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第百二十一話「決戦」

「はああぁ!!」


俺の刃が奴の剣と重なる。だが奴はその力を利用して空中に浮く鋼鉄の花びらに飛び移る。俺もまたそれを追いかける。


「うわっ!」


 だが、その花びらは無重力状態となって回転している。その上に立つには、風の加護で体を花びらに押し付けるしかない。戦いの最中にそんな細かな調整もしなくちゃいけないのか……。


「落ちろっ!」


「落ちるかよっ!」


 彼岸花のようにハジける光が、鋼鉄の花びら舞う戦場で煌めく。なおも花びらは上昇し、落下する事なく、浮島のように暴風の渦の中を漂う。


 お互いに風の加護で自身を守ってるとはいえ、花びらは直径10メートルほどだ。そんな鉄板を吹き飛ばす暴風に煽られながら、その鉄板の上に乗っかるんだ。バランスを取るのはかなり難しい。


 その上、神様に勝てってどんだけ無理ゲーなんだよ。……それでもコイツにだけは負けないって自身が勝手に溢れてくる。まったく自分がバカみたいだ。


「テメェ……本気で思ってやがるのか? 神に勝てるとっ!」


「さぁな……ただ、俺は(テメェ)の作り話が気にいらねぇからぶっ壊すだけだっ!!!」


 剣で押し合い、お互いに後方に飛ぶ。オレは竜巻に飲み込まれ上昇する別々の銀色の花びらの上に立つ。


「人間の分際でぇ!!!」


 奴の武器の刃が少しずれて銃口があらわになる。オレンジ色の閃光とともにマシンガンのようなスピードで銃弾が連射される。


 だが……ライフル程度のスピードと威力なら、俺の剣で弾ける。俺は乱撃で銃弾全てを弾き返した。


「ぐっ!?」


 俺の右足の脹脛(ふくらはぎ)から(すね)にかけて銃弾が突き抜けた。完全に死角からの攻撃。


「こ……これは……っ」


「勘違いすんなタコ……テメェの時間跳躍攻撃くらいオレだってできんだよ!!」


 その瞬間、俺の周囲360度にかけて異様な空気を感じて、俺は自分が立っている銀の花びらを切りその下へと降りる。その瞬間、俺がいた場所に複数の銃弾が弾ける音がする。


 なんとか別の花びらに飛び移り、体制を立て直そうとしたが、それすら許されない。俺の全周囲を未来からの銃撃が現れる。


「うぉりやあああぁぁぁ!!」


 気合いとともにその銃弾を全て回避していく。


 だが、何もないところからタイムスリップしてくる銃弾は数が多すぎて無概の時のように回避したり防御しきることはできない。


 肩をえぐり、コメカミをかすめ、右太ももを撃ち抜かれた。


「く……くそっ!」


 さすが神を名乗るだけの事はある。能力もまたチート級だ。正直ロボットアニメのファンネルとか可愛く見えるくらいだ。


 だが……俺の遡龍烈牙(そうりゅうれつが)と違って、体内に直接送り込もうとする事はしない……俺と若干方式が違うから座標が安定しないのか?


 すると、首筋に悪寒を感じてとっさに右に飛ぶ。


「ぐっ!?」


 未来から切断系の技っ!? これはまさか……遡龍烈牙(そうりゅうれつが)!?


 神の遡龍は俺の首を少し切り、鮮血を撒き散らす。……あともう少しで俺の首は真っ二つ。そうでなくても頸動脈(けいどうみゃく)を切り、死んでいただろう


「時間を超える斬撃を身につけた程度で神に挑もうとは……愚かな」


「ま、まさかお前は……あらゆる攻撃を過去に飛ばす事ができるのか?」


「……オレは、この次元にある全ての力を持っている。……全て時間を繰り返して覚えてきたからな。それがどういう意味かわかるか?」




 ––––––人なんかでは到底たどり着けないあまりにも長い年月積み重ねた知識……もしかすると、それはもはや私達には手に負えない力にまで発展しているのかもしれない…………。




 唐突にディーの言葉が頭の中で再生された。


「まさか……お前はこの次元の全ての技も魔法も……使う事が出来るのか?」


 神は不気味な笑みで返答した。


「オレの寿命は永遠だ…………時間なんて腐るほどある」


 その時間を……すべてのスキル習得のために使った神…………神は元々単純な力しかなかったが、永遠の時間を得ることでそれは膨大な力に変化した。


「この世で力を得る方法はたった一つだ。”行動すること”。難癖や嫌みは、ただの時間の無駄に過ぎずそこに価値などない。才能がある? 能力があった? そう嘆くだけならまだいい。それを言い訳にして動かないのは、おぞましいほどの怠惰だ」


 ––––––俺には才能があった。…………だからこそ迷わず自分の爪を磨くことに集中できた。


 だけど、才能がないものは? 能力のないものの努力は意味がないのか?


