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剣の剣

 姉妹による長女叩きは気付けば日常会話になり、なんだかんだで穏やかに終わった。

 今度の事をヨージョさまに言うのかとキョウシちゃんに聞くと。え、何で?という返答が帰って来た。それを言いたいのは俺の方だよ……。

 こんなのは日常茶飯事という事なのだろうか。


 その後、泉で顔を洗い。朝食を持って来たオヤジと合流、肉類は全て返却してキョトンとした顔のオヤジを残し、トイレの間で日光を浴びる。

 今朝は途中で起こされたから木の下でちょっと寝たい、とジョーシさんに告げたが残念ながら却下された。

 なんと言うか……、前回の地下探索とは違い、随分充実した地下生活になってきたものだ。


「じゃあ、頑張ってねー」

「姉さんも気を抜かないで下さい」

「やっぱり帰るんだ……」


 すっかり地下に慣れた感じのキョウシちゃん、それ以上におぞましい事があったから気にならなくなったのだろうか。もう一緒に行動すればいいのに、そんな俺の考えを読んだかのようにジョーシさんが口を開く。


「姉さんにはサビ人間の始末があるんです。前のように街の周辺で剣を奮えば見世物にもなるし、剣の信仰心も高まるはずです。ついでに邪神の信者も減ってくれれば万々歳なんですが……」

「じゃあ俺がまとめてぶっ殺して」

「救世主さん!」


 いまいち冗談の通じないジョーシさん、やっぱり信者は大事なようだ。ずっと見向きもされない教団だったものなぁ、責任感が違うというところか。


「救世主さんの言う事がどこまで本当なのか分かりません」

「……そう?」

「はい」


 少し意外な言葉になぜか俺がどぎまぎする。そういえば俺はジョーシさんにはどう見えているんだろう……?余り考えたことが無かった。

 いつからか年上の妹というよく分からない感覚で接していたが、ジョーシさんからすればどうなのか。

 優しいお兄ちゃん?頼れる兄?男の中の男?危険な男?むふー。


「ブツブツ言いながら鼻の穴を膨らますのはやめてください、見苦しいです」

「……はい」


 この薄暗い洞穴でよく俺の鼻の穴まで見えたものだと感心する。そしてこれぐらいの事が言い合えるぐらいには親しい関係だと肯定的に考えてみる。



 そして穴掘り再開。次は何が出るのかと、なぜかワクワクしている俺

 後欲しいのはフッカフカのベッドと暖かいお湯ぐらいか。そんな雑念まみれの俺のクワが新たな空洞を見つけ出す。

 ガラガラと崩れる落ちる壁。


「……なんでしょう?」

「暗いな、またどこかと繋がったのかもしれない。ジョーシさんは下がってて」


 前のように笑い転げられたり顔を真っ赤にされても困る。

 ジョーシさんが一歩下がったのを確認して、俺は恐る恐る崩れた壁の中に頭を突っ込む。すると目に入って来たのは一筋の光……、冴え渡った短い光。いや、これは……。


「剣だ」

「剣、ですか……?」


 周囲を確認しながら空洞へ入る、どうやらどこにも繋がっていないらしい。

 暗がりの中に浮かぶ一本の剣、その下にあるのは影かと思ったが鞘のようだ。剣を飾る為の部屋に見えるが……、例によって意味が分からない。


「……刀ですね」

「カタナ?」

「少し文化の違う場所で生まれた剣です。なぜ……こんなところに……」

「これもやっぱり神なの?狂信者が作り出した」


 俺の言葉を聞いてジョーシさんの顔つきが変わる、それは僅かな変化だが。

 歯をかみ締めているのか頬が緊張している、握り拳を作った手が震えている。ジョーシさんには珍しい反応だ。俺、変なこと言っちゃった?


「……どうしたの?ジョーシさん。気分悪い?木の下で休む?」

「神の剣、斬っちゃって下さい」


 その声にほいほいと反応した神の剣がカタナとやらに斬り付ける。

 乾いた金属音を発して光を光が交差する、余韻のような反響が静かに流れる──。が、カタナには何の変化もないようだ。

 剣に引っ張られバランスを崩した俺がカタナの前に倒れこみ、その刃を間近で眺める格好に。


「……綺麗だな」

「は?」


 その刃は少しもこぼれていない、青白い光を発して静かにたたずんでいる。それはまるで……まるで……、例えが浮かばない。


「埋めましょう」

「え、なんで?」

「埋めるんです、こんな物!」

「で、でもジョーシさんの護身用にいいかもよ?昨日の晩、神の剣を持ち出してたじゃない。ならこれ使ったら」


 またも俺の言葉にジョーシさんの顔つきが変わる。どうやらまたしても言ってはいけない事を言ってしまったらしい。


「持てる訳ないじゃないですか。これは剣ですよ?神の剣と同じ部類の。最悪、他の信仰は許せたとしても、こんな物を許せる訳がないじゃないですか!」


 そして俺は思いだす、ジョーシさんもまた剣の教団の一人であるという事を。そしてそのプライドがひどく傷ついたという事実を。

 信仰というのは不自由だ、どうしてこんなに綺麗なものを愛する事も出来ないのか。

 静かな怒りに震えるその少女を見て気付く。このカタナはまるでこの子だ、青白い光を発するこの女の子。皮肉としか思えない。


「……殺して来て下さい」

「へ?」

「この刀を信仰してる狂信者どもをまとめて、殺して来て下さい」

「……でも俺、救世主だから。その人たちを守らないと」

「ですよね……」


 ジョーシさんから失望と安堵を感じた気がした。眼鏡の奥のその目には、諦めと安らぎが宿っているように見える。この子には俺がどう見えているんだろう……?

 その後、俺たちはこの洞穴にフタをして、何事もなかったように穴掘りを再開した。互いに無言のままだった。

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