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第百三話「消えた足跡」

 タクミ…………。


 どこ…………?








「ん……」


 ––––––ゆっくり目覚めてく。


 まるで夢を見ていたようで夢じゃない。––––––そんなあやふやな感覚。


 私は、いつものようにスマホのアラームを切って目覚める。


 ––––––スマホ?


「え…………」


 あるわけがない。


 今、スマホはデュランダルくんってタクミの弟子が持ってるはずだもん。


 スマホのロックを外すと、数年前に見慣れた画面が出てくる。だけどいくつかのアプリは見たことがないものだった。


 そんなことより、もっと大事な事が記されてる。


 2029年8月3日––––––。


 私が死んだのは2027年……今は二年後だ。


 だったら……ここはどこだ?


 いくつか見たことないものがあるが、ここは…………。


「私の……部屋?」


 間違いない。


 私の部屋だ。生前の私の部屋。服も生前、お気に入りだったピンクのパジャマだった。


「生き返ったって事は……ここは以前と同じ矛盾(パラドックス・)世界(ワールド)……だとしたら、私はいま白血病に……」


 だが––––––。


「––––––ない」


 いつもカバンに入れてた白血病の薬はない。


「早紀ちゃーーん?! 夏休みだからっていつまで寝てるのーー?! おきなさぁーーい!」


 ––––––その言葉に息を飲んだ。


 その声は……もう聞く事が出来ないと思ってた声だったから。


 私は恐る恐る自室を出て、階段を下りてキッチンに向かう。


「早紀ちゃんやっと起きた。あなたは本当に寝坊助ね」


「お母さん……」


 間違いない。


 私の母、星井夏帆––––––。しかも、ちゃんと大人の姿だ。


 でもどういう事?


