第十三話サブストーリー~アトゥム視点~
……水の都 シーファト。そこの酒場にいつもいるはずだけど……。
「おい、聞いたか?」
「ああ、間違いない」
海竜族の男達が、噂をしていた。全身がうろこに覆われていて、耳形が魚のひれのよう。人間と言うより、二足歩行のトカゲって感じだ。
「エストギルドの奇跡の料理人が……シーファトに現れるらしい!!!」
「マジか!! あの麦酒をさらにうまくしたビールとやらに改編し、脂身が少ないはずのレインボーフィッシュをサンマノシオヤキとやらに作り替え、さらにSUSHIと言う謎の生魚とライスの食べ物を作り出すまさに奇跡の料理人!!!」
「ラーメンとかいうスープパスタも絶品らしいぞ!! 俺らにも料理してくれねぇかなぁーー!!!」
三~四人ほどの男達の会話を、青髪の女性がワインを飲みながら聞いている。
「へぇ……奇跡の料理人ねぇ…………」
「なんだよウンディーネ。酒好きのアンタもやっぱ興味あんのか?」
「エストには、ずっとクソまずい麦酒くらいしかなかったのに、いつの間にか酒の名所にさせた実力……私にも見せてもらおうじゃない」
妖艶な美を全身から放ちながら、空になったグラスを置いてパイプに火をつける。
煙を吸いながら髪をかき上げる姿に、海竜族の男達も魅了される。
大人な魅力をかもちだしながらも、張りのある白い肌。男たちの物より小さいヒレ型の耳とうなじに色気を放つ。
「これで十九歳ってんだから……わかんねぇよねぇ……」
我ながらすごいデザインだと感心していた。
さぁて、ちょっとウンディーネにも話をしておかないとね。僕は観光気分から創造神としての顔に切り替えた。
僕が近づくと、気配を感じたのかウンディーネがこちらを見る。
感心しつつ、僕は僕の世界に彼女を招き入れる。
「やっぱり創造神様ですか……」
「かしこまらなくていいよ。僕はそんなにたいした存在じゃない」
「たいした存在じゃないねぇ……一応創造神がいなけりゃ私達は存在してない。もう少し自信持っていいんじゃない?」
「……滅びの待つ世界にしたのは––––––––僕の責任だ」
そう……忘れもしない未来で見てきた僕の罪だ。
僕はこの世界に直接干渉できない……だから、勇者と仲間達に救ってもらうしかないんだ。
「そうかもしれないけどねぇ……それを防ぐために私や剣聖がいるんじゃないの」
「わかってるさ……だけどそれではコマが足りないんだ」
相手は未知数の力を持っている……タクミくんがいても、人数不足は否めない。
「ふぅ……まぁ母様の代からの縁だからね。だけど……私はまだ……」
「ごめんね……まだ辛いだろうけど」
するとウンディーネは首を横に振った。
「ううん。大丈夫よ……いずれ乗り越えないといけない事よ」
誰かの幻影を目で追いかけるように、遠い場所を見つめる。
「……ごめんね」
「よしてよ……それより、世界を救済するためのコマ……全員揃いそうなの?」
僕がチェスのコマに見立ててつけた、ティエア救済のための人物達。
クイーン 女神 ペルセポネ。
ビショップ 魔女 ウンディーネ。
ルーク 剣聖 コジロウ。
ナイト 勇者 結城拓海。
そして……キング––––––––全てのキーとなる少女。
––––––––スピカ=フランシェル。
彼女を奪われれば、文字通り僕達の負けだ。
相手はまだキングが誰かは気づいていないようだ。だが彼が、この世界の登場人物となれば……誰がキーとなるかはすぐにわかる。
いや……もしかしたら、偽アーノルドが接触した時点ですでにバレているかもしれない。
「……ウンディーネ。君は今度来る奇跡の料理人と接触するつもりなんだろ?」
「は? ……んまぁそのつもりだけど……それがなんの関係があるのよ」
「その料理人の名前は知ってるのかい?」
「……知らないけど」
僕は、覚悟を決めたように……その名前を告げた。
「彼女の名前は……スピカ=フランシェルだ」
「なっ!! そ、そんなわけないでしょ!!! あの子は私がっ…………私が––––––––––」
そう……彼女は知っている。スピカのことを…………。だが、それは彼女じゃない。
「スピカと言っても、同姓同名……姿こそ似ているけど種族も、普通の人族だよ」
「っ……そ、そうよね……彼女のわけがない」
「……そして、彼女がキング…………この世界の命運を分ける」
「ど……どういうことよ」
「ごめん––––––詳しい理由は僕にもわからないんだ…………だが、彼女がキーであることだけは間違いない」
偶然にも名前が一致したあの少女が……どうしてキーになるのかはわからない。
だが……彼女の生まれた理由……それこそが全ての元凶になっているのかもしれない。
「スピカ…………」
––––––彼女にとっても、その名前は特別なものだ。
同姓同名の翼を持った少女……彼女はウンディーネにとっては親友と呼べるものだったのだから。




