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地下が続く件

いくつ目の分かれ道だろう。

クワの形で眠っているらしい神の剣を杖代わりに休む俺。

その前でジョーシさんが、それぞれの道に何歩か踏み出し・戻りして何かの確認をしている。


「こっちです」


何がこっちなのか、その先に何があるのか、

それは何をしているのか。

いい加減慣れてきたこの地下道の、

暗い・狭い・怖いの三拍子の中で考える。


いくら歩いても判で押したような円形の道、

それを下っていたかと思うと上がって、今度は水平に。

進んでいるのか戻っているのかすら分からない不安感に、

さすがにジョーシさんの道案内にも疑問が沸いてくる。


「あの……」

「歩くの、少し早かったですか?休みましょうか」


足を止めるジョーシさん、

手にしたランプの光で眼鏡の下の冷たい目が揺らめく。


「いや、そうじゃなくて……まだ歩くのかなって」

「はい、恐らくまだ半分も来ていません」


確信的に言うジョーシさん、その自信はどこから来るのか。


「痛みますか?」

「いや、まぁこのぐらいなら……。救世主なので」


無駄な救世主アピールをする俺。

それに対して表情からは何も読めないジョーシさん。


そうじゃない、聞こう、ハッキリ聞いとこう。

この道は合ってるのか、その確証はどこにあるのか、

なぜ道が分かっていると思っているのか。


聞け、俺。聞いちまえ!


「じゃあ行きましょうか」

「あ、はい……」


ひよったんじゃない、何か言いにくいんだこの人。

気遣ってくれるぐらいの優しさがあるのは分かったけど、

自分の領域に踏み入らせない何かがある、距離を取ってしまう。

まぁ他人の事は言えないか。


ああ、暗い・狭い・怖い・寂しい……。

一つ増えた四拍子にそろそろ腹減ったで五拍子になりそうだ。



しかし、日が差してないだけで時間の感覚が全くつかめない。

今は一体いつ頃で何飯前なのか、そしてここに飯は届くのか?

こんな地下で飢え死にとか、救世主としてあってはならない事態だぞ。


そうだ、俺は救世主。

暗闇にちょっとだけ慣れてきた男。

怖くなんてないもん!


「あっ……」

「あ、ごめん」


考え事をしていたせいで、前のジョーシさんとぶつかってしまった。

ちょっといい匂いがした。

そんな俺の内心を見透かしたのか、

ジョーシさんが、うわっ凄く睨んでる。

凄く不快な顔で睨んで来る。

ごめんって、謝ったでしょ?ごめんって!


その冷たい目と眼鏡が光を反射して……光を?

ランプではない別の光。

どうやらまた分かれ道に来ていたらしい、だからジョーシさんが立ち止まって。

そして右へ続く道の先に光が、……光が!


「光がー!」

「あ、そっちは」


何かつぶやくジョーシさんを残して光の方へ突進する俺。

そっちは何だ、ワナでもあるというのか。

いや、光がある。


「光がー!」


ランプの明りもなく、光のある一帯までの真っ暗な道を全力で走る。

ん?ぐねった足?もう治ったんじゃないかな。

そんな事より光が、光がっ!?


ズザーと引きずるような音と共に痛みが走り、

世界が再び闇に包まれる。

湿った土を顔に、口の中にも感じる。


「ぺっぺっ、いててて……」


豪快なヘッドスライディングを決めたらしい俺。

顔も服も泥だらけに。

ん?他にも違和感が……。

そうだ!走っている間も手にしていた神の剣が、落とした?


振り返ると近づいて来るランプの光を背に、

ちょうど俺がつまづいた辺りに神の剣であるクワが立っていた。

またしても主人を捨てたなこいつ、こいつ……。


「くっククク……」


ランプの光が近づいてくる、そして謎の笑い声も。


「勝手に……、行かないで下さ……くっくすぐった」


笑い声の主は、やはりと言うかもしやと言うかジョーシさん。

脇を絞め、ランプを顔の前に下げ妙な形で縮こまっている。


「ぷはははは!」


笑っている、ひどくご機嫌な様子だ。

急な変化に俺がたじろぐ。


……なぜ?

バカみたいに転んだ俺が可笑しかったのか、

顔を泥まみれにした俺がそんなに可笑しいのか。

ジョーシさんが笑っている。


「もっもう、やめて下さ。ぷっはははは!」


初めて見たジョーシさんの笑い顔、

しかしそれは全く嬉しいものではなく……。

光の事を忘れ、真顔でジョーシさんを見上げる俺。

何だか悲しくなってきた。


「ぷはははは!こっこれは、べっべっべっ別に救世主さんをあはははは!笑ってるって訳じゃっはっはっはふふふ……。はぁっはぁっ苦しい、わはははは!でっでも、そんな、笑いたい訳じゃふふふははははは!悲しそうな顔しないで下さははは!そっそういう訳じゃ、くっふっふっふー……。ああ、ちょっと落ち着いて来あはっ!あはははは!やっぱりダメーぷはははは!はー!きゅっ救世主さん泣かないでっあははっあはー!?」


笑い転げるジョーシさん。

あの、俺一応救世主なんですけど……。


一応救世主、一応魔術師に爆笑される。

やっぱり一応っていい意味じゃないらしい。

暗い・狭い・怖い・寂しい・ひもじい・泣いてなんかないやい!

何一つ笑えない俺の前でジョーシさんが笑い転げている。


「あははははは!」


……どうしてこうなった。

展開が、遅い。

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