあなぁ」


 宿屋から出て、太陽の光と共に映った景色は平和そのものだった。


 木造建ての建物がいくつも並ぶ町で買い物をしているのは人間だけではない。肌が紫だったり、ゴリラだったり、猫耳のおっさんだったり、頭に角が生えていたりと、明らかに魔族や獣人な方々が普通に買い物をしている。


 大昔の戦争では、お互いの種族で戦っていたりしたこともあったそうだが、今はいろいろな問題が解決して平和に暮らしているんだと。


 要するに、この世界は救世主の登場は必要としていない。元の世界に負けず劣らずな平和な世界。


「……どうしてこんなことになったんだ?」


 いや、ペルセポネ……俺を間違えて転生させたアホの子女神が、俺を転生させたときに誤って、この世界に飛ばしてしまったのが原因なんだが。


 まぁ、いつまでも嘆いてばかりもいられない! それにこんな世界でも、誰かが俺の救いを待っているかもしれないしな!!


「ともかく、ギルドを探そう。金もいずれは底を尽きるしな」


 ギルドに行けば、強盗や盗賊の討伐なんかもあるだろうし、自警団や衛兵になればあるいは……。




「おー! これこれ!!」


 酒場と、依頼書の貼られた掲示板、受付のお姉さんが一人。これぞ異世界のギルド!! 奥の酒場で窓拭きをしているウエイトレスが一人と、厨房で皿洗いしている中年のマスターが一人。一応営業はしているようで、二十くらいあるテーブルで朝食を食べている人が何人かいる。


 俺は試しに掲示板に貼られた依頼書を読んでみる。


「うぉ……本当に読める」


『ルールブック1-2:転生前の世界にはなく、転生先にある言語、魔力などの概念は転生先の平均的な能力を転生時に手に入れることができる』


 なんとも便利なことだが、それよりも……。


『サラおばあさんの時計を修理してほしい 依頼料1000G』

『代わりにポーカーで勝負してほしい 依頼料勝ち分の二分の一』

『家の掃除 依頼料100G』


 と、なんともまぁ異世界のギルドっぽくない内容だ。とにもかくにもギルド登録しないといけないし受付に行ってみよう。


「ようこそ! エストギルドへ! 職業のあっせんですか? クエストの受付ですか?」


 緑髪のお姉さんだった。ショートながらに少しくせっ毛なところが魅力を引き立てていた。……なかなかスタイルもいい…………っといかんいかん。


「えっと、登録をしたいんですが……」


 すると、にっこりと笑い。


「登録ですね。では身分証明書などはお持ちでしょうか?」


「み、身分証明? えっと……」


 学生証……じゃ駄目だよなぁ……。


「何もそういうのは持ってないんですが……なんとかなりませんか?」


「なら、身分証明書の発行からですねー。お住まいの住所などはございますか?」


「旅人で、今は宿屋に」


「なるほどなるほど……ではまずこの書類にご記入を。あ、住所は今の宿屋の名前を書いていただければそれで結構です」




 とまぁ、なんだかめんどくさい書類を2~3枚書いて身分証明書のカードを発行。


 ルールブックに書かれていたステータス値は、この身分証明書に記録することができ、好きな時に確認できるらしい。まさに異世界、ゲームで言うところのステータス画面ってわけだな。


「では次にギルド登録のためにお客様の能力を測らせていただきますね。この水晶に手を触れてください」


水晶は占いとかでよく見る丸い球体の、ガラスのように透明な物体だった。少し大きめでバスケットボールくらいの大きさがある。


「触れるだけでいいんですか?」


「はい。私も詳しい仕組みは知らないんですが、これで数値化できるんです。だけど一つだけ注意点があります」


「注意点?」


「ええ、能力値はあくまで参考で絶対値ではありません」


「絶対値ではない?」


「簡単に言うと……そうですね。私の筋力値は60なんですが、筋力値70のBさんと腕相撲をするとしますね」


 と、お姉さんは腕相撲をするようにポーズをとる。前かがみのその姿勢に一瞬でかい双乳でできた渓谷が見えそうになったので、慌ててその細指の右手に意識を集中する。


「普通に考えれば当然Bさんが勝ちます。ですが、私が10連勝する可能性もあります。つまり健康状態などによる値のムラが発生するんですね」


「そっか、体力測定みたいなもんだな」


「体力測定……?」


「あ、いや……なんでもないです」


 そうか、この世界の人にとっちゃ聞いたことない事だよなぁ。そう思いつつ、水晶に手を触れる。




 ––––––––––––––––––あれ?




 ––––––––––––––––––––––––きみはだれ?




 ––––––––––––ああ、そうか。







 ようやく君に会えたよ







「!?」


 一瞬、誰かに話しかけられたような?


