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第九十三話「異世界女神はブラック社員」

「なぁ、ペル! シーファトが復興完了したんだってさ!」


「一緒に海行きましょう! 私海行きたいなー」


 俺と早紀はわざとらしさを隠しきれないままに、ペルを遊びに誘う。一方のペルは、猫獣人族の里の旅館に添えつけられた洗面所で顔を洗ってる。


「えー。でもいつゼクスさんの襲撃があるかもわからないんですよ? まだまだ遊べないですよ」


 タオルで顔を拭きながらペルは答えた。


「で、でも早紀はこうして元に戻って助かったわけだし、どっちにしても作戦もなければ自衛隊内に逃げ込んだゼクスを追う手立てもない」


「そ、それに私久々にペルちゃんと遊びたいなー。今度は健司くんも誘うし、きっと楽しいよ!? あ、そうだ! シーファトだけじゃなくてティエアでいろんなところに行ってみたいなー!」


 そんな呑気な俺達の提案だが、俺も早紀も妙な緊張感に包まれる。


「そうですねぇ……わかりました。遊びに行きましょう。あ、そうだ早紀さん」


 その言葉とほぼ同時に拭き終わったペルの顔があらわになる。


「今度”ゲンキデルンAtoZ”を十ケースもらえますか? 切らしてしまいまして……あと、カップラーメンも三ケースお願いします…………」


 色白……というより顔面蒼白な女神の顔に「う、うん。わかったから休んで……ってか休め」と思わずツッコミを入れる早紀だった。




 なぜこうなってるのか……それを解説するにはこれまで触れてこなかったペルの労働環境を解説しなければならない。


 六月十日~六月十五日……ペル、世界(ゲーム)の解析を開始。(なお、この頃はちゃんと寝てたらしい)


 六月十六日~六月十九日……裏口(バックドア)発見。同じものが開発できないかと解析、作成する。


 六月二十日~六月二十三日……現実世界へ移動。そこでペルは”ゲンキデルンAtoZ”という滋養強壮剤を見つけてしまう。その時より彼女は一睡もしなくなった。


 六月二十四日~六月二十九日……前世占いプログラムを作成したことによりスサノオの記憶のサルベージに成功。健司のままでスサノオの力を発揮する魔術を開発する。(健司が戦う前に言ってる”コード・スサノオ”というのはそれらしい)


 六月三十日~七月八日……健司の修行に付き合いながら世界(ゲーム)の解析へ。また、”コード・スサノオ”も不具合が多く、いわゆるデバック作業に追われていて、休み時間がなくなった彼女は、カップラーメンと奇跡的で不幸な出会いを果たしてしまう。


 七月九日~七月十二日……猫獣人族の里へ拠点を移動。その後も休む暇もなく解析と開発。文字通り(じいさん)の手も(テュール)の助けも借りて作業に没頭する。


 七月十三日~七月十四日……スピカのスマホと俺のスマホを復活させて、現実世界との連絡を密にできるようにできないか俺は依頼してしまった。それにより彼女の労働環境はとどめを刺すほどに激化した。




 そして……復活した早紀と入れ替わるように女神は過労で倒れた。


 さすがに途中から徹夜で働いてるペルに気づいて、テュールは何度も休むように言い続けたそうだが元々努力家で真面目で猪突猛進な自らブラック労働環境を生み出しちゃうOLタイプな彼女は聞く耳持たず。ゼクス撃退の祝いの席でも、彼女は酒を飲んでぶっ倒れたが……そうでなくてもいつ倒れてもおかしくなかったのだそうだ。


 というわけで、そんだけ痛い目を見てさすがに懲りるかと思ったが、気が付いたら仕事に戻っちゃうペルにテュールが見かねて俺達に相談してきたそうだ。


 早紀も病み上がりのようなもんで、あまり体調がよくないのだが……どう見積もってもペルよりはマシな状態だ。


 そんなわけで俺達は今復興したシーファトにいるわけだが…………。


「ぷかーー……」


「ぷかーー……ニャ」


 浮き輪でまったりしている無銘とフォルにほっこりしながら俺と健司は煌めく海を眺めていた。


「しっかし……無銘ちゃんが銀髪じゃないとどうにも調子狂うな」


 今の無銘は早紀と同じ栗色の髪だ。目は性格の変更で変色するが、髪は変わらないらしい。


 本来髪についてもそうなのだが、無銘の髪が脱色していたのは脳死に近い状態になったのが原因だったらしい。そこからペルの回復魔法などの影響により、早紀が復活し、髪も元に戻ったそうだ。


