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第十三話「クソゲー主人公は釣り師に転職したそうです」

第二章までのあらすじ(あくまでタクミの妄想です)


 悪魔の陰謀により俺は全所持金を失った!! クッソ! 絶対に許さないぜ!!


 金を失い途方にくれていると悪の根源奴隷商人のアーノルド討伐の依頼が入った! 仕方ないな。俺が一撃のもとにねじ伏せてやるぜ!


 討伐のための武器を手に入れる俺。歴戦の剣聖に見込まれ、最強の刀、天翔丸ぅ!! を手にする!!


 ついに対峙する俺とアーノルド!! 貴様の攻撃など効かないぜ!! たった一撃で俺はアーノルドを倒した!!


 そのせいで俺の守った子猫ちゃんとかわいこちゃん、二人とも惚れさせちまった。やれやれ罪な男だぜっ! おれぁ!  (ふぁさ……)

「エストギルド主催! フィッシングたいかーーーーーい!!! 開催でーーーす!!!」


 想像以上にノリノリだ。司会のファレーナさんは服装もいつものディーラー服と違い、フィッシングウェアにハーフパンツ。つばの長いハットが、なかなかおしゃれだ。


「私も頑張りますよーーーー!!!」


 この女神さんもノリノリだ。いつものぼさぼさロングの緑がかった金髪を、ポニーテールとサンバイザー(どこに売ってたんだそんなの)にチェンジ。ワンピースもスカートが短いものをチョイス。


 俺はと言うと、シャツとジーンズのみ。無難と言うか、特徴ないというか……。


「あ、やべ」


 いい加減釣りに行かないと負けてしまう。最初に決めていたポイントに急ぐ。




 このエストは少し離れた場所に、そこそこ有名な釣り場がある。


 小麦が盛んに取れるようになる前は、結構な食料難の時代があったそうで、その時この湖の魚で食いつないだらしい。


 飢えを凌げた感謝の意味を込めて、こうやって大会が開かれるようになったとかなんとか。


 しかも釣った魚はエストギルド酒場で捌いて食べさせてもらえるらしいのだが……某稀代の料理人がいるから全部サンマとかサバとかマグロになるんじゃね? と思ってしまう。


「どう、釣れてる?」


 その稀代の料理人が覗き込んでくる。いつもと違って、比較的ラフな格好で、キャップとヘアピンで長い髪をまとめてワンピースとコルセットで動きやすい服装にまとめている。あと、俺のあげた青色のペンダントもちゃんとつけてくれていた。


「いんや。ぜんぜん」


 シシャモサイズの虹色の小魚が数匹釣れたが、大物は全然。


「あらー。天ぷらにしたら美味しいかもよ? プププー」


 くっそ。バカにしやがって……。


 だいたい釣竿も針も餌も全部安物なんだ。こんなちっさい針で、でかい魚が釣れるわけないだろ? 竿も中古の安物だし。


「まぁ頑張ってね。優勝商品の旅行券五万ゴールド分ゲットしたら、一緒についていってあげるから」


「ああ……ん?」


 いやそれ、お前が得してるだけじゃね?


 スピカは、エストギルド酒場出張店に帰って行く。


 ……とりあえず心の傷も癒えて、日常に戻れるくらいにはなったらしい。変わった事と言えばちょっと俺達の距離が縮まったくらい。なお恋人って関係でもなく。親友ってくらいの距離感だ。


