記憶と思い出の違い
「記憶と思い出の違いはなんですか?」
高校の現代文の授業が終わる5分前に、唐突に生徒から質問が飛んできた。
教師の私は虚をつかれて驚いた。
場所と経験という評論の授業をしていたので質問に驚きはしなかった。驚いたのは、授業の最初のほうは起きているが後半は堂々と教科書を枕に昼寝をかましている猛者の口から出た質問だったからだ。板書をみて疑問をもったのだろうか。
「いい質問ですねぇ」
彰かに誰かの言葉を失敬して私は言った。
自分の考えを口に出そうとしたが、すんでのところでとめた。生徒の意見を聞きたくなった。そして自分の考えを書いて次の授業で提出するようにと生徒全員に伝えた時、チャイムが鳴った。
答えなかった私を、質問した生徒は咎めると思ったが、チャイムがなってもシャーペンをクルクル回しながら自分なりに考えているようだった。
次の授業。驚いたことに提出率が良かった。
「記憶の集合の中に思い出がある」
「記憶は無機的、思い出は感情を伴った有機的なもの」
「記憶は一秒前から過去のもの、思い出はかなり過去のもの」
「記憶は忘れる、思い出は忘れない」
「記憶は客体的、思い出は主体的」
合ってる間違っているというのは関係なかった。
「なるほど〜」という声が上がるたびに、授業の本質というものが見えた気がしてある種の充足感を覚えた。授業とは生徒と一緒に創り出すものなのだ。
ちなみに発端となった質問者である生徒は
「記憶はテスト、思い出はカンニング」
なかなかの猛者である。
みなさんは、どうお答えになりますか?