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第十話「クソゲーの悪役は狂気に生きる」

 森の中を駆ける。


 嫌な予感はしていた。だがこんな結果が待ち受けているなんて……アーノルドが洗脳を使えるとわかった時点で、もっと考えるべきだったのか?


 いや、どの道こんなに早く行動に移るとは思ってなかった。あるいはもっと別の原因か?


 様々な後悔や思考が俺を襲う。


 馬鹿か俺は! 今は考えてる時間はないだろ!! スピカを助ける事が最優先だ!


「ま、待ってくださぁーい!」


 俺の後方からペルが追いかけてくる。


「待てない! こうしてる間にもスピカが危ないかもしれないんだ!!」


「闇雲に走った所でたどり着けませんよ! だ、だいたいアーノルドがどこにいるかタクミさんにはわかるんですか?」


 息を切らしながらのペルの言葉で、俺は足を止める。


「そうか……ペルの能力!」


 ようやく俺は気づいた。同時にそれまで頭に血が上って気付きもしなかった俺を悔やんだ。


 ペルは草木と会話できる。ならアーノルドの所在もわかるはずだ。


「私が案内します!」


「そ、それはいいんだが。ペルは戦えるのか? 洗脳された兵士がアーノルドを守ってるんだろ?」


「草木を使った戦闘魔法なら一通り使えます。何より回復は私の得意分野ですよ?」


「よ、よし! じゃあ行くぞ」




「お……おい……本当にお前ペルなのか?」


「え? そうですけど……」


 ここまで戦ってきて……いや、そういえば俺は戦っていない。


 ––––––––近づく前にペルがすべて倒してしまうからだ。


「なにがアホ女神だ……魔獣も洗脳兵も、一切寄せ付けてねぇじゃねぇか」


 兵士はツタでとらえて、魔獣は葉の刃で一掃。ついでに洗脳された兵の回復も忘れずに。


 ペルはいじめられていたとか創造神(どっかのクソガキ)は言っていたが、実際は嫉妬とかで過小評価されてたんじゃねぇのか? いくらこの世界のモンスターが雑魚とはいえ、強すぎるだろ!!


「だって私、花の女神だから。森は私の聖域ですよ?」


「いやまぁ、そうなんだろうけどさ?」


 それでも言葉を続ける俺にむくれ顔で


「一応私女神なんですよ? いくら私がドジだからって、あまりなめてもらっちゃ困りますよ」


 まぁ、そう言われてしまえば返す言葉もない。


「そりゃまぁ、タクミさんの転生には失敗しちゃいましたけど……けど…………」


 まずい。これはのの字をまた書き始める流れだ。俺はさっさと謝ることにした。


「悪かったよペル。で、どっちだ?」


「むぅ……仕方ないですね。かなり近くまで来たようです。ここからは相手に気付かれないようにゆっくり行きましょう」


「わかった」


 そう思った矢先、俺の心臓が、脳が、魂が全力で警笛を鳴らした。


 なんだこれは……殺気!?


「お待ちしておりました……ナイトよ」


「お前が……アーノルドか?」


 物陰から現れたのは一人の男。それ以外は誰もいない。


 スピカは別の場所か?


 年齢は……若くはない。だが張りのある白い肌に金髪、片眼鏡で鋭い目つき。間違いない、依頼書に書かれていた男だ。


「おかしいですねぇ! 私とあなたは初対面なはず!! 礼儀を重んじるのがあなたの世界での常識なのでは? では? では!?」


 急に叫びだしたと思えばそんなくだらない戯言。礼儀知らずはどっちだか。


「悪いがテメェみたいな外道に使う礼儀はないんでね……ペル下がってろ」


 そういうと、ペルはおとなしく二~三歩さがる。だが、奴は立ちふさがる俺ではなくペルに興味を示した。


「ふむ……興味深いです!! 最初はあのスピカとかいう少女の記憶にあった少年(ナイト)に興味があったのですが、そこのペルと呼ばれた少女! 私の力でも記憶が見えません」


「記憶?」


 そういえば、こいつの力の一つに記憶読取(メモリーリーディング)ってのがあったな。女神だから記憶が読み取れないようにでもなっているのか?


「そ、そんなことどうでもいいです!! スピカさんはどうしたんですか!?」


「待って! 待ってください!! えぇ~っと……たしかこの辺に…………」


 と言い出すと、アーノルドはポケットをまさぐり始める。


 まるでおどけるピエロのように、愉快にポケットの中から様々なものを取り出しては投げ捨てていく。


 そして、その中の手帳を投げ捨てようとして、その手を止める。どうやら目的の物はその手帳だったようで、嬉しそうににやけ急いた様子で数ページめくる。


「何をふざけてやがる……」


「待って! ちょっと待ってくださいよ~……おや、ふむふむなるほど……術を解除できるのは神の加護のみである。つまりあなたは女神と言う事ですか~いやはや、なるほどなるほど。よーく理解できました」


 直後、俺の一閃がアーノルドのいた空間を切り裂く。


「うるせぇよ……さっさとスピカを返せ」


「アハハーーーーっ!!! さすが偽善の勇者!! 滑稽ですね~」


「何を訳のわかんねぇこと言ってやがる!!!」


 俺の連撃をひょいひょいとかわしていく。まさか奴は記憶だけでなく思考も読み取れるのか!?


