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第八十五話「宿命」

「タクミっ!!」


 健司が俺を拘束している漆黒の腕を切り裂き、拘束が解かれた俺は剣を正眼に構えた。


「ちっ……邪魔すんじゃねーよ」


 足元のがれきを剣風で吹き飛ばし、影沼に切っ先を突き付ける。


「……拓海、こいつは僕に任せろ」


「健司……だが…………」


「今ならまだ、ゼクスに追いつく…………追いつけなくても、()()()()()()()()()()?」


 こいつ……やっぱり俺の奥義の性質を一度剣を交えただけで気づいたのか。


 俺は強く頷き、ゼクスを追いかけようとする。


「いやー。そいつの相手はタクミくんだしー。アタシが相手してやるから……サクッと死んじゃえよ」


「っ!!」


 健司の剣はヨーヨーのヒモに絡まり、そのまま上空に引っ張りあげられる。数十メートルほどあげられた後、拘束は解放され、剣とともに健司もキリモミしながら彼方へ吹っ飛ばされそうになる。


「っ! 健司っ!!」


「ちぃっ!! 豪雷・仙空陣っ!!」


 その技の名を放つと、剣が三本に分かれて分離し左右に分かたれた二つの剣を掴み、ジェット噴射のように炎を吹き出してその勢いで、体制を整え空中制御する。……ってかあの剣って飛行能力もあるのか。


 そして、そのまま流れるように次の技に移行。炎雷を込めた二つの剣を使って右回りに回転させてそのヨーヨーを放った女を切りつける。


「おっ?」


 バックステップで避けられるも、さらに回転する健司は攻める。


「うっ? ほあっ!?」


 余裕をかましてた女も、次第に余裕がなくなってきたのか焦りの色が見え始める。


「こんのっ……いい加減にっ……あぐっ!!!」


 気がついたら、彼女の右肩には健司が放った三本目の剣が背後から刺さっていた。いつのまにか三本目を彼女の背後に回してた健司は、派手な二刀流で気を引いて彼女を三本目の間合いに誘い込んだのだ。


 そして、その回転のまま彼女を切り刻んで行く。


「豪雷・炎竜閃」


 トドメとばかりに打ち下ろした剣撃は、彼女のヨーヨーのヒモの入るスリットという隙間で見事に静止していた。


「っぶなー……。もうちょっとで死ぬところだったじゃんかー」


「あの程度で死ぬ相手だったら……桜乃ちゃんがやられるわけがないだろ。フレイア=マルス」


 フレイアはバックステップでともかく健司の間合いを取り、ボクサーのようにステップを踏む。


「いやー、思った以上にやるねー。健司くん……こりゃアタシも本気ださなきゃかな?」


 左右に持ったヨーヨーをぐるりと縦に大きく回して、まるで戦闘を遊びのように楽しんでいた。


「……お前に一つ聞きたい。なぜ桜乃ちゃんや師匠を襲った?」


「あれ? 桜乃ちゃんから聞いてないかな? ……アンタが余計なことをするからだよ」


「だったら、僕を襲えばよかったはず……桜乃ちゃんを襲う必要性はなかった」


 そういうと、フレイアはニヤリと笑った。


「そうだね……アンタと桜乃ちゃん仲良さそうだからさぁ……切ったら面白そうだなーってさ」


「…………すまない拓海。僕はこいつを止めるっ」


 その言葉を聞いた健司はそのまま消え、瞬間移動のようにフレイアに斬りかかった。


「健司っ!!」


 俺が助けに入ろうとするが、漆黒の腕と閃光の弾丸がそれを阻む。


「セナっ……影沼っ……ちぃ!!」


 その攻撃を弾いていき、次第に健司との距離が開いていく。……仕方ない、フレイアは健司に任せるか。


「落ちなさいっ!!」


 俺がセナのレーザー系の攻撃を連続ではじく、その隙をディーがついてセナを襲う。


「っ……ウンディーネ……キサマァ!!」


 何とか回避したセナは鬼の形相でディーを睨みつける。


「タクミ……あんたはさっさと、その影沼ってやつを倒しなさいっ!!」


 水の剣を流麗に操り、その切っ先を上空の翼人を指し示す。


「あんたの相手は私よ……そもそも、あんたの復讐の相手は私でしょ」


「……そうだ……貴様が姉様を殺したぁ!!」


 無数の閃光がディーを襲うがその全てを水の刃ではじきかえす。


「……そう、確かに私は賢者スピカ……あなたのお姉さんを見殺しにして、その恋人のスサノオすら手にかけた。私は……その罪を償わなければならない……あなたを止めることが、私の償いなんだ」


 さらに激しくなる攻撃で蒸発した水で雲が発生し始める。目の前が見えなくなった俺は嫌な予感がして後方に逃げるっ!!


