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第九十二話「おかえり」

「……だけどよ。ゼクスは見失っちまったな」


 フレイアの言う通り、ゼクスは完全に逃げられてしまった––––––––とみんな思ってるだろうな。


「それはどうかな?」


 俺はニヤリと笑い答えた。


「? どう言うことだ?」


「……まさか拓海。”ゼクスは現実世界“なんて当たり前な答え言うんじゃないだろうな?」


「そりゃ現実世界なのは誰だってわかるさ。俺が言ってるのは今どこにいるかだ」


「は?」


 そろそろ時間だな……。


 俺はポケットからそれを取り出す。


「……スマホ?」


 自慢げに取り出したが、フレイアがツッコミを入れる。


「タクミのバカっ!! あのなぁ、サポートが過ぎた通信機器は通信自体ができなくなる。いくら電源を入れたって––––––」


 ––––––だが、その時。着信メロディーがなった。アニソンだが、何度も聞いたことのある曲だ。……この世界に来た時にペルの着信音に決めてたからな。


「んなっ!?」


 俺は、画面を見る。メールで「任務完了」とだけ書かれている。


 そして、次の瞬間コール音がなる。登録していない番号なので無機質なデフォルトの効果音だ。……だが、その番号には見覚えがある。


 混沌の(カオス・)因果律(コーザリティ)の中で見た早紀のスマホの番号だ。……彼女のスマホは今、ある人物に渡してある。


 俺はその電話に出る。すると––––––––。


「……桜乃だな」


『うそっ!? 本当にかかったっ!!!』


『師匠ーーっ!! こっちも任務完了であるっ!!』


 俺はニヤリと笑い、同時に作戦が成功したことに安堵する。





「ど、どう言うことなの!? どうして現実世界につながるの?」


「テュールだよ」


 俺が答えると、健司が思い出したように「あっ!」と小さく叫んだ。


「あいつは法の女神だ。アトゥム以外でティエアのルールを作ることができる」


「か、簡単に言うけどなっ! いくらルールブックに法を追加できようが、現実世界との通信なんぞできるわけが……」


「できるやつがいるんだよ……たった一人だけな」


 少し考え込んだ後、健司は再び声を上げた。


「……ペルさんかっ!!」


「ぺ、ペル!? あのドジ馬鹿女神がっ!?」


 そう……あいつは今やただの女神じゃない。世界の法則すら捻じ曲げるティエア最強の女神だ。


 ペルにかかれば、現実世界との通信も、裏口(バックドア)生成も可能。……いや、将来ではもっとすごいことができるかもしれない。


 あいつなら本当に全知全能の神になれるかもな……。


「……ねぇ、そんなこと私の前で言ってもいいの?」


 ディーは心配そうに聞くが、俺は強くうなづいて答える。


「大丈夫だ。問題ない」


 ……こう答えると問題があるように聞こえるかもしれないが、本当に問題ない。


 ペルのお陰で、現実世界からのアクセスは完全に不可能になってる。


 さっき来たメールにそれを証明する言葉が書かれていた。


 だから、ディーの視界や聴覚を盗むことはできない。


「ディーには後でペルの治療を受けてもらう。それで今後一切ディーの視界も聴覚も奪われなくなる」


 あえて利用することもできたかもしれないが……見られないようにしてしまった方がいい。他人に視界を奪われるなんて、いい思いもしないだろうからな。


「で……ゼクスはどこに行ったんだい?」


「……それが…………」


 俺は少しためらったが、それでも決意して答える。


「……自衛隊基地だ」


「じ……自衛隊基地!? あいつ自衛隊にコネでもあるのか!?」


「そうじゃない。体の形がいくらでも変えられるんだ。自衛隊員に化けて忍び込むくらいできるさ」


 ……もしかしたら、今回の襲撃はあの機械人形の実証実験だったのかもしれないな。実際に今回の襲撃は世界を崩壊させるほどの力はない。いくら核があるからって十三の国で成り立つティエアを全てほろぼせるわけがない。実際にアトゥムが記憶していたランチャーに装填された核ミサイルは十六機。しかもかなり小型化されていて、モデルとなった核ミサイルの半分程度の威力だったらしい。


