第十四話「クソゲーの世界でもうまいものはうまい」
「「海だーーーーーーーー!!!」」」
二人の少女が海の中に飛び込む。太陽光を反射してダイヤモンドのかけらがはじけ飛ぶような輝きを、辺り一面にまき散らしながらはしゃぎまくる。
その様子を眺める男とおじいちゃんが一人。
「タクミ殿はいかんのか?」
「いやぁ、俺はのんびりやりますよ」
ちなみに、ファレーナさんは現在旦那によって監禁されている……事務処理サボってた罰として。
「そうか? それにしてもわしらもついてきてよかったのかい?」
潮の満ち引きを、不思議そうに眺めるフォルの尻尾がゆらゆら揺れる。
「いいんですよ。フォルも楽しんでもらえたら」
「おおぉ……すげーにゃ。すーぱぁーにゃ」
瞳を輝かせながら、水を尻尾でちょんちょんとつつく。
「冷たいにゃ……」
「ほっほっほ。フォルにとってもいい経験になっとるようじゃのぉ」
「フォルちゃーん。こっちで一緒に泳ぎましょう」
ペルが手をふってフォルを呼び寄せる。
「え、フォルも? ……うぅ」
フォルは右足をフルフルと震わせながら水の中に足を入れようとする。すると少し高めの波がやってきて、反対側の足ごと飲み込まれる。
「に゛ぎゃ!?」
全身の毛が逆立って砂煙をあげながら猛スピードで逃げ、じいさんの後ろで震えだす。
「こえぇーにゃ……やばいにゃ……」
「ははは! 大丈夫だよ。ほら、ペル達を見てみろよ」
海の中で水をかけあって遊んでる二人。
ペルの水着は水色のビキニ。ところどころフリルが入っているのがかわいらしいくロングスカート風に着こなしたパレオもよく似合っている。
対照的にスピカはボーイッシュな感じ。ジーンズの短パンに赤のビキニ。全体的にスポーティな感じで、さっき脱ぎ捨てちゃったけどパーカーのアクセントも、なかなかおしゃれだ。
そして、今後ろで震えちゃってるフォルはワンピーススタイル。白の競泳水着な感じだが、幼さを出しながらもおしゃれでかわいい。
以上現場からお伝えしました。……いや、それは今どうでもいいか。
「大丈夫だって、みんな楽しんでるだろ?」
「でもあの水変にゃ!! しょっぱいにゃ!! そ、それにいっぱいにゃ!!! フォルの飲んでるお水と全然違うにゃ!!!」
「それが海ってもんさ。ほら」
俺は中腰になると、フォルに一つプレゼントをする。
「これは浮き輪っていうんだ。これを持ってると水に浮けるからフォルでも危なくないと思うよ?」
こんなこともあろうかと用意しておいてよかった。猫だけに泳げなさそうだしなぁ……。
「でもきっと流されるにゃ……こえぇーにゃ……きっと死んじゃうにゃあ」
「だ、大丈夫だって。俺も一緒に入ってやるから」
「ほ、ほんとか?」
本当はパラソルの下で、この前買った詩集を読みふけっていたかった(ラッキースケベ防止のため)のだが…………まぁさすがに何も起きないだろう。うん。
俺だって、何度も何度もラッキースケベなんて起こしてたまるか。……大丈夫だ。落ち着いてやればOKだ。
「にゃあああぁぁーーーーー!! 足つかないにゃああぁぁーーーー!!!」
手足をバタバタとさせるフォル。
「そんなに暴れたらかえって危ないぞ! 落ち着けフォル」
「だって! だぁって! 足つかないぃ!! 怖い!!」
「わっぷ! 落ち着けフォル」
めちゃくちゃ水しぶきが飛んでくる。
「だからうわっ! 落ち着けって」
何とかしてフォルの肩を持つ。
「ほら、沈まないだろ? きちんと浮き輪をつかんでたら沈まない」
「ううぅぅ……怖いにゃあ…………」
「フォルちゃん大丈夫ですよ~。ほらちゃんと浮きますから」
心配してきたペルとスピカも近くまで泳いでくる。
「……ぷかぷかしてるにゃ」
「流されてもちゃんと連れ戻してあげるから安心して! 私もフォルちゃんと仲良しになりたいもん」
「ペル……スピカ……」
うるうるしてようやく落ち着いた猫耳娘にようやく俺は安心した。
「じゃあ! 楽しむか!!」
いつの間にかビーチバレーに切り替わった。……ネットどうやって調達したんだ? ……ってか。
「いや俺一人かよ!!」
「仕方ないじゃん人数的に」
いや、さすがにフォルは無理だし、おじいちゃんは寝てるし……仕方ないけどさぁ。
「タクミがんばるにゃー!」
「クッソ! やったろうじゃねぇか!!」
「いくよー! ペルちゃん!!」
「はい!! 蔓の加護」
無数の蔓が浜辺から急激に成長し生い茂る。触手のようにうねうねと動き……って!!
