表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/143

第百四話「絶望の戦姫」

 佳奈美と私は、この世界線の歴史を調べるために図書館にやってきてた。病院に担ぎ込まれた後だから母さんはひどく心配していたが、私は大丈夫と一言だけ告げて家を出た。


「……これでだいぶこの世界の歴史がわかってきたな」


「ええ……」


 一番の違いは第一次世界大戦の歴史だ。私の知っている歴史ではこの時初めて原子力爆弾が使われた。開発に成功したのはドイツ。しかも、一つや二つではない。大量の原子力爆弾は様々な地域を破壊した。


 一番の被害国はフランス。この戦争で事実上地図から消滅し、フランスは人が住める場所じゃなくなった。フランスだけじゃない。他国も当時原子力爆弾を保有していたため、少なくともフランスを含める六カ国が、放射性物質により国として機能しなくなった。


 だけど……この世界線の歴史では原子力爆弾が戦争に使われたのは第二次世界大戦時。しかも被害国は日本だ。


 私の知ってる歴史では確かに日本にも原爆は落とされたが、それは第一次世界大戦時だ。そのため日本より被害を受けている国は多い。


 そして……日本が大きくかかわることになる第二次世界大戦。……の前に、大きな歴史の出来事がこの世界には存在しない。


 フランス条約……世界中に原爆の使用を禁止する世界的な条約がない……。


 それはそうだ。この当時原爆は使われていないのだから。


 第二次世界大戦は日本が大きく巻き込まれた世界大戦だが、これについては意外にも私の知る歴史と大差はない。参戦国が少なくなってるだけで、基本的な経緯は同じだ。


 ……違うのは、広島、長崎の原爆投下……この世界では原爆投下されているが、私達の知る歴史では、空襲となっている。


 おそらくはフランス条約の有無か…………ただ単に原爆を使用する必要性がなかったのか。


 また私が知る歴史では、この頃にはすでに核兵器は完成している。だが、その威力を図りかね、使用を渋っている間に日本は降伏。第二次世界大戦の終結となった。


 そして……私達が巻き込まれた第三次世界大戦。当時日本に悪意を持った国があり、その国が福岡県に放った核兵器が戦争のきっかけとなった。


 事実上の米国、自衛隊の報復戦争となった第三次世界大戦はたった数ヵ月で終戦することとなった。……それほど核兵器の威力はすさまじかったのだ。


 七割以上が焦土と化した日本に、ようやく世界は手を差し伸べ世界平和条約が締結……世界中の国からすべての紛争はなくなった……それまでに多くの犠牲は必要だったが、ようやくすべての人類が手を差し伸べる世界が生まれた。


 だが…………今いるこの世界線では、イラクを初めまだ紛争は起きていて、それでも核兵器も使われていない。だが世界の総人口は比べるまでもなく、今の世界線の方が多い。


「どう思う? 早紀ちん」


「……明らかに誰かが戦力バランスを操作しているわね」


「だよな……」


 普通、どこかの国が原子力爆弾を作った。もしくは作れなかったという歴史改変をすれば、それだけで勝敗すら揺らぐほどのことになりそうだ。


 だが……実際にはあろうがなかろうが、おおよその勝敗の結果は同じだった。被害だけが大きくなり人口が減り、国がいくつかほろんだだけ……。


 ただ少なくとも、こんな風に世界を操れるのは私の知る限り一人しかいない。


「ゼクス……オリジン」


「まぁ、世界改変については奴って事だろーな」


 つまり、彼が裏で糸を引いて結果を操った。


 人をうまく操り第一次世界大戦時に原子力爆弾を作り実戦投入させた。そう考えると……。


「早紀ちんはどう思う? ……本来はアタシ達が知る歴史と、今アタシ達がいる歴史。どっちがゼクスが介入する前の世界線だと思う」


 私は少し悩んだ上で答えた。


「……私達が知ってる歴史の方が、この世界線に手を加えた歴史である可能性が高いわ」


「へぇ……そりゃまたなんで?」


「ほとんど勘よ。ただ……普通に考えて戦火は縮めるより広げる方が容易い。さらには、ゼクスがこの世界を破壊しようとしていたなら、その前に世界大戦の火を大きくする事を考えるんじゃないかしら?」


 仮に、私の知る歴史を世界線A、第三次世界大戦の起きないこの世界線を世界線Bと仮定する。


 もし元々の世界線がAのほうだったら、ゼクスは第三次世界大戦を止めたことになる。武器の発展も送らせて……まさにゼクスは世界の英雄ってわけだ。


 ……彼にそこまでする理由があるか? いいや、あの男にそんなメリットはない。


 人類を絶滅させようとしてたほどの恨みを持つ男なら、わざわざ世界を滅ぼしかねない第三次世界大戦を止める理由なんてない。


 だったら何らかの理由があって、世界線B……つまり今私達がいる世界線に移ったと考えたほうが自然だ。理由はわからない。


 ……第三次世界大戦が必要なくなった? それとも元々別の目的があった? それとも事故?


