開拓者ギルド
「よっ、そこの兄ちゃん!新人だろ?初級回復薬みていかないか?」
変身【人化】を使い買い物へと街へやってきたシュロップに露店を開いているプレイヤーらしい人種の男が声をかけてきた。
「回復薬か…一応、薬師なんだ。頑張って自分で作るよ。」
「ちょい待ちな、薬師といえど材料を採集出来るようになって作るまでに保険として薬持っていて損はないぜ?なぁ、安くするから買ってくれないか?」
確かに理屈はあっているし、保険はあった方が良いと考え直し足を止める。
「で、安くしてくれるって幾らだ?」
「初級回復薬はNPCの店で買うと通常18Gなんだが、新人さん価格で1つ13G、5つセットで50Gでどうだ!」
「確かに安いみたいだな。じゃあ、2つくれ。」
「えっ?……おい兄ちゃん、ここは5つくれって言うところじゃないのか?」
「じゃあ、その回復薬の評価を教えてくれ…。」
「ちっ…新人じゃなかったのか…。」
渋々に回復薬の評価を提示する男。
「評価はお腹いっぱいでも飲まないと効果ない。そして、ちょっと臭いか………という事は通常飲まなくても効果があって、臭くはないんだろうな……1つ5Gだな。」
「ちょっと待てよ!流石に5Gはないだろ!?NPCの店売りでも5Gだったぞ!?」
つまり、廃品回収価格でならNPCも買ってくれるという評価だろう。きっと素材のまま売った方が高く売れるだろう。
「語るに落ちたって感じじゃないか。」
「じゃあ………5Gで。」
「よし!じゃあ、やっぱり5つ貰うか。この際少し臭いくらい我慢するさ。」
そう言って結局5つを25Gで購入して店を後にする。そこには唖然としたプレイヤーが1人取り残されていたのだった。
「ちょっと品質は良くないみたいだが回復アイテムも入手したし、開拓者ギルド?ってのに行ってみるかな。登録だけして後は面白そうな話があれば何か仕事を受けてみても良いな。………すいません、開拓者ギルドは何処でしょうか?」
たまたま通りすがりのおばさんに声をかけて道を聞くと、目的地はすぐ背後にあり、あまり人の出入りは見られない。
「ありがとうございました。助かりました。」
とギルドに入ろうとすると、
「お兄さん、せっかく知り合ったんだからウチの商品見ていきなよ。今、片付けしてたんだけど商品だけは見れる様にしてあげるから。」
と愛想の良い笑顔で半ば強引に商品を見せられて、水筒と採集用の青銅スコップ、麻袋を110Gで買わされていた。
「お兄さん、またおいでよぉ〜!」
と手を振るおばさんを後に、少し早足になりながら開拓者ギルドへと身体を滑り込ませたのだった。
「なかなかの強者だった…ほぼ全部が善意なのが一番回避しにくい。」
世の中そんなものであると諦めて入ってすぐにあるカウンターへと向かう。
「いらっしゃいませ。開拓者ギルドへの登録でよろしいでしょうか?」
「は…はい。」
「わたくし、当ギルドの受付案内をしておりますププリと申します。」
「あ、どうもシュロップです。」
「では、この魔道具の上に手を置いて下さい。」
とカウンターの上に出されたのは六角柱の真っ白な水晶。側面には何やら文字がたくさん彫ってあるが見たことのない文字だ。心の中で「お手っ!」と呟きながら右手を魔道具に乗せる。内心のボケに反応してしまったのか手は軽く握ったままで本当にお手をする様なポーズになってしまった。
「ふふっ、シュロップさんって何だか面白い人ですね。」
お手に気付いたププリはそう言って笑うと何やら魔道具をいじり始める。…恥ずかしい。
「では、シュロップ様。開拓者ギルドに登録なさいますか?」
目の前にピコンという音とともに「はい」と「いいえ」の選択肢が表れる。
「何か開拓者ギルドに義務などはありますか?」
「そうですね、この開拓者ギルドは開拓者の皆様に情報を発信したり共有する為のギルドなので基本的には何をしなさいとは言わないのですよ。ただ、個々に色々な事をされると衝突や問題になりますので大きな公共事業をしようと思えばギルドにご相談下さいとお願いしています。」
確かに勝手に2つ以上のグループが道を別々に好き勝手に作ったらトラブルになったりするだろう。
「場合によっては他の開拓者様と繋ぎを取ったり予算の捻出の為に募金を集めたりも致します。また、当ギルドでも犯罪者への対処を行っておりまして、時に犯罪者には賞金がかかる場合がございます。より良い平和と順調な開拓の為ですね。」
「平和かぁ………トラブルとか面倒だし良いんじゃない?っと………では、開拓者ギルドに登録します。」
ポチッと「はい」を左手で選択する。
「はい、登録完了でございます。仕事の受注やお知らせはステータスメニューからご覧になれますので後程ご確認下さい。」
なるほど、それで建物内に人がいないのか。
「因みに、開拓者ギルドのメニューは開拓者ギルドの息のかかった街の中でしか開けませんのでご了承下さい。」
「つまり、ギルドが手を出していない村や街を発見してもギルドに報告してギルドが交流を持たないとメニューが開けない場所って事なのか?」
「ご理解が早くて助かります。皆様の利便性を高める為にも頑張って開拓を進めてやって下さいませ。」
「んっ?おっ、やべっ!時間が!じゃあ、またねププリさん!」
ゆっくりしていたら変身【人化】の残り時間が残り半分だという知らせが入った。残り一時間で街を出るか、宿で個室をとるかしないといけない。
「取り敢えず、変身【人化】のスキルの待機時間が伸びると何も出来なくなる可能性があるな…街を出て調薬素材の採集とゾンビでも作るか。後の事はそれから考えよう。」
街の外へと急いで出たシュロップは人影のない道から外れた林の中でスキルを解いて気持ちを作り直す。
「じゃあ、冒険の始まりだ!何が出るかな♪」
こうして青銅ナイフを片手に林の中へと姿を消した。
結局2本ガチ連載になりそうな予感がひしひしとしてきましたよっと…(笑)




