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剣の夢魔

「──主さーん?」

「救──さまー!どこー?」

「どこに居るんですかー!」


 目を覚ますとそこは夜だった。

 ……うん?俺は一体何をしていたんだろう、体が全く動かない。どうやら姉妹に呼ばれているようだが、二人の姿も見当たらない。

 しかし、妙にポカポカしていて気持ちがいい。寝ワラの代わりに口に入っていた糸のような何かを吐き出し、よっこらせっと体を起こそうとする。が、起き上がれない。体に上手く力が入らないのだ。

 もしかして、これがいわゆる金縛りという奴なのだろうか。悪魔か何かのせいだと聞いた覚えがあるが、まさか俺がそんな目に合う日が来るとは……。何やらエッチな悪魔という噂もあるし、俺は少しドキドキしていた。


「救世主さまー?」

「おかしいですね、この辺りだと思ったんですが」


 姉妹の声が聞こえるが、俺はもう少しこの状況を楽しむ事にした。むしろ邪魔をされたくない俺は、積極的に黙る事にした。ほら、こういうのは大人の世界のアレだから、例え二人でも簡単に立ち入って貰っては困るアレだから……ね?

 体中に感じる熱と圧迫感、良くは見えないが既に悪魔は訪れているらしい。そして俺はその悪魔の手によって何かされているようだ、いけない何かを──。

 体の感覚が戻っていくのを感じると共に、足元に何かが粘りついているような感触に気付く。アダルティな感触だ、胸が高鳴る、そして少々息苦しい。それでも俺の体は快感を求めて悶え出していた。もっと熱を、絡み合う何かを……!

 体中から汗が噴出す、荒い吐息が口から漏れ出す。今は姉妹の事すら忘れて、ひたすら俺のスポットに全神経を集中していく。夢魔よ、ここだ。ここが俺だ、ここを狙え!

 口を大きく開いて身震いさせる。金縛りと言っても案外動ける、そういうものなのかもしれない。そして動く度に俺のスポットがトップゲージへと登りつめる。そうだ、いいぞ。もっとだ。俺の目は暗闇の中でもハッキリと女体の悪魔を想像できた、これも常日頃の鍛錬のお陰か。剣は振らなくても女の観察を(おこた)ってはいない。


「何やらあの辺がモゾモゾ動いてますね」

「気をつけなさいよ、救世主さまとは限らないんだから」


 何やら姉妹の声がしているが、それも今の俺にとっては副菜のようなものだった。メインディッシュを姉妹の声と共に楽しむ、なんとも背徳的な味わいではないか。もっとください。

 ああ、俺の高鳴りがドンドコ高鳴っていく。スポットがトップスポットへと登りつめて行く。いいぞ悪魔、最高じゃないか。こんな悪夢なら毎晩見たい。

 俺の下半身に力が集まる、徐々にきつく締め付けられていく。体がブルブルと痙攣を始める、ああでもまだだ!もっと堪能したい、でも発射したい。剣の柄に足を掛けて青空目掛けて発射したい。耐え難い葛藤が脳を貫く。いいよ、悪魔。もっとだ、もっと。ああ、でもちょっと待って。どうした、もっと激しく、ああダメ、ちょっと待って。ああん、そんな乱暴な……。

 下半身の締め付けが強くなり、もう既に痛いぐらいだった。というより痛い。……痛いってば、いたたたた!そして大地は地鳴りのような声を上げると、俺の足を強引に持ち上げた。そして世界は朝の光を向かえた──。


「あ、救世主さま」

「そんなところで食べられてたんですね」

「……うん?」


 俺は姉妹の頭上に居た、下半身を固定されてぶら下がっていた。まるで洗濯物だ。発射したいとは思ったが、まさか本当に飛び上がるとは思ってもみなかった。だが俺の俺はまだトップへと登りつめてはいない。身悶えするように俺の下半身を支配する愛しい暴君の悪魔に目をやると、そこには巨大なヤギの頭が俺のスポットとその先の足を噛み締めていた。


「キャー!悪魔ー!?」


 余りの事に情けない声を上げる俺。夢想していた悪魔とは余りに違う物体が俺の下半身を締め付けていた。悪魔は悪魔でもこれは違う、こんな目が半月か三日月のようなやばい奴ではない。しかもヤギにしてはサイズ感がおかしい、でかい……。そして、普通に怖いです。

 怯える俺の背中を冷たい風がシュッとすり抜ける、火照った体に気持ちがいい。などと思っている暇もなく、ヤギの頭が大きく傾き、俺はその頭と共に真っ逆さまに地面へと落とされた。


「いてて……、そうでもないか」

「救世主さん、大丈夫ですか?」


 顔を上げるとそこにはジョーシさんが居た。その声に副菜感を感じた俺は少しばかり対応にまごつく、だが下半身に集中していた血液は一気に頭へと押し戻されたようだ。流した汗のせいか妙に体が涼しく、そして何か薄ら寒かった。上空を見上げるとそこにはどんよりした雨雲があり、天国へ登りつめられなかった俺の情念が涙を流しているようだった──。


「救世主さま、そこに居たら汚れるわよ?」


 振り返るとキョウシちゃんが立っていた。その声に副菜感を感じた俺は以下略。しきりに剣を振っているのは刀身についた返り血を払う為らしい。どうやら巨大なヤギはキョウシちゃんにあっさり始末されたようだ、その横に巨大な化け物の首や体が所狭しと並んでいる。