 ニヤニヤと馬鹿にした表情でちょこまかと動かれて、俺の苛立ちは頂点に達しようとしていた。


「タクミさん!! 落ち着いてください!!!」


「はぁ……はぁ…………クソが」


 疲れたのとは違う。心が乱されて呼吸が乱れている。


 これじゃ俺の攻撃は当たるはずがない。 余計な事考えすぎだ。––––俺は一度目を閉じ心を落ち着かせる。


「ふむ………あなた本当にわからないのですか? それともわからないふりをしているのですか?」


「さっきから何を言ってやがる!! わけわかんねぇよ!!!」


「おかしいですねぇ……やはりあなたの記憶の奥底に聞いてみるとするのです!!」


「なにっ!?」


「タクミさん!! その人の眼を見ちゃダメ!!!」




 ––––––遅かった。




 ––––––誰かが、俺の脳みそに入ってくる? 気持ち悪い。脳みそをぐちゃぐちゃに掻き分けていく。まるでおもちゃ箱から目的のおもちゃを探し当てるかのように、グチャリグチャリと–––––––––––––––!!




異常治癒(キュアヒール)!!!」


 ペルの声と共に、脳みそにとりついていた虫がはがれる感触。


「く……くく…………」


 今のは……記憶を読み取られたのか?


「アーーーーハハハハハハハアハハハアハハハハアハハハハハハ!!!! なんと滑稽な!!! なんという間抜け!!! 脆弱!!! 貧弱!!! なんという喜劇!!!! なんというっ——————愚痴、愚鈍、愚劣、愚考、愚物!!! ええ、ええ、まさに君は愚の極みです」


「何が言いたい……」


 俺の記憶には言うほど愚かなものはな––––––––––(スピカは君が…………)


「?!」


 脳天を、何かで殴られたような感覚。


 なんだ……何が起きた?


 なぜ、いまアトゥムの言葉が浮かんだ?


 スピカは……誰だ?


「来たようですね……」


 俺はいつの間にか後方を振り返っていたアーノルドの視線を追う。


 そこには、洗脳兵に拘束されたスピカがいた。


「スピカ––––––––––待ってろ!!! 俺が(今度こそ)


 な、なんだ?


 どうなっている? 俺は……。


「さて、改めて紹介しましょう」


「スピカ……君は」




「彼女は………君が守れなかった少女です」




 ––––––––––––––––––––は?


 何言ってんだ? こいつ。


 マモレナカッタ?


 意味わかんねぇ。守るも何も俺が彼女と出会うのはこの世界で初めてだぞ?(二回目だ)


 っ!? そ、それにスピカがもし彼女だというなら、なぜ同時に死んだのに彼女のほうが一年前に転生されている? おかしいじゃねぇか(この世界のルール)!!


 一体何なんだ!!! さっきから俺の頭で何言ってやがる!?


 この世界のルール? そ、そうか……。


『ルールブック 2-1:本人の希望に一番近い世界と時代に転生される』


 い、いや違う!! 偶然一年前に転生した? そんな事あるわけない!! アーノルドの洗脳か!? 惑わされるか(忘れただけだろ)!!!!


「そう……君は忘れただけなんです」


「違う……違う!! スピカ!! 答えてくれ!!!」


「タクミ……」


 なぜ俯いているんだ?


 なぜ答えないんだ?


 なぜ俺を否定してくれないんだ? ち、違う!! 俺はいったい、どうなっちまったんだ!?


 なぜ、俺は死んだんだ? ––––––––––これも違う!! 俺が死んだのはあの子を助けたからだ(まきこまれただけだ)


「違う……チガウよな……違うと言ってくれ」


「タクミ––––––––––ごめん」


 直後––––––––––。


 俺の目の前が真っ暗になった。


「ごめん……ごめんね……命を繋げられなかった。生きること……できなかった。助けようとしてくれたのに……ごめんなさい」


 なぜだ、スピカはなぜ謝ってる?


 命を繋げられなかった?


 意味わかんねぇ。あの子は助かったんだろ?


 俺が助けたんだろ?


 ペルもそういってたじゃねぇか…いや、言ってなかったか?


 あれ? 俺、どうなったんだ?


 なぁ––––––––––教えてくれよ。


 誰か––––––––––。


『スピカの事、守ってあげてね』


 そうだ。アトゥム––––––––––あいつが言ってたじゃねぇか!!


 そうだ。あいつはあの時、ああ言ったんだ。


 えっと……なんだっけ?


『あの子は君が』


 そう、そうだ!! あいつは––––––––––。






『初めて君が助けようとした女の子なんだからさ』






 それは––––––––––絶望の言葉だった。

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