「まぁ、いいじゃないか。あれはあれで……」


「まぁな」


 多分健司も同じ事を思ってるのだろう……。


 可愛いは世界を救うと……。


「不潔ですわ」


 思いっきり上から睨まれて思わず飛び起きた。


「て、テュール!? それにペルも。着替え終わってたのか?」


「はい。テュール先輩の選んでくれた水着可愛くてしばらくうっとりしちゃいました」


 たしかにセンスがいい。緑を基調としながらも、アクセントになってる桃色の部分がたわわに実った胸をチューリップのように鮮やかに隠す。まさに花の妖精と言ったデザインだがどこか大人っぽさも残している点も見事だ。


 そのテュールが着る水着も黒を基調としていて赤い髪とマッチしている。自慢のボディラインを惜しげもなく披露しつつものすごくセクシーだ。一枚の布を巻きつけただけのようなデザインは黒と言う淫靡な魅力とは正反対の女神のような清楚さも兼ね備えていて、一撃で俺の隣の童貞をノックアウトする。


「……拓海。やっぱお前この世界は僕が守る。お前は現実世界に戻れ」


「は? いやいやお前何言って……」


「こんな楽園(エデン)!! お前だけが楽しむのはおかしい!! 羨ましすぎるぞこんチクショーーーー!! あだっ!?」


 どこからともなく貝殻が投げつけられた。


「……あなたは生まれ変わっても変態なの? ……そこになおれ!! 久々に勉強させてやるーーー!!!」


 あ……スピカに変わったのか。腕まくり(袖ないけど)のようなポーズをとって、健司に迫る。


「ま、待て待て待て!!! 一応僕はスサノオじゃなく健司で……ってかお前こそなんで生まれ変わってもペチャパイなんだよ」


 ……あー、今目の前の三重人格が全てブチギレた音が聞こえた。


「……健司くん? この世界に転生したいんでしょ? ……私達が連れてってあげるね?」


 早紀に変わり、拳をポキポキならしてる。


「健司……死亡フラグ大量発生……撲殺と窒息、毒殺も可……選択権を健司に譲渡……選んで?」


 無銘が恐ろしい選択肢を与える……ってか毒殺って、何する気だ!?


「健司さん? ……いいやスサノオ……もう懺悔はすんだわね」


 あ、やっぱ最後はスピカなのね。ってかやっぱ選択すらさせないのね。


「「「死ねーーーーー!!!」」」


 ……主人公また死亡か……こんだけゲームオーバー続けてたらそりゃバットエンドになるわな。


「死んでねーーー!! ってか助けてくれーーーー!!」


 ……うん、やっぱ健全第一だ。


「はぁ……健司さんはもう少し真面目だと思ってたんですが……」


 言われてみればそうだ。アイツはバカだが割と真面目だ。


「……もしかしたら、健司の中のスサノオの記憶がそうさせてるのかもしれないな」


「え……どう言うことですの?」


「もともとアイツは主人公だ。だから本来はその性格を引き継いでるはずが、教育方針の違いで違う人物へと成長を遂げた」


「なるほど……心の奥底にはスサノオがいるというわけですわね」


「本来は、それによって生まれ変わったスピカと結ばれるはずだった。だが、スピカは輪廻転生から外れて魂だけがさまよっていた。本来いるはずのヒロインがいなくなり、早紀が設定を受け継いだ」


