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第百十九話「第六次元の起源」〜シルヴァンドル視点〜

 –––––– 目覚めよ………… ––––––




 やめろ––––––。




 せめて眠らせてくれ––––––。




 –––––– いや、眠られても困るんじゃよ。お願い起きてくんない? ––––––




 うるせぇよ…………こっちは疲れてんだ––––––。





 –––––– だーかーらーっ!! こっちも仕事なんじゃよ!! ねー。もう、どうせ死んでるんだからさぁ! 少しは言うこと聞いてくれない? ––––––





「あのさぁ……マジ空気読んでおくれよ…………いつまでウジウジしてんじゃよ。もうどうせ死んだんだからさー。ねぇ神様怒っちゃうよ? 神様っぽい喋り方、もうめんどくさくなっちゃったからやめちゃうよ? ほら、こう……なんっつーか神の(いかずち)的ななにか出しちゃうよ? 死んでるのにまた死んじゃうよ君?」


 それでも、オレは答える気はない。


 空気を読め? そっちが少しは読めよ…………。


 ––––––恋人を目の前で失って、自分も死んで…………それで正気でいられるわけねーだろ。


「はぁ……そりゃ君がつらい思いしたのはわかってるけどさ。ちょっと、ねーもーいい加減にしてくんない? わしも君にちゃんと説明しないとこの仕事終われないんだって…………ったく、なんでこんな奴が候補になっちゃうかなー? これなに? 嫌がらせ? わし神様なのに嫌がらせされてる?」


「––––––うるせぇよ」


「はいはい。わしうるさいね……。でもね、これ終わんないと困るの。次が控えてんの……ってかいいの? わし勝手に決めちゃうよ? 面白そうだからって理由で地獄送りにしてやるけどいい?」


「…………ってかアンタだれだよ」


 その爺はひげが生えた東洋の仙人のような姿だった。細身でほとんど骨と皮のひょろひょろな四肢に真っ白なローブに似た服を着ていた。前髪もオールバックにしてまとめて後ろで縛っているようだ。


 気が付くと、オレはその神と共に雲の上にいた。何もかもどうでもよくなってて、オレは今さら気が付いた。


「一応、わしこれでもこの宇宙作った神様なんじゃがな……あ、わしは盤古(ばんこ)っていうもんじゃ。他にもアトゥムとかアンシャルとか伊耶那岐命(イザナギ)とかいろいろ呼び名あるけど、盤古(ばんこ)がシンプルで好きじゃからそっちでよく名乗ってる。アンタの国じゃとアイテールって名乗ったかな? 多すぎて忘れたわ」


 …………ともかく、創造神ってわけか。アイテールといえばギリシャ神話で原初神だからな。


「ほら、創造神ってなるとこーなんていうかなー? いろいろ忙しくてな? いろーんなところでいろーんなもの作らないといかんのじゃ。だからその地域に合わせて神様っぽい名前作ってたら、めんどくさいほど名前ができてしもうてなー。使い分けめんどくさくなって、ここ二千年くらいは、ほったらかしじゃ」


 本当にめんどくさい爺さんだ…………創造神だか何だか知らないが、いい加減にしてほしい。


「はいはい。めんどくさいんじゃの。じゃあさっさと本題に入るぞ」


 それでも正直興味が持てなかった。オレはとりあえずさっさと終わってほしくて聞き流すことにした。


「––––––お主は、創造神候補になったんじゃ」


「創造神候補…………?」


 一瞬、何を言ってるのかわからずにオレは思わず聞き返した。


「ようするに、お主の好きな世界を作れるようになったってわけじゃ」


「なんでオレが––––––」


「知らん。ぶっちゃけたまたまじゃろ」


 た…………たまたま創造神になれるものなのか?


「ま、なぜ創造神候補の理由は、実際ほとんどわかっとらんのじゃ。最初の起源神なら知っとるかもしれんが、もうとっくの昔に死んでしもうとる。自分の作った世界と共にな」


 そんなものなのか……? もう少し問いただしたかったが、どうせこれ以上聞いてもシラを切るだけかもしれない。オレは仕方なく納得し、話題を変える事にした。


「アンタら創造神は、どんな世界でも作れるのか––––––」


「まぁのう……たいていの事は可能じゃな」


 オレはそれを聞いた瞬間、胸倉をつかまんとするほどの勢いで罵声を浴びせた。


「じゃあなんで戦争なんて起こさせたんだ!! 神様がいるんなら、なぜ戦争なんてひどいことをさせたんだ!!!」


 怒りをぶつけるが、神は悪びれもせず、にっこり笑ってこう言った。


「戦争のどこがいけないんじゃ?」


「なにっ…………」


 オレがにらむと、あきれたように答える。


「お主はまさかあれか? 人間が動物ではないと信じてる口か?」


「…………人間と動物は違う。動物は知能もないし、言葉もしゃべらない」


「まぁ、十八世紀の世界ならこの程度の知識じゃろうな……。いいか? 会話は虫ですらするし、知能がない動物など存在しない。ただ、人間が動物の言葉を認識できないだけじゃ」