 ……俺は俺で、あいつを死なせちまったって罪悪感あるし、あいつはあいつでなにか距離を置いてる感じだし。そんな感じだから、どうにももどかしい。


 ––––––––––––それに、今告白したら、なんというかこれから守らなきゃって責任感を利用しているようでなんかいやだ。


「お、引いてる」


 でも、これはさっきのシシャモサイズだ。


 そうだ、かき揚げでも作ってもらおう。


 そう思って竿を引っ張りあげると–––––


「–––––へ?」


 そのシシャモ級を追いかけて50cm級のレインボーフィッシュが追いかけて飛び上がり、そいつを丸呑みにする。しかもこの勢いで陸に上がりそうだ。


「おお!! マジか!!!」


 これなら第三位くらいにはなるんじゃねぇか? とか思ってたら–––––


「お、おおお!?」


 それをさらに丸呑みにしょうとして–––––




 まさかのマトリョーシカ釣法で、俺は優勝してしまった。


「うぅ……結局一匹も釣れませんでしたぁ」


 そりゃペルはアワセることも出来ず、魚が食いつく前に竿をあげたり食いついた事にも気がつかないなどなど、センス皆無だったからなぁ。


 と言うわけで酒場のテーブルで景品の旅行券で、どこに行くか計画を立てているわけだが。


「なんでファレーナさんまで参加してるの?」


「だって行きたいんだもん」


 ウインクしてるけど大会の主催者側だよなアンタ。


「いや、ギルドの仕事があるでしょ」


「だぁってぇーーー!!! ここ数年旅行なんて行ってないのよ? 釣り大会の運営の仕事もようやく片付いて息抜きしたいのにギルドマスターとか言う腐れジジイが「事務処理溜まってるからダメ」とか言ってずっと休みないのよ!? たまには羽を伸ばしたいのーーーー!!!」


 などとワガママ言い出す。


「だれが腐れジジイだ!」


 髭面なマッチョ(ジジイと言うよりおっさんな感じ)のギルドマスターはファレーナさんの頭を鷲掴みにした。


「ひぅ!? あ、あらーダンディなギルドマスターさんも参加しませんかぁ?」


「随分余裕だなぁファレーナ……じゃあ旅行までに今溜まってる書類は全部片付くって事だな?」


「ヴェ!? ち、ちょっと待って一体いくつあると思って」


「わかってんならこんなところで油売ってんじゃねぇ!!!!」


 という事で、頭を鷲掴みにされたままファレーナさんは連行されて行く––––––––。


「あれでも夫婦なのよ二人」


「「うそっ!?」」


 スピカの衝撃的な情報にペルと一緒に驚く。夫婦って言っても結構年の差あるように見えるぞ!? 普通に親子だと言われても信じるくらいなのに。


 ……さて、邪魔が消えたところで行き先を決めよう。


「っても俺はこの世界は詳しくないし……スピカは行きたいところないのか?」


「シーファト!!!」


 スピカが“しゅた“っと効果音でも出そうな勢いで手をあげながら即答した。


 シーファト、えぇっと………海竜族の領地で水の都と呼ばれている場所……だっけか? そういえば、最近暑いし季節的には夏って感じだし……悪くないかもしれないな。


「海水浴でも有名な場所だし、猫獣人の里に負けず劣らずの温泉地帯。とにかく水に関連するものであれば、なんでもそろってる真夏に最適の場所なのよ!!」


 手元にあったガイドブックを読んでみる。なるほど、小さな小島も近隣にあり、ヨットで観光もよし。その小島にはキャンプ場もある。当然釣りではエストどころか、この世界最大の名所だ。


「私も久しぶりにシーファト行きたいですぅ〜」


 ペルがとろけそうな顔で言う。


「久しぶりって、初めてだろ? 俺まだ行ってないし」


「あれ、……言ってなかったですかね? 私この世界出身なんですよ?」


 ……はい?


