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第百二十話「つながる思い」

「…………それが、お前の記憶か」


 別次元にあるもう一つの地球––––––そこで生まれた絶望と運命。それが…………こんな悲しい結末を迎えるとはな。


 影沼と早紀も、花の頂点に登ってきた。いまだに爆発音は止まず、薔薇の花びらは刻一刻と爆発とともに散っていく。


「結城拓海……いや、他の誰にも……オレの計画は邪魔させない…………オレは…………こんな世界を望んじゃいないんだ」


 自分の思うままに世界を作れる創造神が…………それでも望んだ世界にならない。


 アトゥムが自分の娘のために世界を作り、自分の望む形にしようと過去改変までしたのと同じように、シルヴァンドルもまた、過去を変えるために世界を新しく作り変えたんだ。


 その悲しみは、多分同じ創造神じゃないとわからない……だがだからこそ、盲目になり、大事なことに気が付かなかった…………。


「お前の望む世界はもうすでに破綻している。……この枯れたニセモノの花のように、根幹から崩壊しているんだ」


「何を言ってる? オレの計画は破綻などしていない……。そもそも破綻しているなら、どうしてわざわざ結城風音が過去へとタイムリープしてきた?」


「それは––––––」


「それは、あなたの計画が失敗したからよ。ゼクス=オリジン」


 シルヴァンドルよりさらに奥。内部からつながってる階段から一人……いや、三人の人物が現れた。中にいた親父、母さん、そして健司の親父さんだ。


「ゼクス=オリジン…………シルヴァンドル。それがお前の正体か。長年追いかけてきたかいがあったというものだ」


 拳銃を構える京也さんを親父が止める。


「京也……お前の思いはわかるが、この勝負はもうオレ達の手に負えるものではない」


「幸村……。だが、奴のせいで何人の同胞が死んだと思っている? 私は、奴を許すことはできない」


 そんな京也さんの気持ちが伝わってきて、俺は言葉を挟んだ。


「お願いだ。京也さん……ここは俺に任せてくれ」


「くっ…………」


「そうだ。結城幸村……結城風音……神宮京也……貴様ら程度が、この舞台に立つことは許されない。そうそうに失せろ!!」


 すると神の存在に怖気づくこともなく、まっすく目を見据えながら母さんは前に出る。


「……聞きなさい…………ゼクス。あなたの計画は、すでに失敗しているの」


「なんだと…………」


 そう……母さんは知ってるんだ。この先の神に待ち受けている本当の絶望を…………。


「––––––そもそも、なぜ私がタイムリープに成功したと思う?」


「…………貴様が時詠の巫女だからだろう?」


 シルヴァンドルは、当たり前のことを口にしているはずなのに一瞬何かに詰まる。


「じゃあどうやってあなたの邪魔をかいくぐったの? どうやって解呪の儀式を行いタイムリープに成功させたの? あなたの事だから解呪の儀を感知する方法も作ってあったはずでしょ?」


「それは…………」


 だんだん、言葉に力がなくなってくる。目をそらしてきた真実を目の前にしていくような不快感を感じているのだろうか? シルヴァンドルの顔色がだんだん悪くなっていく。


「理由は一つ……あなたはこの世界線の未来で、人類をすべて支配することには成功したが、アリスの転生をさせることはできなかった」


「ばっ、馬鹿を言うな!! アリスを転生させることは人々を洗脳するより難しくない。輪廻の輪に彼女がいる以上、黄泉の道に彼女のかけらは存在する。かけら一つでもあればオレは、その情報から彼女を転生をさせることが可能だ。そうでなくても彼女ほどの強大な魂はまだ潰えているはずがない」


「では彼女が死の直後、ある人物に自らの意志で転生しているとしたらどう?」


「何を言って––––––」


 その場合……アリスは現実世界にいながら別の人間に転生することができる。……黄泉の道を通ることはない。つまり、アリスの魂のかけらはどこにも存在することなく、シルヴァンドルの手で転生させることは不可能となる。





 そして––––––それが、()()が創造神候補になった本当の理由だ。


 魔法とも、力にも縁のない()()が…………どうして創造神候補になったのか––––––。






 ––––––そして、その彼女は今…………どうなったのか?