 なんにせよ、こっちが矛盾(パラドックス・)世界(ワールド)から元の世界線に戻ろうとしていると考えたほうがいい。


「なるほどな……やっぱ早紀ちんはすげぇよ」


「な、なんでよ」


 佳奈美はまるで自慢したそうな顔で答えた。


「普通難しいぜ? 自分の知ってる記憶を客観的に見て、自分の記憶が間違ってるなんて認める事」


「まぁ信じられる事ではないけどね……ただ、本来戦火がもっと小さかったと考える方が自然なだけ」


「いやいや。普通自分の記憶を信じるって! ……早紀ちんは謙遜しすぎだって」


 私はそうでもないのになーっと、頬を軽くかいた。


『早紀……これ見て』


 脳内でスピカが指差したような気がするが、具体的にどれの事を言ってるのかわからない。


『ごめんスピカ。交代するからどれか教えて』


『ああ、そうか』


 私達は交代してスピカの人格が表に出る。


「これ……」


 それは、フランス民謡の本だった。


 急に復活したフランスと言う国から気になって手に取った本。大した証拠もないだろうなーと思ってたが……。


「え……」


 きらきら星の本当の歌詞について……。




 私がそのきらきら星という歌を知ったのは、世界線が移る直前だ。


 私の結婚式で、記憶を失ったお母さんが歌ったという歌……。やっぱり本当に現実世界にあったんだ。


 私はその曲について詳しく調べてみた。




 日本では英語歌詞のティンクル・ティンクル・リットル・スターという替え歌から派生した“きらきら星”が流行したが、実際には18世紀にフランスで流行ったシャンソン。“アー ヴゥ・ディレ・ジュ ママン”(直訳で“ああ、話したいのママ”)が原曲である。


 この曲は、少女の甘い恋を母親に話したがる思いを歌ったもので、日本人が知っているきらきら星とは、かなりニュアンスが違うものとなっている。


 私はフランスと日本、さらには子供を題材にしたフランスの別バージョンの歌詞も調べてみた。確かに日本のきらきら星とはかなり違うものだった。


 ……だけど今の状態じゃあ過去改変との繋がりを見出す事は出来なさそうね……日本に伝わらなかった理由も第一次世界大戦時にフランスが消滅した事がきっかけでしょうし。


 だけど……それだけじゃない気がする。


 何かこの歌は全ての事件の根幹を握ってるような……そんな予感がする。


「早紀ちん……こうなったらやっぱあの場所を調べるしかなさそうだね」


「次の場所? ……まさか佳奈美そこって––––––」




 やっぱり結城道場か……。やっぱここにこないと何もわからないわね。


 私が道場のビルの扉を開けようとしたその瞬間––––––。


「早紀ちん危ないっ!!!」


「えっ––––––きゃっ!!!」


 気がついた時には私の体にはワイヤーが絡まり引っ張りあげられた。そして私の左肩を木刀の剣先がかする。


「っ!!」


 私は小さなうめき声をあげながら、立ち上がり、その剣の主を見た。


「桜乃ちゃん……?」


 間違いない。桜乃ちゃんだ。……だけど、様子がおかしい。


 目は絶望を写し、ただ無表情の人形のように襲いかかる。


「うわっ!!」


 まずい……桜乃ちゃんは躊躇なく私の頭に木刀を振り下ろした。なんとか避けきれたけど……今の私は武器がない。矛盾(パラドックス・)世界(ワールド)では魔法も使えない。


