2人旅?
『………どう見ても原因はアリアン様にある様ですが?弁明はございますか?』
「私が悪いの!?だって、この男胸触ったんだよ!」
ナビゲーションAIのショコラが事故発生前からの記録を確認して判定を出したのだがこの板胸少女は不服そうである。
「アリアンさんだっけ?走る人の前に急に立ち塞がってぶつかって被害者面すると世間では当たり屋なんて言われるんだよ?」
シュロップの指摘に頬を膨らませて黙り込むアリアン。
『………それでですね。もう1つ問題があるのですが…アリアン様は年齢制限でこの時間帯はお一人でプレイする事は許可されていないハズですが?』
確か、規約では16歳未満は保護者の同意の上、現実時間の午後10時以降はプレイ中も成人している大人とプレイしなければならないとあったハズだ。
一時期、他のゲームなどで深夜までゲームをして学校に行かなくなった子供たちがいて、親がゲーム会社を訴える事例があった。
とても頭の悪い事件なのだし当然ゲーム会社側が勝訴したのだが、そこにはただしという一文が付いた。裁判官曰く「ゲームを運営する会社側も義務教育中の利用者に対しては何らかの対処するをする事が望ましい」との事で、判決後のネットゲームにはほぼ全てに16歳未満の利用規約というものが出来てしまったのだった。
「だって、保護者がさっきゾンビの犬に殺られちゃって………それで後衛の魔法職だから誰か一緒に街まで行ってくれる人探してたら…。こんな街の外じゃあ、ログアウト怖いし………。」
「じゃあ、俺が一時的な保護者って事で次の街まで護衛して街でログアウトさせれば良いんだな?」
『お願い出来ますか?お手数おかけします。』
「ちょっと待ってよ!何で私を無視して話が進んでんのよ!」
「そりゃあ………規約だから仕方ない。」
『シュロップ様の申し出を断るなら強制ログアウトとなりますが?ログアウトした後も暫く身体はここに残りますので所持アイテムや所持金の安全は保障出来かねますが…。』
街中でなら安全なログアウトが保障されているが、街の外でのログアウトをすると3分間はキャラクターの肉体がそこに残る仕様なのだ。この場合、手にタッチするだけで所持アイテムや所持金が奪われる事になる。過度に殺したり、持ち物を漁られたりするのに身体に触れたりさせない為だ。勿論、ログアウトをした肉体を攻撃すると犯罪者カラーになるし、身体に触れたりするとハラスメントとして処理されるのである。
「安心しろ、これでも元警官だ………不良娘を放っておいたりしないよ。」
「警官!?………嫌な思い出が蘇る………。」
「何したんだよ…………で、どうする?街まで一緒に行くか?」
「うん、ここじゃあログアウトしたくない。」
『それではシュロップ様、宜しくお願いします。アリアン様?街に入ったら保護者の方と合流出来なかったらログアウトするのですよ?』
「………はい。」
不服そうなアリアンを残し、ショコラの声が聴こえなくなる。
「じゃあ、行くか。街までは残り2kmって所だからな。」
「………私アリアン…風魔法師よ。」
「おっ、自己紹介か?俺はシュロップ、職業は暗殺者だ。希望的にはソロ専門でこのゲームはやってる。」
「ふ〜ん。友達いないんだ。」
「ちげぇよ!(一人だけど)ちゃんといるわ!」
しかも職人で仕事の依頼をしているだけである。
「ふ〜ん………そういえば、ずっとフード被ってるけどレア種族なの?」
「………あぁ、レアなのに、人に嫌われる種族だってよ。場合によっては命狙われるってさ。」
「うわっ、レア種族も大変なのね。ってか、嫌なら再設定すれば良いのに。」
「くっ、婚約者の彼女に課金禁止されてんだよ!たった100円でも課金したら婚約破棄だってな………ぐはっ!」
「それは………ご婚約おめでとう?」
「ありがとうっ!!………さぁ、行こうか。」
アリアンの歩くペースに合わせて、パーティ設定したり、フレンド登録したり、雑談しながら街道をゆっくり進む。途中、飛び出してきた野兎に石を発射して倒したらアリアンに凄く冷たい目で見られたりしたのはご愛敬である。
「ちょっと待ちな!有り金と金目を物を全部置いていって貰おうか!」
チンピラが3人現れた。
「でさぁ、先生から言うのよ!ちゃんとノート出さないと内申点に響くぞって、授業聞いてないからノートなんて書いてないしさぁ、友達のノートをコピーして出したら今度は親呼び出されてさぁ…。」
「あぁ、確かにノートの提出とか面倒だよな。描いてた落書きとか見られる訳にはいかんしな。」
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!無視すんなよ!」
話ながらチンピラの前をそのまま通り過ぎようとする2人に大声で静止を掛けるチンピラA。その時、チンピラの視界からシュロップが消えた。
「ぐあっ!」
「…ぐふっ…。」
素早くしゃがみ込みチンピラAの後ろに回り込み、左手で解体ナイフをチンピラBの首に突き立て、そのまま右手でチンピラCの顎を下からショートソードで貫く。
「…っ!」
何とか動きを後ろから見ていたアリアンは一瞬で2人が抵抗もせずに死んだのを目撃し、息をのむ。そのままシュロップはチンピラAまでも持っていた武器のダガーを叩き落として後ろから首に腕を回して絞めて動けなくしてしまう。
「大丈夫か?」
「うん、何とか…。これが言ってた盗賊?たまにしか出ないって言ってたけど本当に出るんだね。」
開拓者ギルドの情報に街道で稀に盗賊が現れるという話をさっきしていたばかりなのだ。それで打ち合わせていたのがさっきの対応だ。
「………じゃあ、コレ片付けるからちょっと向こう向いてな。」
「そっ、そうだね………。」
向こうを向いて耳を塞ぐアリアンを確認してから、腕にそっと力を入れてそのまま動かなくなるまで力を入れ続ける。死んだのを確認してから小声でスキルを使用する。
「【クリエイト『ゾンビ』】!………お前らはこの鍬と鎌を持って、あっちに進軍だ!」
盗賊ゾンビに試験的に武器を持たせて適当な方向に行かせて、見えなくなってからアリアンの肩を叩く。ビクッと飛び上がりそっと振り返るとそっと耳を塞いでいた手をおろした。
「お待たせ、じゃあ行こうか。」
「もういない?」
「ふふっ、多分ね。何かアイテムドロップした?俺はダガーが1本とロープが手に入ったけど。」
「んっ?私もダガーが貰えた!やった!ついに鉄装備よ!」
「あははっ、良かったな。ダガーは長すぎず短すぎず女性でも使いやすいぞ。」
「やったぁ!私もさっきのシュロップみたいにバシュって格好良く戦える様になるわ!」
何とかドロップアイテムのお陰でドン引きしていたアリアンの緊張を少し解せてホッとするシュロップ。
「おっ、街が見えてきたぞ!俺も今日は街に入ったらログアウトして寝るかな!……………変身【人化】……それと【解放】っと………。」
「んっ?何か言った?」
「いや、何でもないよ。じゃあ、今日はここまでだな……また今度何かあったらメッセージしてくれ。じゃあ、おやすみっ!」
「おやすみなさい。」
こうして何とか新しい街に着いたシュロップは宿で部屋を借りログアウトするのであった。
ヒロインちゃうよ!(笑)




