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幽霊なんて存在しない!

「平凡」



俺の人生を紹介するならこの2文字で、十分にすまされてしまうだろう。

ありきたりすぎて、他の奴らが聞いたらつまらない人生と言われて終わりだろう。

 でも別にこのクソみたいに平和で

 クソみたいに退屈な日常が



 俺は嫌いなわけじゃなかった。



 俺の名前は日高圭介。

 この楽園第一高校に通う2年生である。


 あえて自己紹介をするなら、本当にどこにでもいる普通の男子高校生と言うのがもっともしっくりくるだろう。

 勉強が特別できるわけでもなく、テストの順位はちょうど真ん中くらい。

 ちなみに得意な教科は生物基礎。

 顔は地味というかなんというか特徴も無くて本当に中の中といった普通の顔だ。

 お笑いでコンビを組んだら目ただない方(・・・・・)と呼ばれるのは間違いないだろう。我ながら上手い例えだ。

 そして誰かを魅了できるような一発芸や特技なんてのも持ちあわせていなかった。

 何かやれとか無茶振りされたらキョドってそのまま死亡する。俺はパーティ向きのキャラクターでも無い。


 これは謙遜でもなんでもなくて、紛れも無い事実であり、俺は本当に普通の人間だった。

 まさにノーマル。並。平均。無個性。



 俺はこれからも永遠と続くであろう日常を、ただ淡々と歩いていく。

 俺の人生はこれからもそんな感じに進んでいくのだろう、と思っていた。





 _____________________この時までは。







挿絵(By みてみん)







 俺は今猛烈に悩んでいた。

 その内容というのは、今流行りのソーシャルゲームのひとつ『君だけのアイドル!と過ごす〜ドキドキスクールライフ〜』通称「君ドル」のことである。

 何に迷うのかといえば、それは今ガチャを引くべきか否かということについてであった。

 俺は毎日コツコツと貯めたログインボーナスのおかげで、1回だけならガチャがひけるという状況にたたされていた。

 しかし問題なのは、今がイベント期間外のためレアなカードが出にくくなっているということである。

 今すぐに引いてしまいたいという欲望と、今は我慢してフェスまで待つべきだという理性とが、俺の脳内でせめぎあっていた。

 ただ俺の体は猛烈にガチャを求めていた。

 今ここでこのボタンを押せば、新しい女の子と仲良くなれる。たったボタンひとつで、だ。

 俺はそんなことを考えて身悶えした。

 でも、もしここで引いて★3(有料ガチャの中では最低のレア度)なんて引いちまったらどうするんだ!

 絵に気合いは入ってないし、進化しないし、ましてやボイスがないんだぜ?作ったやつその女の子に謝れよまじで。全員気合い入れて作れハゲ。

あーもう、くそ!俺はいったいどうしたらいいん





 ぽふっ!


 突然俺の体にかるい衝撃が走った。

 君ドルの世界から、俺はふいに現実に引き戻されるのであった。



「…………痛いんだけど」



 俺は声の聞こえた方へと視線を落とすと

 なんということか、金髪が(まぶ)しい美少女と目があった。

 目があったというか明らかに睨まれていた。


「ちゃんと前見て歩きなさいよ前見て!!」


「あ……その、すまん」


 俺はなんとなく状況を掴むと反射的に謝っていた。

 どうやらこいつ(・・・)とぶつかってしまったらしい。これがラブコメだったらここから恋が始まるのだろう。


「…………バカ」


 そう言い残すと、不満そうな顔をした彼女は足早に立ち去っていった。

 愛想もクソもなく、ラブコメからはどう考えてもほど遠かった。

 しかし何であんなに怒ってんだよ?

