表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/234

剣の初戦闘

「どうしよう、斬ったんだけど倒せないんだけどあれ!」

「そんなのボクにも分かりませんよ」


 ジョーシさんの背中を押しつつ、恐怖にかまけてとりあえず叫ぶ俺。助けてー!とか怖かったよぉ!という言葉を口の中で噛み殺す。さすがにそれは外に出せない。

 やっぱり俺の剣通用しないじゃん!と幻滅や安堵も感じる。


「どうしようどうしようどうしようどうしよう!」

「落ち着いてください!一つ案があります、通じるか分かりませんが……」

「えっ」


 思わず立ち止まる俺、ジョーシさんを再度回れ右させて向かい合う。肩を握ったままなので顔が近い、思ったより近い、キスできそう。


「案ってどんな?」

「バラバラにしてみたらどうですか?サビ人間みたいに。確かにすぐ元に戻りましたが、斬れたのは間違いないですから」


 なるほど、その手があったか。さすがジョーシさん、冷静だ。

 振り返って炎の化け物を見る。足がすくむ、心が折れる。


「よし……、じゃあそれジョーシさんがやって」

「嫌です」

「何で!?」

「前も言ったでしょ?ボクは姉さんみたいに剣の鍛錬を受けてません。救世主さんよりへっぴり腰ですよ」


 なら仕方ないか……。暗に俺がへっぴり腰だと言われた気がするが、この際忘れる。しかし、ならどうすれば……。

 剣を持つ手に力がこもる、徐々に近づいて来る炎に背筋が凍る。俺のトラウマスイッチオン!キョウシちゃんのように我を忘れて突進できたらいいんだが、残念ながら俺にそんな狂戦士の素質はない。

 ハッ!そうか。その時、俺の脳に圧倒的閃きが……!


「頼める?神の剣……さま」

「はい……?」


 この神の剣は勝手に動くし勝手に戦える、それぐらいの信仰心と力を持った存在らしい。ならこいつに任せりゃいいじゃん!と、俺の脳は圧倒的に情けない圧倒的閃きをはじき出した。

 呆れ顔のジョーシさんの前で神の剣にゴマをする俺、何かどんどん情けなくなるな俺。


「お願いしますよ~、もう戦えるのは剣の神さまだけなんですよぉ。カッコいい!光ってる!あ、ちょっとジョーシさんあっち向いてて……、剣の中の剣!神の中の神!ユニバース!!」


 俺に背中を向けたジョーシさんが、聞こえるようにため息をつく。僅かに残っていたらしい俺の中のプライドが壊れた、が恐怖心が勝った。

 そして俺の手の中で誇らしげに反り返った剣が俺の手を離れる。何て単純で扱いやすい奴だ、持ち主ながら呆れる。

 しかし、その切れ味は確かなもの。一直線に炎の化け物へ飛び掛った神の剣は、あっとういう間にそいつの手足や胴体をバラバラにしてしまった。凄いぞ神の剣!バカだけど凄い!


「やりましたね……、一応」

「ああ、やったな!」


 ジョーシさんの言葉が刺さる、なんだ一応って。ちゃんと倒したじゃないか!……神の剣が。

 俺の手元へ戻って来た神の剣を手にしてポーズを決める。うん、救世主っぽい。散らばった炎に照らされ神の剣が揺ら揺らと輝く、まるで神聖な剣のようだ。


「救世主さん……、ごめんなさい」

「え、何が……?」

「ダメでした」


 一体何を言っているのか。ジョーシさんの視線を追い足元に目をやる、バラバラになった炎が揺らめいて……いや、明らかに動いて集まりつつある。

 え、嘘。やめて。


「神の剣!さま!」


 俺の手の中でまたも反り返っていた神の剣が、俺の思考を読み取ったように再度炎に襲い掛かる。そして炎の化け物を細かく、もっと細かく細断する。

 短冊切り・みじん切り・(こま)切り!


