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剣の争い

「中々に、目力くんも強いのですがね。あなたの方が一枚も二枚も上手だったようです」


 長髪は手にした剣を構える事もなくキョウシちゃんへと近付いて行く、その目は獲物を狙うようにギラ付き細められている。

 そんな事より、俺は目力という適当に付けたネーミングが間違っていなかった事に驚いていた。


「お前に言われる!までもない!」

「まぁまぁ、あなたをおとしめるつもりで言ったのではありません。そうですね、……さすがは次期教祖さま。といったところでしょうか」


 長髪の言葉に男たちがざわつく。


「次期教祖!ほんとかそれは!?」

「こいつが……、あの……」

「うんン?なんだァそりゃアー?」


 どうやら気付いていなかったらしい、むしろそっちの方が驚きだ。どう見ても教団のローブを羽織っているし、キョウシちゃんはそれなりに有名人のはず。こいつらは本当に街の住人なのだろうか。


「おやまぁ、知らない人も居るようなので説明して差し上げましょう。この方が恐れ多くも、我々の住む街を強制支配している悪名高い剣の教団の、しかも次期教祖さまなのです」


 長髪がキョウシちゃんの周りをゆっくりと回りながら話し続ける、品定めでもしているようだ。


「悪名……」


 俺の隣でジョーシさんが絶句する、まったくひどい言い様だ。それでも反論しないのは言われても仕方がないという自覚があるからだろうか。

 長髪の言葉にキョウシちゃんが今更のように次期教祖スマイルを浮かべる。


「噂と!違うぞ!」

「我々って……、言うな……」


 なぜか目力が反発する、噂とはなんだろう。そして前髪が一々我々という言葉に反発する、どれだけ仲間意識が無いんだこいつは。


「巨体の怪女では!なかったのか!」

「半獣人……、そう聞いていた……」


 それを聞いてキョウシちゃんの次期教祖スマイルがゆがむ、噂にしてもあんまりだった。それは人ではない、既に珍獣だ。

 長髪はキョウシちゃんの顔色を見つつ話し続ける。


「まぁまぁ、落ち着いて下さい次期教祖さま。とにかく強い女性が居る、という噂がどこかで一人歩きしたんでしょう。でもまさか、こんなに美しい方だとは思ってもみませんでした。噂というのは当てにならないものだと──」


 突如、金属のぶつかり合う音がした。それまで普通に話していた長髪がいきなり剣を振ったのだ、それを見越していたようにキョウシちゃんが剣を立てて受け止めている。

 だが俺には何が起こったのか分からなかった。それ程、唐突に戦いが始まったのだ。


「お見事お見事……」


 長髪がつぶやきながら口元をゆがませる、それに合わせて重なっていた長髪の剣がキョウシちゃんに向かって折れ曲がる。


「──!?」


 これにはさすがのジョーシさんも声が出なかった。しかしキョウシちゃんは何の助けもなく頭を下げてその剣をかわす。恐ろしい反射神経だ。

 それでもしぶとく剣は切っ先を伸ばしながらキョウシちゃんの首元めがけて飛び掛かっていく。なんて粘着質な剣なんだろう、いやらしくてねちっこい。

 キョウシちゃんは一歩下がると冷静な顔で伸びて来た切っ先を自らの剣で弾いた。金属の軽い音が響き渡り、異様な形になった剣がキョウシちゃんから離れて行く。

 だがこれで終わりではなかった。切っ先は再び伸びると自らを弾いたキョウシちゃんの剣へと襲い掛かり、そしてその剣に近付くとぶつかり合う事もなくグルリとひと巻きにして動きを封じてしまった。


「なっ!?」


 さすがのキョウシちゃんもこれには面食らったらしい。その表情を見て長髪の口元が更に持ち上がる、凄く嬉しそうで変質的な顔だ。こいつ絶対やばい奴だ。

 しかも長髪は最初の一撃から少しも体を動かしていなかった、それでキョウシちゃんを徐々に追い詰めている。こいつが凄いのか剣が凄いだけなのか良く分からない。

 キョウシちゃんの剣を捕らえた切っ先は、またも伸びてキョウシちゃんの喉元へと向かう。その一撃は軽そうだが確実に急所を狙っている、そういうところもいやらしい。

 キョウシちゃんの目付きが変わる、剣を固定されたせいで身動きが取れないらしい。喉に噛み付いてきた蛇のようなその一撃を、キョウシちゃんは強引に足で蹴り付けた。そしてそのまま足元へ踏み付ける。


「ほうほう……!?」


 これにはさすがの長髪も驚いたようだ、変質的な笑みと重心が崩れる。

 しかしキョウシちゃんはそこからどうするつもりだろう。切っ先は再び足元から伸びて来る、なんならそのままキョウシちゃんの体を足元から這い上がりローブを真っ二つにしてしまうかもしれない。……いいぞ頑張れ!やって下さい長髪先輩!


