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剣の前後運動

 例えば2メートルを越える巨大な子供が生まれたとして、やはりそれは子供と言うしかなく。仮に大供なんて名付けてみたところで子供と同じ扱いをせねばならない。つまり、大きかろうが子供は子供だ。

 しかしそれが10メートルを越える大きさを持ち、しかも自分の家がその子供を収納するのに十分な空間を持たなかった時、その扱いは変わってしまう。

 そう、今の状況のように……。


「逃げましょう!」

「……そうだ、逃げよう!」

「え、なんで?」

「うにゃああおう!」


 最初に声を発したのはジョーシさんだった、俺の思考が現実に戻る。

 更に大きくなる子猫を前に、未だに足並みの揃わないキョウシちゃんの腕を取り、無理やりこの場から逃亡し……出来ない。キョウシちゃんが俺の手を振りほどいてしまう。


「元気になったの、凄く元気になったの!」

「キョウシちゃん、それは分かったから今は自分の身の安全だ!」

「このままでは押しつぶされてしまいますよ」

「あっ……」


 子猫を見上げ沈黙するキョウシちゃん、さすがに状況が理解できたようだ。

 再度その腕を取り、急いでこの場から逃亡し……出来ない。キョウシちゃんが俺の手を、今度は引っぱたいた……。


「ぶにゃあああおお!」

「そうよ、このままじゃ押しつぶされちゃう。何とかしなきゃ……」

「へ?」

「……姉さん?」


 子猫を前に考え込むキョウシちゃん、さすがのジョーシさんも呆れたようだ。どうやら大きくなっていく子猫が壁に押しつぶされないか心配しているらしい。

 ……無理やりフォローをすると、なんて子猫想いなんだこの子は!やってられるかちくしょう!


 また子猫に取り憑かれたんじゃないかと疑ってしまう、それほどに可愛いものが大事なのか。……いや、大事なのだ。多少常軌を逸しているが、この強くて孤独な女の子にとっては自分の身よりも優先すべきものなのだ。

 そしてそれがキョウシちゃんにとって大事なものなら……、守らねば。


「猫の間……、この先の空洞にこいつを移動する。二人は先に行っててくれ!」

「救世主さん!?」

「え……」


 素っ頓狂な声を上げるジョーシさん、その気持ちは良く分かる。俺はとんだ世迷言を口にしている、その自覚はある。

 しかしキョウシちゃんの反応は少し違った。

 初めて俺の顔を見たかのように呆然とした表情で俺を見つめ、柔らかい笑みを浮かべ真っ直ぐ俺に一言──。


「あり、がとう」

「……」


 その無防備な笑顔で俺の心は溶けるかと思った。いや、溶けた、とろけた。

 なぜだか赤面してしまった顔を隠す、赤面なんて何年ぶりだ。そんな俺の前をジョーシさんに腕を取られ、キョウシちゃんが走っていく。

 今ならなんにもでも勝てる気がした、矢でも大砲でも降ってきやがれ!そうか、死ぬなら今だ。今死ねれば文句ない、さぁやってくれ!

 そんな男らしいようなそうでもないような決心をするが、その顔は異常ににやけていた。


「んだよもう、可愛いなぁこんちくしょう!」

「ぶにゃあうにゃあああ!」


 俺の声に反応して奇妙な声を上げる子猫。それは更に大きくなり、まるで巨大な袋……そう、巨大な猫袋と化していた。

 俺はその猫袋の背後に回り込み、力一杯両手で押す。意外にもズリズリと音を鳴らしてその袋は動き出した。


 いける、見た目に反して重くない。手ごたえを感じた俺は更に両手に力を込める。ズリズリズリ、少しずつ少しずつ、それは前へ進んでいった。だがいかんせん、俺の手も肉の中に埋まっていく。

 その感覚はいつかの肉だ、肉の波。それに毛が生えたもの。つかみどころがないような肉の塊を押していく、がどうしても力が逃げてしまう。

 平べったい板か何かで押したかったが、当然ながらそんな物はなく、毛が生えたお○ぱいに頭ごと突っ込んで押す、押す。オッス!俺救世主!