「へっ! 桜乃ちん、調子のりすぎだよ……アタシに勝てると思ってんのか!? 1A(ファースト・アサルト)糸の(ライン・)迷宮(ラビリンス)!!」


 佳奈美の技で辺りは糸で覆われた結界となる。……そうか。元々現実世界にはゲートを通って移動してたから佳奈美は魔法が使えるのか。


「佳奈美!!」


「大丈夫だって。早紀ちんの義妹だろ? ……ぜってー傷つけねーって」


 私は佳奈美の事も心配したのだが……頼もしいその言葉に私はただうなづいた。


「一気に決めるぜ!! 4A(フォース•アサルト)狂気の(マッド・)曲芸師(アクロバット)!!!」


 二つの糸のついてないヨーヨーが桜乃ちゃんを襲う。360度動き回り、無軌道に桜乃ちゃんを襲う。


「むだ……」


 その全てを……彼女はいとも簡単にはじきかえす。


「なにっ!?」


 気がついた時には佳奈美の首筋を断ち切るように木刀の剣尖が振り下ろされていた。なんとか回避した佳奈美だったが首の肉が抉れて鮮血を撒き散らす。


「ぐあっ……はぁ……」


 苦しそうに呻く佳奈美に、私はなんとかしようと創造(クリエイション)を試す。


 だが……なにも起こらない……。


「佳奈美逃げてぇーー!!!」


「ち……くしょぉ……」


『早紀っ変わるわよっ!!』


 私の人格を押しのけてスピカが前に出る。


「ファイアレイっ!!!」


 スピカの手の平から琥珀色の光線が放たれた。その光は桜乃ちゃんの木刀を燃やして弾き飛ばす。


 桜乃ちゃんが獣のように低く飛ぶと、剣を地面に落ちる前に掴んで、火を振り払った。


「……やっぱり私なら魔法が使えるようね」


『なんでスピカは魔法が使えるの?』


「魔法が使えないのは世界(ゲーム)の自動処理を使ってるかどうかよ。私は単純な魔法なら自動処理を使わなくても魔法が発動できる」


 そうか……現実世界は魔法がないわけではなく、世界が違うから魔法の基礎理論自体が違うんだ。スピカは魔法の理論を独自で研究していた。だからこの世界でも魔法を使うことができる。


「フレイアは元々ゲートを通って来てるから自動処理が有効化されて魔法を使える。まぁ、そんなとこね」


「そういう事みてーだな。わりぃ……助かった……」


 佳奈美も起き上がり、なんとか二人体制が出来上がる。


「気を付けろスピカ……こいつスサノオ並みに強いっ!!!」


「ええ。……一体どういうことなの?」


 私の記憶が正しければ、桜乃ちゃんは女子剣道家の中では強いといったレベルで少なくとも健司さんやタクミよりも弱かったはず。


 それが……全盛期のスサノオと比べられている。


「しかも奴の木刀はあらゆる魔術を打ち消しやがる……」


「……だけど……温度変化は反応した」


「え?」


 そうだ……あれは打ち消す前の空気中の温度変化に反応して木が燃えた…………。つまり、魔法は直接的には通じないが、間接的に干渉するなら可能なんだ。


「だけど……あの木刀、まだ何かある」


『え……ど、どういうこと?』


 私も気づいていないことが、あの木刀にあるって事?


「普通木材はあんなに簡単に燃えないわ。特に、木刀のようにコーティングされたものなら特に……つまり、あの神木の刀は殺人に用途をもちいれば別の強さを発揮するのかもしれない」


 そういえば……前の世界線では桜乃ちゃんはこれまで一度も人を殺そうとはしてこなかった。


 しかし、殺そうとするかしないかでそこまで力が引き出されるものなのだろうか?


 そう考えてると、一つの事実を思い出した。




 ––––––タクミは一度……桜乃ちゃんに殺されかけている?





 もしかして……その時の事象を操作してタクミを殺した? だとしたら桜乃ちゃんは……。




「…………ファイアレイ」


 ––––––今の言葉はスピカではない。桜乃ちゃんの口から発せられた。


「なっ!?」


 木刀の切っ先からスピカと同じ琥珀色の光線が放たれる。しかも、一つではない。複数に拡散して二人に襲い掛かった。


(ファースト・)(アサルト)っ!! 幻想の(ピクチャー)(シールド)っ!!!」


 佳奈美が操るヨーヨーの糸が二人を守る十メートル以上の大きさの盾を空中で描き出す。その盾にうっすらと半透明の盾が見えてくる。その盾は桜乃ちゃんの光線を防いでいく。盾で反射されたり、命中しなかった光線が次々と地面をえぐり、さながら最終戦争の様相を作り出す。


「……邪魔」


 その盾を、鋼の刃の一閃が切り裂く。


「なっ…………!?」


「か……刀っ!?」


 木刀と思われた鞘から、鋼の刃があらわになる。その刃は佳奈美のヨーヨーのワイヤーをすべて切り裂く。


「あれは木刀じゃない……その力を受け継いだ刀だっ!!」


 魔法などの異能を切り裂く神木の刀という木刀……その力を受け継ぎ殺傷能力のある鋼の刀。


神ノ巍剣(カミノギノツルギ)……」




 そうだ……なぜ気が付かなかったんだろう? タクミの脳天を叩けた時点で予想にたやすかったはずなのに…………。




 桜乃ちゃんはおそらく本来、タクミ並みに強いんだ––––––。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