「ちょっとまてぇーーーー!!!」
魔法ありかよおおおぉぉぉ!!!!
「スピカー。これなんにゃ?」
「これ? スイカ割りってゲームよ」
何も見えない暗闇からフォルにスイカ割りの解説をしているスピカの声が聞こえる。
「ああやって目隠しして、周りの人がスイカの位置を助言するの。そうして……」
「あ、いーよ助言なんて」
「へ?」
木刀でもこうやってしっかりと構えて、スイカの位置を心眼でとらえてやれば………。
「はぁ!!!」
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
「にゃにゃーーー!!」
あ、フォルたちに砂煙がかかっちゃったか。まぁ、これでスイカは真っ二つのはず。
目隠しを取り、五mほど離れたスイカを見ると、まだ丸い形を保っていた。だが、時間差を生じてポトリときれいに真っ二つになったスイカが、鮮やかな赤色と黒の斑点を描き出す。
「な? 簡単だろ?」
「いやいやいやいや!! 無理だってっ!!!」
ん? 簡単……だよなぁ?
「タクミさん。風の加護がつかえるんですか?」
風の加護? ………ああ、そういえばステータスもらった時にそんな項目あったなぁ。俺はただ、真空の刃でスイカを割っただけなんだが……。
「タクミ殿のそれは、風の加護とは呼べんなぁ」
いつの間にか起きていたじいさんがそういう。
「風の加護とはこうやって…ぬんっ!」
すると、風の流れがじいさんの周りを包み防壁を作る。
「風を操り、その力で防御や攻撃を行う技じゃ。じゃがタクミ殿のそれは体術の類じゃ」
じいさんが力を抜いたかと思うと風の流れもおさまる。
「じゃがああやって、ただの剣圧だけで物を切れるという事は、お主は風魔法と相性がいいようじゃ。風を体全身の感覚で感じ取れねばそんな技はできんからのぅ」
「むしろ昔から俺は風の感覚を感じ取れてたから、むしろわからないほうが不思議なんだよなぁ」
「ほっほっほっ。それがお主の才能の正体なのかもしれんのう」
「才能……か」
本当に……まるでこの世界は……。
––––––––いや、まてよ。
この世界は……本当にゲームの世界なのか?
仮に俺の推測が正しいとしよう。それならアトゥムやスサノオという神様がいてもおかしくない。アカウント名やNPCに、神の名前を使うことは別に不思議じゃない。
それに、最初に世界を選べたのも頷ける。ゲームだからいくつものソフトがあるだけだ。いや……いくつもあるだと? ……ちょっとまて! ならば、アトゥムとは何者だ?
俺は一体……どうしてこの世界に来たんだ?
「うまうまニャーーー!!」
フォルがバーベキューの肉を食べながらとても嬉しそうに叫ぶ。
夕方になり、さんざん楽しんだ俺達は少しの休憩ののちバーベキューの準備。スピカと俺で準備して気が付けば夜だ。ペルにも手伝ってもらおうとしたが、顔を真っ青にしてスピカが止めた。
ペルの料理はそんなにまずいのだろうか? 逆に興味がわいてくる。
「それにしても、焼肉のタレまで作りだすとは……さすがスピカ」
「こういう事だけは得意だからね~」
なお、俺が以前考えていた通り、スピカの能力は創造だった。
ずっとステータス更新していなかったせいで、スピカも気付いていなかったらしい。まぁ、スピカは元々スローライフを望んでたみたいだし、あんまりステータスとか考えてなかったんだろ。ちなみにスピカのステータスはこんな感じだった。
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体力値:2436
筋力値:680
耐久値:1064
魔力値:1853
魔耐性:1724
俊敏性:1057
動体視力:1963
料理
錬成
創造
身体強化
治癒
炎適正
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物理ステータスは微妙なのに魔法関連はとんでもない力を秘めている。ついでに炎魔法の適正も持っているのがうらやましい。炎っていえば主人公の属性だろ……チクショー。
ちなみに、俺のステータスは全然変わってなかった。あんな強敵倒したのにあんまりだろ……。
「さすが奇跡の料理人……いい匂いをさせてるわね」
海岸のほうから声が聞こえた。
「? どちら様ですか?」
ペルが口をもごもごさせながら問う。
その人は、水色の髪をなびかせ、肌の巨乳モデルのような色気を放ちながら誘惑するような笑顔を見せた。そして、何より耳が人間のそれではなく、魚類のヒレかドラゴンの翼ような形をしていた。
「私はウンディーネ。ちょっとそこの料理人さんにお話しがあるのだけれど……いいかしら?」
どうにも異様な空気になってきた中、スピカは只々きょとんとしていた。