「ぐっ!!」


 激しすぎる轟音とともに爆発が起きる。……思った通り水蒸気爆発が起きた。その爆風で吹っ飛ばされそうになる。


「すきぃあぁりぃいいいいいいぃぃぃぃ!!!!」


 その隙を見逃さなかった影沼の右腕が剣となり、俺の胸を貫こうと向かう。俺は剣を構えてそれを弾こうとするが、その腕は俺に届く前に弾かれた。


 俺の目の前に現れた銀髪の流れるような髪……だが、その人物はここにはいないはずだった。


「……タクミ……無銘が守る」


「無銘っ!?」


 ……無銘は猫獣人族の里に置いてきたはずなのに……ついてきたのかっ!?


「……きひっ……きひやぁやははははははははあはははははは!!! さっきあんだけゼクスに説明されたってのに女連れかぁ!? それともオレ様に餌を用意してくれたのかぁ!?」


 無銘は無表情の顔に確かな怒りを込めて、短剣を構える。


「だめだ無銘!! 下がれっ!!」


「下がるのは君だよっ!! タクミくん!!!」


 さらにもう一人割り込み、無銘に伸びた影ノ手を弾いた。


「光栄に思いなよ……異世界の主人公……君はこの世界の創造神が、直々に相手してやるよ……娘には指一本触れさせない」


 帽子に着いたホコリを払い、もう一度かぶり直す。だが……そいつは本来この世界(ゲーム)にはいないはずの存在。


「アトゥム……お前っ」


「大丈夫だ……僕は何があっても無銘……いや、早紀ちゃんを守る」


 アトゥムの目は真剣だ……。創造神はそのルールにより世界への干渉が制限されている。もし……ここで影沼を倒したとしても、その後どうなるかはわからない。


「やめろっ!! お前はこの世界に干渉しすぎてはいけない……わかってるだろっ!!」


「命ならとうの昔に賭けているさ……あの日、君のお母さんとともにね」


「っ……お前…………」


 ……そうだった。こいつは……あの日過去に飛ぼうとした時から、ずっと命をかけて戦ってきたんだ。


「お願いよ……タクミくん。私達の最期の願い……叶えさせて」


 母親として……その願いを聞かされた俺は強くうなづきゼクスの後を追う。




 随分走った。ゼクスの気配はすぐそこまでに来ているのに、未だに本人は見つからない。


「くそっ……一体どこに––––––––––」






 ––––––––––死ね。





「っ!!」


 一瞬現れた殺気になんとか防御が間に合った。刹那のタイミングで、間に合わなければ俺は……間違いなく死んでいた。


「な……何なんだこいつは」


 その男は全身を漆黒の鎧で包んでいた。見たこともない黒騎士はどす黒い闇のオーラを纏って、恨み近いほどの怒りを纏っていた。


 その視線は赤々と光り、殺意に満ち溢れていた。奴の吐息とともに、重くどす黒いスモッグのような覇気が奴の体を包んでいく。


「結城……拓海…………」


 なんだ……この異常な殺気は…………。


「オレは……貴様を許さない」


 今までの敵とは何かが違う……明らかな俺への恨み。俺への殺気。


「ぐっ!!」


 この黒騎士の正体を探る暇もなく、再び剣を交わらせる。圧倒されて連撃を防ぐので精一杯だ。とにかく距離をとって体制を立て直さないと……。


 だが、距離を取ると一瞬で間合いを詰めてくる。言葉すらかわす余裕がなくなり、剣を思いっきり弾いて強引に引き剥がそうとする。だが、それでも、まるで捕食対象を見つけた獣のように獰猛に襲いかかってくる。


「このぉ!!」


 袈裟切りを回避したところで脇にある鎧の隙間を狙う。だが、デタラメなスピードで回避し逆に回転して俺の胴を狙ってくる。その剣をはらい落とすと、左の正拳突きが俺の腹のをえぐる。


「ぐっ……このやろうっ!!」


 追撃で放たれた打ち下ろしの側面を狙い、武器破壊を––––––––––。


「––––––––え?」


 その恐ろしい感覚に俺は一足で距離をとった。刹那、相手の剣は俺の前髪をすこし切るほどにギリギリを通り過ぎる。


 ––––––なんだ今の感覚は……俺は、こいつの剣を……知ってる?


「許さない……オレは貴様を許さない……」


「なんだ……一体お前は誰なんだっ…………」




 剣は再び交わされる……。それぞれの宿命に決着をつけるため––––––––。

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