プロローグ
僕は山野勇太。
しがない野球クラブのセンターだ。
今日の試合は、大きな大会の予選への挑戦権を賭けた大事な試合。
試合も佳境、2-2の9回裏ワンアウト二、三塁。
4番バッターの打った打球が、綺麗な弧を描いて僕の守っている場所のやや後方を目指して飛んできた。
間違いなくアウトには出来る。
だが、それだけだとタッチアップで三塁ランナーはホームへかえり、同点になってしまう。
出来れば延長にまで縺れこまさず、ここで試合を終わらせたいと言うのが僕らのチーム、森岡ファイターズの本音だった。
僕はボールを捕った瞬間バックホームしようと、受ける前から送球の体勢になっていた。
それが仇となり、肝心のボールをよく見ていなかった僕は頭部に思い切り打球をぶつけることになってしまった。
若干の頭の痛みと共に眼が覚めると、見慣れない部屋の中にいた。
まず目に入ってきたのは眼がいたくなるほどのショッキングピンクだった。
周りを見渡すとファンシーなグッズや、可愛いキャラクターのぬいぐるみでいっぱい。
もしかしたらそういう趣味の男の人の部屋という可能性もあるが、まあ女子の部屋と思っていいだろう。
しかし、なぜ突然女子の部屋のベッドで目を覚ますのか?
頭にボールをぶつけたことは覚えているが、病院というわけでもなさそうだし…
ってそうだ!試合!試合はどうなったんだ⁉︎
普通に考えてあのまま二、三塁にいたランナーがかえって負けだろうけど、他のポジションの人がカバーに入ってくれていたらもしかしたら同点で延長って可能性もある。
そう思い、取り敢えず部屋から出ようとすると、
「ようやくお目覚めですか」
と呆れたような男性の声がした。
声のした方を見るとベッドの真後ろ、枕のある方向に扉があり、そこから執事姿の若い男性が立っていた。
タキシードをばっちり着こなし、落ち着いた雰囲気を纏っているが、その目だけは爛々とギラついていた。
「では、主をお呼びしますのでもう少々お待ちください」
そう言って彼はまたどこかへ去ってしまった。
急すぎて引き止める間も無く、状況もよくわからないので取り敢えず待つことにした。
数分ほど待つと、見るからにお嬢様といった様子の金髪の女性がやって来た。
二十代後半、いや三十代だろうか?
少なくとも守備範囲外であることは確かだった。
「起きたのね、じゃあいってらっしゃい」
そう言って女性が無造作に振ると、目の前が真っ白になった。
気がつくと俺は草の上に座っていた。
目の前には門が見える。
その周囲は石の壁がぐるりと囲っており、恐らく向こう側も壁だろう。
急なことに頭がついていかず、僕はただボーっと門を眺めて座り込んでいた。
野球は知らないです