 なんにせよ……これでゼクスには簡単に手が出せなくなった。


 ただ、奴の次の手は読める…………次にあいつに出会った時が、最後の戦いだ。




「……タクミーーーーー!!!」


 出迎えてくれたのはフォルだった。


 いつものようにじゃれついて抱きつく。


「ちょ!! テメェ離れやがれってんだ!!!」


 その態度がかんにさわったのか、強引に引き剥がそうとするフレイア。


「やーーーー!!」


 だが、意外とフォルは力が強い。フレイアですら簡単に引き剥がせないようで悪戦苦闘している。


 そんな中、じいさんが俺達を迎えに来てくれた。


「ほ……本当に、無銘殿がスピカ殿だったのかっ……」


「え……?」





「フォルが……そんなことを……」


 ……フォルは無銘を一目見てスピカとわかってたらしい。


「……俺も考えてたんだが、フォルは確かにイレギュラーな存在なんだ」


 そのフォルは、健司やフレイアとヨーヨーで遊んでいる。


「……わし達からしてみればただのレアな魔法を持った存在じゃったが……実際には創造神と同じ力を持っていると考えることができる」


 このティエアには三人……スピカ、フォル、そしてかなりの例外な人がひとり、創造神となっている。


 スピカはおそらく、創造神の娘ということや、元々RPGツクレールを使ったことがあると言う事から、創造(クリエイション)を顕現したんだろう。


 そして、例外な人の場合はある一定のジャンルのものしか作ることができない上に顕現した理由もわかってる。だから害がないことは間違いない。


 しかし……フォルに関しては一切そういった関連性がない。


「これが……世界(ゲーム)に管理された世界じゃなければ偶然の一言ですんだんだが……もしかしたら、彼女は神に届きうる可能性を持った存在なのかも……」


 すこし重い空気をはねのけるように勢いよく扉が開いた。


「見て見てじいじーーー!!! ブランコーーー!!!」


 ヨーヨーのトリック、糸で三角形を作りその中でヨーヨーを揺らすブランコを得意げに見せつけるフォル。


「おおおぉぉぉぉーーーー!!! 見ろ、タクミ殿!!! やはり我が孫は神じゃ!!! 神ゆえに可愛い!!! 見間違えようもないわいっ!!!」


 ため息をついて、俺は立ち上がった。


「ちょっと貸してみ」


 俺はフォルからヨーヨーを借りて、昔を思い出しながらプレイする。


「ストリングスプレイ! スパイダーベイビーっ!!!」


 フォルがやったブランコより高度な技、あやとりのように糸を操り蜘蛛の巣のように複雑な形を作って見せる。


「おおぉぉぉーーー!!! タクミすげーにゃっ!!」


 きゃっきゃと笑うフォルを見てると……さっき考えたフォルの可能性も杞憂に見えてくるから不思議だ。


 ……だけど、だからこそフォルは神に近づけるのかもしれない。


「みなさーん! 食事ができましたーーっ!!」


 ペルの言葉ですっかり腹を空かせた俺達は、早速猫獣人族(ケットシー)の会合などで使う大きな食堂へと向かう。





 今回は女子メンバーでそれぞれ料理を作って食べようと企画された。だが……一部の人間が作った料理以外は美味しかった。


 アトゥム、無銘は合作でかき揚げ肉うどんを作った。素材だけアトゥムが用意して、あとは一から作ったそうで、料理得意な親子なだけに、かなりうまかった。


 ペルは山菜の……何かを作った。…………うん、草であることはわかった。紫芋のドレッシングらしい紫色のドロドロした奴をかけて食べたが、とりあえず食えないほどではなかった。とりあえずサラダということにしておこう。


 テュールは…………ダークマターを作った。香ばしい匂いとサクサクとした食感、しつこいくらいにくる苦味と壊滅的な辛さ。パンチというよりボディーブローと言った感じの肉だった。……ペルの失敗が可愛いくらいだ。