「––––––星井夏帆……それがアリスが自らの意志で転生した人間の名前です」


「なっ––––––」


 そう……俺は、その正体を影沼の中にあるアトゥム…………その魂に刻まれた記憶を読み取ることで知った。そもそもアトゥムが自身を食わせた理由は、俺が心眼を完全にマスターする未来をよみ、彼女(アリス)が願った未来に到達するための一手だ。


「アリスは魔女だ。彼女は、お前の未来を占いで知ったそうだ。だから……お前が間違えないように考え…………その未来をたった一手で変えようとしているんたんだ。星井夏帆に自らを転生させることで……お前がアリスを転生させることを防いだんだ」


「つまり、テメェの恋人が願ってるのは自分を転生させることじゃねぇ」


「暴走したあなたを止めること…………それが、お母さんが受け継いだアリスさんの願いよ」


 選択の余地もなかっただろう。いずれ自分が死ぬことも知っていた魔女は、自分の魂を一刻も早く転生させるしかなかった。そうしなければ、シルヴァンドルが時間遡行をして彼女が死んだ直後の魂を回収されてしまう。


 詳しくはどうやったかは知らないが、彼女は自分の魂を別のものに変質させ浮遊霊として漂い……今の時間軸で星井夏帆として生まれた。つまりは、魂の偽証……。


 それ故に……星井夏帆が継承した能力は偽証。最初俺達は、偽証はRPGツクレール自体の機能と推理したが、そうじゃなかった。


 一度偽証した力が自分でも解けないなどの、RPGツクレールの機能との違いの理由は、もっと単純だった。…………偽証はそもそも、アリスが作った魔法だったからだ。自分の魂を、別のものに見せかける魔法…………それが本来の偽証(パージャ)だ。


 なぜ、自分でも偽証が解けないのか…………それはきっと、シルヴァンドルへのメッセージなのだろう。本来……人の命は限りがあるもの。だから大切だし、尊いものなのだと––––––。


 だから……“後戻りできない”事を示したのだ。


「つまり、アリスを転生させることは、何をしたって不可能だし彼女もそれを望んでいない。……お前の世界は……彼女の望む世界じゃない」


「––––––認めない…………断じて認めないっ!!!」


「なにっ!?」


 その瞬間、シルヴァンドルを中心にすべてを吹き飛ばすような竜巻が発生する。親父達も、影沼も、早紀も、それに飲み込まれ体が浮かび上がり、強烈な暴風の渦に飲み込まれる。


「早紀っ!!」


 なんとか竜巻に巻き込まれる早紀の腕をつかんだが、彼女は浮かび上がりながらニコリと笑い「大丈夫!!」と叫んだ。


「タクミっ! お願いっ!! アリスさんと母さんの思いをつなげてっ!!!」


「早紀…………」


「信じて……私もタクミを信じるからっ!」


「ああ。絶対、俺達の家に帰ろうっ!!!」


 ––––––彼女の腕を離し、彼女は竜巻に巻き込まれていく。見えなくなるまで彼女の無事を祈り…………そして、眼前の敵を見据えた。


 銀の花びらが舞う中で、俺達は剣を構える。風の加護を全開にして、強力な風の渦で自身を覆う。


 奴の刀が少しずつ形を変える。


 刀に銃剣の銃の部分のようなものがつけられている。さらに鍔の部分がライフルのマガジンのようになっていた。


 これが……この男の本来のバトルスタイルというわけか。


「そうだ(プレイヤー)…………かかってこい」


「……貴様を倒せば、オレの望んだ世界が出来上がる…………。もう、アリスも関係ねぇ……テメェら人間が気に入らねぇからぶっ殺す…………それだけだ」


「いいねぇ……そのくらい単純なほうがわかりやすくていい」


 そうだ…………俺も同じだ。




 前世とか、過去とか、そんなのはもうどうでもいい。


 ––––––このわがままな神が気に入らねぇからぶっ潰す。




「「ぶっ殺してやるよ…………主人公(クソザコ)」」

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