剣の石像
「行くぞこら、離れろ!」
柄に手をかけて引っ張るが、身をよじるようにして俺の手を振り払う神の剣。その刀身はキョウシちゃんの足を模した巨大な像に擦り付けられている。
なんだろう、この石像は……?神の剣が作ったのだろうか、元からあったとは考えづらい。俺は青白く光る剣をかざしてその像を見上げる、うん、いい出来だ。石像でありながら肌の柔らかさや立体感が良く再現されている。小さいのがあれば俺も一つ枕元に置きたいところだ。いや、この大きさも中々悪くは無い。
剣はそんな気持ちに応えてくれるのか、光を少し大きくする。ありがたいが、もっと大きな明りで拝みたいものだ。
ちなみに、布はさっさと燃え尽きた。あれだけの火で二人は俺に何をさせたかったのだろう。それは分からないが、結果的にはその物体が俺をゴールへと導いた事になる。結果オーライ?
「ちょっ……、え?」
光を更に強くして、剣は石像に吸い寄せられるようにその刀身を擦り付けていた。俺の剣と同じようにキョウシちゃんの足……、いや石像の足を相手に前後運動を開始する。
気付けばオッサンも!?いや、キョウシちゃんの神の剣とその付属物もだ。三本の剣とその付属物がリンクするような動きで石像にその身を擦り付けている。一体何が起こっているんだ……。
あ、そうか。答えは簡単だ、おそらくこの石像は砥石なのだろう、いつかの石の化け物と同じような巨大な砥石。それがなぜこんな場所にあるのか、これが一体誰の望みなのか。それは分からないが、剣たちがその体を擦り付けているのは砥石だからという理由だけであって、決して何か卑猥な行為ではない。そうだ、全く卑猥ではない!
金属の擦れる音と青白い光に下から照らされた女体の立像……、三本の剣がそれぞれ手足や胴周りで前後運動を繰り返している。一本は全裸のオッサンをぶら下げて。
なんだこれは、俺は一度としてこんな絵を望んではいないぞ。悪くはないが。でも、ダメだ、とりあえずこの絵は色々とダメだ。
「行くぞ神の剣!いい加減に離れろ!」
無理やり剣を引き剥がそうとするが、全く言う事を聞こうとしない。誰が主人なのか完全に忘れてしまっているようだ、まぁこれは前からか。
しかしこのまま放っておけばこいつらはずっとこうしているのだろう、俺の剣がそうであったように。一体、いつからこうやっているのか……。まぁお陰で塩水の影響はないようで、サビもせずにピカピカのようだ。
どうなのだろう、それだけ研げばさすがにすり減るんじゃないの?この剣にそんな理屈が通用するかは分からないが。それに反して砥石の方は徐々に削られているようだ、衣服の嵩が減っているのが分かる。それならもっと減らした方が喜ぶ部位が、キョウシちゃん的にはあると思われるのだが。
そういう話なら俺的にも色々と提案したい……が、いつまでこんな場所に居るつもりだ。こんな暗闇はもう嫌だ、俺は太陽の下に出たい。例えそれが偽物であったとしても。
その為にもこいつらの力が必要だ。少なくとも穴を掘れる俺の剣は重要なのだが、そいつが先導してこの卑猥な運動を行っているからたちが悪い。金属の擦れ合う音がやましい音にしか聞こえなくなっている。
このままではまずい、色んな意味で。早く止めさせねば……!
「神の剣、手伝ってくれ!……えっと、キョウシちゃんとジョーシさんのね?」
俺の剣をこの像から突き放す為に他の剣の力を借りる。同じ神の剣同士だから、きっと二対一なら何とかなるはず。しかしそんな声に反応する剣は、一つとして無かった……。
剣たちは嬉々として(少なくとも俺にはそう見えた)キョウシちゃんの石像相手に前後運動を繰り返していて、それに終わりがあるようには思えなかった。ああ、無力。
今頃、姉妹はどうしているだろう。またも上を見上げるが、ゴマのような光しかない。仮に姉妹がそこに居ても何も出来はしないだろう。
剣が無ければ降りる方法もない。どれだけ長い縄があればここまで届くのか……、とても遠くに居るというのに、なぜかキョウシちゃんだけは直ぐ近くに居る気がした。金属の擦れ合う音と共に……。
助けてキョウシちゃん、ジョーシさん、ヨージョさま……。非力な自分を実感する、自分の剣ですら思い通りにならない、何が救世主だ。
なんだかどうでも良くなった俺は冷たい地面に横になる、色々あって疲れたのだ。寝たところでどうにかなるもんじゃないのは分かっているが、眠いんだから寝かせてくれよ。俺は静かに目を閉じると一気にまどろみが押し寄せた──。
何かの光に気が付いて目が覚める。耳の中にはもはや子守唄と化した金属の擦れる音がする。
剣の発する青白い光、それとは違った別の光。どうやらそれは俺の顔の少し先、地面の中から湧き出しているようだった。
俺は夢を見ているのだろうか?それともまたヨージョさまが何か手を貸して下さったのだろうか。目覚めの気だるさが温かい何かに変わっていく。
光は徐々に大きくなっていく、ああ、ありがたやありがたや……。背後にあるキョウシちゃんの石像には申し訳ないが、俺の心は既にヨージョさまに足蹴にされたい気持ちで一杯だった。いや、感謝の気持ちで一杯だった。
そして光の中からスッと顔を出したのは、光り輝くキョウシちゃんだった。
「……へ?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げる、ヨージョさまだと思ったらキョウシちゃんだった。これじゃあ真逆じゃないか、……真逆?
近くにいるとは感じていたが、それは俺の背後にある石像の事で。まさかそれが本当に近くに居るなんて。やはりこれは夢か。
もしかして俺がまたキョウシちゃんを作り出してしまったのだろうか?いつかのように。
今、俺の目の前に居るキョウシちゃんもその時と同じ様に光を発している。じゃあこれは俺の願望……、またやってしまったか。
キョウシちゃんはそのまま立ち上がるように首から上半身を浮かび上がらせ、口を開いた。
「……何よこれ」
その光り輝くキョウシちゃんは、俺の願望であるのにも関わらず険しく眉をひそめ、露骨な不快感をその顔面で表明すると鋭い声で叫んだ。
「神の剣!!」
その声に卑猥な前後運動を繰り返していた剣たちの動きが止まる、横になっていた俺も思わず正座になる。
違う、これ願望じゃない。願望じゃないとしたら……。
キョウシちゃんが両手を使って地面から這い出る。そして沸き出る光を放置して石像の方へ走っていく。その姿を確認すると、俺の剣はキョウシちゃんと石像とを見比べるように剣先を向けると、こっちが本物!とでも言うかのようにキョウシちゃんに飛びついた。が、その剣が地面を転がる。
今の一瞬に何があったのか……?キョウシちゃんが手の平を体の前で構えている。もしかしてその手刀で落としたのだろうか、飛び掛る剣の速度は相当なものだと思われたがそれをこの子はその手で。しかもこんな暗がりで……。もはや人間技ではない。
キョウシちゃんはそのままジョーシさんの剣の柄を握り、その光りを見て感心するようにフーンと言うと、自分の剣とその付属品を放置して俺の剣を手に取った。
「あったわよ、剣が三本とも。でも救世主さまはどこかしら」
「……え?」
なぜかスルーされている俺、寝ている間に見えなくなったのだろうか。それとも既に死んでる?
そんな俺の前に大きな光が現れる。キョウシちゃんが沸いて出た場所から大きな光が……、細い手に握られた化け物の顔が姿を現した。
「うわあ!?」




