剣の初戦闘
「どうしよう、斬ったんだけど倒せないんだけどあれ!」
「そんなのボクにも分かりませんよ」
ジョーシさんの背中を押しつつ、恐怖にかまけてとりあえず叫ぶ俺。助けてー!とか怖かったよぉ!という言葉を口の中で噛み殺す。さすがにそれは外に出せない。
やっぱり俺の剣通用しないじゃん!と幻滅や安堵も感じる。
「どうしようどうしようどうしようどうしよう!」
「落ち着いてください!一つ案があります、通じるか分かりませんが……」
「えっ」
思わず立ち止まる俺、ジョーシさんを再度回れ右させて向かい合う。肩を握ったままなので顔が近い、思ったより近い、キスできそう。
「案ってどんな?」
「バラバラにしてみたらどうですか?サビ人間みたいに。確かにすぐ元に戻りましたが、斬れたのは間違いないですから」
なるほど、その手があったか。さすがジョーシさん、冷静だ。
振り返って炎の化け物を見る。足がすくむ、心が折れる。
「よし……、じゃあそれジョーシさんがやって」
「嫌です」
「何で!?」
「前も言ったでしょ?ボクは姉さんみたいに剣の鍛錬を受けてません。救世主さんよりへっぴり腰ですよ」
なら仕方ないか……。暗に俺がへっぴり腰だと言われた気がするが、この際忘れる。しかし、ならどうすれば……。
剣を持つ手に力がこもる、徐々に近づいて来る炎に背筋が凍る。俺のトラウマスイッチオン!キョウシちゃんのように我を忘れて突進できたらいいんだが、残念ながら俺にそんな狂戦士の素質はない。
ハッ!そうか。その時、俺の脳に圧倒的閃きが……!
「頼める?神の剣……さま」
「はい……?」
この神の剣は勝手に動くし勝手に戦える、それぐらいの信仰心と力を持った存在らしい。ならこいつに任せりゃいいじゃん!と、俺の脳は圧倒的に情けない圧倒的閃きをはじき出した。
呆れ顔のジョーシさんの前で神の剣にゴマをする俺、何かどんどん情けなくなるな俺。
「お願いしますよ~、もう戦えるのは剣の神さまだけなんですよぉ。カッコいい!光ってる!あ、ちょっとジョーシさんあっち向いてて……、剣の中の剣!神の中の神!ユニバース!!」
俺に背中を向けたジョーシさんが、聞こえるようにため息をつく。僅かに残っていたらしい俺の中のプライドが壊れた、が恐怖心が勝った。
そして俺の手の中で誇らしげに反り返った剣が俺の手を離れる。何て単純で扱いやすい奴だ、持ち主ながら呆れる。
しかし、その切れ味は確かなもの。一直線に炎の化け物へ飛び掛った神の剣は、あっとういう間にそいつの手足や胴体をバラバラにしてしまった。凄いぞ神の剣!バカだけど凄い!
「やりましたね……、一応」
「ああ、やったな!」
ジョーシさんの言葉が刺さる、なんだ一応って。ちゃんと倒したじゃないか!……神の剣が。
俺の手元へ戻って来た神の剣を手にしてポーズを決める。うん、救世主っぽい。散らばった炎に照らされ神の剣が揺ら揺らと輝く、まるで神聖な剣のようだ。
「救世主さん……、ごめんなさい」
「え、何が……?」
「ダメでした」
一体何を言っているのか。ジョーシさんの視線を追い足元に目をやる、バラバラになった炎が揺らめいて……いや、明らかに動いて集まりつつある。
え、嘘。やめて。
「神の剣!さま!」
俺の手の中でまたも反り返っていた神の剣が、俺の思考を読み取ったように再度炎に襲い掛かる。そして炎の化け物を細かく、もっと細かく細断する。
短冊切り・みじん切り・細切り!