 そんな無残な残骸を目で追うと、自然と自分の手元へ辿り着く。そこには巨大な生き物たちの様々なパーツが並んでいて、趣味の悪い肉屋のようだった。食欲など微塵も湧きはしない。

 どうやらこれがクッション代わりになってくれたようだ、だが感謝の気持ちなどカケラほども感じはしないが。


「ひぃぃ……!」


 肉片をかき分けて残骸の山から這い出る。比較的マシな場所に足を落ち着けたが、周囲はそんな肉の山で一杯だった。まさに地獄……!まさか拷問する側の鬼や悪魔も、自分たちがこんな目に合うとは思ってもみなかっただろう。そんな悲惨な残骸で地獄がまさに地獄絵図と化していた……、むごい。

 これがジョーシさんの風車剣の威力と結果か、思わず背筋が冷たくなる。そして俺が埋もれていたのがこんな残酷でスプラッタな山の中だと思うとゲンナリする。俺は一体何に興奮していたのか……、勘違いって恐ろしい。俺の夢魔ちゃんを返して。


「早くここから離れましょうよ、匂いも凄いし」

「そうですね」


 俺は自分の下半身がクールになっているのを確認すると、立ち上がり姉妹の後を追った。そんなクールな下半身はあの巨大ヤギの唾液と血液でベットベトになっている。俺はこんな物に興奮していたのか……。勘違いって恐ろしい、俺の夢魔ちゃんを以下略。

 急にキョウシちゃんが立ち止まると、忘れてた、とつぶやく。そしていつの間にか手にしていた二本の剣を振り上げて背後を見る。その剣は長く伸びて回転し、呆然と見守る俺の前で再び肉片たちをほとばしる血と共にミンチへと豹変させた。

 その姿は老練で手馴れた趣味の悪い肉屋のようだった、不思議と食欲のカケラも湧きはしなかった。それどころか余りにひどい光景なのであえてこれ以上は見ないようにする。……うえっぷ。


「救世主さま、随分汚くなっちゃったわね」

「……そうだな」

「どこかで洗えないでしょうか」


 俺の体は色んな意味で汚れていたが、姉妹の言っているのは主に下半身の汚れなのだろう。まぁそれを言う二人の背中も泥で汚れているし、キョウシちゃんに至っては返り血までも浴びていた。俺を理由に体の泥を落とす方法を考えようといったところか。

 そういえば、と今更のように疑問を思い出した俺は、さっさとジョーシさんにぶつけてみる。タイミングを逃すとまた聞きそびれる。


「ここの連中ってさ、どうして血がドバドバ出るの?今までただの肉片だったよね?」

「──そういえばそうですね」


 俺の肉片という言葉に僅かな反応を示す姉妹、こんな地の底までやって来ても長女の事を忘れないその愛情には敬意を払いますが、聞いて欲しいのはそこじゃない。

 きっと俺たちはかなりの核心まで近づいて来ているはずなのだ。その証拠に地下へ降りるほどにどんどん空洞は大きくなっている、そしてその信仰も根深いものになって来ている。だって天国と地獄と来て、この下にあるのはなんだ?もはや一部の狂信者によるチープな神など這い出る隙もないだろう。

 俺が思うに、ここの連中が血を流すのにはそれなりの理由があるはずだ。俺は自分の鋭い読みに自ら感心しながらジョーシさんの言葉を待った。


「やっぱり、地獄だからじゃないですか。もしくはそういう信仰か」

「地獄って言ったら血が出るよねー」


 思ったより軽い返答が返って来た。ああ、さようでございますか。俺の考えすぎでしたか……。確かに地獄と言えば血肉は付き物と言えたが、いやしかし……。本当にどうなっているのだろう、次の空洞がもうちょっとマシな場所であるのを願うばかりだ。

 姉妹の足がピタリと止まる、どうやって泥を落とすか考えるのだろう。そう思っていたが二人は何も話さない、それどころかこっちを振り返りもしない。何があったのだろうと二人の視線を追うと、その先には木炭人間がいた。木炭人間たち、と言うべきか。

 身を寄せ合っていたその連中は密かに俺たちの事を観察しているようだ。やはり敵なのだろうか……?ぞろぞろとこちらへ向かって来るようだ。


「キョウシちゃん、どうする?」

「……」


 とりあえずキョウシちゃんにお(うかが)いを立てたのは、やはりこの連中を助けたのがこの子だからだ。いくら可哀相と言って助けたとしても、敵となればキョウシちゃんも容赦はしないだろう。そこにはシビアな戦いの世界があった。……そうだよね?容赦しないよね?

 猫袋という前例があるからいまいち信用できないが、そんなキョウシちゃんを見守っていると木炭人間たちは慎重に俺たちから距離を取りながらその背後へと歩いて行く。俺たちを狙っていたんじゃないのだろうか?

 釣られて後ろに目をやると、そこにはミンチになった化け物どもと、それに群がる木炭人間の群があった。そこら中から集まって来ている木炭人間で周囲が薄暗く見えるほどだ。

 不穏な空気を感じ取ったのか、姉妹のどちらかがゴクリとツバを飲む。それに合わせたかのように、木炭人間たちは一気に行動を開始した。

この辺りはまだ筆が乗っているんですが、直ぐにグダり出す予定です。

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