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第八十六話「戦う理由」〜健司視点〜

 遠くからも爆発や、鉄がぶつかるような音が聞こえてくる。……早くこいつを倒してみんなを手伝いに行きたいところだが…………。


「桜乃ちゃんから聞いてるよねぇ……大人しく首突っ込まなければ誰も傷つかずに済んだものを……」


 ……そうだ。多分、この子は本当の敵ではない。ここで僕を本当に止めたいなら、師匠と桜乃ちゃんが死なないギリギリのラインなんて狙わない。……この子はペルさんが味方にいることも計算に入れて襲撃してきたんだ。


「……まるで、誰かが傷つくことを恐れているようなセリフだな」


「……ふん。で? どーすんの? どーせ、やりあうんしょ?」


 試しに探りを入れてみるが……どうもコイツには効かないようだ。僕は、無言で剣を構える。


 ……実際、頭に浮かんだ技を言われるがままに発動させているだけで、まだこの剣を使いこなせてない。


 それに、フレイアの戦闘スタイルはよくわからない。


 ヨーヨー使いと言うが、そもそもヨーヨーは戦闘向きではない。


 ヨーヨーの重量は大したことがないし、怪我こそするかもしれないが、それまでだ。


 実際に有名ドラマとかでも武器に使われる例は少なからず存在するため、全く使えないってわけではないだろう……だが、問題は“なぜ戦の女神がそれを使ってるのか?” ということだ。


 つまり、ヨーヨーという武器にはそれだけの価値があるんだ。少なくとも、彼女にとっては…………。


「……そっちが来ないならこっちからいいかな?」


 そう言うと、一つのヨーヨーを上空に投げつけた。それは四方八方に飛び回り、その軌跡には紐だけが残った。彼女の周りの1kmにわたって不規則な蜘蛛の巣のような結界を作った。


「ただの糸じゃない……ワイヤーか」


 しかも、かなり丈夫そうだ。加えて柔軟性もある。


「……っ!!」


 僕は、大剣を大きく上段に構えて、一刀で斬り伏せようとする。


 だが、手応えが全くなく、そのワイヤーはあざ笑うかのように元に残っていた。


「……1A(ファーストアサルト)糸の迷宮(ラインラビリンス)……アタシのヨーヨーのストリングスは特別製でね。絶対に切れないようになってるんだよ」


「……切れた端から再生するワイヤーか……確かにこれじゃ切るのは無理だな」


 ……この無数に張り巡らされたストリングスは魔法で形作られている。……それは桜乃ちゃんが試した通りだ。


 その魔法の本来の効果は、自己修復効果だったってわけか。もしかしたら、魔力のこめ方次第で切断にも使えるかもしれない。


「あんたの師匠ってやつも、これに勝てなかった。……あんたに抜けられる?」


「……あまり僕をなめるな」


 確かに無数に張り巡らされているが、ピアノ線と違いこのワイヤーは太い。通常のタコ糸と同じくらいの太さで、簡単に見分けられる。


 ……それは同時に“だったらなぜフレイアは魔力を込めずとも切断できるピアノ線にしなかったのか?”という疑問を生むのだが…………少なくとも、おかげで敵に近づくくらいならなんとかなる。


 しかし……念には念を入れるか。


「お?」


 僕は剣をパージし、分解した中から短剣を両手に持つ。それ以外は全て地面に突き刺さっていき、僕の周りに剣の結界を作る。


 左のソード・アハト……右のソード・ノイン……。ククリナイフのように湾曲した剣。拳二つ分ほどの刃渡りでかなり短い。……だが、これならこの狭い結界内でも戦いやすいだろう。


「そんな短い獲物でいいの?」


「まぁな……っ!!」


 ストリングスの合間を縫うように駆け抜ける。僕の目の前を結界を張り巡らせているヨーヨーが僕のコメカミを狙ってきたがスライディングで避け、起き上がりの勢いも加えて左側から切りつける。


 そのアハトの一撃は奴の魔法壁で弾かれるが、右のノインで切り上げる。


 それをまるでダンスを見せつけるかのように軽やかに避け、嘲笑とともに二つのヨーヨーが僕に襲いかかる。


「ちぃ!!!」


 それを二つの短剣で防ぐが……あまりにも早く、一撃一撃が重いっ……まるでハンマーで殴りつけられているかのようだ。


「よそ見すんなよ」


「な……にっ…………!?」


 彼女とは全く別の方向から飛んできた、一つのヨーヨーが僕の腹にめり込んで来た。たまらず吹っ飛ばされた僕は、かろうじてその正体を見る。


「な……なんだあれっ!!」


4A(フォースアサルト)……狂気の曲芸師(マッドアクロバット)


 ストリングスの迷宮を自由に走り回るヨーヨーが一つ……いや二つ……。


 ありえない……ヨーヨーって紐がついてるものだろ? あんな風に紐の上を走り、飛び回るもんじゃない。


「くっ……」


 ……いやまて。確か拓海に聞いたことがある。紐をヨーヨーから外して大道芸の中国ゴマのように操るプレイがあるって……オフストリングスって言ったか?


