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いつか此処で  作者: YukitoMio
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第四章 期待

ドロドロの木の中の部屋は五畳あるかないか程度の大きさで、歪な丸い部屋の左右にそれぞれ子供用のハンモックが二段ベットのように二つかかり、真ん中には小さな四角い机が置いてあった。

正確には『置いてある』のではなく、机はドロドロの木から『生えて』いた。

外の光が射し込む窓は三つあるが、その位置も大きさや形も、その日の木の気分によって毎日変わった。

今日は団子のように横に三つ、左右のハンモックのちょうど真ん中に並んでいた。

頬を赤くして木の内部を見渡すリオにライが言った。


「このベッドね、リオを寝かせる為だけにドロドロの木が作ってくれたんよ。」


リオの寝ていたベッドは、三つ並んだ窓の真下にあり、木から生えるようにして作られていた。

体が痛くならないようにという木の心配りだろうか。

ベッドには碧い葉っぱが沢山引き詰められていた。

自分の為に考えてくれたのだと思うと、妙にくすぐったく思えた。

しかし、不安は大きくなった。


「ねぇ、ライ。これは本当に夢じゃないの?オレ、どうしてここにいるのかも分からないんだ。自分の部屋で…眠ってたと思ったんだけど…。まさか…。」


眠ったのではなく死んだのかもしれない、そう思いながら、その先の言葉は出て来なかった。


「あなたは死んではいませんし、これは夢でもありませんよ。」


突然、フワフワした動物の前足が肩に置かれて、リオは思わず「ギャッ」と声を出した。

ライはその声に驚いて、髪の毛を逆立て「あわぁ!!」という面白い声を出した。


リオの前には黒いタキシードをビシッと着た、白いウサギのような生き物が立っていた。

そしてその隣には、リリィがいた。

ウサギのような、というのは、その生き物に右の耳がなかったからだ。

どちらからどう声を掛ければいいのか分からなくなったリオは、ウサギのような生き物とリリィを交互に何度も何度も見た。

リリィは面白そうにその様子を見ていたが、やがて顔を真っ赤にしながらリオに飛び付いてきた。


「リオ!会いたかった〜!」


リリィが飛び付いてきた瞬間、髪から花の蜜のように甘い匂いがして、リオは自分の顔が赤くなったのが分かった。

リリィがリオを抱き締める腕や体は柔らかくて、自分でも驚く程その感触が心地好く思えた。

脂肪などついてもいない、骨のゴツゴツしたリオの体とは明らかに違った。

これが女の子なんだと思い、そう思う自分が自分で恥ずかしくなった。

ウサギのような生き物はフワフワの前足で顎を擦りながら、満足そうにその様子を見ていた。

何色もの色を混ぜたように、リオの心の中で色々な感情がごちゃ混ぜになった。

リリィは数秒だけギュッと腕に力を込めると、離れ際にリオの頬にキスをした。

その目には大粒の涙が浮かんでいた。


「いつか会えるって信じてたの。」


リオも嬉しかった。

リリィは、リオの空想の世界の『魔法使い』だった。

黒に近い茶色の長い髪を一本の三つ編みにしていつも左側の肩から垂らし、白いAラインのワンピースを好んで着ていたが、体を動かす事が大好きなリリィはいつも何かする度に服を破いたり汚していた。

しかし簡単に魔法で新品のように出来るので、リリィの服はいつも真っ白で綺麗な白だった。

リオはリリィが魔法で簡単に服を直す仕草を想像するのが好きだった。


「オレも…まだよく分からないけど、嬉しいよ。」


リリィは微笑んでもう一度リオを抱き締めると、リオから離れてウサギのような生き物の隣に戻った。


「もう!リリィ!!おいらの事忘れてたれしょう!!後少しでプチッてなっちゃう所らったのよ。」


頬っぺたを膨らませて言うライのその姿は、ハムスターそっくりだった。


「では、改めまして。初めまして、リオ。」


ウサギのような生き物は片方の前足を胸に当てながら、頭を下げてお辞儀をした。


「は…初めまして。」


必死に抑えこんでいたアドレナリンが、出番を待ち構えていたかのように解放されて、瞬く間に体を駆け巡った。


「私はタウタ。この世界の番人をしております。」


リオは小さく頷いた。


「人間の子供とはもう少し落ち着きがないかと思っておりましたが…あなたは当てはまらないようですね。もっとこう…目が覚めたら取り乱すかと思っておりました。」


実際には頷く事しか出来なかったからなのだが、タウタは満足そうに目を細めた。

誉められたらしいという事は分かったが、何と言ったらいいのか分からず、リオはやはり頷く事しか出来なかった。


「ところで。ライ、あなたはどこまで説明しましたか?」


「ほぇ???」


「…まさか、何も?何もしていないんですか?」


「せつめいってなぁに?」


タウタは深い溜め息を吐いたが、リオの顔に戸惑いが浮かんだのを見ると、申し訳なさそうな顔をした。


「失礼致しました。リオ、体の調子は大丈夫ですか?」


「あぁ…うん。」


「それは良かった。では、ドロドロの木の外に出てみませんか?説明したい事がたくさんありますし。」


ライが嬉しそうに首を何度も上下に動かした。

リリィはそんなライを愛しそうに見ていた。

それをとても微笑ましい絵柄だと思いながらも、同時にリオの胸は痛んだ。

そんな自分の気持ちを打ち消すように、リオが勢い良く立ち上がった時だった。


「あわぁ!!」


リオの手のひらに座り込んでいたライが、リオが立ち上がる勢いに着いていけずに叫び声を出した。

慌ててライを見ると、ライはリオの手のひらから落ちないように必死で自分の体を支えていた。


「ライ、ごめん!大丈…。あぁぁぁぁ!?」


「きゃあぁぁぁぁっ!?」


リオの大声に驚いたライが体を丸めて震えながら叫んだ。


「羽根が…羽根がないよ、ライ!!ごめん、オレがいきなり立ち上がったから…!」


そこから先は言葉が続かなかった。

ライの背中に左右二対あるはずの美しい羽根が、左側しかなかったのだ。

リオの目に涙が溢れてきて、ライの姿がぼやけた。


「…あ〜…リオリオリオ…違うの違うの、そうじゃないの…。」


リリィが酷くばつが悪そうに言った。

タウタも困ったような顔をした。


「リリィ、良い機会かもしれませんよ。リオ…外で説明をしようかと思っていたのですが…」


タウタはそう言うと、リリィの腕にポンと触れた。


「ライの羽根の事なら大丈夫ですよ。あ〜…つまり…あ〜…『偽物』ですので。」


「に、偽物!?」


リオの声がひっくり返った。

ライは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら下を向いて手で顔を隠した。


「だってライは妖精でしょう!?」


「そう、勿論そうよ。ただ、ちょっと…あの…飛べないだけ。」


「…は?」


「つまりね、この世界は『そういう』世界なのよ。みんな…何て言うか『欠点』があるの。ライは妖精だけど羽根がなくて飛べないし、…私はリオが魔法使いだと考えてくれたけど…ん〜…魔法が使えないの!!」


リリィがベロをペロッと出して笑った。

リオは全く面白くなかった。

全身を駆け巡っていたアドレナリンは跡形もなく消え去り、代わりに熱くドロドロした感情が沸き上がってきた。


第四章

感情が変わる時















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