「救世主さん……?」


 するとキョウシちゃんはグイッと体に剣を引き付けた、からんでいた剣はその力を持ち主である長髪の手元へと伝える。すると長髪は簡単にその手を離してしまった。

 敵から剣を取り上げた、本来の決闘ならこれで勝敗が決まるはずだ。それでも切っ先の動きは止まらなかった、なおもしつこく敵の首へと噛み付いて行く。この執念にはさすがのキョウシちゃんも敵わないのだろうか。


「よっ!と」


 キョウシちゃんが手首を返す、すると切っ先の向きが根元から大きく動く。そして瞬く間に地面に突き立てられてしまった。上手い!さすがはキョウシちゃん。

 と思ったら切っ先は直ぐに這い出して来た。しぶとい!さすがは長髪先輩。早く服だけ切り裂いて。


「いやいや、これだけ逃げ延びたのはあなたが始めてですよ」


 顔一杯にいやらしい笑みを浮かべて長髪が言う。


「見てるだけで!気分が悪い!」

「芸がない……、だがわずらわしい……」

「こいつの戦い方は好きになれねぇナー」


 どうやら不快感を感じているのは俺だけではないらしい、男たちが口々に不平を盛らす。だが戦っているキョウシちゃんの目は真剣そのものだった。手元で剣を操りながら切っ先の向きを変えて器用にその攻撃をかわしている。

 だがそれにも限界があるだろう、キョウシちゃんの目の前には長く伸びた剣が失敗した飴細工のように広がっている。このままでは剣を持っている事すら難しい、かといって手放してしまう訳にはいかないだろう。

 どこまでも獲物の首へと喰らい付いて行くこの切っ先に、俺はもう不気味さを通り越して執念や怨念のようなものまで感じていた。強さというより執着、ひたすらからみ付いて来る異様な何か。

 長髪先輩……、友達になりたくない!


「よいしょっと」


 突然、キョウシちゃんが剣を頭上高くへ放り投げた。まさか剣を手放すとは……、キョウシちゃんらしくない。敗北を認めたのだろうか、それともそのまま手刀で長髪の首を刈りに行くのだろうか。


「姉さん……?」


 ジョーシさんが独り言のように言う、やはり信じられないのだろう。それほどキョウシちゃんと剣とは一対のものなのだ。

 キョウシちゃんは動かなかった、長髪を見つめたままでフッと息を吐く。思えば戦いが始まってからほとんど時間が経っていなかった。密度の高い、粘着質な時間だったのだ……。

 そんな時間の流れを表すように、二人の頭上では二本の剣がクルクル回りながら浮かんでいた。信じられない事にその切っ先はまだキョウシちゃんに向けて伸びている最中だった。

 二本の剣が浮遊状態から落下運動へと移行する、ますます長大になったその奇妙なオブジェがキョウシちゃん目掛けて伸びながら落ちて来る。


「キョウシちゃ──」


 俺は思わず声を上げた、だがジョーシさんが手を伸ばして俺を制する。その顔には決意のようなものが表れていた。祈るような気持ちでキョウシちゃんを見る、すると驚いた事にその顔には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

 前に居る変質的な奴と同じだ。もうヤダ、ついて行けないこの二人。


「さて、っと」


 キョウシちゃんは思い出したように顔を上げる、すると直ぐに落ちて来た切っ先を軽いステップでかわす。それでもしつこく迫って来る切っ先に目も向けず、オブジェの一部と化した自分の剣の柄を握る。

 それは結局元に戻っただけに思われた。上空に放り投げる前と何も変わらない、むしろ悪化したのかもしれない。上空にあった間に伸びた切っ先は螺旋状になりオブジェ全体に異様な印象を与えていた。しかもその先端は飽きる事なく獲物の首を欲していた。

 俺は既にこの戦いに嫌気が差していた、このしつこい剣と長髪の不気味な笑みに。もうこんな連中ほっておけばいいではないか、わざわざ危険な思いをするまでもない。キョウシちゃんはなぜ戦うのだろう、心配する人間が居るというのに。

 俺にもようやくジョーシさんの気持ちが少し分かった気がした。


「これで、どう──?」


 キョウシちゃんが手首をクルリと返す。すると長大なオブジェが旋回し、螺旋状になった部分が長髪の首元にピタリと触れる。更に伸びていた切っ先が長髪の背後からしぶとくキョウシちゃんへと狙いを定めて迫って行く──。


「と、止まれ!」


 長髪の顔から笑みが消えた。その背後で貪欲に獲物を求める切っ先がついに動きを止めた。


「まいり……、ました」


 長髪が肩を落として言う。すると奇妙なオブジェと化した剣はスルスルと縮んで行く。


「楽しかったわ、ありがとう」


 キョウシちゃんの言葉に長髪は苦笑を浮かべる、そして余裕をなくした感じでポツポツと話し出した。


「不意打ちとは、少々、汚い手段を取りました。しかし、そうでもしないと、一撃でやられると思ったんです。どうか……お許しを」

「うん……、そっか」

「そもそも、あなたが我々を斬る気はないと分かっていた。だから無闇に接近できたし、斬られる距離に居ても一方的に攻撃が出来たんです。そもそも私では勝負にならない……」


 その言葉にキョウシちゃんは笑顔を返しただけだった。確かにキョウシちゃんがその気になれば伸びて来る剣など放置して一瞬でカタが付いたのだ。


「いやはや、しかし……、負けるのは余りいい気分がしませんね」


 そう言うと長髪は苦笑を浮かべたままで男たちの方へ歩いて行く。


「忘れ物よ」


 キョウシちゃんは剣を拾い上げると長髪に向けて放り投げた、すると振り返るのが遅れた長髪の手に剣がスッポリと収まった。

 暗い顔をしていた長髪の顔が再び苦笑にゆがむ。だがその顔は戦っている時の変質的なものとは明らかに違うものだった。

伸びた剣の形状については書いた本人でさえ良く分かっておりません。

途中までは把握してたと思うんだけど……。

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