 まるで綱の上を駆け抜ける命知らずのピエロ……まさに狂気の曲芸師ってわけか。


「どうしたの? 主人公……寝るにはまだ、はえーんじゃねっ!!」


「ぐっ……うあぁ!!」


 フレイアの操る二つのヨーヨーに加えて、さらに二つの360度攻撃を仕掛けてくる奇襲者。


 くそっ……これじゃ、どこから攻撃が来るかわからない。


 待て、落ち着け。いくらヨーヨーって言っても回転する以上、多少なりとも音は出る……全神経を集中させて、音を聴き分ければ…………。


「はぁっ!!」


 まずは一つ、飛びかかってきた4A(フォースアサルト)の一つを弾き返す。


「おっとっ!!」


「なにっ!?」


 糸の結界が、僕のはじき返したヨーヨーを捉えて強引にヨーヨーを軌道に戻した。


 ……はじき返して地面に叩き落せば、数を減らせるかもと思ったが……まいったな。


「これでも戦の女神が選んだ武器だよ……なめてもらっちゃ困るよ」


 ……確かに、前言は撤回せざるをえない。


 一撃が軽いとなめていた攻撃は全てハンマーのように重く、そして、レイピアのように早い。四方八方から繰り出される糸の付いていないヨーヨーはまるで弾丸だ。


 ……だが、けっして見抜けないわけじゃない。


「……あんたの手に持ってる二つのヨーヨーも名前があるのか?」


「もち! 2A(セカンドアサルト)二頭獣の疾風(オルトロスゲイル)。なかなかいい子たちだよ」


 よく見ると、プラスチックでできたものじゃない。全てのヨーヨーが金属製だ。


 それをあれだけ軽々しく操ってたのか……。


「……どうしてそんなに戦闘を楽しむ……お前の戦い方は、人を殺すためのものじゃない。戦いを楽しむためのものにしか見えない」


「……そりゃそうだよ」


「え––––––––?」





 ––––––––どうして、君が死ぬところを見なきゃいけないの?


 ––––––––私が戦の女神だから……?


 ––––––––私が……それを望んだから……?





「……人が死ぬのを見るのが辛いんならさ……せめて楽しまなきゃやってられないんだよ」


「フレイア……お前」


 一瞬……フレイアの気持ちが見えた気がした。


「…………こいっ!! アインスッ!!! フィーアッ!! ヒュンフッ!!」


 そう言い放つと、地面に刺さっていた全ての剣が僕の剣が組み合わさり、一つの大剣となる。


 ……機械仕掛けの大剣……かなり歪だが、それでも創造神が最強を願って作られた(スサノオ)のための剣。


「僕は、スサノオの記憶を持っただけで、君の苦しみはこれっぽっちもわからない……」


 そして、その大剣でフレイアの眉間を指し示す。


「だけど……本当は悔いてきたんじゃないか? ……拓海に刃向かう事に」


「は? ……意味わかんねーし……なんでここでタクミくんがでるのさ」


 ……フレイアの敵意が増した……完全な図星。それで、僕は確信した。


「いや……違うな。君が守りたいのは…………カイン=アルマークだ」


「っ…………」


 間違いない……彼女は脅されてたんだ。


 カイン……拓海が殺されるかもしれないと知って…………。


「……思い出したよ……フレイア=マルス……いや、レイス=シュレッケン」


 シュレッケン……このティエア連合国の王族の名前。


「お前は……王女レイス……そうじゃないのか?」


「……違う」


 そうだ……僕が持ってるスサノオの記憶……その中に確かに彼女はいた。髪は今のツインテールとは違い、解いてセミロングのストレートだったが……顔立ちや姿は幼いころの彼女にそっくりだ。


 体も小さいが、身体年齢を変更できる魔法ならある。彼女は、それで体系を調整し、”女神フレイア”と、裏切り者”東条佳奈美”を演じ分けていた。


「王女レイスは大臣カインに恋をしていた。だが、カインにはもともと婚約者がいた」


「…………違うっつってんだろ?」


「お前の原動力は……賢者スピカへの恨みとカインへの恋心だ……そして今っ!! カインの生まれ変わりである拓海はスピカの恋人だっ!! だからスピカを殺し、カインを守ってもらうゼクスの企みに加担したっ!! そうじゃないのか!!!」


「うるせぇええええええ!!!!」


 咆哮とともに、僕への猛攻が始まった。それを大剣で耐えながらも、言葉を続ける。


「最初っ、拓海の死の運命が確定していた……だが、それがもしも本来、拓海の……カインの魂をサルベージするためだとしたらっ!!」


「だまれだまれだまれだまれええええぇぇぇ!!!」


「そう、ソウルプラズムの相殺は脳死の直後に起きる。毒殺なら毒の種類さえ間違えなければ心肺停止後も、脳を活動させ続けることは可能だっ!!! ならば、その脳からソウルプラズムを抜き取ることもまた可能となるっ!!!」