「………聞いてないよ!! ってかマジでか!?」


「ええ、この世界のクレンシエントのエルフの森出身です。元の種族もエルフですよ?」


 と、ペルは髪をかきあげて尖ったエルフ耳を見せてくれる。ペルは髪の毛が多いから、耳が完全に隠れて気付かなかった。耳自体もよくラノベとかで出てくるエルフっていうよりハーフエルフっぽい。尖ってはいるが、思ったより長くはない。


 そう言われてみると緑がかった金髪といい、緑の服や草型のアクセサリーとか所々エルフっぽいな。


「各世界から創造神アトゥム様が選んだ一部の人間から数名候補が選ばれて、さらに厳しい選定試験が行われます。そして、たった一握りの人間が神、もしくは女神になれます」


「へぇ……ねぇペルちゃん。故郷には戻りたくないの?」


 スピカの問いに、ペルは落ち込みながら答える。


「うぅ……だって最近女神になれたのに、速攻で女神堕ちなんて恥ずかしすぎるよぉ」


 そりゃそうだ。少なくとも知り合いにはバレたくはないか。少し暗くなった雰囲気を変えたくて、話を戻す。


「じゃあ、旅行先はシーファトに決定! 俺達はいつでもいいけど、スピカは酒場の仕事は?」


「んーーー。何日か休めない日もあるから……じゃあ、日程は私に決めさせてもらってもいいかな?」


 俺もペルも頷く。


「ありがとう。……まぁマスターは私が休みの間、居酒屋メニューを出せないって嘆いてたけど…………」


 ––––––さすがエストギルドの料理人。




 こんなもんかな。


 日程もイベントも決まり、今回は食材や器具の買い出しだ。


 食材はスピカにある程度頼むってのも考えたが、あんまり頼ってちゃ休養にはならないだろうからな。


 馬車も手配し、準備万端。宿屋も確保できたし明日からの旅行が待ち遠しい。


「スピカー! ペルー! いるかー?」


 今日は、俺の部屋でイベントの調整だ。部屋の扉を開き、中に入る。


「……ひぅ!?」


「タクミー! 似合ってる?」


「わ、私も……どうですか?」


 俺は速攻で扉を閉め、隠れるように座り込む。頭を抱えあらがいようのない恐怖に耐える。


「……ちょっと、タクミ?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ぶたれるぶたれる殴られる殴られる殺される殺される。


「ど、どうしたのよ……下着じゃないわよ? これ水着」


 スピカの声にも耳をふさぎ、震えを止められない。


「タクミさん?」




「「ラッキースケベ恐怖症!?」」


 そう、そうなのだ。


 俺は、いわゆるラッキースケベに対してのトラウマがある。とりあえず、水着の上から上着を羽織ってもらってなんとか俺の発作は治った……。


「ラッキースケベ…って何ですか?」


「わ、私もそんなに詳しくないけど……転んだ拍子に女の子の胸をもんだり……要するに事故でエッチな事しちゃうあれでしょ?」


 ひぃ……聞いただけで背筋が凍る!!


