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第八十九話「神の絶望」〜アトゥム視点〜

「さてと……どうしたもんかな?」


 ……無銘ちゃんは確かに戦えないわけではない。彼女の中には、賢者スピカと早紀ちゃんの魂が宿っている。……黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)を二人で超え、今もなお意識不明の状態。


 そもそも、最初にスサノオを追いかけた時、賢者スピカは半分も超えてない段階で死んでるんだ。今回超えられて、仮の魂である無銘ちゃんが動いてるだけでも奇跡なんだ。


 その記憶と経験を引き継いだ無銘ちゃんは決して弱いわけではない。……でも、目の前のこいつ以上ってわけじゃない。


 ……僕も、本調子とはいかない。そもそも僕の今の体は三歳児だ。その上神としての干渉はそろそろ限界に近い。……果たして勝てるかどうか……。


「なぁ……神の殺し方って知ってるかぁ?」


「……時を超える事と……主人公が神を殺す事」


 だから、本物の主人公である影沼をこっちによこしたんだろ? ……ってことには気がついてるけど、わざととぼけてみせる。


「だけど、忘れてないかい? 君はこの世界の主人公じゃない……ティエアの創造神の僕を殺せるのかなぁ?」


 著作権がある以上、他の世界ステータスがこの世界では通用しない。僕がティエアの創造神であれば、僕を殺すことはできない。


「そんな小手先のひっかけ問題に騙されっかよ。テメェは創造神ではあるが、ティエアの登場人物ではないだろうが」


 そう……ペルちゃんと違って、僕は元々ティエアの神じゃない。この次元全ての神である僕には、著作権のルールは適用されない。こいつは別の世界の主人公だが世界(ゲーム)から認められた存在……だから、僕を殺すことができる。


 まぁ、実際にゼクスを殺したとしても、多分あいつはソウルプラズム単体でも魔法が使え、蘇生もできると考えられる。今まで戦争ごっこで遊んでたんだから……そうでもしなけりゃ、もうすでに何度も死んでるだろうしね。


「んでよぉ……何で主人公は神を殺すことができるかは知ってっかぁ?」


「……主人公は世界(ゲーム)から可能性を持つことを許された存在……だから」


「そんなみみっちーこと聞いてんじゃねーよ……ゲームとかそんなの関係ねーんだわ」


 僕は、諦めの意味でため息をついた。


「……そもそも神は永遠に近い寿命と無から有を生み出す能力を身につけただけで……他は一般人と変わらないからだろ?」


 RPGツクレール次元の人間は可能性を失ってるから最初の神をどころか、偽証で女神落ちしているペルちゃんも殺すことはできないが、現実世界の人間なら可能性の力を持っている以上、誰でも神を殺すことができるというわけだ。


「せいかぁーーーーい!! ってか知ってたのな」


 そんなの、今までの経緯とゼクスなんて名前を考えれば誰でも気付く。


「ゼクスってのは、ドイツ語で6の意味だ。つまり彼は六番目の最初の神って事だろ?」


 こうなると宇宙を作ったのもゼクスということも怪しいが……おそらくそこは正しい。僕らのような人にとっては神と言うだけでかけ離れた存在なんだ。


 だったら、わざわざ最初の神などと過剰に吹聴する必要性はない。……つまり、どういう理由かは知らないが、宇宙は六回以上生成されている。


 普通に考えれば、この世界には六つの宇宙が存在するってことになるけど……多分それだけじゃないような気がする。


「まぁ、テメェらにとってはこの宇宙を作った時点で確かに最初の神なんだろうが? そう言う意味じゃあいつは最初の神でもなんでもねぇっつーこったな」


「おっもしれー話だよなぁーー。この世界以外にいくつ世界あんだっつーの」


 ゼクスが仮に六番目でそれぞれの神が宇宙を作ったのだとすると、その時点で最低でも六個。さらにティエアをはじめとするRPGツクレールの次元に……ゼクスが今まで滅ぼしてきた異世界。最低でも二十は存在するだろう。


「で? 満足かい?」


「あ?」


「こんな無駄話を長々と続ける理由なんて一つだろ……要するに、「オレなら最初の神をいつでも殺せる」って威勢を張りたいんだ」


 僕のわかりきった予想の答えは、完全な図星だった。


「っ!! ……影ノ手(シャドウハンド)っ!!!」


 その攻撃を避けつつ、手に持った投げナイフで黒い腕を攻撃していく。


「なにっ」


 だが、その腕はナイフで一切傷つかず、まっすぐと無銘に向かっていく。


「……回避」


 その攻撃を、無表情で回避していく。


 安心したのもつかの間、さらに攻撃は続く。


「オラオラオラオラァ!!!」


 だが……僕に攻撃は向かわない。狙いは無銘だ。


「やらせないっ!!」


 投げても刃が通らないなら、直接叩き込むっ!!!


「なっ!?」


 刃が一切通らない。それどころかまるで羽虫のように巨大な腕にはらわれた。


「おいおいおいおいぃ!!! 蚊が刺してんのかぁ!? クッソよえぇぞっ!!!」


 吹っ飛ばされる僕の体を、なんとか空中で静止させて再びその先を見る。


「敵対勢力、攻撃をわざと外していると判断。最低限の動きで回避します」


 ……無銘ちゃんは無事だ。だけど、このままじゃジリ貧だ。


「ちぃ……ちょこまか逃げやがって……」


「……問い。なぜ無銘だけを狙う?」


「あぁ? ンなの決まってんだろーが。テメェぶっ壊してコイツの無様な姿見るためにだろーが」


 キヒヒと不気味な笑みを浮かべる影沼に対して無銘ちゃんはあくまで冷静に答える。


「解……戦術的思考の欠如を確認。弱点と判定します」


「……ぶっ殺すっ!!!!」


 影ノ手(シャドウハンド)はまるで阿修羅のようにその数を増やし、無銘に連撃を加える。


 ……? 無銘ちゃんが空中にとどまったままのこっちを見た?


