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最終話「最強主人公が勇者になって転生したけど異世界はやっぱり平和でした」

 …………それから、ペルによって全世界の書き換えがなされた。一部矛盾点は記憶を書き換えて、それぞれが望む場所へと帰っていった。


 そして……二年の月日が流れた。


 現実世界には……最初っから俺はいなかったことになっている。桜乃は誰も傷つけてなく、平和に暮らしている事になった。


 それでも時折り、俺の事を思い出すような言葉を話すそうだけど…………健司が支えてくれている。あいつらなら、きっと幸せに暮らせるだろう。


 そういう健司は、警察学校で勉強中だ。彼ならいい警察になれる。遠い世界で、俺はそう信じている。


 歴史については、シルヴァンドルが核戦争を起こした時系列ではなく、第五次元をなぞった歴史となっている。


 つまり……現実世界にも早紀はいる。今の中身は…………スピカだ。


 彼女の希望により、スピカだけは現実世界に残ることになった。今は彼女が現実世界の早紀となって、平和に暮らしている。


 そして、無銘にも特別に体が与えられることとなった。今は、ティエアの魔導学院で基礎知識やちゃんとした魔法学を勉強している。




 それでも、死んだ人は戻らない。––––––無概、影沼も…………もういない。


 母さんと夏帆さんも現実世界で平和に暮らしている。矛盾は色々残るけどな。……二人とも元気に暮らしているみたいだ。


 ただ、さすがに早紀が死んでる事。なぜこんな事になったのか。今、早紀の中にいるのは誰か。これについてはちゃんと説明した。一晩中二人は悩んだが、俺達のやりたい事がティエアに戻る事ならばと認めてくれた。




 そうそう、他の人たちの事も話しとかないとな。


 ミスラはなんと現在、魔導学院の幻想魔術担当教員だ。いろんな人に、魔法の知識を教えているそうで、とても素晴らしい先生なんだとか。


 ディーはシーファトの領主として、今は最大の観光名所になるように尽力している。


 セナ……スピカの妹は、あの戦いの後、森の中で衰弱しているところを助けられていたそうだ。俺達が戦っている間、真実を知って、ずっとショックで心を壊していたそうだが…………今は少しずつ元気を取り戻している。今は、自分の罪を償うためディーの元で秘書をしているそうだ。


 サタンは、正式にティエア連合国王となった。彼女の言葉により、ティエアすべての国は統一され、一つの国となった。魔王の国となるが…………その割には本当に平和で、魔族も人を襲うことはなくなった。


 フォルは、今もじいさんと一緒に暮らしている。俺との婚約は……取りやめた。


 フォルは猫獣人族の里を立派にしたいという思いが強くなり、勉強に励んでる。……だから、俺と一緒に悩んだ結果、お互いにそれぞれの道を歩む事になった。


「それでも、フォルはタクミの事好きニャ」


 そう言って自分の居場所に帰っていった後ろ姿は、幼くて小さかった彼女が、この事件で一番大きく成長していることを思わせた。


 デュランダルは、新国王の騎士団長となった。この平和を守るため、しっかり働いているようだ。たまに俺の所に来て修行をしているが、以前とは見違えるほど強くなっている。


 剛剣のデュランダルとも呼ばれ、いずれじいさんから剣聖の称号も受け継ぐ事だろう。




 ペルは冥界の神ハデスとして、死後の世界と現世を完全に分断した。やはり、転生しているとはいえ、死者と生者がかかわることはよくないと判断して、現在は現世の神のテュールと共に決定した。


 今は、どちらかの世界で死んだものを転生させるときに通る門。通称「天岩戸(あまのいわと)」が固く道を閉ざいしている。


 日本神話に詳しい人が聞くと首をかしげるかもしれないが、ご容赦いただきたい。ペルもあとから気が付いたようだが「まぁいっか! で、伝説とは別物だしー」でごまかしている。




 今彼女は、死後の世界はRPGツクレールの世界を少しずつ整理しているところだ。


 大きく分けて三つのグループに世界を分けている。


 まずは、ティエアをはじめとする異世界。これは言わずもがな異世界で暮らしたい人のためのものだ。


 二つ目に死者が善行を全うした場合に選べる天国。天国に転生した場合は基本的に何不自由なく生きられるが…………基本的には生きている間につかれた魂を癒すための世界だ。いずれ、天国がつまらなくなって来たり、疲れを癒しきった人達は、自ら望んで異世界や現世に転生するそうだ。


 第三に…………地獄だ。これは現世や異世界で悪行を働いた死者を構成させるための刑務所のようなところだ。ここは、すでに崩壊した異世界を利用し、その復興のために労働してもらうというものだ。


 当然協力しない人には罰を与える。罰を与えるのは……あの少子化していたゴブリン達だ。


 デュランダルによってちゃんと基礎知識を覚えたゴブリン達は、モンスターとしての力を使って人に罰を与える職に就いた。どんな罰かは……もはやご想像にお任せするとしか言いようがない。




 そうそう、女神といえば忘れてはならない人物がいる。フレイアだ。


 彼女は…………魂の損傷が激しすぎた。


 ペルでも治療は難しく、数年たった今でも車いすで生活している。右目も完全に失い、今は眼帯をしている。だが、ずっとこのままじゃないらしい。時間をかけて治療をすれば、とりあえず体を動かすことはできるようになるらしい。


