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サブストーリー「悲劇」~早紀視点~

「ありがとな……早紀ちん」


「もー、そんなに気にしないでいいんだよ?」


 露天風呂のお湯のきらめきを見つめながら、ため息をついた。


「……スピカにも伝えてくれ。勘違いしててごめんってな」


「いいわよ別に」


「は? ……す、スピカに変わったのか!?」


 !? ……またこの子たちは…………。私は脳内でため息をついた。


『あのねぇスピカ……人格変更するときはきちんと言ってからにしてって前もいったよね!?』


『ごめんごめん。でもレイスにきちんと話をしたくて』


 レイス=シュレッケン……佳奈美の本名か。フレイアって名前もそうだけど、いまだに違和感あるんだよなぁ……私からしてみたら佳奈美は佳奈美だし。


「……スサノオも言ってたと思うけど、私にも責任はある。どんな理由があるにせよ、置き手紙をしたのは私だし……」


「無理しなくていいぜ。……その記憶はないんだろ?」


 え……ああ、そうか。スピカは一度幼児化して記憶を失ってるんだったっけ?


「そうだけど……それも私であることは間違いない……だから、今度は信じてほしい」


「スピカ……ああ、わかった。けどなっ! アタシだってカインを追いかけてタクミくんのことずっと見てたんだ! だからよ……おめえよりタクミくんのこと好きなんだからなっ!!」


 は、はぁ!? いきなり何言ってるの佳奈美?!


「早紀ちんには負けちまうかもしれねーけどよ……あいつの事ストーカー並みに追いかけてたんだ……も、文句あっかよ」


「す……ストーカー並み?! あ、あなた一体何してたのよ……」


「しゃーねーだろ!? 裏口(バックドア)教えてもらってから、ずっとカインに会いたくて調べがついたまではよかったけど、こ……声かけれなくて、気がついたら見守るなんて大義名分で覗きみたいな事してしまって……」


 うわ佳奈美……もうガチのストーカーじゃん。


「あなた……それ完全な犯罪よ?」


「アタシだってさすがにまずいなって思ってやめたさ!! ……三ヶ月くらいストーカーしてからだけど」


「……あとでタクミくんに謝っときなさいよ?」


「うぅ……わ、わかったよ」


 そ……それにしてもあの佳奈美がストーカーを……全然気付かなかった。そういうタイプの子とは思わなかったし。


「……で、結局何か得たものはあったの」


「ふふん。早紀ちんも知らないアイツの秘密。いっぱい知ってるぜぃ!」


『スピカ! どんな事を知ってるか聞いて!!』


 私は、自分でも呆れるくらいに食い気味に聞いた。


「えぇ!? えっと、例えばどんな秘密知ってるのよ」


「例えばなぁ。あいつ家に仮面ドライバーのベルト全部コンプリートしててな。自室に大切にしまってんだよ」


 あ……あの拓海が……仮面ドライバーマニア!? か…………かわいいっ!!!


「ほ、ほかにはっ!! ほかには何かないの!?」


「うわっ!? すぴ……いや、その目は早紀ちんか?」


「ねぇ教えて!! 拓海の秘密っ!!!」


 私は興奮してスピカの人格を押しのけて鼻息荒く拓海の秘密を教えてもらおうとする。


『……人格交代するときは一言話せって、さっきあなた言わなかったっけ?』


『るっさい。さっきスピカもやったんだからお返しっ』




「きゃーーー!! 何それーーー!! 可愛すぎるっ!!!」


「だろー?」


 家の中にある(おもちゃの)武器庫に、変身ポーズの研究を異世界に来てからもやってる。必殺技の研究ノートが大量に入ってる本棚が隠されていて、さらに”秘伝書”という自分が作った最強の技集が…………。


 そこまで行くともう、子供みたいで可愛すぎるっ!! 中二病ってのは知ってたけどそんな一面が…………。


「それに……やっぱ剣道も頑張ってたんだ」


 ……剣道の大会も出る大会すべて優勝。努力はたいしてしてない。才能とか言ってたけど……実際にはめちゃくちゃ練習してた。筋トレも毎日すごい量。


 桜乃ちゃんも余計な筋肉がつかないように料理のバランスを整えてたし…………部活の人たちもなんだかんだで信用してた。


 女子部員に「拓海に特訓を任せるとキツすぎる」って言われた時も、ベットの上でずっと悩んでたみたいだし…………なんだかんだで優しいのよね。


「「はぁ……やっぱいいよねぇ~~…………」」


『恋って、人を盲目にさせるのね…………』


 るっさいスピカ。可愛いからいいの。


「あ、スピカにゃーーー!!!」


 そんな話をしていると、フォルちゃんやペルちゃん、テュールさんが入ってきた。


「フォルちゃん。今は早紀さんですよ」


「というか、お風呂場は走らないでっ! 転びますわよ」


 フォルちゃんが飛び込む……かと思ったら、お風呂の前でちゃんと止まった。


「お風呂ゆっくり入っておりこーにゃ」


 か…………可愛すぎるっ!!


