第八十三話「邪悪な笑み」
「なんだ……あれは……」
巨大ロボット……いや、大きすぎる。何十メートルもの大きさで巨大な箱型のミサイルランチャーが二機装着されてる。
あの中に……核ミサイルが搭載されているとすれば……一体いくつあるんだっ!?
「っ……!!」
俺は風の加護の力をフル稼働し、ミサイルランチャーに狙いを定める。
「飛翔旋っ!!!」
鋭利な空気の刃で、ランチャー一機は完全に切断され、地に落ちた。
「……なっ!?」
……別のランチャーで攻撃してくると予想し、風の加護で防御体制を整えていたが……切れた端からランチャーは新たに生成された。
「言ったでしょう。結城拓海……この機械人形は姉様の脳を持っていると」
「……何が言いたい……まさかあの中にスピカがいると言うのかっ!?」
そのとき、少年のような高笑いとともに、下卑た笑みを浮かべた男が落雷の光とともに現れた。
「わからねぇのかよ……ユウキせんぱぁーいぃ!?」
そいつは零だった……ゼクス=オリジン……最初の神の現実世界の姿。
服はただの白Tシャツにジーンズというカジュアルなものだった。どう見ても、神には見えない。
「な……なんなのあの男は」
ディーが浮遊しているその男に戦慄している。見た目は対して害はない。だが、その異常な威圧感は見た目ではわからないほどのオーラを放っていた。
「ゼクス=オリジン……あれが、最初の神だ」
「そんな馬鹿なっ!! 連王アーノルドはあんなに若くないし、見た目も全然違うじゃない」
ディーのその言葉に口が避けるほど“ニィィ”っと笑い、蔑むように見下ろす。
「この顔の事かぁ!?」
顔を右手で隠し、それをゆっくりと仮面を引き剥がすかのように右に動かしていく。
「っ!! ……そんな…………」
中途半端に左半分の一部だけが、老いた男の顔になった。髪も瞳もアトゥムに聞いた通りの銀色。おそらく、あれが連王時代の顔なのだろう。
「ったりめーだろ……オレに形はない。テメェらが呆れるくらいの時間を生きてんだからよぉ」
それこそ地球以上……いや、下手すれば宇宙以上の年齢だ。そんなものじいさんなんて年齢とっくに超えている。
「……お前の性格も作られたものって事か?」
「ああ。こうやってお前ら人間で遊んでんだ––––––ワシほどの年になっても、お主ら人の無様な姿は見ていて楽しくてのう––––––つい、遊んじゃうのよねー。ほんっと人間って面白いおもちゃだわ」
「なっ––––––」
性格がコロコロと豹変した……いや、それだけじゃない。声も姿もさまざまな形に変わっていった。零という青年からアーノルド時代の顔……そして、ケバい女子高生ギャルのような姿へと変わり、さらに次々と変身するスライムのように形を変えて変化していく。
「僕には形なんてない……だからこのクソ生意気な創造神の顔にもなれるんだよ? ––––––タクミさぁーーん!! 私は性格も完璧にコピー出来るんですよぉーー? 私、すごいです!」
アトゥムになったと思ったらペルにも変化した……。っ!!
「タクミ。……どうして私を見殺しにしたの?」
「す……スピカ……」
その化け物はスピカの姿になった。実際には完全な別人とわかってても切なくなる。
「ひどいじゃない……私信じてたんだよ? タクミが助けてくれるって…………」
スピカの形をしたものが、ポケットから拳銃を取り出し、こめかみに銃口をあてがう。
「テメェは……っ」
躊躇せずニヤリと笑いながら引き金を引き、たやすくスピカの形をした顔は弾丸に貫通される。
––––––––だが、違和感がある。血は吹き出ずに、思った以上に軽い音。
––––––––––まるで、中身がないように……。
「……返して? 私の脳味噌」
ぎょろりと目だけをこちらに向け、狂気を孕んだ笑みでこちらを見下ろしていた。
「ど……どういう……ことだ?」
再び零の姿に変わったそいつは俺の問いに、笑いをこらえようともせずゲラゲラと笑っている。
「お前の推理……オレが気づいていないとでも思ったのかぁ〜〜?」
「……零っ……お前っ」
「……オレは常にテメェらを監視していたんだよ……先輩がスピカを使って最強のラスボスを作りあげ……世界を破壊すること……そう言う運命を描いていることにお前らが気づいていた事……オレはとっくの昔に知っていた」
ずっと……監視されていた?
