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第九話「クソゲー主人公はトラウマを超えられない」

「わしゃわしゃ~」


「わしゃわしゃ~」


 フォルの頭を、ペルが楽しそうに洗っている。


 ここは猫又の湯。猫獣人の里の宿にして、名物の温泉宿である。


「それにしても……」


 ペルは周りを見渡す。


猫獣人族(ケットシー)は美人さんが多いねぇ~」


 温泉宿泊まってた猫獣人が三〜四人だろうか? 全員年齢問わず美女ばかりだ。


 たまにほとんど二足歩行の猫もいるが、それはそれで動物と言った意味でとてもキュートだ。


 獣人にもいくつか種類がいるようで、半人間タイプのハーフと二足歩行の獣のようなタイプのピュアブラッド。


 フォルやじいさんはようするにハーフという事だ。だが、これは進化の過程でそうなったもので、混血種……つまり亜人というわけではないそうだ。


 だが、ハーフは亜人と同じく差別的な意味合いも多く、新呼称を定めるためにじいさんが今政治的に活動している。


 つまりは……薄い木の板の奥から聞こえる女子たちの声をどう考えないようにするかが、ポイントと言うわけだ。


「フォルもびじん~?」


「美人にゃ~~~~!!!」


 ぎゅっと抱きしめる。お互いにキャッキャッしている声が……聞こえる。


「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない」


 この番組は健全な放送を心がけており、絶対にラッキースケベとか「うわ~胸おっきいねぇ~」とか、「そーれもんじゃうぞー」とか、それを聞いておっきしちゃった~。(てへぺろ)とかそんな下ネタ、女子の会話に存在しない絶対にない!! そう! そんなシチュエーションを期待して修学旅行の時にみんなで女風呂のほうに耳を傾けてみるけど、案外音が聞こえないし、そんな男が妄想する会話を大体女子連中がするわけがない。せいぜい「あの男子クソじゃね」とか「デート行ったら割り勘とかねーしクソが!」とか、「私、健司君×拓海君だと思うわ~」「拓海君は絶対隠れMだよねー。○○○が○○○○で○○○を」とか聞いてがっかりするもんなんだ! そういうものなんだ!!


 お、お、お、俺は聞いてねぇーーしーーーぃ!!! 聞き耳立ててがっかりした覚えなんてねぇーーしーーー!! 部活メンバーの合宿の時とかも健全でしたーーー!! 何もありませんでしたーーーー!!!


 何もないんだからな!! 本当に何もない……なかったんだ。トラウマなんか……植え付けられてないんだからな……。部活のノリでみんなで聞き耳たてて女子部員メンバーの想像以上にえぐすぎる会話……なんて……。


 ––––––––あれ以来、みんな女子部員と疎遠になっちゃったんだよなぁ。


 みんな元気にしてるかな?


 健司も……トラウマ克服できたのかな?


「ペルも美人さんにゃ~」


「んも~~ありがとう~~~」


 健司よ……俺は異世界で……元気にしてます。


「お主は……怖がったり、悲しんだり、遠い目をしたり大変なやつだの~」




「それより、本当にいいのか? 俺じいさんに負けたぞ?」


 じいさんの経営している鍛冶屋で、今日刀を受け取ることになっている。


 俺の刀は無償で作ってもらえる事になっていたわけだが……本当にいいのだろうか?


「そもそも実力を図るために戦っただけじゃ。勝ち負けなど最初から問題ではない」


 むぅ。思い上がってるわけではないが……ちょっと悔しい。


「まぁ手合わせしてほしい時は、いつでも言うといい。こっちも、お主との戦いは心が躍るわい」


「いいのか?」


 俺としても、この弱小世界で一番刺激があるじいさんとの戦いは救いだ。


「むろんじゃ。義孫よ」


「ありがとうございます! ……へ?」


 今このジジイなんつった?


「あの……ぎまご……って言った?」


「フォルの事をよろしく頼むぞ。タクミ殿」


「だきっ!」


 金髪ショートのロリッ子が抱きついてくる。一見すると可愛らしい仕草だが……結婚するって意味ならあまりにも不健全だ!


「ちょっとまてぇーーーーい!!」


「お幸せに……タクミさん」


 うるうるとハンカチで涙を拭く女神。


「ペル! お前は俺の味方じゃねーのかよ!!」


 と、嫌がってると、どす黒い殺気を感じる。


「お主……嫌だと申すのか?」


 あかん、これ死ぬやつだ。


 白髪の老人から殺意のオーラがメラメラと燃え上がる。猫耳がツノのように尖り、目は獲物を見据えるように鋭くなっていた。


「い、いえーお孫さんまだお若いですしーお若い人はお若い同士でご結婚なされるのが一番じゃないかとー」


「タクミ……フォルのこと……きらい?」


 そぉーれは卑怯だぁ!! そんな上目遣いされたら婚約するか後ろのおじいちゃんに殺されるのどっちかじゃないですのん!!