「はーいおりこうにゃーーー」


 私が頭を撫でながら褒めると、仁王立ちでテュールさんが叱る。


「いーやっ! 走ったからまだおりこうじゃないですわ。きちんと歩いて入りなさいっ!」


「フォル…………おりこうじゃないにゃ?」


 温泉の中から申し訳なさそうに顔を出すフォルを見て、バツが悪そうにテュールさんが顔を引きつらせる。


「ま…………まぁ今日のところは、これでおりこうにしてあげますわ。でも! お風呂場で走るのはおりこうさんじゃありませんわ!!」


 テュールさん……最初に会ったときは性格きつそうな人だなって思ったけど、なんだかんだでいいところあるんだ。


 それにしても……。


「…………」


 二人の女神がその巨大な物を見せつけるかのごとくお湯に浮かべた。


「くっ…………」


『な……なんて大きさなの?!』


 心の中でスピカも驚いている。


 かく言う私も、その破滅的格差を見せつけられて気が気でない。


 そ、そうだ。確か、佳奈美も大きい方ではなかった。ここは佳奈美のを見て心を落ち着けて––––。


「––––なっ!?」


 佳奈美……私が最後に身体検査した時はBとか言ってたのにっ、軽くCはあるじゃない!!


「––––ん? どうした? 早紀ちん」


 この裏切り者ぉ……。


 私が恨めしそうにそれを睨み付けると、何か察したようにニヤつく。


「ははーん。残念だったな早紀ちん。フレイア様は元々Dカップなんだよ!」


「で……っ!?」


『ディー……だとっ!?』


「そうなんですよねー。フレイアさん体縮んでたから全然気づきませんでしたー」


「まぁ、女子中学生って設定で潜入してたしな。こんなもんだろ」


「ん? なんの話してるの?」


 後ろから声がして振り返ると、ディーがやってきて私の隣に座った。


 ……どう見たってでかい……。


「で……ディーは、胸はどのくらい?」


「うーん……これ言うとからかわれるから、あまり言いたくないんだけど……Dカップよ」


 で……ディー……つまり、元々の女神フレイアと同じサイズっ!!


 な、なんてこと……。


 ここにいるメンバーは全員がDカップ以上。私からしてみれば超大型巨(乳)人軍団っ!!


「つーか残りの女神二人っ! 乳の大きさデカすぎだろ!! さすがにお前らはバケモンだっ!!」


「ふ、フシダラですわっ!! 私だって、す、好きでこんなに育ったわけじゃ……」


 は? 今なんつったこの女?


「えっとー……肩こるし、私はちいさくてもよかったなーって」


 ペルちゃん……喧嘩売ってるの?


 自分の中でヒンヌー民族の怒りがふつふつと湧き上がっていく。それは心の中のスピカも一緒だ。


『早紀……スピカ……落ち着く』


 そんな私達の怒りを鎮めたのは無銘ちゃんだった。


『胸囲のステータスが少ない……でも、無銘達にはタクミがいる。勝ってる』


 無銘ちゃん……。


『そうよね……争いは次の争いしか生まない……わかってたはずなのにね』


 怨念で、ここにいる全員を殺しかねない勢いだったスピカはいきなり大人びた声で語る。


『私達ヒンヌー民族にはヒンヌー民族の価値がある……貧乳はステータスだ。希少価値だって、どこかの青髪の偉人が言ってたような気がするわ』


 私もまた、全力で睨みつけてた事を忘れて何かを赦す。


『そうよ……それに私達は三人……いや、もう一人仲間がいる』


 そう……フォルちゃん。彼女こそヒンヌー民族の希望……仲間になるはずのメシアよ……。


『さ……早紀……あ、あれは……』


『ん……?』




 ––––––その日、人類(ヒンヌー民族)は思い出した。


 ––––––胸部と腹部を分けるそのラインを……壁と呼ばれる屈辱を……。





『『下乳ラインっ!!!!』』




 そう……下乳ラインとは、弱者か強者かを決めるライン。イラストレーターによって哀れみの意味でたまに影らしきものは描かれる事があっても、我々に線を引かれる事はない……ヒンヌー民族のレッテル。弱者である事を示す刻印。


 小学生の頃……周りの女子達はそのラインが次々と生まれ、我々には何をしても与えられない……気がつけば、成長期は終わりに近づく。


 成長期が過ぎれば、完全なレッテルとなる呪い……屈辱の烙印。


 そのラインが……我々と巨(乳)人を隔てる壁が……フォルちゃんに見える。


『いや……まだよ早紀』


 そのラインをよく見ると、うっすら影にも見えてくる。


『今ならまだ彼女はヒンヌー族の一味……我々の仲間よ』


 だけど……もうそんなに猶予はない。


 なぜならフォルちゃんは、まだ第二次成長期まで時間がある。そう……ヒンヌー民族にとって最大の屈辱の第二次成長期がっ!!


 だが……だが…………っ!!


 彼女がもし、すでに私の胸囲を超えているのであれば……彼女は齢七歳で……ってか七歳の若造に、私は駆逐された事になるっ!!


 ……確かめなければならないっ! きっと、その向こうには希望があるって信じたいっ……! この温泉という海の向こうには敵なんていないって信じたいっ……!!


 私が立ち上がると、スピカがしがみついて止めた……ような気がする。


『やめなさい……(私の尊厳が)死ぬわよ』


『……わかってる。どうせもう私達に可能性がないって……成長期もう終わって後は縮むだけだって』


 私は諦めにも似た表情で彼女に微笑んだ。


『一緒に……(トラウマ)背負ってくれるよね……』


『早紀ちゃん……あなた(ふざけんじゃないわよ!! こっちは逝き急いでないの!!!)』


『大丈夫……まだ大丈夫だから……まだ超えられてないから……(ってかまだ私成長できるから!! 成長期遅いだけだから!!!)』


 スピカの制止を押しのけ、私は手を伸ばす––––。


『あ、やだ! まって!! せめて心の準備を!!』


「フォルちゃん!! 胸触らせて!!」


「いーにゃー」




 むに––––––。





「「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

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