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引き摺られている。
ずり――ずり――。
どこへ向かうのだろう。
眠りについたままの僕は、ただされるがまま――ずり――ずり――。
「おはよう。真」
声が聞こえた。
「人間って言葉、きっとあなたみたいな人の為にあるような言葉なのよ。あたしは何彼でしかない。完璧な人っていうのがいて、何彼との間に立っているのが、きっとあなたみたいな、人になりきれない存在なのよ」
声が聞こえた。
「あたしは人間を取り込むわ。人間を飲み込めば飲み込むほど、あたしは何彼から少しずつ、人に近づける。あたしは自由になるのよ。まずは人間、そしていつかは人になる。それが自由なのよ」
薄らと目が開いた。
視界は狭い。
そして、自分の今を見つめる。
だれかが手を引っ張っている訳ではないようだ。
左腕の先にはだれもいない。安心した。
「……! どうして!」
目が覚める。
体中の切れていた何かが慌てて繋がり始める。
逃げ出そうとして立ち上がろうとする――が、うまく体が動かない。
左手が引っ張られる。
「起きちゃったのね。真」
壁がそこにはあった。
遠くに逃げたはずなのに、その壁はまた、目の前に立ちはだかった。
「あなたの左手の甲――その一部は壁の中にある。体が二つの世界に分かれたままでいることはできない。必ず。どちらかに引き摺られる。それが決まりなの。たとえ皮一枚だったとしても、あなたの一部がこちら側にある限り、外に出られないあたしが持ち続ける限り――あなたはこちらに来るしかないのよ」
「左手が」
もう手首まで壁に吸い込まれていた。
やっと足が言う事を聞いて、踏ん張ろうとする。
しかし、引き摺られるままに足は壁に触れ、足からも飲み込まれていった。
「やめろ! やめてくれ!」
「あたしは自由になる」
「うぁああああああああああ!」
「あなたの夢は叶うのよ。人から逃げ出したのなら、向かう先はこちらしかない。何彼に向かうしか無い。あなたの選んだ道なのよ」
僕はらくがきになった。