ふぅ……、と額の汗を拭う。一仕事終えたように見えるが、俺は何もしちゃいない、これは主に恐怖から来る冷や汗だ。そして俺たちは決断する。
「よし……、逃げよう」
「そうですね」
そこまで切ってもまだモゾモゾ動く炎の欠片。ダメだ、倒せない。こいつはダメなやつだ、物事の道理が通じないやつだ。
「バーカ、バーカ!」
精一杯の強がりで固まりつつある炎に罵声を浴びせる。そんな俺をジョーシさんが冷たい目で見る、意味がない事ぐらい分かってるよ。そんなジョーシさんの背中を押してまた走り出す。
「バラバラにしたんだけど、倒せなかったんですけどー!」
「すいません、って謝りましたよね!?それに絶対倒せるとは言ってません」
「じゃあどうする!どーすんの!?」
「ちょっとは自分で考えてくださいよ」
うーん……、うん、怖い。終わり。
そのまま俺たちは昼寝の木の前を通過する。ああ、一度寝たら頭もスッキリするのになぁ。……あっ、とまたしても俺の頭の搾りカスが囁く。
「救世主さん!」
「あっ……、忘れちゃったじゃないか!」
「何をですか。それよりこのまま逃げたら地上に出ますよ?街に被害が出ます」
それはまずい、救世主的にまずい。何とかしないと……、でもどうやって。
「それと気付いたんですが」
「……何?」
明らかに期待しない感じで聞いてみる。そんな俺を意に介さないジョーシさん。
「あれらは神なんです。それが狂信者や邪教徒の神であろうが、一応神なんです」
俺は手に持った剣を見る、一応神……。神の剣がハテナマークの形になる。
「だから倒せないんじゃないでしょうか?信心がある限り神は消えない」
「じゃあ、どうすりゃいいのさ?」
「そんなの分かりませんよ!」
倒せないことが分かった、という意味があるのかないのか分からない結論。……あっ、ならさ。
「なら、狂信者をまとめてぶっ殺せば……」
「救世主さん!?あなたが守ろうとしてるのは何ですか、思い出してください!あなたが邪神になってどうするんですか!?」
「じょ、冗談だよ。じょーだん!」
割といい考えだと思ったが、救世主的にはNGだった。……あっ、いい考え。さっき一瞬思いついたあれはー。
逃げる先からちゃぷちゃぷと水音がする。そうだ、あれだ。
「火には水だ!」
「……効きますかね」
不信な目を俺に向けるジョーシさん、既に俺の考えには思い至っていたらしい。そして不満らしい。もしかしてちょっと根に持ってる……?
そんな事は放っておいて、そのまま青い光の中へ突進する。そこには若返りの効果は無いが泉の水と……キョウシちゃん!?
「きゃー!?」
俺を見て慌てて素肌を……いや、木目を隠すキョウシちゃん。その手にしているのは、猫の細工が入った木刀?どうやらそれをここの水で洗っていたらしいが……ぶはっ!?
ご丁寧に水をぶっかけられる。何でだよ……。
「ど、どうして救世主さまがここに居るんですか!?」
「どうして姉さんがここに居るんです?」
「どうして体を洗ってないんだよ!」
俺の言葉に二人の顔が曇る、そして俺に対する冷たい視線。おや、さっきより冷や汗が……。
そうだ、こんな事を言ってる場合じゃない。
「キョウシちゃん!その水を掛けるやつ。俺じゃなくて次に来る化け物にやって」
「化け物……?」
そうつぶやいて急に萎縮するキョウシちゃん。そういや怖いのダメだったなこの子。
しかし、そうも言ってられない。この先には街がある、救世主としてそれは守らなければ……!
「効きますかね……?」
さっきと同じ事を口にするジョーシさん、やっぱり根に持ってるよね?
そんな俺たちの背後から、禍々しい光が近づいて……近づいて……、来ない。
「……結構走ったもんな俺たち」
「あの化け物、遅かったですよね」
「化け物……」
俺たちは水を飲んで一服した。
「化け物……」
キョウシちゃん、大丈夫だから落ち着いて!
そういえば、書式をまた変更しました。
色々実験中です。