「どうかされましたか?」


「い、いや……で、どうなんですか?」


「そろそろ数字が出てくるはずですよ……っと、ほら」


 お姉さんの目の前に薄緑色の淡い光が現れ、長方形の形に変わりそこに文字が浮かび上がる。魔法のようで、パソコンのウインドウのような電子的な雰囲気もかもしだしている……いわゆるウインドウに書かれている数値を一つずつ読んでいく。


 ========


 体力値:3454

 筋力値:2984

 耐久値:2735

 魔力値:150

 魔耐性:300

 俊敏性:2357

 動体視力:2684

 特殊能力

 風の加護

 錬成

 見切り

 夜目


 ========


 あれ? このステータスおかしくないか?


 やたらステータスの数字がバラバラだし……。


「なんというか……魔力関係はめっちゃ低いな」


「い、いえ……そうではなく……これは……まさかそんな……」


 ん? でもたしか、さっきのルールブックの項目に……。


『ルールブック1-2:転生前の世界にはなく、転生先にある言語、魔力などの概念は転生先の平均的な能力を転生時に手に入れることができる』


 つまり、魔力値とかは前の世界には存在しないわけだから、平均値が与えられているってことか。


「魔力値や魔耐性は普通なのに……それ以外の数字が常人の域を超えています……獣人でも、4桁の数値は見たことがありません」


「おお、筋トレの成果だなぁ……」


 と、俺はのんきにそんなことを考えていた。


「んで、俺に見合った仕事はありますか?」


「え!? え~っと、そうですねぇ……小麦農家のヨーゼフさんの所とかどうですか? 収入も安定してますし、あなたの筋力値なら力仕事も苦でもないかと」


 そりゃ力仕事自体は大丈夫だけどさ……。


「なんかこう、軍とか自警団とか盗賊の討伐とかの仕事をしたいんですが……」


「連合軍は人手が足りているようですし……盗賊も、大体この村の自警団で討伐できていますね」


 う~ん、実に平和だ。


「あ、そういえばこの間入ったクエストで……あ、あったあった」


 お姉さんが取り出した依頼書を読んでみる。


「なになに……お! おおお!! ドラゴン討伐!!! これだよこれ!! これが俺の初仕事だ!!!」




「いやぁ~助かるよ。この時期はドラゴンが多くてねぇ」


 ぺちっ


「いえ大丈夫です」


 おかしいな……なんの感情もわいてこない。


 ぺちっ


「わしらでもドラゴンくらい倒せるんじゃが、どうにもこんな量くるとねぇ」


 そうだね、おじいさん。俺もすでに十匹は倒しているよ。


 ぺちっ


 あ、十一匹目倒した。


「ってこれ蚊じゃん!!!」


 しかもここ山じゃなくて大根畑じゃん!! なんでドラゴン討伐なのに、こんなにのどかな風景なの!? どう◯つの森じゃないんだよ!?


「カ? いやドラゴンだよ。知らない?」


 確かによーく目を凝らしてみれば、ドラゴンの形をしているけどさ! 大きさが蚊のレベルって聞いてないよ!! 手乗りドラゴンどころか指より小さいよ!!


「つーかドラゴンってもっとでかくないですか? 普通人間の何倍も大きいと思うんですけど!!!」


「へぇ~! そんなドラゴンがまだいるのかい? 太古の伝説にはそんなことも書いてたけど、今もいるんだねぇ……」


 まさか……いないのか?


 この世界のドラゴンは虫と同じようなレベルなのか? 大根農家のおじいさんにでも倒せちゃう大きさなのか?


「って、どうしてこんな虫程度でギルドに依頼したんですか?」


「ドラゴンは大根の葉を食べちゃうからねぇ。育ちが悪くなっちゃうんだよ」


 本当に害虫レベルの被害じゃん!!


「ついでにわしの仕事まで手伝ってもらっちゃって。こりゃ報酬を上乗せしないとねぇ」


「……いえ、別に」


 ぺちっ




「チガアァーーーウッ!!」


 夜になり、ギルドの酒場で飲みふける。(ノンアルコール)


「こんな……こんな世界を望んでたわけじゃないんだぁ……」


 まさか、楽しみにしていたドラゴン退治が、この程度とはな。


「ずいぶん落ち込んでるわね。お客様」


 ジョッキを下げに来たウエイトレスさんが話しかけてくる。


「まぁな~……楽しみにしていたゲームがクソゲーだったからSNSで文句ぶちまけたい気分」


 言ってから気付いたが、このウエイトレスさんにはわからない話をしてしまった。しまったと思いつつも、恐る恐る顔を見上げてみる。


「ふぅ~ん……何を言ってるの? ……と、言いたいところだけど」


 眼を閉じ、何かを考えている。


「あなた、()()()()()してきたわね」

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