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魔術士の件

「あの、ショーシさん?」

「食べないんですか?冷めますよ、もう冷めてますけど」


教団の魔術師であるジョーシさんは飯を食う。

馬車の中で、取り分けもせずギュウギュウに敷き詰められた豪華な食事を淡々と。


キョウシちゃんとは違い、嬉しそうな顔一つせず。

黙々と食べるモクモクと。

眼鏡の奥の冷たい視線、

魔術師って一体何なの?



俺の疑問に呼応するように、犬の剣であり神の剣。

馬車の中で見えないが、

遠くの山に突き刺さり雲を突っ切りそびえ立っているだろう巨大な剣。


その剣と同じ姿をした、

自立式で飛び回る可愛げ乃ない中学生のような剣が、

ジョーシさんの周りを警戒するかのように回る。


「じゃあ、もったいないんで全てボクが片付けておきます」

「あ、食べます食べます!」


なぜか敬語になっている自分に落胆しながら、

開放感のある外ではなく、狭い馬車の中で飯を食う。



早い、さすが魔術師。

食うのが早い。

そして几帳面に半分ずつ食べていく。


さすが魔術師、食い意地が張っている。

全て半分片付けたと思ったら俺の文にも手を出してくる。


「あの、俺も腹減ってるんで。残りは全部食べますから!」

「食べながら話すのは能率が悪いです、後にしてください」

「あ、はい」


後にしたら意味ないんですけどね!

言いたい事は全て言ったんですけどね!

それでも食い続けるジョーシさん。


さすが魔術師。

って魔術師って何だよ!



食事は数分で片付いた。

俺の分も半分ほどは食われ、

空腹のままの俺はジョーシさんに詰め寄る。


「あの、ジョーシさん。よろしいですか?」


なぜか下手に出ている自分にガッカリしながら。


「美味しかった……。はい、何か?」


居たの?とでも言うような素っ気なさでジョーシさんが応える。


「教団の魔術師様が俺なんかに何かご用で?」


俺の質問にジョーシさんの冷たい目がキラリと光る。


「なんか、とは何ですか!あなたは救世主なのです。教団の魔術師より偉い、この世界を救う存在なのでです!ちゃんと自覚してください」

「はい……、すいません」


怒られた。

お前の方が偉いといって怒られた、

この理不尽さ。


何かのスイッチが入ってしまったジョーシさんのお言葉は続く。

「いいですか、救世主とは。神々の戦いを引き継ぎ、あの神の剣を握る存在であり。それによって混沌と混乱から我ら教団を未来へ導く者とされています。神々の戦いについても諸説あり、天からの来訪者・地底に眠るこの大地の旧支配者・鏡の世界との対峙。様々な事が言われていますが。正直そんなこと信じているのは父である教祖ただ一人ぐらいでしょう。こんな事態になってしまって正直我々も困っているのです、救世主たる存在に我々も手を焼いているのです。だからとりあえず遠くに置いておこうと、あっちこっちでまかせのように行き先を告げて遠ざけているのです。分かりますか?あなたはそのように孤高で近寄りがたく触れがたい、偉大な存在である事を自覚してください!」

「はい!」


褒められた気がした。

最後で誤魔化された気もした。

早口でまくし立てられ、余り理解できなかった。



馬車の外を見る。

山の輪郭をなぞるだけの赤い日の光を眺めて思う。


悲しくなるな、

寂しくなるな。


そう、俺は救世主。

……救世主ってなんだ?



「来てますね」


俺と同じように外を見ていたジョーシさんが言う。

伸びた山の影から姿を現す黒い影。

またお前らか……。


ジョーシさんに興味をなくしたか、俺の元へ飛んで来る神の犬。

じゃなかった神の剣。

俺を主人と認めてくれるんだな……。



渋々のように見えなくも無かったが、

決してキョウシちゃんが居ないから仕方なくって訳でもないのだろう。

……だよな?


剣を手に馬車を降りる。

残った日の光を踏みつけながら駆け、

一番手前の錆人間を力の限り斬りつける。


お見事!と心の中で声がする。

馬車を見るとジョーシさんが冷たい目でこっちを見ている。

今日の俺は少々手荒いぞ……?


振り上げて、振り下ろす。

力一杯、ザックザクと。


振り上げて、振り下ろす。

振りにくさを感じ柄を目一杯長く握る。


振り上げて、振り下ろす。

腰が入る。

切るというより叩きつける。

まるで農作業だ。


振り上げて、振り下ろす。

剣が退屈そうに伸びをする。

そりゃあ、俺じゃキョウシちゃんの代わりにゃならんよ。


悲しみを込め、振り下ろす。

寂しさを振り払うよう、振り下ろす。


淡々と、振り下ろす。

黙々と、振り下ろす。


赤い日が消え、夜が来る。


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