「タクミ殿……ご婚約おめでとう(テメェわかってんだろ)


「は、はい……」


 こうして、半ば強制的にフォルは婚約者となった。




「こ、これフォルが作ったのか?!」


「作ったー!」


 と、ものすごく可愛らしく小さな胸をこれでもかというくらいに張る。


 試しに刀を抜く。刃紋も美しく、美術品として展示されててもおかしくない。


 拵も完璧だ。全体的に黒を基調にしたデザインで、鉄鞘が黒く鈍く光る。


「てんしょうまるー」


「え? こいつの名前か?」


 うん! と首が勢いで取れるんじゃないかってくらい元気よく頷く。


 天翔丸……いいね悪くない。


 (しのぎ)(刃の腹の部分)を見てみると、俺の顔がきれいに映るくらいに磨かれている。一片の曇りもない。


「しっかし、どうやって作ったんだ?」


 刀を収めつつ聞いてみる。どう見ても、そんなに腕力があるとは思えないし、こんな小さな子が鍛冶なんて……。


「フォルは念じれば何でもできちゃうんだよぉ~?」


「え? 念じれば?」


 一瞬意味がわからなかくて、首をかしげる俺に、じいさんが答える。


「フォルは創造(クリエイション)のスキルを持っとるんじゃ。フォルにかかれば、フォルの記憶にあるものすべて無から作り出すことができる」


「ま、マジで!?」


「フォルはすげーの! すーぱぁーなの! えっへん!」


 自慢げに胸を張るフォルが可愛すぎてペルが抱き着く。女神が撫でまわしている間に、俺は別の事を考えていた。


 もしかしたら、そのフォルのスキルは、スピカと同じ能力なんじゃないか? …………つまりは、スピカの本当の能力は錬成ではなく、創造……って事か?


 それに、この前話した神様……アトゥムは創造の神って名乗ってたな。アトゥムの能力もこの創造と同じなのか?


 もしかしたら、この世界にたまに感じていた違和感はこれかもしれない。


 まるでこの異世界は、日本人が作ったゲームの世界のようだ。たまたま同じ文化が生まれたって説明もできるが、それにしても刀が存在し、京都のような街並みに温泉のある猫獣人の里。エストも中世ヨーロッパと言うよりは、某有名ゲームとデザインが酷似している。


 もし、アトゥムがこの世界の創造時に、ゲームの世界を参考に構築したのだとしたら………。


 それとも……さらに別の意味があるのか?


 ……この異世界と現世はつながりがあるのか?




 俺は、試し切りのために竹林に来ていた。


 俺が初めて負けた場所だが、ここは元々コジロウじいさんの修行場でもある。ちょうど試し切りにいい竹が何本も生えている。


 鯉口(こいくち)を切る。ゆっくり……しかし、自然な流れで柄に手を伸ばす。


 この感じ……悪くない。じいさんも後ろで見てくれているしな。


 居合道の練習していた時と同じ……いやそれ以上。


 どうしてだろ……? 違いは真剣かどうかくらいなのに……全然違う。緊張感の違いだろうか? 今までの居合刀でも、やろうとすれば人は殺せる。


 だが、この刀の殺傷能力は居合刀や模造刀とはワケが違う。だから、俺は今までのように軽い気持ちで、この刀を振ることはできないだろう。


 この刀は誰かを守るために使おう。フォルや、じいさんは俺を信じてこの刀を渡してくれたのだから。


 俺は右足を強く踏み出した––––––––––––。


 静かな風の音。鯉口に親指をあてがい、刀を収める。


 目の前の竹は、何事もなかったかのようにそこにたたずんでいる。


 ––––––––––––まるで、切られたことを忘れているかのように。


 風が強くなり、切られていたことを思い出したかのように五つに分かれて倒れていく。


 なんだろう……もっと強くなれる気がする––––––––––––。


「どうだ? じいさん」


「……………………」


 黙ったままのじいさんに、俺はもう一度呼びかける。すると感電したようにビクリと跳ねる。


「あ……ああ、すまない…………やはり、よく鍛えておる」


「まぁな。ここに来てからも筋トレは欠かしてねーぜ!」


「…………タクミ殿は転生者じゃったな」


「? ……ああ」


 なぜその話をするのかもわからず、首をかしげる。


「……タクミ殿は人を殺したことがあるか?」


「そんなのねぇよ。言ったろ? 真剣すらこの世界で初めて握ったって」


「信じられん…………太刀筋が見えない上に正確じゃ」


 そうかな? じいちゃん……ああ、俺の祖父の方だが、そっちの方がもっと綺麗に切ってたぞ?


「……普通、初めて真剣を握れば、恐れや逃げ……不安の心が生じて剣筋がブレる」


 あー……そういや昔祖父の方のじいちゃんが言ってたな。真剣を握る時は不安を生じさせてはならぬとか……。


「剣筋がブレれば、まっすぐ切れん。最悪途中で刃が止まるし、刃こぼれもする……じゃが、タクミ殿にはそれが一切なかった」


「まぁ、現実世界で色々教わったからな」


「いや……教わるだけじゃ無理じゃ。これは経験をつまねば辿り着けぬ剣尖……」


「経験ねぇ……まぁ居合刀は毎日振ってたし、それで綺麗にうまくいったんじゃないかな?」


「…………まぁ、それ以外に思い当たる理由もないのう……いや、恐れ入った」


「にしても……じいさんにそこまで褒められるなんて。俺も鍛えた甲斐があったな」


「……タクミ殿」


 じいさんがなにかを言おうとした時––––––––––。


「タクミさぁーーーーん!!! た、大変ですぅ!!!」


「ペル? どうしたんだ?」


 今まで以上の慌てように、俺にも緊張感が走る。


「す……スピカさんがさらわれましたぁ!!!!」

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