 早紀は、もともとスピカのモデルとなった人物だ。そのせいで俺の呪いや、スサノオとの運命の糸が数奇な運命に誘った。


「だが、早紀と健司はすぐには結ばれなかった。おそらく魂は別人のため、運命として引き寄せあう力が弱かったんだろう」


「それが……スピカと融合した事により強まったんですのね」


 そう……矛盾(パラドックス・)世界(ワールド)の時、俺達が喧嘩して別れ話になったきっかけの一つはおそらくそれだ。


「……本来の早紀は、俺と出会う前に俺の道場に来る事になってた。つまりはそこで健司と会うはずだった」


「だけど、タクミさんの持つ呪いで二人は事故に会った……」


「ああ、だが運命という言葉が実際にあるこの世界なら、俺だけが死ぬ可能性だってあったはずだ」


 そして、俺の葬式に来る健司と早紀……と言う運命(ストーリー)が成り立つ。


 ……もしかしたら、スピカにはカインを思う気持ちもあったんじゃないか? その思いが早紀に受け継がれ新たな絆が結ばれ、あの事故の時に歪んだ形で惹かれあった……。


 ……いや、考えすぎか。第一それじゃあの日、事故が起きたのは俺と早紀のせいって事になっちまう。俺はそんなの嫌だし、今の考えも憶測に過ぎない。


 ……今は、早紀を含めた三人の女の子を全力で守る……もちろんフォルも含めてな。


 ……そんな事より……。


「アトゥム。お前は一体何してるんだ?」


「はあぁ……早紀ちゃんに姉妹……可愛すぎ……いや尊すぎるよ…………」


 あ、親バカモードでしたか……。


「ただでさえ可愛いの全てをつぎ込んだ天使の早紀ちゃんにお姉さんっぽいスピカちゃん。そしてまだわがままが抜けない無銘ちゃん……はあぁぁぁぁ」


 どうやらこのお母様は、自分で産んでもないのに“長女スピカ”“次女早紀”“三女無銘“と言う構図を生み出してるらしい……ってか時間の呪いで一度幼児化してるからアンタの長女、八十才以上年上だぞ。ってそうか、アトゥムも時間遡行で移動してるから実年齢もっと上になるのか……ややこしい。


 あ、でもアトゥムは今年齢が逆行してるから……ああもう!! やめた!!


 星井家の一族の年齢は考えちゃダメだ。時系列的にややこしすぎる。


「なーに難しい顔してんの?」


 と、早紀がコーラを手にやってきて、隣のビーチチェアに座る。そのコーラを俺に差し出してくるので、俺は素直に受け取った。


「お前んとこの家族の年齢ややこしいなと思ってさ……スピカや無銘のことも考えると」


「あー……確かにスピカはいつから数えたらいいかわかんないよねー」


 コーラで喉を潤すと、炭酸が口の中で弾ける。ため息をついて再び海岸を眺める。


「そんな事より、健司はどうなった?」


「埋めてきた」


 そんな意味不明な言葉に疑問を持ってあたりを見渡すと、地面から鼻先くらいしか出ていない顔が不気味に太陽を眺めていた……ってかフォルに木の棒で突っつかれてるし。


「……なんか色々あったけど、去年より賑やかな夏になりそうだな」


「うん……復興まで約一年……それまで本当にいろんなことがあったよね」


 ふと彼女の流れる髪が気になって見つめた。


 ……ペルやテュールの水着姿も可愛かったが早紀のは……こりゃアトゥムのこと言えないな。俺も。


 フレアビキニが風になびいて、髪を抑える細い腕から脇にかけてのライン。ボーイッシュな去年とは違い清楚な感じの白いトップと女性らしい花柄のボトムに細くて長い脚が伸びる。


 不健全……なんて言ってられなかった。


 思わず見惚れた彼女の横顔から視線が外せなかった。


「……どうしたの」


 そんな俺の視線を感じて早紀が聞いてくる。


「なんでもない……」


「……そっか」


 そんな時、なんとなく桜乃の言葉が浮かんだ。


「嘘……見惚れてた」


「え……そ、そう……」


 桜乃の言う通り、俺の思った事を素直に話してみたが……何というか恥ずかしすぎる。


「えー、二人っきりの空間はもう少し周りを見てから行ってほしいです……」


「あ」


 花の女神が焼きそばを三つ手にしてやってきた。


「わ、悪い……」


 うつむきながら、差し出された焼きそばを受け取る。


「あれ? そういやテュールは?」


 さっきまで近くにいたはずなのだが、いつのまにかいなくなってる。


「フレイアさんの手伝いです」


 ああ……そういえばフレイアは何して……る……んだアイツ?!


「へいらっしぇー!! 本日限定! 女神焼きそばだよーーー!!!」


 ……女神って暇なのかな? 創造神もだけど。


「……か、佳奈美……そういえば海の家に憧れてたからなぁ。ああいうところでお店開いてみたいって」


「ああ……やっぱあの変なところにある家、現在世界のものなんですね……もうだんだん慣れてきました」


 ……俺はパソコンに詳しい花の女神に慣れそうにないがな。


「メシ食った後はフレイア様の大道芸コーナーでぃ!! チケットは絶賛販売中だぜぃ!!!」


「がめついなおい!!」

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