信仰の剣
俺が投げた神の剣が錆人間を襲う。
右から左へ、
俺の手の動きに合わせて、
斬る!
今度は左から右・・・じゃ無かった左へ、
斬る!
次々と錆人間どもを斬・・・らない!
一周回って切り下ろ、すように見せかけてー、
斬る!あれ?斬れよ!
「何やってるんですか救世主様」
それを見ていたキョウシちゃんが冷たい目で言う。
「いや・・・、俺が剣を操ってる感じに見えないかなと」
「呪われた剣に踊らされるみたいでしたよ」
「そっか・・・」
寂しさ一杯の目で遠くを見る、
そこには雲を突っ切り山に刺さった巨大な剣の姿
持ち主である俺を放置して、楽しそうに錆人間を切り刻むそれと同じ形をした剣。
人はそれを神の剣と呼んだ。
一通りの狼藉を終えて戻って来る剣、
まるでよく懐いた犬だ。
そう、俺は救世主。
神の剣に選ばれた男。
心が寂しい・・・。
「次の目的地ですが、火山地帯に決まりました」
数日前のこのキョウシちゃんの言葉により、俺たちは新たな目的地へ向かっている。
俺の足は重かったが、なぜか速度は上がった。
剣が俺を引っ張って進んでいくのだ。
「ほんと何なんだこの剣は・・・気持ち悪」
「救世主様、我々の信仰の対象をそのように言われては困ります」
・・・一周回って可愛いと言えなくもない。
「奇跡です。神の剣は奇跡により命があるかのように動き回られているのです。神の神秘に触れているのです」
そういうものなの・・・?
「神秘、それは彼の地で聞く魔法のようです」
魔法、か・・・。
「そうです。その魔法によって剣から手のような物が生え、まるでケツでも掻くかのように柄をボリボリ掻いたり。私の手鏡を覗き込んでうぬぼれたようなポーズを決めたりされているのです」
え、そんな事あったの。
「ありがたい事です・・・」
そう言って巨大な神の剣に祈りを捧げるキョウシちゃん。
その姿には敬謙な信者らしき姿が、
「・・・へし折れろ」
無かった。
そういえば魔法って、この辺では余り聞かないけど。
惚れ薬や媚薬っていう、ちょっとエッチな魔女がエッチな事に使う何かだったっけ。
「救世主様、鼻の穴と心の中が丸見えになってますよ」
「うへへ・・・」
「ご存知ないようなので解説しましょうか」
ため息交じりにキョウシちゃんが言う。
魔法とは?
「神聖なものに宿る力とされています。主に火・水・風・土といったこの世界を構成する要素に宿りやすいとされていますが、場所によっては更に木や金、太陽や月、動物であったりもします。個人的な解釈ですが、人々がそれを必要とし崇める。その信仰心が力となって表れるのが魔法ではないかと・・・。聞いてますか?救世主様。違います、そのまぶたを閉じようとしている力は救世主様の思考力がない力です。・・・力がない力?いや、でもそうです。拒否力!これです。分かりましたか?分かりませんか・・・。どうしてこんなのが救世主なの!?どうして神の剣が休日のオッサンか色気づいたガキにしか見えないの!もうヤダこんなの!!教団抜けて自由に生きる!!うわーん!くぇrちゅいおpghjklbんmぴえ!!」
ハッ!?
いつの間に寝ていたのか、
キョウシちゃんが楽しそうにしている夢を見た気がする。
「お目覚めですか?」
キョウシちゃんが笑顔で言う。
ああ、これは夢の続きか。
その頬に触れようと手を伸ばす、
「いてっ」
かわされ腕をつねられる、夢じゃない。
「寝ぼけてたり酔っていたら多少の事は許されるみたいな、そういうの私嫌いです」
目を見て言われる、
俺は初めてなのに積年の恨みとでもいうように強く言われる。
理不尽だ。
「あ、そういえば剣は?」
「犬の・・・神の剣ならあそこに」
見ると神の剣は長いヒモで木に結ばれていた。
何度も走り出そうとしてはヒモに引っ張られる、
その姿は首輪をつけられた犬にそっくりだった。
「勝手に行こうとするので仕方なく・・・。最初は直接ヒモで縛ったんですが切ってしまって。でも、今みたいにヒモを長くするとつながれてる事に気付かないようで」
「へぇ・・・」
・・・なんていうかほんと、
「犬の剣・・・」
あ、言っちゃった。
「私・・・今何か言いました?」
「・・・何も聞いてないよ」
「良かった・・・チッ」
キョウシちゃん、今舌打ちしました?
「今日はもう休みましょう。救世主様もお疲れでしょう、何せ歩きながら寝るぐらいですから」
ああ、そうだったのか。
さすがキョウシちゃん、よく気がつく。
狼煙が空に上がる、
日が落ちていく。
最近、剣を振っていない。
歩くだけでご馳走にありつける。
そう、俺は救世主。
犬の剣につながれた木のような存在。
タダ飯ぐらいと言ってはいけない。