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第七話「クソゲー主人公はアニメの見過ぎでおかしくなる」

「うぅ……どうしよ……帰れないにゃぁ……」


 右も左も上も下もわからない。少女は途方に暮れ座り込む。


 抱えているのは少女の体躯にしては、あまりにも大きすぎる刀が一振り。


「じいじ……どこぉ?……フォル……おうち帰りたいにゃ」


 そのじいじに渡すはずの刀がいつも持つより重く感じる。


「うぇ……どこぉ? ……フォル……ここだよぉ? ……うぇええん」


 ついには泣き出す。いくらベソをかいたところで、助けなどこない。いや、事態はさらに深刻になるだけだ。


「ひっ」


 葉擦れのかすかな音におびえる。わずかな音だったが、本能なのかそれが危険なものなのはよくわかる。


「怖いにゃ……助けてにゃぁ………ぐすっ」


 茂みから、鋭く鈍い眼が睨みつける。月明りに牙が光り、今宵の食事によだれがだらしなく垂れる。この世界の魔獣とはいえ、この程度の子供を捕食することくらいわけない。


 地を駆け、少女に飛び掛かる!


「メギストスゥ!!! カタストロフィーーーーーーーーッ!!!!!!」


 その獣が、謎の必殺技名と共に現れた俺の拳で顎の骨を砕きながら、彼方へと吹っ飛ばされる。


「にゃにゃ!?」


 その者は、謎のオーラを放ちながら(イメージ)語り出す。


「ふっ! 説明しよう!! 究極なる(メギストス)深紅の破滅者(カタストロフィ)とは、獄炎の破壊者(カタストロフィ)のさらに上を行く究極奥義ぃ!!! 破壊と愛と正義の力を込めた必殺技なのであーる!!!」


 決まった……と拳を天に突き立て俺は高らかに宣言する。


「今宵も、正義(ジャスティス)が勝った……決まったぜ」


 これでも、かっこいいと思っているのだ。……ジャスティスブレイカー…………。


 ……あたりを見渡してみる。うん、誰もいない。


 子供の頃よく見てたな~ジャスティス(この)ブレイカー(アニメ)。……今聴くとダサい必殺技名も、当時はすっごくかっこよく聞こえたんだよな~。不思議なものだ。


 クレンシエントに行くにはどうしても、この森で一晩を過ごす必要があり、運動がてら魔獣を倒していたのだ。今の必殺技は………なんかこう……飽きてきたので……その……暇つぶし?的なものを……。うん、思い出すと恥ずかしくなってくるのでやめておこう。


 にしても、パンチ一発であそこまで吹っ飛ぶかねぇ……さすがにスライムや蚊サイズのドラゴンよりは強いけど、子犬程度の力しかないんじゃないか?


「もしかして、俺もうアニメのパンチ超えちゃった?もしかして、七つの玉を集めに行けるくらいは強くなったんじゃね?」


 やばいくらいに調子に乗り始めた。だってしょうがないじゃないか。過去が美化されてるんだってのはわかってるんだけどさ、やっぱ「かこいいにゃ!!!」


「!?」


 なんか俺の心の声に合わせるように小さな女の子の声がした。


「~~~~~っ!! すーぱぁーかこいいにゃっ!!!」


 あれ? ……まさか見られてた? 今気づいたが、小さな猫耳少女がそこにいた。さっき見渡した時はいなかったぞ? いや、今も見下ろしてようやく見えてる近さだから、この子が座り込んで死角に入ってたのかもしれない。


 ルビーのような瞳をランランと輝かせている。まさにスーパーマンを見て憧れる子供のようだ。


 やばい、顔が赤くなり始めた。


「タクミさ~ん。そろそろ帰りますよ~ってあら?」


 ペルが俺を探してやってきた……ま、まずい!


「見せて! もっかい見せてにゃ!」


 やめろ……その続きは言うな!!