 そんな話初めて聞いた…………そう思ったが、そう言えばアリスがいつも使い魔のシリウスとなにか会話してた。彼女は魔女だから何かオレには感知できない言葉を聞いてたのか? だがそれでもオレは、それでも犬猫に知能があるとは到底信じられなかった。


「ってか、だからなんだよ…………。戦争はない方がいいんじゃないか? 戦争を、お前なら止められたんじゃないのか?」


「縄張り争いは動物の必定であり、当然の権利じゃ。わしが止めるものでもない」


「と……当然って…………」


 胸糞悪くなるほど最低な神の言葉だったが、それに相反して言い返す言葉がなくなってくる。


「おぬしらも、そうやって家畜を飼い、動物を従属させとるんじゃろ? あれは牛や犬達を保護という名目で縄張りから力で奪い去り、奴隷や家畜にしとるだけじゃ。それは戦争とどこが違うんじゃ?」


「そ……それは…………」


「わしは一応動物を殺さなくても生きていけるだけの食料を人間には与えとるんじゃよ? でも大昔から人間は殺し、奪い、食らう…………。それは野良犬の食事や縄張り争いと何が違う?」


 ついに、オレは言葉をなくした。動物と同じ…………そう思うしかなくなってくる。


「じゃから戦争も含めて、すべては人間の(いとな)みなのじゃよ」


 だけど…………。


 きっと人間は、戦争を終わらせて正しい心を持つことができるはずだ。それだけの知能と知識を持ってると信じられる。


 そうすれば……アリスは…………。


「…………オレは、創造神になれるって言ったな?」


「ああ、そうじゃよ」


 オレは、拳をギュッと握りしめて無能な神をにらみつけてこう言った。


「だったらっ! アンタと同じ世界を望むっ!! その世界でアンタが止めなかった戦争を人間にやめさせ、アリスが死ぬ未来を回避してやる!!!」


 盤古(ばんこ)は目を見開くと、かわいそうなものを見るような目でオレを見る。


「…………本当にいいのか? その世界はきっと……お主にとって、とてもつらい世界じゃぞ?」


「関係ねぇよ!!! アンタが世界を救えないなら、オレが救ってやる!! 無能な傍観主義の神じゃない。絶対の神となって、オレがすべてを救って見せる!!!」





 * * * * 第六次元 十八世紀初頭 フランス * * * *




「…………こんなのありかよ」


 ––––––オレは、宇宙創生から今までの間、途方もないほどの時間を神として生きた。


 その間、第五次元の神と出来るだけ同じ行動をとった。人が減るのもまずいが、人が増えてアリスと別の人物が出来ても困るからだ。


 そして運命に導かれるようにアリスは生まれた。そして……定められたように、アリスは殺された。


 さらに最悪だったのは、アリスの死の真相が本当は全く別の理由である事がわかったことだ。


 あの日……どこの国もオレたちの町に襲撃などしていない。


 ––––––村を襲撃していたのは、オレ達の国(フランス)だ。


 オレは、アリスを守るため第六次元のアリスの誕生を確認してから、戦争を全ての国にやめさせた。ヨーロッパ諸国の全ての国の影の王となったオレには容易い事だった。


 だが……それでも次第に保てなくなり、次第に戦争が起きた。


 ならばと、アリスの町だけは絶対に守ろうとフランス軍人達で守備を固めた。


 ……だが、幹部の中に……というより、大半の軍人は魔女の存在を恐れていた。


 そして……アリスがシリウスと契約したその瞬間。恐怖が狂気へと変わった。




 “使い魔など契約させてしまえば、また魔女達が復権するのではないか?”