「そう……ずっと見ていたんだよ……ディーの目を使ってね」
「っ!? ……しまった……そ、そう言うことかっ!!」
ディーはスサノオの死の直前まで彼のパーティだった。だから、ディーは絶対支配能力には操れないが、視点は確保されていたのかっ。
「そ……そんな……わ、私の目…………? だったら……私は…………私はいったい何のために…………」
ショックを受け、地に伏せるディー。
「そう……今までは確かに、スピカ=フランシェルは殺してなかった……別にその必要性がなかったからな…………」
殺す必要性が……ない?
「つまり……殺す必要性ができたってことだよ……テメェらがスピカ救出なんて考えるからなっ!!!」
––––––––え?
––––––––––––今なんて言った?
「わかんねーか? なんでオレたちがわざわざ現実世界に行ったか……必要だったんだよ。現実世界じゃないとスピカは殺せねーっつーのもあるんだがよ……。もう一つ大切な用事がなぁ…………ソウルプラズム、それさえあればスキルの使用は可能だからなぁ」
は?
何言ってんだこいつ?
「ティエアの医療技術は発展してねぇからなぁ……綺麗に取り出せないだろ?」
嘘だろ…………?
嘘だと言ってくれ………………?
「星井早紀の……脳味噌がさぁ!!!」
––––––––––スピカは……早紀は……もう死んでる?
ふと見上げる。そのロボットには確かに培養液に入った何かがある。
肌色というよりピンク色。腸の塊にも見えたが、それがその肉のシワであることがわかる。
あれが……スピカ?
––––––––––終わった。
これで、何もかも終わり––––––––––。
この、機械人形を止めるすべは……もうない。俺も……あの機械人形を倒すことなんてできない。
スピカ…………早紀も……もういない。俺は……守れなかったんだ。
「おいっ!! タクミっ!! しっかりしろっ!! せめてスピカを止めるんだっ!!」
そんなことに、なんの意味がある?
あいつがいない世界で……生きる意味があるのか?
「ざんねぇーん!! もう終わりなんだよ……全部消し飛ばしてやるよ…………」
その男は、高らかに宣言し……。
ことさら邪悪な笑みで…………。
俺は笑った。
「……な……にが?」
「クククっ…………」
すっげぇ間抜け面。
わけわかんねーだろ?
何が起こったのかわかんねーって……こんなの聞いてないって……。
仮にも最古の神ともあろうものが、無様で間抜けな姿を晒して殴られた頰を手で抑えている。
「勘違いすんじゃねーよ最初の神……ラスボスっつーのはさ。プレイヤーに攻撃するもんだろうが」
「ば……馬鹿な……こんなはずがあるわけがない」
そう……あのロボットが攻撃したのは……ゼクスだ。
「よく認識しろよジジィ……このゲームはテメェ望んだ異世界じゃねぇ……テメェが死ぬかこの世界が滅びるかのクソゲーだ」
強烈に歪んだ神の怒りの顔は、むしろ滑稽で笑えてくる。
「テメェは全てを見通し、なんでも思い通りに操れる万能の神と思っていたのだろうが……テメェはただの起点にすぎない。その価値はすでにない。テメェは……チートコードで無双できると勘違いした……矮小なクソザコチーターにすぎねーんだよ」
「きさまぁ……っ!!」
「ボケた頭でしっかり認識しろ最古の神……俺は神を殺す者……結城拓海だ」