 …………俺は、それが間違いであることをよく知っている。俺は能力のないものの努力の本当の恐ろしさを身に染みて覚えている。


 才能という点では、夏樹先輩や健司より俺のほうが上だろう。…………だが、二人とも俺が少しでも油断をすれば勝つことはできなかった。


 …………それは、二人に実は才能があったから? そうではない。彼らにもそれなりの力や才能があったかもしれない。だけど、それ以上に自らの行動により自分を磨いた時間があったからこそ、俺を凌駕しうる力を得た。


 その努力のつらさ……苦しさを言い訳にせず、ただひたすら鍛え続けた神。


 神であることに怠けずに、ただひたすらに力を求め続けたその男の強さは……俺でも計り知れない。


「––––––おもしれぇ…………」


 俺だって、才能におぼれて今まで生きてきたわけじゃない。


「まだ立ち向かうつもりか?」


「…………テメェは一つ勘違いしている」


 俺は袖をめくり、その腕についてるものを外した。


 ドスッっと重く鈍い音が響き、その10Kgのアンクルの重さを身に染みて思い知らされる。


「…………そのアンクルをつけて今まで戦ってきたのか? 無概と戦っている最中もずっと!?」


「ああ…………これから神をぶっ倒そうってんだ。遡龍烈牙(そうりゅうれつが)のその先も手に入れるつもりなら、このくらい普通だろ?」


 一日しかないから戦いながら鍛えるしかない。このくらいしなきゃどうしようもねぇ。


 両手足についていたアンクルを外すと、羽のように軽く心地よい違和感を感じる。


「…………テメェは腐るほど時間があったからこそ、俺はお前に勝てないといったな。だが…………テメェが多数を鍛える間に、ただ一つを磨き上げた––––––」


 俺は…………刀を構え––––––。




「なっ––––––」


 細切れになった神を後ろ目でにらみながら、刀に付いた血を祓う。


遡龍乱舞(そうりゅうらんぶ)––––––」


 だがまるで粘土細工のように細切れになったそれはまとまって自己再生していく。


 驚きはしない。その程度の展開は予想していた。


「なんだ今のは……百連撃か!?」


「違うな……百斬同時攻撃だ」


遡龍烈牙(そうりゅうれつが)を、百斬全て同タイミングの時間軸に送ったのか…………」


「テメェが強い事は百も承知。テメェが支配なんて欲求丸出しの神ならまだしも、元は一人の少女を救うために戦った男……そういう奴は強い。…………俺も含めてだがな」


「はっ! ははははっ!!」


 神は愉快そうに笑う。俺達が奴を騙した時と同じように。


「いいぞ……いいぞ結城拓海!!! すでに貴様は神の領域を超えた!!! オレが断言しよう。貴様はオレを除く全ての生物を凌駕したっ!!!」


「ああ、あと超えるべきは……テメェだけだっ!!」


 俺が突進すると、それを避けてシルヴァンドルはきりもみするように回転する花びらに飛び移る。それを追いかけるように俺も飛び立つ。表と裏のコインの上に立つよう俺達は対峙した。


 俺の地面を裂く一瞬百閃が奴のいた地面を細かに分断し、花びらに大きな穴が開く。


 俺自身の足元にも地面がなくなった。俺はわざと風の加護を切って竜巻に飲まれ、その先の銀の大地を踏みしめた。


「ぐっ!?」


 その瞬間、俺の周囲を銃弾が覆い囲む。その全てを遡龍乱舞(そうりゅうらんぶ)ではじきかえす。


 奴が俺がやったように裏側から攻めてくるとよんだ俺は、真下の花びらを叩き割る。––––––すると、真っ二つになった起源神があらわになるが、すぐにスライムのようにくっついて俺に上段からの一閃を加える。


 俺はそれをかわしながら何度も銀の大地を切り刻む。互いに崩壊した大地を捨て別の花びらに移る。


 ––––––いい勝負……むしろ俺の方が優勢に見えるがそうじゃない。


 遡龍乱舞(そうりゅうらんぶ)をまともに食らっても耐え切れる……この手の復活ネタだと核があるとかそんなものが多いが断言できる。奴には核はない。


 それなら某国民的バトル漫画のデブな魔人のように細胞一つでも残っていれば復活できると考えて、細胞一つ一つ全て抹消すればいいのでは? とも思うが、そもそも遡龍乱舞(そうりゅうらんぶ)の百を超える剣撃の内部は、空気摩擦により少なくとも一千度を超える。だが、細胞が燃えるどころか、奴はケロッとしてやがる。


 だとすると、物理攻撃無視、魔法攻撃もほぼ無敵と思っていいだろう。


 だが……そんな自己再生魔法、維持するんなら相当な魔力が必要だ。


 つまり簡単に言えば奴にとってMPがそのままHPの役割をしてるって事だ。


 そう考えるとこの勝負、俺が圧倒的に不利だ。


 ゲームではHPが消えれば死亡だが、現実は違う。


 “心臓か脳を止めれば死亡”それが現実だ。


 それはHPなんて単純な数値にはならない。


 急所を突かれたらピンチ? いいや、急所を突かれたら普通は即死か致命傷だ。それが剣で戦うと言う事だ。


 それに対して、俺は正真正銘のHP持ちの化け物と戦ってるわけだ。


「まさしく、主人公ってわけか……」


 そうだ……RPG主人公の何が一番強いかって言えば高火力の攻撃でも、スピードでもなんでもない。


 ––––––無尽蔵の命。


 ポーションやらリザレクションやらで簡単に蘇生と回復を繰り返す。


 一方で悪役側は、仮に回復機能があっても主人公側がある程度勝てるように設計されている。


 そんな主人公に勝とうとしているんだ。しかも時間操作やバグ技上等レベルのまさにチーター。


 はっきり言って、これでプレイヤーが勝てなかったらお笑いもんだ。


「さて、そろそろトドメって奴だ……テメェさっきおもしれぇ技使ってやがったな?」


「まさか……こいつ遡龍乱舞(そうりゅうらんぶ)をっ!?」


 一目見ただけで使えるようになったってのか!?


 まずいっ! コイツと違って俺には再生能力はない。仮に百斬全て捌き切っても一千度の高熱が俺を焼き尽くす。


 同じ遡龍乱舞(そうりゅうらんぶ)を返しても、殺せないんじゃ俺の死の因果は消えない––––––。





「いい加減死にやがれ……結城拓海ぃ!!!!」

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