「そういえば、この前裸見られた時もなんか怯えている様子でしたね。……あ、胸触られたときも! 驚いてるって言うよりは怖がってる感じでした!」


「なんで、そんなことになっちゃったのよ……」


 真っ青な顔色をみて、心配そうにスピカが覗き込む。


「俺、剣道部に入ってたことは言ったよな……小学校の頃も、親父の経営してる剣道クラブに入ってた」


「そういえば言ってたわね」


「剣道部も剣道クラブも男女一緒に練習してた。んで、俺は師範みたいなこともしてたから、女子部員とも最初は仲良くなってたんだ……。特に妹の桜乃とは」


「タクミさん……妹居たんですね」


 そう、結城桜乃。こいつが俺のトラウマの根源だ。


「桜乃も剣道もやってた。ただ、お互いに練習してたらその、俺が押し倒したりしてしまうこともあるわけで……そのたびに木刀で半殺しにされていた」


「は、半殺し……?」


「しかも木刀で……?」


 驚くペルやスピカ。だが俺の恐怖はその程度では治らない。


「そう、ラッキースケベのたびに殺されかけるんだ。頭蓋骨陥没したときは、本気で死にかけたし……」


「頭蓋骨陥没ぅ!? ちょ、ちょっと!? それ本当に大丈夫だったの!!?」


「なわきゃねぇだろ!? 本気で死んでてもおかしくなかったんだぞ!?」


 それでも、まるで呪いのようにラッキースケベは起きた。


 転んだら桜乃の胸をもんでるなんてしょっちゅうだし、着替えを覗いたりもしたし、股間に……ああ、それを思い出すだけでも恐ろしい。


「本当にあれは呪いだよ……。絞殺、撲殺、刺殺、毒殺。ありとあらゆる恐怖を植え付けられた……桜乃の恐怖は……アーノルドの精神干渉より怖い」


「そ、そんなに……」


「模造刀で『悪即斬』とか言いだしたときは、本当にもう終わったと思った……ははは……あいつ本気で心臓狙いやがった」


 よく兄貴続けられたよなぁ。まぁ、大抵が恥ずかしがっているだけで、あいつに悪気がないのはわかってるんだが……。


「はぁ……そりゃまぁ恐怖症の一つや二つできるわけだわ」


「ほんと……トラウマだよ……ハハハ」


 俺が力なく笑っていると、スピカは顔をフグのように膨らませていた。


「でもそれ、私がそんな暴力するって言われているようで、なんかむかつく」


「そう言われてもそんな簡単にトラウマ乗り越えられるんなら苦労しねぇよ」


「……そうだけどなんか腹立つの。私はさっきの水着が下着だったとしても怒らないわよ。……恥ずかしいけどさ」


 とか言いつつ、身をくねらせて胸元を隠すスピカ。


「それでも怖いんだよ!!」


「何が怖いよ! 勇者目指してんなら、そのくらいの恐怖乗り越えなさいよ!!」


「なんだと!?」


「なによ!!」


「……な、なんかよくわからない喧嘩になってきました」


 俺も、なんだかよくわからなくなってきた。


「じゃあ、私の胸揉んでみなさいよ!! 怒らないから!!」


 そう言うと、パーカーを思いっきり開ききり、水着姿をさらけ出す。


「ひぅ!?」


「あ、アンタ私の胸をなんだと思ってるの!? なんで顔真っ青になってんのよ!!」


「そ、そういうお前は顔真っ赤じゃねぇか!! 揉まれてもいいんじゃねーのか?」


「えーーえーー!! いーわよ!! いくらでも、揉んでみなさいよ!!」


 もうここまで言われたら俺も男だ!! いいさ揉んでやるよ! 俺は指の関節を軟体動物のようにくにゃくにゃ曲げて見せる。


 スピカも、さすがに一瞬引いた。


「お? どーした? 今更おじけづいたのか?」


「……そ、そんなワケないでしょ!! さ、さっさとやりなさいよ!!」


 そうは言っても、俺も自分から揉みに行くのは初めてだ。俺の顔が血の気が引いた青色から血流が暴走しているような赤色になっていくのがわかる。


 対するスピカは、勢いで言ってみたもののあまりにも大胆な発言にタコのように真っ赤になっている。おそらく彼女にとっても胸を触られるのは初体験だろう……まぁ、こんな形で触られるとは夢にも思ってなかっただろうが。


 そう考えてると、彼女の姿をまじまじと見つめてしまう。……まつ毛長いし……眉毛もキチンと整えられていて、よく手入れされている。ほんの僅かに香るハーブのような香りはシャンプーだろうか? 柔らかそうな肌が、俺の指先僅か数ミリまで迫るとお互いに息を飲んだ。その音まで聞こえてくるような距離にいて、鼓動が自分の音か彼女の音かわからなくなっていく。


「ええい!! ままよ!!」


「んっ!!」


 俺は覚悟を決めてスピカの胸をわしづか…む?


 ……あれ? 桜乃の時のような恐怖がない。


 安心していく……。


 と言うか……。


「揉めない」


「ピキッ」


 ……なーんだ。これなら安心……。あれ?


「だ……だぁーーーーれが!! まな板じゃああぁぁぁぁーーーーーー!!!!」




 –––––––––––結局、二人とも、トラウマをさらに広げる結果に終わった。

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