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剣の一段落

「倒せないなら、埋めてしまえばいいじゃない」

「あ、あなたは……!」


 驚く俺の横でキョウシちゃんとジョーシさんが露骨に顔をしかめる。現れたのは教団の預言者……、そう、ヨージョさまだった。

 そして恐らく姉妹二人を不機嫌にさせたのはその移動手段なのだろう。台座に二本の丸太を通し、それを前後四人で抱える。まるで御輿のように担がれたヨージョさまがその上に寝そべっていた。


「ちょっと暇だったから、来ちゃった」

「そ、それはどうも……」


 俺の背後でため息と舌打ちがする、どっちがどっちを……。何この空気、やめてー。


「憎憎しい相手ですよ、姉さま」

「腹正しい敵です、お姉さま」


 ご立腹の次女三女さまは腹とか肉とか仰っていらっしゃる。男としてはヨージョさまの大らかな胸元から覗く豊かな二つの膨らみにしか気が行かないが、どうやら胸肉の下に隠し持ったものもそれなりのようだ。

 俺の視線が三つ目のふくらみに移動したのに気付いたのかヨージョさまがクスリと笑う。ごめんなさい、もう見ません。っていうか服の上からじゃ分からん。


「埋めるというのはどういう事でしょう」

 話題を何とか元に戻す俺。

「……そのままの意味よ?」

 会話終了。


「本当に肉肉しいですね、姉さま」

「腹出たしいです、お姉さま」


 腹出たしいって何だ……?何だか楽しんでないかこの二人。もうやだ俺帰るー!

 しかし案外と寛容なのか、ヨージョさまはニッコリ笑って足元の四人に指示を出し、乗り物の向きを変える。


「久し振りの遠征で疲れたわ、一眠りしながら帰ります」


 恐らくあなたは一歩も歩いてないと思われますが……。終始無言の足元四人衆は表情一つ変えずにヨージョさまを運んでいく、どの顔にも見覚えが無い事から前の信者たちとはまた別の人間なのだろう。

 そんな後姿にあっかんべーをかますキョウシちゃんと……ジョーシさんの変顔についてはこの子の将来の為に明文化(めいぶんか)を避ける。


「あ、そうそう」


 俺が次女三女の狂態(きょうたい)に心を奪われていると、立ち去ったはずの長女さまの声が響いた。次女三女の顔芸が引きつっておかしな事になる。


「楽しんでね」


 特別毒を感じない口調で言い残されたその言葉を、俺は大して気に留めなかったのだが。残された姉妹はまるで魂が抜かれたように動かなくなってしまった。……どうしたの?

 その表情については二人の将来の為に明文化を以下省略。



「さぁ、ぱぱぱーっと片付けるわよ!」

「ぱぱぱーっとです!」

「……うん」


 無理にテンションを上げる二人にいささか動揺しながら、完全に忘れられていた炎の化け物、もとい泉の上で泳ぐ綺麗な火の始末に入る俺たち。

 前に見た時より明らかに細かく切断されているのは、見てない間にキョウシちゃんの手が滑ったのだろう。なぜか化け物に同情する俺。

 しかし、埋めると言ってもなぁ……。


「じゃあ、ちゃちゃちゃーっとやっちゃいましょう!」

「ちゃちゃちゃーっとです!」

「……うん」


 内容のない会話を続ける二人を放置して、俺は一人考える。

 こいつを元のあの一室まで誘導して、入り口を土で埋めればいいんだろうが。果たして上手く行くのだろうか……?そしてこの剣は掘れるが果たして埋めれるのか?まぁやってみるしか無いんだろうけど、かなりの困難を伴うのは確かだ。


「じゃあ、救世主さま。その辺にだだーっと穴開けちゃって」

「だだーっとです!」

「うんうん……、うん?」


 勢いとテンションをばら撒くだけの二人だと思っていたのだが、テキパキとこなしたらしいその手には明るいランプがいくつも握られている……、そして中にはバラバラになった化け物の手足や胴体が入っているようだ。


「え、何してるの……?」

「さぁさぁさぁ!」

「さぁさぁさぁです!」


 その圧力に押され、キョウシちゃんの指差した壁に神の剣をつき立てる俺。たちまち出来上がった穴に次々とランプを放り込む二人。ランプに入りきらなかった分はキョウシちゃんがその手の剣で、平面を打ち付けぶち込んだ。

 邪神とはいえ神にこんな扱いをしていいのだろうか……?


「では、どどーんと埋めちゃいましょう!」

「どどどーんです!」

「うん……、でもどうやって?」


 俺の質問に顔を見合わせる二人。俺、そんな変な事聞きました?だって今まで掘るしかしてなかったから埋めるなんて……。


「埋めちゃって神の剣!」

「埋めちゃってくださーい!」

「うおっ!?」


 俺の命令よりキョウシちゃんを優先する神の剣は、持ち主である俺のバランスや手首の向きを無視して穴の上をガリガリと削り、たちまちに穴を埋めてしまう。ついでに倒れた俺も半分ほど埋めてしまうげほぼご……。



「ふぅ……」


 姉妹に掘り出された俺はそのホコリを泉で洗い落とす。さすがに落ち着いたのか、一騒ぎした姉妹は埋められた穴の前に座り休憩している。

 踏み固めたり剣で叩いたりはしたが、これで化け物は出て来れないんだろうか……?多少の不安は残るが、やるべき事はやった。姉妹に混ざり、まばゆい光の中で満足感に浸る。

 ん? まばゆい光……?違和感を感じキョウシちゃんの手元を覗き込む俺。え、持ってる。何か持ってるよこの子!


「ちょっとキョウシちゃん……、それ!」

「はい?何か……?」


 呆けた顔で周りを見回すキョウシちゃん、ジョーシさんも気付いていないようだ。そのランプだよ、今までのより明るいそのランプ。中で困った顔してるそれ!


「ああ、これ?ランプ六つ分より明るいし、腕も疲れないからこっちにしようかなって。他のは埋めちゃったしね」

「……」

「姉さん、これがあれば地下も怖くないんじゃないですか?」

「うーん……、ちょっとはマシかもね。でもわざわざ来たいとは思わないかなー。あ、この泉は別だけど」

「……」


 ケタケタと和やかに笑う姉妹。その手元で首だけになった困った顔の炎の化け物がランプの中で揺れている。……埋めなくていいの、それ?

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