 今日も、自分のヨーヨーコレクションを眺めながら「うっし! リハビリ頑張るかっ!!」と言って車椅子で暮らしている女の子とは思えないほど元気に、復活の時を夢見て前に進んでいる。




「まぁ…………こんなところだ」


「だぁーーー」


 やっぱり通じないか…………そりゃそうだわな。この子ももう……0歳だからな…………。


「タクミーー!! そろそろ母さん乳母車に乗せて!!」


「ああ! わかってる」


 にしてもすげぇパワーワードだな……母さんを乳母車に乗せるって…………。


 ……ただ、それも多分今日で最後だ。


 もうこの体も限界で、いつ死ぬかわからない。


 ほとんどなんでも出来るようになったペルでさえ、一度年齢逆行した体は変えられなかったらしい。


 本来細胞分裂する体が、細胞の吸収と縮小を続けるようになってたらしい。細胞分裂の構造すら変わっている身体を治すことは……神ですら出来なかった。


 せめて細胞吸収の速度を抑える薬を飲んで今の時間まで耐えていたが……もう限界のようだ。


 だけど、その前に()()()を見せる事が出来て良かった……。


「あーーーー!!! ちょっとお父さん! 雑巾持ってきて!!! ケインがお漏らししたーーーー!!! ぎゃーーーー!!! 茶色いのも出てるーーー! 私のお気に入りの服があぁーーーー!!!」


「ってなにぃ!? ……って、何ニヤついてんだアトゥム……お前まさかっ!? …………ぎゃああああああぁぁぁぁ!!!!」


 悲鳴が二つ、家中を響き渡る。ピクニックに行くつもりが大変なことになった!!





 さっそくドタバタする夫婦二人には、数ヶ月前に子供が生まれた。


 語呂が少し悪いが、カインを少しもじってケインとした。


 ケイン=ユウキ……おばあちゃんと同じで紫の髪と瞳。俺達の大切な宝物だ。


 ……ってか、こうやって見比べてみたら本当に兄妹みたいだな……よく似ている。


 乳母車の中で二人仲良くはしゃいでる赤ちゃんを見て心からそう思った。


「この辺にする?」


「ああ。––––––そうら! お漏らしケイン! いくぞーー!!」


 俺はケインを抱きかかえて、草原の先のエストを見る。


「あれ…………」


 この景色……どこかで見たような…………。




 ––––––まずは村に行く! ギルドに行く! 冒険者になる! これ異世界の鉄則!!




 どこからともなく聞こえたそんな台詞。今俺の隣を懐かしい学生服を着た少年が走り去っていった。


「ってかこの異世界、モンスターとか暴れてないんだったな……まぁいいか! 平和を守る勇者になればいいんだしっ!! 前向き前向きっ!」


 その少年の後ろ姿を見て、俺は不思議と懐かしい気持ちになった。


「あの子……昔のあなたにソックリね」


「ああ……」


「? ……あなたどうしたの?」


「?」


 俺は、早紀に言われるがままに頬を拭ってみる。


 ––––––泣いていた。




 その涙を見て、唐突に気がついた。


 この世界での俺の役割が終わろうとしてる事を…………。


 生意気盛りのその学生服の子は、昔の俺のように輝いていて……それがちょっとだけ悔しいけど…………。


 肩で風を切り、ワクワクドキドキしながら草原を走り抜ける。そんな少年の後ろ姿に、俺はこれから始まろうとしている彼の冒険に胸が高鳴った。


「頑張れよ! 少年!!」


 俺は思わずそう叫んでいた。


 学生服の少年は、いきなり呼びかけられて戸惑ってたが、気持ちいい笑顔で親指を立ててはじまりの村へと走り去っていった。




 すると……。




 目の前にいないはずの人が現れた。




 帽子を深くかぶり、いたずら好きの少年のような笑顔で俺を見ていた。




 俺は、思わず叫び出しそうになるほど嬉しかったけど、それが幻想であることは直感していた。




 だから俺は口を噤んで、彼女の言葉を待った。




「面白かった?」


 まるで自信作の自作ゲームのレビューを期待するような子供の台詞に、俺は呆れるように笑みをこぼした。


「––––––ああ。クソゲーの割には、なかなか楽しめたよ」





 皮肉たっぷりにそう言い返すと、幻想はクスクス笑いながら消えていった。








 ––––––人は皆、誰だって主人公になれるし、作る事も出来る。




 ある人は自分という物語の主人公を自ら演じ––––––。





 ある人は空想に物語の主人公を思い描き––––––。





 ある人は他人に自分の理想の主人公を重ねて見守る––––––。





 だから、忘れちゃいけない。





 自分という主人公だけは誰かの意思じゃなく、自分で動かなくちゃいけないんだ。




 君のそばにいるその人は、誰かの意思で動かしちゃいけないんだ。






 それは時に傷つけ、時に悪意となり、不安定で、曖昧なものかもしれないけど……。





 それはルールで縛らなきゃいけない。そういうものなんだとしても…………。







 自由なき平和に意味はなく……また平和なき自由も愚かだ。






 俺達が望んだのは……そんな曖昧で不確かだけど……誰もが望んだ世界だ––––––。

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