 怒りに任せた猛攻の重みで、膝をついて耐える。


「だが、拓海の毒殺は失敗した!! だから、君はある行動に出たっ!!」


 ようやくわかった……おかしいと思ったんだ。


「あの日……僕に過去改変を起こさせたのは……フレイアッ!! 君の独断だっ!!!」


「っあああああぁぁぁ!!!」


 スキが見えたっ!! 僕はヨーヨーをはじき返し、その剣をでフレイアに斬りかかる。


 だが、それをギリギリのところで回避され、再び距離が生まれる。


「……そう考えれば説明がつく……なぜなら、ゼクスにとってあの過去改変は全く意味がないものだったからな」


 どのみち、星井早紀は死ぬはずだったんだ。死の経緯など、ゼクスにとっては意味のないこと。だったら、あの過去改変が成功した場合、誰が助かるのか……それが彼女の本来の目的だ。


「……お前は、結城拓海を死なせないために過去改変した……そうだな?」


 拓海のソウルプラズムを回収しようとしたかどうかはわからない。……だが、拓海がカインの生まれ変わりである以上、本来は彼を守りたかった筈だ。


「……だったらどうしたんだよ…………」


「わからないのかっ!! ソウルプラズムを回収後、管理するのはおそらくゼクスなんだろ? あんな奴の手に渡ったら、今度は拓海が人質になることくらい想像できるだろ」


「……それのどこが悪いんだよ」


「なにっ?」


 ゆっくり顔をあげる。泣いてるのか……それとも笑ってるのか。もう自分でも感情を制御できていないのだろう。


「もう、戻れないとこまで来てんだよ……テメェには一生わからないほどに、恨みが募っていってそれしか考えられなくなって……」


「……っ精神支配……」


 確か……現実世界で戦争を起こして遊んでいたゼクスは、人を操ってゲームのように遊んでたって……。


「個人への精神への干渉……こう言うことだったのか」


「アタシも、あいつに操られてるっつーことくらいわかってる…………なのに、アタシではもうこの感情をコントロールできねーんだよ……だからっ!! 殺すしかないだろーがっ!!!」


「くっ」


 再び怒りに任せた攻撃が迫る。


「テメェも殺してやるっ!!! テメェもあのクソ女と同罪だっ!!! わかるかっ!? アタシのこの屈辱が……アタシの怒りがっ!!!」


 ……正直僕にはわからない。


 愛した男は一切振り向かず……その男が愛した女は他の男のものになり……誰からも愛されず、その怒りの人生を戦の女神として使ってしまった。


 ……だけど、ひとつだけわかることがある。(スサノオ)の中にある確かな記憶…………。


 君は……大きな誤解をしているっ!!!


「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 叫び、魔力を全て剣に注ぐ。


「コード・ムラクモッ!!! フルバーストッ!!!」


 十の剣が全て解き放たれ、その全てがフレイアを囲む。


「ぐっ」


 フレイアは全てのストリングスの結界を自分を中心に囲み、さらにその中にバリアーを二重三重に仕掛ける。


「アインスッ!!」


 全ての起点となる大剣が、糸の結界を切り裂く。そして、その剣を手放し、向かった先に設置した二つの剣を手にする。


「ツヴァイッ!! ドライッ!!」


「あぐっ!?」


 細剣のソード・ツヴァイが結界を貫き、フレイアの肩を射抜く。その細い穴を見逃さず、細めの片手剣のソード・ドライの突きが隙間を広げ引き裂く。


「こんのぉ!!!」


 剣は炎の魔弾で弾かれたが、すでにツヴァイとドライの先に僕の腕はない。そして僕は二つの片手剣を両の手に握りしめる。


「フィーアッ!! ヒュンフッ!!」


 二刀流の兄弟剣の刹那の連撃が引き裂いたところを起点としてバリアを崩壊させる。魔力も途切れたのか、糸の迷宮も切り崩された。


「調子に乗ってんじゃねぇよぉ!!」


 彼女の放ったヨーヨーがソード・フィーアとソードヒュンフを絡めとる……だが、これで厄介な2A(セカンドアサルト)を封殺した。


「なにっ!?」


 絡め取った先に僕の腕はなく、すでに別の二本の片手剣を手にしていた。フィーアとヒュンフのそれぞれの背についていたもう一つの直剣……。


「ゼクスッ!! ズィーベンッ!!」


「ああああぁぁぁ!!!」


 さらなる追撃を急遽作った魔力のシールドでふせぐ。だが、それもあっさりと破壊される。そのまま彼女は後方に大きく飛んで距離を取る。


「アハトッ!! ノインッ!!」


 二本のククリナイフが、彼女の足を裂きその動きを止める。


「ツェーン……行くぞっ!!」


 最後のナイフ……子供でも操れる最も小さな短剣。……スサノオの始まりの剣。


「ぐっ!!!」


「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!」




 その剣が、彼女の肩を射し貫き……ようやく勝敗が決した。

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