 ふぅ……、と額の汗を拭う。一仕事終えたように見えるが、俺は何もしちゃいない、これは主に恐怖から来る冷や汗だ。そして俺たちは決断する。


「よし……、逃げよう」

「そうですね」


 そこまで切ってもまだモゾモゾ動く炎の欠片。ダメだ、倒せない。こいつはダメなやつだ、物事の道理が通じないやつだ。


「バーカ、バーカ!」


 精一杯の強がりで固まりつつある炎に罵声を浴びせる。そんな俺をジョーシさんが冷たい目で見る、意味がない事ぐらい分かってるよ。そんなジョーシさんの背中を押してまた走り出す。


「バラバラにしたんだけど、倒せなかったんですけどー!」

「すいません、って謝りましたよね!?それに絶対倒せるとは言ってません」

「じゃあどうする!どーすんの!?」

「ちょっとは自分で考えてくださいよ」

 うーん……、うん、怖い。終わり。


 そのまま俺たちは昼寝の木の前を通過する。ああ、一度寝たら頭もスッキリするのになぁ。……あっ、とまたしても俺の頭の搾りカスが囁く。


「救世主さん!」

「あっ……、忘れちゃったじゃないか!」

「何をですか。それよりこのまま逃げたら地上に出ますよ?街に被害が出ます」


 それはまずい、救世主的にまずい。何とかしないと……、でもどうやって。

「それと気付いたんですが」

「……何?」


 明らかに期待しない感じで聞いてみる。そんな俺を意に介さないジョーシさん。

「あれらは神なんです。それが狂信者や邪教徒の神であろうが、一応神なんです」


 俺は手に持った剣を見る、一応神……。神の剣がハテナマークの形になる。

「だから倒せないんじゃないでしょうか?信心がある限り神は消えない」

「じゃあ、どうすりゃいいのさ?」

「そんなの分かりませんよ!」


 倒せないことが分かった、という意味があるのかないのか分からない結論。……あっ、ならさ。

「なら、狂信者をまとめてぶっ殺せば……」

「救世主さん!?あなたが守ろうとしてるのは何ですか、思い出してください!あなたが邪神になってどうするんですか!?」

「じょ、冗談だよ。じょーだん!」


 割といい考えだと思ったが、救世主的にはNGだった。……あっ、いい考え。さっき一瞬思いついたあれはー。

 逃げる先からちゃぷちゃぷと水音がする。そうだ、あれだ。


「火には水だ!」

「……効きますかね」


 不信な目を俺に向けるジョーシさん、既に俺の考えには思い至っていたらしい。そして不満らしい。もしかしてちょっと根に持ってる……?

 そんな事は放っておいて、そのまま青い光の中へ突進する。そこには若返りの効果は無いが泉の水と……キョウシちゃん!?


「きゃー!?」


 俺を見て慌てて素肌を……いや、木目を隠すキョウシちゃん。その手にしているのは、猫の細工が入った木刀?どうやらそれをここの水で洗っていたらしいが……ぶはっ!?

 ご丁寧に水をぶっかけられる。何でだよ……。


「ど、どうして救世主さまがここに居るんですか!?」

「どうして姉さんがここに居るんです?」

「どうして体を洗ってないんだよ!」


 俺の言葉に二人の顔が曇る、そして俺に対する冷たい視線。おや、さっきより冷や汗が……。

 そうだ、こんな事を言ってる場合じゃない。


「キョウシちゃん!その水を掛けるやつ。俺じゃなくて次に来る化け物にやって」

「化け物……?」


 そうつぶやいて急に萎縮するキョウシちゃん。そういや怖いのダメだったなこの子。

 しかし、そうも言ってられない。この先には街がある、救世主としてそれは守らなければ……!


「効きますかね……?」

 さっきと同じ事を口にするジョーシさん、やっぱり根に持ってるよね?

 そんな俺たちの背後から、禍々しい光が近づいて……近づいて……、来ない。


「……結構走ったもんな俺たち」

「あの化け物、遅かったですよね」

「化け物……」


俺たちは水を飲んで一服した。


「化け物……」

キョウシちゃん、大丈夫だから落ち着いて!

そういえば、書式をまた変更しました。

色々実験中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