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第十六話「クソゲーヒロインは素直になれない」part1

「はぁ……はぁ……ペルめ……」


 だが、さすがにこれで懲りただろう。……そろそろ電話でもして、もう怒ってないって言ってやるか。


 スピカも鬼じゃない。そろそろ水に流している頃だろう。


「タクミーーー!!!」


「あ、フォルか! どうした~?」


「虫! 虫捕まえた!!!」


 ああ、この子は本当に癒しだ……緑色の芋虫は気持ち悪いけど。


「そうか~フォルはすごいなぁ」


 と撫でてやるとご機嫌にぴょんぴょんと跳ねる。金の短い髪も一緒に跳ねているようで本当に可愛い。


「タクミ未来の旦那様だから! これあげるにゃ!!」


「う、うん」


 やばい。いくら何でも芋虫を触るのは……そうだ!


「フォル……こんなに小さくても、必死に生きてるんだ」


 俺の中での精一杯のイケメンボイスでキメる。


「おぉ!! 生きてるのか!! すげーにゃ」


「そう、芋虫さんはすごいんだ。だから自然帰しておやり」


「……わかったにゃ!! フォルはおりこーさんだから帰すにゃ!!」


 ああ、なんて純粋な子だろう。心が洗われる……。フォルは街の外れのほうへ走っていったのでそれを見送る。


「本当に純粋な子に育ってくれて……じいじはうれしいぞぉ!!!」


「ああ……って、じいさんいつの間に!?」


 まったく気が付かなかった。俺の隣にはじいさんが涙を流しながら、昆虫観察をしながら耳をピクピクさせて尻尾を揺らしている孫の後ろ姿を眺めている。


「フォルを守るのがわしの使命と言ったじゃろ。フォルのおる場所には、わしがいつもいると思え」


 よく考えれば、このじいさんがフォルを一人にするわけがねぇよな。


「どうじゃ? 未来の嫁の姿は」


「あはは……未来の嫁ですか。正直まだ実感がないんですよね」


 正直、年齢差が激しすぎる。


「断ってもいいぞ?」


「え?」


 じいさんとは思えない一言に俺は驚愕する。


「その……勝手に決めてすまなかったな。獣人族は昔から一夫多妻制。しかも連合国になった後人間も同時に一夫多妻制になったこともあって、お主ら異世界人の一夫一妻の文化がよくわからなかったんじゃ」


 さらっと俺のことを異世界人といった言葉を聞き逃さない。


「知ってたのか? 俺が異世界から来たって」


「お主と剣を交えた時に感じ取ってはおった。お主は途中から鞘を破壊する事に専念しよった。今までは万が一に当たっても切れない剣を使っていたんじゃろ」


「ああ、基本的には竹刀……って、ああそうか」


 そういえばこの世界に竹刀ってないんだろうな。多分。俺は簡潔に竹刀の説明をすると、実に楽しそうに「面白いことを考えるもんじゃのー」と笑っていた。


「なるほど、そうやって戦ってたなら寸止めが怖くなるのは当然じゃな」


 俺は逆にこの世界ではどうやって修行するのか気になったので聞いてみた。


 すると基本的には木刀か刃のない剣(刀でいうところの模造刀)を使って寸止めをするか、魔術で作られた模擬的な剣があり、それで修行するらしい。


 その魔術の剣が実に面白く、俺達の世界で近い例がAR(現実拡張)技術だろう。要するに実態のない剣を魔法であたかもあるかのように見せてバトル。切ったと判定されると剣からブザーがなり勝利となる。


「じゃがのう。この戦いには、つば競合いがないんじゃ。わしにとってはそれが面白くなくてのう」


「ああ、それわかるぜ! やっぱつば競り合いの緊張感あってこそ勝負だよな!」


「じゃろう? じゃからわしは寸止め勝負の方が好きなんじゃ」


「しかし、じいさん流石だな。俺が鞘を狙ってるところからそこまで見抜くなんてな」


「鞘を狙ったのは万が一にも切らないため……まぁ戦術としても悪くないがな」


 そうだ……俺自身はその時自覚はなかったが、無意識にじいさんを切るまいと鞘の破壊を狙っていた。……怖いからな。人を切るのは。


「じゃが、実際の戦闘ではそれは甘えじゃ……じゃが、お主はもうそのことは、わかっているようじゃの」


「ああ」


 そう……甘えだ。


 どんだけ綺麗な理由並べようが、人を殺すことに変わりはない。


 正義だろうが、悪だろうが結局そこは変わらない。


「……親父も昔言ってた。人を傷つけるのはいい。ただ、そのあり方を間違えるなって」


「そうじゃな……」


 自分の信念を曲げた戦いは、自分の心を殺すだけだ。傷つけるための戦闘なんてもってのほかだ。


 ただただ、自分が正しいと思った道をいく。その言葉の難しさを知るのは、さほど時間はかからなかった。


 自分の正しさを信じても、本当に正しいと証明されるのは結局、結果を見るまでわからない。


 本当に自分が正しかったのか……誰かを打ち負かしたその手は、本当に正しさとともにあったのか? その答えは結局……自分で見つけるしかないんだ。


「いい親父を持ったようじゃの……わしも、そんな親になりたかったのう……」


「じいさん……」


 ……剣で語るとはよく言った物で、武芸の達人は相手のありとあらゆる動作を分析し、心を読み取ることができるという。俺も多少は出来るが、じいさんのはやっぱ経験が違うからかより正確だ。


「すまんな。……話を戻すが、主の真に好いておる女子も昨日見ていてようわかった。じゃから断られても、文句は言わん」


「そうだな……確かに俺はあいつが好きだ。……だけど」


 俺が指さす先にはフォルがいた。芋虫を草むらに放してやり、その動きをじっくり観察している。


「簡単にフォルの気持ちを見捨てるほど、薄情でもない」


「タクミ殿……」


「フォルだって、何も考えずに俺を選んでくれたわけじゃない。それくらい俺にもわかる。本当に結婚するかどうかは別として、簡単にその気持ちを無下にしたくないんです」


「……ありがとう。フォルは幸せ者じゃ」


 ……それはじいさんやフォルに対しての言葉ではなかった。


 あいつは……どう思ってるのだろうか?

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