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剣の内輪もめ

「だってさ、頭に来るじゃない?ぷんすか。散々私に向かって結婚だの言ってたくせにさ、よりにもよってお姉さまの下僕になり下がるなんて、むっきー!」

「ジョーシさん、楽しんでない?むっきーって……」

「ボクが再現しても余り感情が伝わらないと思って工夫してるんです。姉さんはこんなこと言ってませんから安心して下さい」

「まぁそうだろうけどさ……」


 ヨージョさまの間であった事を一通りジョーシさんから教えて貰った訳だが、どうにも信じがたい。しかし俺の中に僅かに残っていた記憶を照らし合わせるとそれが事実なのだと思う。

 毒気にやられた。確かにそんな表現がしっくり来るが、もしかしたら俺の中にあった願望があの場所で開花してしまったのかも……。いや、まさかまさか。


「私の事も褒め称えなさいよ、ヒヒーン!次期教祖とかそういうのじゃなくて、女としてね。お姉さまにはそういうのが一杯居るのにどうして私には居ないのよ、ぎゃーすか!一人ぐらい居ていいんじゃない?そういう男、それが例えあんなのでもさぁ、あおーん!飼い犬に手を噛まれた気分だわ、きゃんきゃんっ、がおー!」

「……うん」


 なんというか全く内容が頭に入って来ない。恐ろしい事にこれらの事をジョーシさんはほぼ真顔で言っているのだ、どんな顔をして聞いていいのか非常に反応に困る。

 そして当のキョウシちゃんだが、子猫にミルクをあげるだとかで、ぷんすか地上へ戻ってしまった。どうしたものか……。


「俺たちも戻ろうか」

「……それは姉さんが気になるからですか?」

「いや、別にそういう訳じゃ……あるけど」


 なんだかジョーシさんも少しピリピリしているようだ。不快感は伝染するというが、実は俺の姉妹喧嘩説が正しいのかもしれない。


「救世主さん、今がどういう時か分かってるんですか?この場所にこれだけ様々な邪神が生まれているのは、恐らく街の人たちの不満がそれだけ大きいからです。急がないとこれらのものが地上にも溢れ出す……かもしれません」

「確かに……」

「でもこちらから手を出さなければ何もして来ない連中ばかりなので、案外大丈夫かもしれませんが」

「ああ……、確かに」

「でも気付きましたか?さっきの偽者預言者の間ですが、今までよりかなり大きかったです。これは信仰によって大きさが変わるという事かもしれないです、だから地上に溢れ出す可能性はありますよね?絶対とは言いません」

「たし……かに?」

「だからボクたちは急ぐ必要があるんです、多分。……きっと」


 そう押し切られた俺は穴掘りを再開する事に。そして気乗りしないまま閉じられた通路の前まで足を運んでいた。

 そうだよな、救世主として今は第一にやるべき事がある。それを忘れてはいけない。しかし、心を入れ替えて神の剣を振り上げる俺の頭の中にあったのは。

 キョウシちゃんキョウシちゃんキョウシちゃんうわーん!俺が怒らせちゃった、正気を失ってたんだよ許してようぎゃー!救世主なんて呼ばれてるけど俺もただの男なんだよ分かってよ、怒られたら何も言えないじゃないか、許してよ許してよぉ!


「救世主さん……?動きが止まってますよ」

「う……うぅ」

「救世主さん……、やはり姉さんの事がそんなに気にかかり──」

「うやっほーい!!」

「うやっほい!?」

「あんな女知るかこんちくしょう!怒るなら勝手に怒りやがれ、俺は俺で好きにやるぞ、後悔しても知らないんだからねっ!なんか文句あるかこんちくしょうあんちくしょう、惚れたが悪いかひゃっほーい!」

「……壊れましたか」


 やけくそで何度も振り下ろされた神の剣は、俺たちを新たな空洞へ……、導きはしなかった。それどころか土の一つも掘り返さずに地面に叩きつけられるだけの棒切れに成り下がっていた。クワの形にさえならない。


「……なぜだ」

「神の剣もショックだったのかもしれませんね、姉さんが怒ったのを見て……」


 なんてデリケートな剣なんだ、使い物にならんぞ。そしてなんてデリケートな神なんだ……、これを信仰している人たちが哀れに感じる。

 しかし、その気持ちは持ち主である俺も同じだった。


「神の剣……。そうか、お前も悲しかったんだな」


 この時、俺は初めてこの剣に愛着を感じたのかもしれない。いや、友情の様なものか。そしてその剣は俺に視線を合わせるかのように剣先を俺の顔に向け、……激しい往復ビンタを俺の両頬にお見舞いした。


「だっ大丈夫ですか?救世主さん!」

「……痛い」

「誰が原因なのか知ってるんですね……。割と執念深い剣ですね、いや賢いと言っておきましょうか」


 一応、信仰対象にフォローを入れるジョーシさん。こんなのに気を使わなくていいよもう。

 俺を殴る力があるならそれを地面の方にぶつけてくれたら良かったのに。そんな想いも虚しく、神の剣はダラリと剣先を垂らしていつかの杖のような姿になってしまう。


「今日はもう戻りましょうか」

「……そうだな」


 そして俺たちは終始無言のまま地上への帰途についた。風の間、岩の間、猫の間……。今までの冒険がまるで無意味だったかのように空虚に思える。

 トイレの間、炎の間、そして次の泉の間の手前に差し掛かった時だった、何の前触れもなく前方に明りが見える。

 どうしてだ、ここには誰も居ないはず。もしかして……!


「キョウシちゃん!?」

「救世主さ──」


 ジョーシさんを残して明かりの元へ走る。とりあえず謝ろう、土下座でも何でもしよう、話し合いはそれからだ。

 滑り込みの体勢を取りつつ明りの方へ突進する。何かに気付いたのか神の剣が杖から元の姿に戻る、これは間違いなさそうだ。明りの手前で土下座をする為に腰の位置と体重を微調整する。いける、仮病なんて使っていた手前言いづらいが、体の調子は万全だ。


 初手土下座、これぞ勝利の方程式。

 それが勝ちなのかどうかと考えているようでは甘い!怒った女にはとりあえず謝れ。

 更に歩を進めると円を描いた穴の壁面からランプが見える、今だ!我が渾身の土下座を食らえ!

 俺が勝利の確信をし明りの主を捕らえる。そこには教団のランプを持ち、教団のローブを着て悲しげな目をした……オヤジが立っていた。

長くなったので無理やり二つに分けました。

次の話とそのままつながってます。

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