「めぎすとすーかたすとろ」「やめろおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!」




「ごろごろ~……」


「えへへ~よしよし~」


 クレンシエントの森の枝を集めて作った焚き火がパチパチと音を奏でる。倒れた巨木に腰をかけて俺達は移動の疲れを癒していた。


 ペルはほっこりしながら、さっき見つけたちっちゃい猫獣人(ケットシー)の頭をなでる。


 それにしても……白の猫耳に、小さな牙。そしてくねくねと動いている尻尾。ブロンドのショートの髪と、若干ツリ目の愛らしい真紅の瞳。


 そして、何よりちっちゃい。幼稚園生でも背の低いほうって感じだ。


 ……決して俺はロリコンではないが、やっぱりかわいい。


「お母さんや、お父さんはいないの?」


「おとうさん? おかあさん?」


 あれ、言葉伝わってないのかな?質問を変えてみよう。


「いつも一緒にいる大人の人はいないかな?」


「じいじがいるの! でもはぐれちゃった……」


 じいじねぇ……お父さんやお母さんっではなく、おじいさんの事が出てくるってことは、もしかしたら、複雑な家庭の子なのかもしれない。


「とりあえず、猫獣人の里につれていくしかないだろうな」


「そうですね……。ねぇ、お名前はなんていうの?」


「フォル! フォル=ジュロンっていうの!」


「そう~フォルちゃんっていうんだ~よしよし~」


 さらに頭のなでなでが加速する。まんざらでもないフォルだが、痛くないのかというくらいかき回されている。


「お嬢ちゃん。ジュロンっていうのか?」


 さっきまで話に入ってなかった俺達と同行していた貿易商の人が聞き返す。


「うん! フォルはジュロンだよ!」


 そうやって一生懸命に名乗るフォルが愛らしくて、ペルがさらにさらに激しく撫でまわす。……ちょっと過激すぎて、フォルの頭も一緒にぐるぐると回っている。


「そうか……ジュロンと言えばたしか、里の長のお孫さんだ。剣聖 コジロウ=サナダ。連合軍最強の男だ」




「フォルやああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


「じいじぃーーーーーーーーー!!!!!」


 ひしっと抱き合う孫とおじいちゃん。


 里にフォルを連れ帰ったら、慌てた様子であたりを探しまくるご老人がいたので、声をかけてみたら大当たりだった。


 じいじ……いやコジロウと言う猫獣人(ケットシー)は俺と同じくらいの身長だが、腰の曲がった猫耳も尻尾も髪も白に染まった、シワの入った肌のまさにおじいちゃんだった。少なくとも、貿易商の人が言ったような最強の男には見えない。


「わしのかわいいフォルやぁ……もう会えないかと思ったぞ? じいちゃん心配したんだぞぉ……」


「ごめん……じいじ……だいすきっ」


「おお……おおおおおおおおフォルやぁーーーーーーーーー!!!!」


 一生抱きしめあってそうな勢いだ。そろそろ話を切り出さないと。


「……あのー」


「なんじゃあ!! 今孫ラブ中なんじゃあ!! 見てわからんくぁ! アホンダラ!!!」


 理不尽な……と思ってたら抱きしめあってたフォルが少しコジロウさんを推し離す。


「じいじ! タクミ怒っちゃダメ!!!」


「ふぉ……フォル!?」


「タクミ、フォルの大切な人。一番ラブな人。だからメっ!!!」


 ……ん?ラブ?


「フォル!? な、なんじゃ!? どういう事じゃ!?」


「えっと……タクミ、殴って……た……たすた?」


 まだ言葉が拙い。覚えたての言葉を必死に組み合わせているようだ。


「タクミ、殴ってフォルはラブ! だからいじめはメッ!!」


 あ……あー火山が噴火しかけているのがわかるなー。


「どういうことか……聞かせてもらおうか……タクミとやら」


「は……はい……」


 ペルはと言うと、俺の後ろに隠れてビクビク震えていた。




「ははは! すまんなタクミ殿!!」


「……いえ、お気になさらず」


 拷問されているような気分だった。コジロウじいさんの眼光は、まさに刃のように俺の喉元に突き付けられ、少しでも不要な一言があれば、動体と首が切り離されていたところだ。


 この人、人の話を聞いているのに居合の要領で常に刀に手を置いているし……本気で殺されるかと思った。


 だが、この人が腰にぶら下げているのは……紛れもなく日本刀だ。


「フォルは幼い頃に両親を亡くしてな……。わしが預かったんじゃが、わしも息子の育児を妻に任せっきりだったせいで、どうにも要領がわからなくてな。何とか言葉は教えているんじゃが、まだまだでな」


 きっとフォルが俺のことをラブなんて言ったのは、じいさんがフォルに「フォルにらぶらぶじゃぁー」なんて撫でまわしたから、勘違いしたんだろうなと想像できる。


「してお客人、里に何用かな?」


「じいさんの腰に下げている刀と同等のものがほしい」


 その刀を指さして見せる。


「ほう……となると、アーノルド討伐を即決で受け入れた冒険者とはお主の事か」


 鼓動の音がドクンとなった。


「知ってるのか!?」


「ほっほっほ。わしを誰だと思っとる。ティエラ連合軍 剣聖のコジロウじゃぞ」


 そうか、軍のお偉いさんだったな。このじいさんは。


「じゃがまだお主の力も、心の内もわからん。……どれ、わしが試してやろう」


「試す?」


「ああ……どうもお主も……それを望んでいるようだしのぉ」


 俺は、無自覚にも笑っていたようだ。


 その様子を、少し心配な様子でペルは見ていた。

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