「ぬわおおぉおん!」


 それは奇妙な感覚だった。とっくに俺の背丈を越えて大きくなった肉袋に、両手と腕と顔と胸まで密着させて押し進んでいく。その妙な柔らかさと暖かさと毛並みの良さに、目をつむった俺の脳はキョウシちゃんの笑顔を繰り返し映し出す。

 全力で全身に力を込めながら、息苦しさにあえいでいながらも俺は快楽に似た何かを感じ出していた。肉の中に押し込まれる体、それは適度な反動を持って俺の体を包み込む。そしてむせ返るような熱。


「ぶはっ!」


 窒息しないように何度も頭も向きを変えながら猫袋を押して行く、そんな俺は徐々にこの肉袋に愛着を感じ始めていた。

 ああ、キョウシちゃんキョウシちゃん。違うんだこれは君を想ってやっているだけで、決して変な事をしている訳ではないんだ。ああ、キョウシちゃんキョウシちゃんキョウシちゃん……。

 巨大な肉袋はズリズリと音を立て進んでいく、そして俺はその全身を肉の中に押し込んで肉はそれを包み込みまた押し返す。


「ぶっ……は」


 どれだけその行為は続いたのだろう、体中が熱と快楽にむせ返っている。流れる汗に問いかける、俺は一体何をしているのか……?

 脳裏にあったキョウシちゃんの笑顔は既に消え、どうにもならない肉への欲望だけが俺を突き動かしている。


「んのおぉおーん!」

「ふふふ、可愛い奴め……」


 俺の脳が天国に辿り着こうとするその時だった。強く押した俺の全身がその反動を待ちわびて無防備になる、快楽を待ちわびる。だがその期待も虚しく猫袋は俺を残して前へ転がっていってしまった。

 どうして……?行かないで!

 この運動に夢中になっていた俺は、その急な離別を理解できないまま力尽きたように倒れこんだ。


「救世主さん、大丈夫ですか?」

「はぁっ……はぁっ……、天国にゃぁ」

「……ダメみたいですね」


 近くにジョーシさんが居るらしいが暗くて見えない。どうやら猫の間まで辿り着いたらしいが、そんな事はどうでも良かった。

 顔を上げ愛しい猫袋を目で探す。空洞の先で揺れ動く光と共ににあったそれは、この少しの間で随分小さく見えた。……いや、小さくではない、低いだけだ。横幅はまだ広がって見える。……という事は?


「ちょわー!」

「救世主さんの剣という事にして、姉に少し使って貰っています。……ボクもあの肉球は嫌いじゃないので」


 この奇声は間違いなくキョウシちゃん、そしてその声は下から響いている。つまりは掘ったのか、猫袋が入るのに十分な大きさがこの空洞にないと知ってキョウシちゃんが穴を……。そしてその地盤沈下はまだ続いているらしい。

 一体どこからそんな行動力が出て来るのか、呆れるような気持ちで立ち上がる。


「あっ、無理しないで下さい」

「……おとっ」


 体に全く力が入らない。体の軸が抜けたようにヘナヘナと膝をつく、すると駆け寄ってくれたらしいジョーシさんの体と接触する。

 それは腕と腕が当たったような僅かなものだったが、俺の体に電流が走った。


「ふ、触れるな!離れてくれ」

「……救世主さん?どうかしたんですか」

「……今、俺の体に触れたら」

「触れたら……?」

「ゴー・トゥ・ヘブン」

「ごうつぅ……?」


 Go To Heaven.それは成仏や天国に行くという意味。そして俺が今言った意味は……、そのままの意味です、きっと。


 猫袋との熱く甘美な時間のせいで、俺の体は全身が性感帯と化していた。そしてひどく汗まみれだ。

 どうしよう、こんな状態では何も出来ない。それどころが、触れるものみな粘つかせてしまう。俺は一体どうしたら……?


「それはボクがあの世に送られるという意味ですか?それとも──」

「いや、そこは詳しく追求しないで。そんな事より猫袋……、いや肉球だ!」

「はぁ……」


 そう、さっきジョーシさんが口にした時なにかに気付いた。猫袋のあの感触はいつかの肉の波、波のように押しては返す甘美な体験……じゃなくて、明らかに子猫の物ではなかった。


「そう、あの感触はモフもフではない。おっ○いの感触だ!」

「……はい」

「あっ、いや……そういう事じゃなくて!」

「やっぱりダメみたいですね」

「……ごめん」


 こんな事態に俺の脳は猫袋という天国から戻って来ていないようだった。

 なんとも不甲斐ない……。

これが表現的にアウトじゃないっていうのが不思議です。

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