 俺のぶつかったのがそんなに気に食わなかったのだろうか。どんな扱いなんだよ俺。


 眩しい金髪を揺らしながら彼女が遠ざかっていくのを、俺はぼーっと視線で追いかけていた。























 ______この時はまだ、まさかこいつが明日死ぬことになるなんて、

誰も知らなかっただろう。

俺だって、こいつだって。










 これから起こるとんでもない非日常を、

 まだ、俺もこいつも誰も知らない_______





 今ぶつかった彼女の名前は桐原ましろ。

 特徴といえばやはり髪の毛だろう。

 きらきらと眩しい金髪を腰のあたりまですらりと伸ばし、透き通った目に整った顔立ち。まさに誰もが認める美少女といったところだろうか。

 ……パッと見はどうみてもキラキラ眩しいリア充クソビッチなのだが。

 実際の彼女のキャラクターは容姿とはまるで掛け離れたものであった。


 美人で成績優秀、運動神経抜群、糞真面目、極度の人嫌い、性格最悪、彼氏無し友達無ししかもおそらく処……いやそれは知らん。ただの俺の偏見だ。

 まあようは後半につれて彼女のステータスはうんこに近づいていく。

とんでもなく変態的なステ振りの仕方だ。


 こんだけ美人でステータスも基本Sクラスの彼女を何もかも台無しにしてしまうのが、彼女の極端な性格であった。

 まるで人と交わらないのだ。コミュニケーションを取ろうという気がさらさらないのだ。

 ATフィールドを常時展開している彼女には、彼氏や友達ができないのも無理が無かった。

 言うなれば典型的な1匹オオカミなのだ。

 彼女のぼっちを貫く姿勢は見ていてむしろ清々(すがすが)しいくらいであった。



 つまり、『桐原ましろ』という人物は明らかにクラスで孤立していた。

ぼっちなのだ。



 しかしぼっちを貫く姿勢は見ていて清々しいとか美少女だとか言ってた俺だが、そういう俺も彼女のことはやはり苦手だった。


 これは才能あるものに対する嫉妬、というのも含まれていたかもしれない。

 ごくごく凡人の俺にとっては、彼女はあまりにも遠いところにいた。

凡人には天才の思考なんてのは到底分かるものでは無いのだ。




x          x           x





「………あーあ。ほんと惜しいよなあいつ。……性格さえ良ければなあ」



 ……ほんとそれなんだよなあ。性格さえ良ければな。

 今俺に話しかけてきたこの眼鏡男子。

 こいつは俺の数少ない友達のひとりで、名前は花村健太。

 小さい頃からこいつとはずっと一緒で、いわゆる幼なじみというやつなのだろう。


 こいつは堅苦しい眼鏡のせいか真面目くんに見られてしまうことも多いが、そんなことは無くて実際はただの愉快な変態である。


「ほんとその通りだな……」


 俺は桐原から視線をはずし、自分の席に戻った。


「まああんま気にすんなよ。てかおまえさ、怖いのとか平気?」


「なんだよ急に………?」


「だから、怖いの平気かって聞いてんだよ?

大事なことでもねえのに何で2回もいわなきゃいけねーんだよ……」


「なんだ?心霊とかそういう(たぐい)の話か?」


「そうそれだ!それそれ!」


「幽霊なんて存在しないが俺の第一信条だからな。信じてないから怖くもないな」


 幽霊か。

 外ではこんな風に虚勢をはっているものの、俺は怖いものが大嫌いだった。だったというか、ですの方がいいか。現在進行形で俺は怖いものが大嫌いです。

 小さい頃から形成され続けたビビリはいまだこの年になっても直ることは無かっただす。


 でも幽霊を信じてないってのは嘘じゃない。

 科学的に証明できていないものの存在など、俺は絶対に認めない主義なのだ。


 ただ実際のところは、いないと分かっていても怖いものは怖かった。


「お!さすがだな圭介の兄貴は男気あるや。

……………俺と駆け落ちでもするか?」


「しねえよ」


「そうか。まあいい。本題に戻るぞ。昨日の話だ、俺はとてつもなく怖いホラービデオを独自のルートで入手してしまったのだ……。それを一緒にみてはくれないか兄弟……?」



 健太は俺を真剣な面持ちで見つめてくる。


「なんだよ独自のルートって!まあいいやそれは……。兄弟よ俺は思うんだが」


「なんだ兄弟言ってみろ」


「お前一人でみればいいんじゃないか?