 以前矛盾(パラドックス・)世界(ワールド)が起きた時は……お母さんは精神を病んでいて会話すらままならなかった。


 しかし––––––。今のお母さんはとても精神を病んでるとは思えない。老婆のようだったあの姿とは違い、肌艶もしっかりしてる。


 そして、私はそのお母さんの様子よりさらに耳を疑う言葉をテレビが流していたニュース番組から聞いた。


『地方のお祭りニュース!! 今週は福岡県博多から!! 「博多とんたく」を紹介しちゃいますよーー!!』


「ええっ!?」


 私は思わず声を上げ食い入るようにテレビを見た。


 福岡県福岡市博多区……お婆ちゃんの家があった場所じゃない……第三次世界大戦の時に核の被害にあった場所……。


「あら、もうそんな時期? お母さんハリキリすぎて腰壊してなければいいけど」


 お母さんはそんなニュースを苦笑気味で見ていた。だけど……お母さんのお母さん––––––つまり母方のお婆ちゃんはすでに核戦争で亡くなってる。


「な、何言ってるの!? 博多は核戦争が起きた土地でもう消滅したはずじゃ…………」


 すると、お母さんは耐えきれない様子で吹き出した。


「あはははははっ! ちょっと早紀ちゃん。冗談はよしなさいよ。去年もお婆ちゃん家には行ったじゃない。まぁおじいちゃんは数年前に亡くなったけど」


「え……?」


「まったくゲームのしすぎよ。……今のご時世で核戦争なんてどこが起こすのかね」


 ……違う。おじいちゃんもお婆ちゃん核戦争……私が幼稚園の頃には死んでる。そして、お父さんは東京で店を開くことになったんだ。


 もともと私達の店は博多に開くはずだったんだから、間違いない。


「……お母さん。なんでお父さんのお店ってこっちに開くことになったんだっけ?」


 私の問いにお母さんは素直に答えた。


「本当は、とんこつラーメン屋の修業として私の実家に来たのは知ってるわよね?」


 私はコクリとうなづく。


「そのあと父さん……つまり東京の実家のお父さんが急病で倒れて、それで介護とお店を守るためにこのお店に来たのよ……すぐに死んじゃったけどね」


 ––––––やっぱりおかしい。


 このお店に来たのはお父さんのお店が戦争でなくなったから。でも確かにこっちの実家に身を移した後に父方のおじいちゃん、おばあちゃんは亡くなってる。


 つまり……この世界から戦争という事実がすっぽり抜けてしまっている。


「そうだ! タクミ!!」


 タクミは、この現象が起きる直前に第三次世界大戦なんてなかったって言った。だったらタクミなら––––––。


「––––––ない」


 タクミの番号はない。


「ちょっと……早紀。大丈夫?」


「ねぇ……タクミっ!! えっと……結城拓海と私は知り合ってないの!?」


 私は青ざめた顔で聞いた。


「ちょっと……なんで貴方が結城さんの所の息子さんの事知ってるのよ」


 ––––––やっぱタクミは、この世界にいるんだっ!!


「私、タクミに会ってくる!!」


 タクミなら何か知ってる!! タクミなら––––––。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!! もういないわよ!!」


「へ––––––?」


「結城拓海君なら、五年前に亡くなってるわよ……ちょっとした事故でね」





 ––––––その瞬間……私の視界が真っ暗に閉ざされた。





「……ん」


 目覚めると、私は病院のベットの中だった。


「いたっ……」


 どうやら気絶した時に頭を打ったようだ。頭には過保護に包帯がまかれてある。


『少し皮膚を切ってるだけよ。すぐ退院できるわ』


 脳内から響き渡る声には聞き覚えがあった。


「っ……スピカがいるって事は、やっぱりここは矛盾(パラドックス・)世界(ワールド)って事ね」


 私が死ななきゃ、そもそも彼女は生まれていない。意識の中でスピカもうなづく。


『無銘も……いる』


無銘ちゃんもちゃんといる……とりあえず良かった。けど…………。


「どういうことかな……なぜ戦争がなくなって、そのかわりタクミが死んでるの?」


 わからない事だらけだ……おそらく今回も時間干渉した人物がいるけど、まず誰がこんなこと起こしたのかとか……それ以前になぜタクミが死ぬのと第三次世界大戦が起きなくなるのかがわからない……。


 だいたい、なぜ私は死んでいない? 私は事故がなくても白血病での死が確定してるんじゃなかったの?


『……貴方が気を失ってる間に、ちょっと情報収集させてもらったわ』


「へ? ど、どうやって?」


『人格交代して、こっそりテレビつけて……』


 す、スピカそんなことできたんだ……。ってか私が意識失ってた間にこの子は…………。


「まぁ、少なくとも今私が得た情報で言えるのは、貴方の記憶では第一次世界大戦で滅びたフランスは普通に存在している。第三次世界大戦は起きてないってところね」


 フランス消滅の回避……それに第三次世界大戦の歴史の消失……。


『タクミくんが死ぬ理由についてはわからないけど、少なくとも貴方が死ななくなった理由はわかるわ』


「え……?」


『貴方、博多区で一度核爆発に巻き込まれてるわよね?』


 私はうなづく。ただ私が被害にあったのはかなり遠い地域での爆発。一時期呼吸器官が損傷したもののすぐに治り、その後も大した障害は––––––。


「あ…………」


 いや……今にして思えば重なってる……私の白血病が発症した時期と……。


『貴方は白血病は核被害とは無関係と説明されていた……。だけど、実際は違った……因果関係が証明されてなかっただけ。そう考えれば、現状に納得できるわ』


「つ……つまり、そもそも第三次世界大戦が起きなければ私は死ななかったって事……?」


『いや、そうとも言い切れないわ……死因なんて事故死で事足りる……それに、そのほうがゼクスにとって都合のいい話のはずだから……』


 そうだ……ティエアを生み出すならお母さんが創造神になればいい。だったらその原因となる私の死因はなんでもいいはずだ。それこそトラック事故でも問題はない。そもそも、それはゼクスにとってティエアが存在しているほうがいいのであればの話だけど。