 一瞬だが、僕になにかを話そうとしていた。だが、またすぐに戦場を駆ける。


「オラオラオラオラァ!!! どうした? かかってこいよ!!!」


 再び攻撃が繰り返されるが、無銘は紙一重に避けていく。


「……うっ」


 だが、頰と、腕、脚と徐々にかすっていく。


「ダメージ軽微……回避パターンを追加」


「テメェ……粋がってんじゃねぇぞコラァ!!!」


 次第に攻撃が正確に、そして強くなっていく。


「……なるほどね」


 僕は上空の太陽を見つめ、確信した。


 そんな僕にはもはや興味すらわかなくなったようだ。今はただ、目の前の敵しか見えてない。


「ぐっ!?」


 そんな中、ついに無銘の首を捕まえた。


「つぅーーかまえぇーーーたぁあああああぁぁぁぁ!!!」


「無銘ちゃんっ!!!」


 僕は、流石に見てられず助けようとするが……。


「……ふ、不可解…………この程度で勝ちを確信するのは浅はか……戦略の見直しを推奨する……がぁ!!」


 そんな無銘ちゃんの無防備な腹を容赦なく殴りつける。


「見直しだぁ? テメェおもしれーな…………感情がないくせに挑発してんのかぁ?!」


「ちょ……挑発……否定。こ……これは信頼…………」


「大丈夫だ……テメェの信じる神の動きくらい把握してる……よぉ!!!」


 僕の背後からの奇襲は軽く弾き飛ばされる。そのまま岩に叩きつけられ、血を撒き散らし倒れた。


「で……こっちが偽証だろっ!!!」


 僕の用意した偽証(パージャ)で生み出した僕の分身は……いとも簡単に砕かれた。


「と……問い……なぜ本物が……わかった?」


「残念だったなぁ……俺は背後だろうが何だろうが敵意を判別する能力があんだよ……」


 次第にミシリという音がなり、無銘の気道が塞がれていく。


「くっそ生意気なテメェにはお似合いのショーを用意してある……ゆっくり楽しめや」


「が……ふぐぁ…………」


 次第に痙攣し始め……そして、意識がなくなっていき––––––––––。


「あ? ……なんだっ?」


 あたりは、まるで明かりのスイッチを消した真夜中の室内のように、フッと暗くなる。


「……月蝕さ」


「なっ!?」


 僕は、力を失った影ノ手をナイフで一刀両断し、無銘ちゃんを助ける。


「な……なぜだ……なぜこのタイミングで月蝕がっ!!」


「……やはり君の弱点は闇だったのか」


「なっ!?」


 ……無銘ちゃんが僕を見た時……いや、正確にはそのさらに先の太陽を眺めていた。


 雲間から差し込む太陽光……そして、エルフの里を襲撃した時の月光……どちらも光が関係していた。


「普通、影の能力と聞くと光が弱点で、闇の中でこそ力を発揮すると考えがちだ。でも

 、君の能力は……闇ではなく”影ノ手“だ」


 影は光があるからこそ強く、はっきりと映し出される。


 逆に光が弱まれば……影の力も弱まる。


「やられたよ……無銘ちゃんが見破らなければ、僕達は負けてたかもしれない」


 僕はさらに、大振りの片手剣を創造し構える。


「さぁ……もうやめるんだ。……せめて君の世界で生きろ……君の居場所はここじゃない」


「居場所だぁああぁぁぁ!? んなもんテメェに決められる筋合いねぇよっ!!!」


 僕は、その影から浮かんだ不気味で……だけど悲しい笑みを忘れられない。


「そう……誰にも俺の居場所なんぞ決められる筋合いなんてねぇ……」


「うっ」


 その時だった。





 ––––––––ここがテメェの居場所だ。……死刑までの間せめて今までやってきた事を悔いるんだな。




 ––––––––君の欲望を叶える世界が欲しくないかい?





 ––––––––欲は叶う……いくらでも好きな女を抱ける。




 ––––––––でも、満たされねぇ。




 ––––––––なぜだっ!! なんでこんなに冷たいっ!!




 ––––––––なんでこんなに……寒いんだよ…………。




 ––––––––母さん……なんで……こんなに冷たくなっちまったんだよ。




 ––––––––なんで……みんな母さんみたいに冷たいんだよ。




 ––––––––人の温もり? そんなもん感じねぇ…………。




 ––––––––何人抱いても……何人犯しても……みんな氷みたいに冷たい。




 ––––––––何をしても……生きてた頃の母さんみたいな手の温もりを感じねぇ。








 ––––––––––––––––––––––––ナンデダ?










「い……今のは…………」


 影沼の記憶……とても深い……悲しみ。……母を失った悲しみで、人の体温を感じなくなった男の……悲しい物語。


「……そうか…………」


 ––––––––いま、唐突にわかった。


 僕のような創造神と本物の神の違い…………。





 ––––––––人の苦しみが……悲しみが……見えるかどうか。






「……いま、君の苦しみを解き放ってあげるよ」


 ……もう、その苦しみから解き放つにはこれしかなかった。






 ……彼を……消してあげる事…………その存在が失われたと……偽証(証明)してあげる事。








「君の無限の悲しみを……消してあげるよ」


 その存在が消えれば……悲しみもなくなる。


 その存在がなくなれば……後悔することもない。


 その存在が消滅すれば……人の温かみを感じられなかった悲しみから解放される。






 その偽証(証明)は……僕がしてあげるよ。









 死んだ家族の手の冷たさは……僕が一番よく知ってるから––––––––。

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