剣の末脚
「いい穴掘り日和だ」
「空なんか見えませんけどね」
地下で一睡して更に腹も満たして、何だかもうずっと地下で暮らしているような気がしてくる。ホームグラウンドだ、非常にくつろいだ気分で穴を掘る。
ここの暮らしも悪くないのかもしれない、そんな風にも思えてくる。唯一足りないのは太陽ぐらいか。
……ん?俺は別に何も望んでいないぞ。
どうやらあのオヤジは本物だったらしく、今のところ体に全く異常は見られない。確かに空腹でチラッとオヤジの顔を思い浮かべたが、さすがに実体化するほど俺はオヤジを求めてはいない。キョウシちゃんと同じレベルな訳がない。
ちなみにお腹が膨らんだ後、ちょっと木の下で昼寝してくるから適当な時間に起こして、とジョーシさんに言ったら睨まれた。
別にいいじゃんかそれぐらい。
「気付いたんですが、今のところボクらが手を出さなければ無害なものばかりですね」
「あー……」
アクビをしながら掘っていると背後のジョーシさんが話し出す。
「つまり空洞を見つけても手を出すな、と」
「はい、……まぁあの泉のように素晴らしいものもあるようなので、無理には引き止めませんが」
素晴らしいものってあなた……、どうやらジョーシさんもあの泉が相当お気に召したらしい。肌がふやけるだけじゃないのか。
そんな事より次の飯はいつ頃だろう、と脳が腹時計に変化した時。手の中のクワがまた持ち主の意に反して側面に突き刺さる。腕が抜けそうになるからやめてくれないかなぁ。
「明るいですね……」
「光だ……」
崩れた壁から煌々と光が差してくる、今までも空洞の中は青だの緑だの明るかったが、それよりも更に鋭い光が溢れている。……ああ、またやってしまったか。今度は太陽作っちゃったのか俺は、と渋々中を除きこむ。
……が、そこにあったのは火だった。
「明るい訳だ」
「……美しいですね、火はボクたちの生活の支えです。このランプですら火の力を借りているし、料理にも欠かせない大切なものです。これにも何か癒しの力があるのかもしれません。が、どうします?確かめるか放置して去るか」
うーん、と俺が脳の搾りカスを更に絞っていると。目の錯覚か火が動いた気がした、これも何かの癒しの力なのだろうか?と思う間もなく、今度は火と目が合った。
「……目?」
「何だか様子がおかしいですね」
「よし、放置しよう!」
なぜかどんどん大きくなる火を前に、長居は無用と踵を返す俺たち。触らぬ神に祟りなし、それが邪神であろうが狂信者の神であろうが同じだ。どうせこいつらはその空洞から出て来ない。
「よし、掘るか」
適度な場所まで戻った俺たちは仕切り直しとでもいうかのように、殊更に気合を入れて穴掘りを再開す──。
「救世主さん」
仕切りなおしてるんだから邪魔しないでよジョーシさん。
「……来てます」
何が?という問いを俺が発する前に、強い光が俺たちの逃げて来た方向から差してくる。想定外の事にプチパニックを起こす俺の搾りカス。
「何で!?こっちから手を出さなければ大丈夫じゃないの?そう言ったよねジョーシさん!」
「……」
「ねぇ何で?何で何で!?」
「……知りませんよ!勘違いでした、ごめんなさい。これで満足ですか!?」
俺たちが無用の言い争いをしている内に、光はどんどん近づいて来る。息を呑む俺たちの前に現れたそれは、二本の足で立ち顔の様なものを持った、人型の炎の塊だった。
「……どうしますか?救世主さん」
「何とか、なりそうだ……」
敵の正体が見えた事で腹が決まる、クワが神の剣の形を取り戻したのも俺の心を後押しした。そうだ、俺は救世主なんだ……!
神の剣を構え炎の化け物に突進する、剣というより結局はクワを振り下ろすような形で切り下ろす。手ごたえあり!
俺の目の前で真っ二つに裂ける炎の化け物。フフフ、ちょろいもんだぜ。と心の中でつぶやきながら、しかしその唇は震えていた。
通じたよ俺の剣!錆人間以外を斬ったの初めてだけどいけるじゃん!俺の中で大歓声があがる。何だろうこのクライマックス感、このまま気持ちよく眠りに着きたい。よし、あの木の下でぐっすり眠ろう。
適当な時間に起こして、とジョーシさんに告げようと振り返る。するとそこにはジョーシさんの引きつった顔が。
「逃げて下さい!」
何を言っているのだろう、と余韻にしびれた両手を持ち上げる。するとそこには真っ二つになって倒れているはずの炎の化け物が、立っている?斬る前と同じ姿で……?
状況を理解できない俺の頭はあの木の前でぐっすり眠りに着こうとしていたのに、なぜこの炎の化け物は俺の前でその手を振り上げて……、下ろした。
「救世主さん!?」
ジョーシさんの悲鳴のような声が上がる。ああ、そんな声出せたんだ。なんて悠長に考える俺の頭の上を炎が飛び越える、どうやら神の剣が、振り下ろされた炎の腕を切り落としたらしい。助かった……、もしあれが当たっていたら、たら?
「ひぃいいぃぃ!」
状況は理解できないが恐怖を直感した俺はへっぴり腰で逃げ出す。すいません、ちょろくなんて無かったです!そのままホッとした顔のジョーシさんを回れ右させて背中を押しつつ走って逃げる。
チラと背後を見るが、どうやら奴は走って来ないらしい。逃げ足だけなら勝ったようだ。
フフフ、ちょろいぜ!
ようやくコメディーのコツがちょっと分かった気がする。




