第九話サブストーリー ~スピカ視点~
「……やっぱりそうだ。タクミは……あの人は…………」
全て思い出した。
彼は……あの時の…………。
「? …………外が騒がしいわね」
私は、外を覗き込む。
「なっ!!!」
すでに戦闘が始まっていた。
兵士同士の争い……その奥にやたらニヤケている気色悪い感じの男がいた。……金髪に片眼鏡……間違いない。指名手配されてたアーノルドだ。
私は、自前の弓と短剣を取り出した。
……正直戦闘経験は皆無……だけど、私だって一応冒険者登録はしている。
「我が求めるは必然。我が願うは殲滅。この手に宿すは歴戦の射手……ガントレット・アニマ!!!」
……これで、弓が未経験の私でも矢が当たる確率は格段にアップする。
護身術にと覚えた魔法だけど……キチンと使いこなさなきゃ。
そして…………タクミにきちんと謝るんだ。
「はぁっ!!!」
放った矢がまっすぐ鎧の間を抜けて貫く。
「…………くっ」
間違いない……洗脳された兵だ。何人か行方不明だった人達がいる。つまり、この人たちは本心で戦っているわけじゃない……操られてるんだ。
「許せない……」
その瞬間、後頭部に強い衝撃が走る。
「がっ……!!」
そのまま数メートル吹っ飛ばされた。首が折れるんじゃないかというくらい痛い……。
気を失いそうになる頭を、必死に振って意識を保つ。
「スピカさんっ!!!」
その時、私に振り下ろされた剣を弾く閃光が一つ。
「ケイネスさんっ!! ……無事だったんだね」
彼は、例のマジックアイテム、紅魔の輝石のもともとの所持者だ。
「ああ……スピカさんこそ、よくご無事で」
「危なかったけどね…………」
大剣使いのケイネス=クルセイダー……この世界でもかなりの実力者だ。
「前衛は任せてくださいっ!!」
「うんっ!! お願いします」
鋼の鎧を身にまとった豪腕の剣士が洗脳兵に突っ込むと、その一人を大剣の一閃でなぎ倒す。
その大振りの隙をつこうにも、迫力と、発生した突風に身動きが取れなくなり、その隙をケイネスさんは確実についていく。
彼のブロンドの短い髪が赤く染まり、その血を煩わしいように拭う。
その圧倒的な強さの頼もしさに、私も安心しきっていた。
「––––––––はぁい。ならば、これでよしですねっ!!」
「なっ!?」
にやけたピエロのような男が手を叩いた瞬間。ケイネスさんは白目を向いて、その場に倒れた。
「––––––––え?」
なにが起こったのかわからず、私は困惑した。
完全に意識を失った彼を、野犬が貪るように洗脳兵が群がっていく。
「––––––や––––––やめっ」
なんとか絞り出した声は届かず、いくつもの剣が、彼の体に突き刺さる…………。
「おやおや……まっ! 私達を邪魔したのです。これも天罰ということですねぇ!!」
––––––––なんで? ケイネスさんも紅魔の輝石を持ってたのに?
私は絶望で膝まづいて……それでも負けたくなくて、無謀にもそのピエロのような金髪の男を睨む。
「あなたですね。厄介なこのアイテムを作ったのは……おかげで少し苦労しましたよ」
陽炎に燃える村のあちこちには、いまだ剣戟の音が鳴り響く。洗脳兵と討伐隊の兵士達の戦いは終わる事なく続いていた。
––––––––アーノルドのエストへの襲撃。こんな辺境に狙いを定めていたとは誰も思わなかった。王都からも離れているし、人口も少ない。
だけど、アーノルドが密かに洗脳兵を増やしていたとなると、エストへの街道は一本だし、それ以外は海と森で囲まれている……拠点としては好都合なのかもしれない。
アーノルドの兵士は多くはなかった。ならば四方を囲まれる心配のない土地は絶好の場所だ。
海道から襲撃する手も難しい。エスト海岸辺りはマシなのだが、それ以外は渦潮と高波が酷く、ある一定の期間以外は無理なのだ。
しかし、アーノルドにとって計算外だったのは、エストでは洗脳対策が、すでに作られていたという事––––––。
たまたま私が、紅魔の輝石を量産できるスキルを持っていたため、偶然エストが拠点になっただけ。
そんな偶然は、アーノルドの計画を失敗に追いやったと言えるけど––––––––。
でも……こいつは今、ケイネスさんに何かした。
「––––––一体、なにをしたの?」
「説明はお断りします。だってあなた、ぜーんぜん魔法のこと知らないですしー」
「なにをっ……」
紅魔の輝石があれば……アーノルドの洗脳を回避できるんじゃなかったの?
「はいはーい。転生者はみーんなそうやって、ゲームと混同しちゃうんです。そんな都合よくできてるわけねーだろ現実見ろって説明でいいですかー?」
「なっ……」
い……いま私の心も読まれたっ!?
「はいはい読めてます。丸聞こえですよー!? ざーーーんねんでしたぁーーーー!!!!」
「そ……んな…………」
「……ですが、あなたのせいでせっかく集めたコマが全て無くなってしまいました……許しませんヨォ!?」
その言葉とは裏腹に、ものすごく愉快に、滑稽に笑う。
「あなたには一緒にきていただきます。いい商品になりそうですしねぇ」
「くっ!」
反撃しようと短剣を握るが、背後から忍び寄った洗脳兵が放った手刀が延髄に打ち込まれる。
急激に意識が薄れる。そんな中私は彼の事を想った。
(逃げて……タクミ…………)




