表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/234

剣の脇道

「いや、効果はないって分かってるけど。一応、一応ね!」


キョウシちゃんが泉の水を口にする。

怖がりで絶対に来ないと言っていた地下に、わざわざランプを四つ手にしてついてきてくれた訳だが。


「あ、美味しい」

「姉さん、ボクもいいですか?」


若返りの泉と言われる怪しい泉の怪しい水を、姉妹そろって仲良く飲む光景は微笑ましいと言えなくもなかったが。二人ともまだまだ若いだろうに、一体何にこだわっているのか……。


「あの、救世主さま?穴掘りの続きはいかが?」

「ボクたちはちょっと大事な用があるので、先に進んで貰えませんか」


泉の水を手に塗り出した辺りから、何やらモヤモヤとムラムラと感じるのもはあったが。そうですか、邪魔者ですかこの俺は。

救世主はいつだって孤独なもの。


「俺も混ぜてくれ!俺だってお肌をスベスベにしたい!」

という心の叫びを押さえ込んで、ジョーシさんからランプを受け取る。

キョウシちゃんのは持って行ったらダメらしい。


「……行ってきます」

「いってらっしゃーい♪」

「……いってらっしゃい」


今まで出一番いい笑顔で送り出される、女って良く分からない。

やる気が失せた俺と主人につままれて追い払われた神の剣は穴を掘る。

背後から水をかけ合う姉妹の爽やかな笑い声を受けながら、ひどくどうでもいい気分で穴を掘る。


しかしまぁ、掘れる掘れる。やる気と仕事量は比例しないらしい、これが信仰心の力という奴か。

この剣の力とあの湖。その力の元は全て人の信仰から来ているらしいが、人の信仰心とは恐ろしい。

信じる者は救われる。救われるかどうか分からないが、信じた物は実体化する。しかし、なぜ地下に……?


背中に何か冷たい物を感じながら掘り進むと、次なる変化が起こった。

壁が崩れ、向こう側の空洞を覗かせる。今度は暗い、一体何があるのか……。


「何かありましたか?」

警戒する俺の背後でジョーシさんの声がする。


「何があったんだ!?」

「はい……?」


振り返るとそこには、ランプの明りで肌がツヤツヤに光るジョーシさんが立っていた。いつものクールな表情だが心なし口元が上がっていてドヤ顔感がある。なぜかいらつく。

そんな俺を放置してジョーシさんが暗闇に歩を進める。


「……さっきとは違いますね。部屋じゃなくて通路みたいでぷっ」

「でぷっ?」


脇を押さえるジョーシさん、これはまずい。

いつかのどこかのデジャブ感。


「ぷふふっ、はっあははは!どっどどどこかの地下道と、っっ繋がったみたひーっ!ダメッ、ダメです救世主さん!早く、早くボクをあはははは!くすぐった、やめてください、やめてくださいよぉ!」


何もしてないのに何だこの言われようは。いつかのトラウマが蘇り心なし傷つく俺。

しかしまぁ……、何と言うか。肌ツヤの良くなった女の子が笑い転げながらローブのすそから肌を除かせている……。この光景はまずい、もしキョウシちゃんに見られたら……問題ないですけどね。

しかし一人で抱きかかえてどうこうすると、俺の何かがどうこうしてしまう危険性がとても危険だ。


「あはっあはははは!」


俺の苦心も知らず笑い転げるジョーシさん。まぁこの子も辛いんだろうけど、腹立たしさに何やら黒い欲求が湧き上がる。その時、通路からまばゆい光が差した。


「何だ……!?」

「うふうふはははは!」


ジョーシさんちょっと黙っててくれない?シリアスさの欠片もない。

そんな俺たちの前に現れたのは、広げた両手に八つのランプをぶら下げ、ジョーシさんより更に肌をツヤツヤさせた神々しい表情のキョウシちゃんだった。


「キョウシちゃん!わざわざ降りてきてくれ……何でそっちから来たの?」


俺たちの背後からではなく、開いた穴の通路側から現れたキョウシちゃん。

どうして?近いの?ここに出るって知ってた?

そんな俺の疑問をよそに、さっとジョーシさんを抱き上げたキョウシちゃんは、俺の前にその笑い袋を置いて立ち去る。

バカ面でそれを見守る俺。


「待って!キョウシちゃん」

後を追う俺の目の前で、光り輝くキョウシちゃんは柔らかく笑いそのまま蛍の残り火のように消え去った。


「……え?」

「今の……、姉さんじゃないですね」

「……どういう事?」

「救世主さん、何か願いましたか」


願った?何を。俺は何も願ってなどいない。

しいて言うなら、キョウシちゃんのようなお嫁さんにずっと側に居て欲しいという極々当たり前の感情だけだ。そんなもの願いではない。


「願いと信仰心はよく似たものです。あって欲しい、あるべきだという感情が何かを作り出す事がある。……前も言いましたね、それは魔法と言っても差し支えないはずです」

「……ああ」

「願いましたね?」

「はい……」


しかしなぜ、それならもっと早く色々出て来ていてもおかしくはなかった。

この場所か?やっぱりここには何かあるのか!?


「気をつけていきましょう、ここには一体何が埋まっているのか分かりません」


ジョーシさんの表情からドヤ感がなくなる。

雑念を消そう、更にやばいものを作り出してしまいそうだ。剣を持つ手に力がこもる。

しかしこの力、悪用したら色々やばいんじゃないか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