第八話サブストーリー ~コジロウ回想~
「未熟者め」
「なんと言われようと……シルビィは僕が決めた女性だ……」
「もう知らん!!! 好きにしろ……だが、俺の前に二度と姿を現すな」
「言われなくても、もうここには戻らない……バカ親父が!!!」
それは、バカ息子のためにかけた言葉だった。
猫獣人族はまだ、亜人への理解が足りない。ならば、エルフの里で育ったほうが、まだ苦しまずにすむ。
あの日から随分時間が経ったのう……。
フォルも随分と大きくなった……しかし……。
「ううむ……やはり予備の刀を取りに行かせるべきではなかったか」
どうしても行くと言って聞かないフォルに負けて任せてみたものの……。
「して、なぜフォル一人に行かせようと言ったのじゃ? アトゥム殿」
一応心配じゃから精霊をつけておるから襲われても大丈夫のはずじゃが……。
「フォルちゃんにも、はじめてのおつかいをさせた方がいいと思ってね。なぁに、警備も万全だし危なくはないよ」
「そうは言うがのう……わしゃ心配なんじゃあ……ああああぁぁぁぁ」
「ははは……こりゃフォルちゃんよりコジロウくんの方が心配かな?」
心配……か。
「アトゥム殿……わしはある程度、あなたの話を聞いておる。じゃから今更疑いもせん」
「どうしたんだい? やぶからぼうに」
「アーノルドが現れたというのは本当か」
アトゥムは、少し間を空けてから一つうなづく。
「……復讐でも考えているのかい?」
「二人を失ったのはワシが愚かじゃったからじゃ。今更言い訳する気もないわい」
……わしは絆を断つべきではなかった。
絆を断ったから……わしはお前らを守れなかった。
絆を断ったから、お前は……お前達はあやつに洗脳されてしまった。
「じゃが、もし次に奴に相見えるならば、わしが必ず……」
「…………」
「じゃがそんなわしに、奴はまだ放っておけとお主は言った……アトゥム殿、何を考えておる」
その少年のような神は、ニヤリと含みを込めて笑った。
「これは……彼が乗り越えなければならない試練なのさ」
「彼……お主がナイトと呼んでる男か」
「彼はまだ未知数だ……未来を知る僕にも可能性は計り知れない」
……この世界の最上位の神が、ここまで言うタクミ=ユウキ……。
「わしはまだそいつを知らぬ……わしのやり方で奴を試すが、構わんな」
「無論だ。彼は本来死ぬはずだった男……君が認めないなら、その程度だったってことさ」
……本来死ぬはずだった男の死を回避し、その因果がどう言う結果に結びつくか……。
「わかった……わしもそやつに賭けるとしよう……」
「ありがとう……ごめんね」
「気にするな……フォルの住む世界を守れるなら、私怨くらい捨ててやるさ」
そして……タクミとわしは出会った。
……こやつは確かに強い……戦術に若さが残るのが惜しいがそれだけ。実践を積めば、わしの全盛期より強くなる。
だが……その分こやつの力には邪念がある。……迂闊に能力を引き出さない方がいいのかもしれんのう。
「コジロウさぁーん!! フォルちゃんのお着替え終わりましたよーー!!」
「じいじぃーーーーー!!!」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!! アルティメット プリチィ マイ グランチャイルド フォルやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
何ということじゃああああぁぁぁぁ!!! この世の可愛いを凝縮した小ささに、相反する大人びた紫牡丹の着物が背伸びをしているようで逆に幼さを際立たせておる!!
「えへへぇ〜。フォルちゃん可愛いから、なんでも似合ってしまって選ぶの大変でしたぁ」
ペル殿……おそるべしっ!!! この手の着物は、どうしても子供らしい赤や黄色を選んでしまいそうなものじゃが、あえてその逆をついて可愛さを表現するとはあぁぁ!!!
「はぁ……はぁ……」
い……いかん……興奮しすぎて動機が…………わしを殺すかわいさ…………何という罪な孫じゃ。
「じいじ……大丈夫?」
––––––––ああ、天使が迎えに来たようじゃ…………。
「––––––––はっ!!」
い……いかん、気を失っておった…………。
この子……マジでわしを殺しに来ておるっ!! ……でも、フォルに殺されるならわしゃ……満足じゃぁ…………。
「じいじ! いこ!!」
「––––––––フォル」
いま……一瞬息子と重なった…………。
たわけか、わしゃ……あんな小僧とは比べものにならんくらい可愛いわい––––––じゃが。
「……ありがとうのう」
どこかでフォルの成長を見ていると信じ、わしは空に届かぬ感謝の音を飛ばした。