 ディーのはうまかった……うまかったがただの酒のつまみだった。本人も今日は飲みまくってたし、完全に自分のためだ。


 というわけで…………結果どうなるかっていうと。


「こうなるわけだ……」


 ……えっと……酔いつぶれてるのがアトゥム、テュール、フレイア、ディー、無銘、ペル……とまぁ死屍累々。


 健司は無理やりテュールに飲まされ……たった一杯でダウンした。フォルはふつうに眠たくなったようでスヤスヤと寝ている。……結局いつぞやのバーベキューの時のようにじいさんと俺だけだ。


「……やれやれ……すまない。タクミ殿手伝ってくれるか?」


「……ったく……わかったよ」




「……ん?」


 大半の人間をそれぞれの寝床に送ったあと、最後に運ぶ予定だったペルは、すでに起きて水を飲んでいた。


「起きてたのか……」


「はい……また飲みすぎちゃいました……えへへ」


 じいさんがこちらを覗いてくるが、あとは任せていいとジェスチャーを送るとそのまま奥へと去っていった。


「……ありがとうな。ペル」


「え?」


「いや……これまで色々頑張ってくれて……本当に助かった」


 ペルは目を伏せて首を静かに振った。


「それはこちらの台詞です。私の故郷を守ってくれたのは、タクミさんなんですよ?」


「いや俺は……俺よりスピカの方が……」


「謙遜しないでください。……タクミさんが運命の(ストーリー・)破壊者(ブレイカー)に覚醒しなければ、作戦は失敗していた可能性が高いんですよ?」


 ……スピカの作戦を考えるとそうかもしれない。彼女の作戦は、俺がアトゥムの自らにかけた偽証を解くことが前提になってたから……。


 もし、解けなかったら……中身がスピカかアトゥムかに変わっただけで、世界の崩壊は止められなかった……。


 彼女が……俺を信じてくれたから……今ここに到達できたんだ…………。


 それなのに……俺はっ!!


「タクミさん…………」


「ペル……俺、ちゃんと悪役やれてたかな?」


 スピカの意思を継いで……早紀の心をつないで……。


「俺……ちゃんと悪い人間になれたかな?」


 そうじゃないと……彼女の思いを叶えられなかった。彼女が、俺が悪役だとしても世界を守る……そう言ってくれた想いを…………引き継げなかった。


 だから……ずっと、スピカへの想いを凍らせていた。


 そうしないと……発狂しそうで……苦しくて……泣きそうで…………。


「……ええ。すごく悪くて……すごく優しい悪役でした…………だから、もういいんですよ」


「俺はっ……俺はっ……!!」


「……もう大丈夫ですよ…………ここには私とタクミさんしかいません……悪役だって、泣きたい時は泣いていいんですよ?」





 そこから先は、あまり覚えていない。


 ただ無我夢中で泣いていた。まるで子供のようだと、自分でも思った。


 ––––––でも。


 ペルの優しさと……スピカのこれまで溜め込んでいた思いが……俺を冷静にさせてくれなかった。







「––––––ん?」


 すぐにわかった。これが夢だって。


 ––––––だけど……目の前に彼女がいる。


「……ありがとう。信じてたよ」


「早紀……」


「そして……ごめんなさい。あなたに辛い思いをさせてしまって……」


 俺はゆっくり首を振った。


「その辛い思いがなければ……俺はここまでたどり着けなかった。……だからいいんだ」


 そう言うと、ニコリといつもの笑顔で笑ってくれる。俺が一目惚れしたその笑顔で……。


「だから……今度は私が迎えにいくね」


「え……」








 まだ夢を見ているような気分だった。


 だけど、触れ合った唇がはっきりと現実だと教えてくれる。


 朝の日差しが彼女の栗色に戻った髪の隙間から差し込んでくる。


 それが眩しくて……目を細めた。


 愛しさと寂しさを残しながらゆっくり離れると……。




 ずっと見たかった顔がそこにあった。


 ずっと追い求めていた笑顔がそこにあった。





「おはよう。拓海……ただいま」


「ああ……おかえり。早紀––––––」

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