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教団の剣

俺たちは急ぐ、錆人間に占拠されたらしい港町へ。

足が重い、別に気が乗らない訳じゃない。

「救世主様、大丈夫ですか?」

背後のキョウシちゃんが気遣ってくれる、嬉しい。


「キョウシちゃん、君はきっといいお嫁さんになる。だから俺と」

「イヤです」

・・・足が重い。心も重い。

もう一歩も動く気がしない。

「救世主様、大丈夫ですか?それ」

それ?それisどれ。

背後を振り返る。

キョウシちゃんとその向こうに巨大な剣が、

雲を突っ切る巨大な剣が山に刺さっているのが見える。

そして俺の背中にもそれと同じ形の剣が・・・違った。


剣が伸びて近くの岩にしがみ付いている。

なんだこの剣は・・・。

重いのは俺の足じゃなくてこれのせいか。

「どうして早く教えてくれなかったの?キョウシちゃん」

「え、気付いてるのかなって」

遠まわしに鈍いと言われているのか、それともそれ程鋭いと買い被られているのか。

もしかしたら俺には背中に目があると思われているのか。

判断に困る。

「それに、その剣は我々教団にとって特別なものなのです。下手に伸びてるだの曲がってるだの、医者を嫌がる子供みたいに駄々こねてるみたいだの、首輪を引っ張られるバカ犬みたいだのと、そんなこと言えません。言える訳がありません」

言った。

「・・・そうだね」


この子はキョウシちゃん。

教団の使者でキョウシ、本名は知らない。

教えてくれない。

剣の教団とやらから派遣された、救世主たる俺の世話をしてくれる、まぁ嫁みたいな存在だ。

「何かブツブツ言ってますか?」

非公認だが。


剣の教団は、まぁあの巨大な剣を崇める酔狂な連中の集まりな訳だが。そもそもあの剣が一体何なのか、俺もよく知らない訳だ。


神の剣、とは?

「我々の信仰の対象であり、神そのものでもあります。その存在は人が生まれる前からあったとされ、人がその剣から生まれたという説もあります。他にも神々がその戦いを終え、この地に残したという説や。いつか来る最終戦争の時に再度、神がこの剣を掴むという言い伝えもあります。かいつまんで言うと、詳しい事は何も分かっていないし、それについてちゃんと調べた人間も居ない。こんな、大きな戦争もない平和な地域でそれを崇める連中に録な奴は居ない、と散々言われてきました。いや、今のは私の意見じゃないです。はい?それを持った救世主様ですか?ええ・・・実はとても素敵な方だと思ってます。結婚?そんな、私なんておこがましい、でも、もしそれが許されるなら・・・」

「救世主様?」

ちょっと待って、今いいところだから。

「救世主様!何をニヤニヤしてるんですか気持ち悪い。お客さんですよ」

「うおっ!?」


気付くと左右からゾロゾロと黒いススのような錆のような連中が集まっている。

・・・なんかいつもより濃くない?

「やっぱり海が近いからなんですかね」

そういえば磯臭いと思った、てっきり俺の臭いかと思ってたが。

「救世主様も大概ですけどね」

今日の剣は・・・荒れるぜ?


錆人間に駆け寄り一刀両断。

「お見事!」

おだて上手なキョウシちゃん。

よし、おだてられちゃう!

駆けて駆けて斬る!

ザッザッザン!

ザッザッザン!


「今日は調子がいいみたいですね」

ザザッザンザンザン!

そう、何かが違う。

斬れる、・・・斬れる。

まるで剣が獲物に吸い寄せられるかのように。

ザザッザンザン!ザザザザン!

ズバババババ!


「凄い・・・」

まるで今までの俺じゃないみたいだ。

体が動く、剣が滑るように錆人間を次から次に切り倒していく。

ザンザン!ザザザザン!

ズババババ!

斬られて分裂した錆人間が人の形を成す前に、

剣は貪欲にその姿を切り刻んでいく。

獲物から獲物へ、滑るように剣が滑っ。

「あっ」

手が滑った。

ズバババババ!

ズバババババ!


「・・・」

剣だけが飛び回って錆人間を切り刻んでいる。

なんだこの光景は、俺要らないじゃん!

「救世主?様?一服しませんか」

「・・・いい、ほっといて」

「はい、ほっときます」

俺の存在意義が問われている。

というか、もう剣だけあればいいって感じ?

俺はただ、神の剣が錆人間を楽しそうに細切れにするのを呆然と見守っていた・・・。


「なんだこの剣は、気持ち悪い・・・」

俺の手元へ犬のように戻ってきた剣を、恐る恐る握る。

一応、俺を主人と思ってはいるようだ。

「救世主様がそんな事を言ってはいけません」

良かった、疑問形が消えた。

そう、俺は救世主。

「でも、キョウシちゃんだってさっき駄々こねた犬みたいって」

「駄々をこねるのは子供です、首輪を引っ張られるのがバカ犬です。間違えないでください」

また言った。

この子が本当に剣の教団の信者なのか、たまに疑問になる。


「あら、なんでしょう」

馬車が近づいてくる、遠くからでも分かるでかい剣のマーク。

いつもは狼煙を上げたら飯やらなんやら持って来てくれるんだが、向こうから来るとは何かあったのか・・・?

「なんでしょう、呼ばれてますね」

手招きする教団の使者。

ああ、キョウシちゃんが行ってしまう。


もしや、この剣が危険なものだと判明して二人の仲を裂きに。

もしくは、新たな救世主が誕生して俺はもう用済み。

もしもしくは、教団が壊滅して俺たちは二人ぼっち。

もしもしもしくは・・・。

あ、キョウシちゃんが戻って来た。


「港町には行かなくていいそうです」

「え、そうなの?」

「はい、教団の本部に凄い勢いで建物が出来て賑わっているようです。このまま教団本部をこの一帯の中心部にでもするつもりなんでしょう。父は」

あー、そういう事。

あれ?今何か重要なことを聞いた気が。

「ちなみにこの剣の事は話した?」

「ああ、言ってませんよ。その剣がクソガキであろうが馬鹿主人に懐いた馬鹿犬だろうが、信仰の対象である事に変わりはありません。救世主様の活躍?により信者が順調に増えているのは確かのようです」

馬鹿犬の活躍は馬鹿主人の活躍でもある!

・・・ん?自分の存在理由を強調する余り何か大切なものを見失った気がする。

「まぁ教団が大きくなればそれで満足なんでしょう、父は」

「そっか・・・」

「そうです」

「・・・ん?」

「どうかしました?」

「・・・んー、気のせいかな」

「そうですか」


俺は救世主。

神の剣に懐かれた馬鹿主人。

それでもいい、存在理由があればいい。

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