『早紀。わかってる? ……今貴方はとてもまずい状況よ』


「……死因がなんでもいいのなら……ゼクスは間違いなく殺人を選ぶって事でしょ?」


 スピカは静かにうなづく。


 そう……わざわざ戦争の後遺症による病死なんてめんどくさい死因を選ぶ必要なんてない。殺せばお母さんは悲しみで創造神へと覚醒する道へとすすむ。その因果関係さえ繋げればいいんだ。


「……そしてもう一つ……今早紀ちんの脳内には魂が三つ存在してる」


 私は突如現れたその声の方へ向いた。……佳奈美だった。病室の入り口にもたれかかって腕を組んでいた。……服も私服だ。


「……つまり、今死ねば早紀ちんの魂は消滅し、二度と蘇らない。転生もできない。……これがないとね」


 佳奈美が手に持った二つの石を見せてくる。


「あっ!!」


 これは……お母さん(厳密に言えば創造神になった後の母だけど)が用意してくれた魂の封印石。


 魂の封印石は二つある。青と赤……どちらも、宝石のように透けていて、淡く輝いている。


 いつもスピカは青、無銘ちゃんは赤を使用している。この中に魂を封印するというわけだ。


「……タクミに頼まれてたんだ。今の事態……つまり過去改変が起きた場合、魂の封印石をすぐに保護して、早紀ちんに渡してくれって」


 タクミが……過去改変を予知していた?


 ともかく、佳奈美が差し出している石のうち無作為に赤いほうを手にすると……。


「きゃっ!!」


 指に静電気のような鋭い痛みが走る。私が痛みで手を抑えると佳奈美は心配そうに「大丈夫か?」と佳奈美が聞いてくる。


「大丈夫……あれ?」


 若干、赤いほうの石の輝きが少なくなったような気が……。


 恐る恐るもう一度手にしてみると、今度は痛みは来ない。……だが。


「こ……壊れてる」


「えっ?」




「……駄目ね。一つは完全に壊れてる。使い物にならないわ」


 スピカが原因を探ってくれたが、理由はわからなかった。結局スピカのいつも使ってる青の封印石は無事だったのだが、どうしてこんなことが起きたのかわからない。


 そもそも静電気なんかで壊れる代物じゃない。雷が落ちても傷一つつかない代物だ。こんなにあっさりと壊れるわけがない。


「とりあえず早紀。この石は肌身離さず持ってなさい。もちろん青の封印石もね」


 スピカはベットの横のテーブルに封印石を二つとも置いた。


「どっちにしても、タクミが封印石をわざわざ早紀ちんに送り付けることだけを望むのはおかしいんだよな……」


 たしかに。自身の死を予見していたのは大事なことを佳奈美に頼んでいるあたり間違いないだろうけど、だったらなぜ封印石を私に?


 私の死が回避されることをよんでいたってこと? ……だったら、あの時…………。




『時間がないんだっ!!! 奴はおそらく状況を楽しんでる!! 今の状況は俺を踊らせるためのただの芝居だ!!!』




 あれは、タクミの演技だったって事?


 いや、結論を出すのは早い……ただ単にタクミが過去で殺される可能性を危惧しただけに過ぎないかもしれない。


 どうする…………。少なくとも神との心理戦はすでに始まってる。


 長きにわたる最初の神と私達の頭脳戦。騙しあいはとっくの昔に始まってる……。それは宇宙の歴史より長いのかもしれない…………。


「––––––えっ!?」


 私は、視界の端に移ったその人の人影を、ベットから跳ね起きて追う。


「お、おいっ!!なんだよ……」


 押しのけてしまった佳奈美のことも気にする余裕がなく、私はその影を追う。だが、廊下にはすでにその人の姿はない––––––。そこにいたのは花瓶を持って目をきょとんとさせているお母さんだけだった。


『––––––理解不能』


 無銘ちゃんの呟き、急に人格変更した私を怒ることすら忘れたスピカの戸惑いを感じながら…………私は見えなくなったその人影の名前を言葉に漏らした。





「タクミ––––––?」

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