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剣の穴の中

「ちょっと暗いからその明り俺に貸してくれないかな、キョウシちゃん」

「はーい、これ救世主さまに回して」

「分かりました。……どうぞ」


 穴は同じ大きさで続いていたが、四つん這いでなんとか通れるぐらいに狭かった。そしてなぜか俺を先頭にしてジョーシさん、キョウシちゃんと続いていた。

 この順番だと先で何かあった時に対応できない。しかし、そんな計画性もなく飛び込んで来たのだから仕方がない。この順番はさっきの空洞を離れたい順番といったところなのだろう。

 ジョーシさんから明りを受け取ると前方にかざす。


「先は何も見えないな……」

「ずっとこの姿勢で進むんですか?さすがにきつそうですね」

「あそこで待ってれば良かったのに」


 それを避けたかったから来たんですよ、とはさすがに言えない。

 そんなに半分になったあれを見ていたいのか……。確かに美しいものだったが俺が見ていたポイントとは違うのだろう。再びキョウシちゃんの満面の笑みが浮かびゾッとする。


「……プッ、あなたってばさ。まだその下着使ってたの?」

「ちょっ……!やめて下さい姉さん」

「わざとじゃないのよ?この子が爪を引っ掛けちゃってさ」

「……」


 背後で何かが始まっていた。俺は全神経を耳に集中する。

 手やローブを擦る音に混じって子猫の足音がする。当然連れて来たのだろうが、こんな狭い場所で遊び回られたらたまったものではない。

 しかしさすがはキョウシちゃん、見えないが上手く誘導しているらしい。

 で、その下着の色や形について詳しくお願いします。


「衣類なんていくらでも貰えるでしょ?そんな古びたの使わなくても」

「ほっといて下さい、ボクはこれがいいんです」

「何が?そのツギハギとかほつれが?」


 思った以上に色っぽくなかった、女性としてもヘッポコなのかジョーシさんは……。

 俺は首だけで背後を見、哀れみの視線を送る。ジョーシさんは背後が気になっているようで俺の視線には気づかない。

 その時、俺は心に何か引っかかりを感じた。


「お守りみたいなものです、これは」

「お守り……?」


 子供の頃にしたらしい布教の旅、その時の物だろうか。だとしたら一体何年履いているんだ……、それは下着というよりもう一人のジョーシさんじゃないか。それはそれで凄いぞ!

 捨てる時は引き取ります。


「家族が一緒に居られた時の物です。身につける物でそういうのが一つは欲しかったので……」

「……そっか、笑ってごめん」

「いえ……」


 変な妄想してごめんなさい。思ったよりしんみりした話でした。


「ねぇ、戻りたい?あの頃に」

「……そう言われると分からなくなりますね。でも、それを目的にして動いているんじゃなかったんですか?」

「最初はね。でも、今は違うかなー。なんていうか、今は自分が必要とされてるって気がする。自分の為でしかなかった剣の腕が誰かの為に使えるっていうのが分かって、ちょっと楽しいかな」


 その力に振り回されている身としては素直に感心できないが、この騒動で変わったのは俺の人生だけではなかったようだ。

 いや、十分自分の為に力を使ってますよ?と言いたいところだが、ここはグッと我慢する。

 すると俺の中の引っかかりが少し大きくなったようだった。


「それに随分自由になったからね。教団の為教団の為……、そんな事を言う人は今は周りに居ないし。あなたも案外そう感じてるんじゃないの?」

「ボクは……ボクは自分が帰る場所の為に旅をしている。これはずっと変わってないと思います」


 悲しい旅人の(さが)がそこにはあった。果たしてその場所はあるのだろうか、そして見つかるのだろうか。

 旅に出る時のジョーシさんはとても幸せそうに見えたのに、それを彼女は幸福と感じていないのだ。

 求めるものがあるから旅に出て、その旅の中にある幸せに気付かない。それがこの子の行動原理だというなら俺が何も言う事はない、……のだろうか?

 にしても、教団の為教団の為と言う人間が居なくなったのに、結局教団の為に動いている辺りがこの二人の生真面目さというか、切っても切れない因縁を感じる。


「じゃあさ、救世主さまは?」

「……はい?」

「話聞いてなかったの?今の暮らしと前の生活のどっちがいいかって話」

「ああ……」


 完全に空気と化していたので急に話を振られ驚いてしまった。耳に集中していた神経よ帰って来い。

 しかし何を考える必要があるのか、答えはもう決まっていた。


「今の方がいい、絶対いい」

「ふーん……、んふ」

「へぇ……、ふひ」


 背後で何やら気持ちの悪い声が聞こえる。変な事を言ってしまっただろうか、それらは徐々に姉妹の笑い声に変わっていった。


「そりゃそうよね、だってこんな美人の姉妹と一緒に居れるんだもの、幸せに決まってるわよね!」

「あー、えー……。ボクは黙秘します」

「なんでよ、言ってやりなさいよ!下心丸出しの目で見るなって!」

「姉さん!」

「げっ!?」


 バレてました……?もうヤダ、空気になりたい。しかも今の口ぶりだとジョーシさんが相談していたように聞こえる。もうダメ、お婿に行けない。

 そんなの、だって、仕方がないだろう。ずっと一緒に居るんだ、朝も夜も。見ようと思って無くても自然と目が引き寄せられる。一体そんな俺の何が悪いって言うんだ!


「……以降、気をつけます」

「え、何を?男ってそういうものなんでしょ?」


 随分理解のある発言で。しかしその言葉の裏にはヨージョさまとその下僕の関係が隠されているのだと思うとゾッとする。この子たちは特殊な事例しか知らないのだ。

 特殊?じゃあ普通の男女関係とはなんだろう。……エロい目でジロジロ見られる事でいいんじゃないかな。うーん……あ。


「ちょ、ちょっと、急に止まらないでよ!」

「どうしたんですか?救世主さん」

「いてて……」


 何かを鼻先に突きつけられた気がした。が、それは気のせいで、壁に額をぶつけただけだった。前も見ずに進むからだ。

 壁?という事は行き止まり。なんて事もなく、直ぐ横を見ると穴が続いていた。直角に折れ曲がっている。

 そしてその先には光があった……。

ストックが切れたのでちょっと更新が遅れると思います。

後、内容も薄くなると思われまぎゃー!

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