 つまり––––自分達の立場を守るために、その凶行に及んだ……それが、あの日の真実だった。




 絶望する中、オレはこの度し難(どしがた)いほど罪深い人類どもの中で、どうすればアリスを救えるのかと考えた。


 真っ先に思いついたのは、世界に戦争が嫌になる程の犠牲を出すこと。


 アリスの魂さえ補足出来れば、どんなに先の未来でも転生させる事ができる。そのためのシステムを作ろう。




 こうして、異世界をはじめとする転生のシステムは生まれた。


 戦争が起きない歴史の時間軸にアリスを転生させる事が出来れば、彼女は平和に暮らせる。


 それなら、時間を進めたり戻したりするシステムも必要だ。ただ、人間どもに勝手に使われても困るから時間遡行魔法には呪いがかかるようにしよう。


 ––––––たっぷりの皮肉を込めて年齢逆行にでもするか。






 だが……人類は邪悪で卑劣で学ばない生き物だった。


 第四次世界大戦……地球はすでに生物の住める星ではなくなった。


 核の危険性をあれだけ教えて、第三次世界大戦でも何度も核を使ったのに性懲りもなくまた使い……間抜けにも核の灰は、全人類と生物を絶滅させた。





 地球を使ってのシミュレーションだけではダメだ……そうだ、仮の創造神を作るのはどうだ? 他の創造神の知恵が、平和な世界を構築するきっかけになるかもしれない。未来視も使えるようにすれば、その世界の未来なら読むことが可能だ。過去の全人類の中から候補を抽出してみよう。





 仮の創造神候補……作る世界の規模が小さければこんなにいるのか…………ん?


 アリス……彼女も仮の創造神候補だ。


 彼女がもし創造神ならどんな世界を作るか見てみたいものだが……まぁオレは彼女に創造神になってほしいわけじゃない。


 まず他の奴を一人……仮の創造神にしてみよう。


 ありがたいことに宇宙はまだまだ広い。使ってないスペースはいくらでもある。輪廻転生のシステムをそっちに繋げれば人口問題も解決するし、アリスを万が一地球ではなく異世界に転生させる事になった場合のシミュレーションになるだろう。


 人類がいても戦争が起きない世界……きっとこれなら…………。




 ……ダメだ。どの世界も参考にすらならない。


 戦争が起きない平和な世界……一見してみればそう思えるが、所詮一般人に把握できる世界など一国程度の管理が限界だ。


 オレが起源神になったのは、複数国の情勢管理と文明促進が可能だったからなのかもしれない。一般人では、一つの国の文明促進に手を焼いて、他の国を疎かにしてしまう。


 そのせいで何かしらの形で国が増えたり、対立が起きただけで戦争は起きた。


 オレの未来視で戦争が一度でも起きた世界は存在するだけ無価値。そうとわかった時点でオレの手ですべて滅ぼしてやった。




 ––––次第に自分の感覚が壊れてきた。




 人間が何人死んでも……何度世界が滅びても……何も感じなくなった。




 もう……ダメダ…………何度やっても同じ…………。




 結局戦争のない世界など……存在しないんだ。







「RPGツクレールの世界がいい……」


「は?」


 オレは、絶望で半ば覚醒してない脳をなんとか再起動させて、その女の訳の分からない提案をもう一度聞き直した。


「RPGツクレール……ゲーム作成ができるパソコンソフトウェア……僕だけじゃない……他にもいろんな世界を見てみたい。皆が思い描く、皆が望む世界をこの目で見てみたい」


 ––––––何なのだ? この女は?


 今までもゲームの世界を作りたいなんてアホな奴はいくらでもいた。そういう話は呆れるほど見てきた……。


 それを言うに事欠いてゲーム作成ツールの世界だと? これから世界を一つ作ると言うのに、その世界を作るための世界を作るとは……まさに意味不明だ。





 ……まてよ?


 そうだ……そうだよ! ゲームのような世界はいくらでも作った! だけど、完全にゲームに管理された世界は今まで存在しなかった!!!


 こいつの提案を叶えれば、こいつとオレは隔離されたRPGツクレール次元の管理者となる。ゲームのような世界や、ゲームの世界とは違い、RPGツクレールの世界ならば、ルールの調整も可能。管理もしやすい。こいつにしばらく遊ばせておいて、オレは完全にゲームで管理された世界を構築する術を探す。


 それなら地球も、うまくいけば完全に管理された世界を構築する事が可能かもしれない……いや、可能だ!


 そして……完全に脳を支配した世界で、アリスを……。


「面白い……面白いぞ! 新たなる創造神よ!!」


「そ……そうかな?」


「お前の名は何と言ったか!?」


「星井夏帆……いや、その名前は捨てます。……今日から私は、創造神アトゥムです」


 アトゥムか……第五次元の神に習ってエジプトで使ってたオレの名前だが構わない。


 こいつを利用して……不要になったら歴史を改変すればいいんだ!


 こいつの創造神にならない世界に……。


 時間遡行については一度、時詠の巫女に見抜かれそうになったが……案ずることはない。呪いの解呪方法はバレてない。


 時間を戻したところで無駄だ……。




 オレを止められる奴なんて……この世に存在しねぇ…………。




 邪魔者が出てきたか……いいぜ? いくらでも遊んでやんよ……。




 ––––––まさかオレを騙す奴がいるとはなぁ……だが、無意味だ。





 全ては……時間を戻せば終わることだ……。奴らは気付いてねぇ…………。






 神に逆らうという事が…………どういう事かをなぁ!!!!

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