いや、是非一人で見てくれ」


 健太は俺の言葉を聞くと、がっくりと肩を落とした。そんなに俺と見たかったのか。


 でもさすがの戦友の頼みでもこればっかりは聞けなかった。さすがに。

極度のビビりである俺がそんな怖いビデオなんて物騒なものは見れるはずがなかった。


 しかもそれも何でお前みたいなおっさんと。




「…………あんたたちなに話してんの?

教えてよ!」



 俺たちのこんな会話になんということかいきなり女の子が食いついてきた。

 逆ナンかな?

 なんてのは冗談である。

 かくいう話しかけてきた彼女も実は俺たちと幼なじみで、彼女を含めたこの3人組は今でも同じ学校で仲良くやっているのだ。


 彼女の名前は星乃美晴。

 黒髪ショートがよく似合う美人顔。

 美人といえば、さっきの桐原と多くの男子は上げるだろうが、俺はそこであえて美晴を推すだろう。

 桐原とはタイプが異なるが、美晴はかなりの美少女だと思う。


 こんなトップクラスの美少女と気軽に話せる俺は、やはり幸せものなのだろうか。


「おー美晴姉さんじゃねえか!!おれと一緒に超怖いビデオみないか!?」


 さっきまで落ちこんでいた健太の顔が

 ぱぁーっと明るくなった。

 現金なやつだなお前は。


「超怖いビデオ?なにそれ、……めちゃくちゃ面白そうじゃん!」


 美晴も大きな瞳をきらきらと輝かせた。

 え?なんで?そこはきゃーっ‼︎あたし怖いのとかマジむりぃーっ☆>_<がセオリーでしょうが。

 少なくとも女の子ならちょっとは怖がっておくべきところのはずなのだが。


「え?美晴まじで言ってんのそれ?」


「まじ。私さー、怪談とかそういう系超好きなんだよね!三度の飯の次に好きだわ!」


 三度の飯には順番を譲らないんだな。

 まあでもこいつが怖いのが好きってのは知らなかったな。男らしい。


「そうか!そうか!そんなに好きか!じゃあ今日の放課後に圭介の家で超怖いビデオ鑑賞会をやろうではないか!!皆の衆異存はないな?」


 異存ありまくりだわ!

 ……っていうか俺さっき見ないって!

 おいおいなんでこんな流れになってんだよ。

 嫌だよ。俺絶対見たくねえ。


「……おい……ちょっとまっ!!」


「ないない!きまりね!」


 俺の言葉は美晴に強引に掻き消された。

 なんだこれは封印系魔法か。マホトーンか。


「よし、それじゃ今日の7時に……」


「いやいやいやいや!!嫌だよ俺は!!てかなんで俺ん家なんだよ!……勝手に決めてんじゃねえよ!」



「……圭介?」


「………ん?……なんだよ美晴」


「あんたもしかして……………ビビっt」


「あ?びびってねーよ?なんだお前?上等だよホラーでもなんでもかかってこいや」


 ……あーあ、言っちゃったよ。


 俺はまた虚勢をはってしまった。

 どんだけカッコつけたいんだよ俺。カッコつけてもカッコ良くないのわかってるだろ。

 どんなことであろうとすべて※ただしイケメンに限るなんだよ。怖いの得意でも俺クラスじゃ何のステータスにもならんだろうがバカたれ。


 あれ……なんだろうこの気持ち。

 とりあえずもうカッコつけるのなんてやめると神に誓います。


「よし……じゃあ決まりね!今日の放課後圭介の家で決まり!文句は……ないよね?圭ちゃん?」


 美晴は限界まで追い込まれた俺に向けて、最後のとどめを放つかのようにこう言った。


「う………………わかったよ………」


 とどめをさされた俺には、もはや反論する余地など存在しなかった。

 美晴さんマジぱないっす。




     x          x           x



 そんなこんなで気づいたら、俺たち3人は俺の部屋でその超怖いビデオとやらを見ようとしていた。

 流されるがままにこんな状況まできてしまった。


 そのビデオのタイトルは「超絶怖い!呪いのビデオ7」である。なんともB級臭のするタイトルであるが、すでに第7段まで製作されているということからも中々なヒット作品であるのだと思われる。

 つまりは、なかなか怖いのだ__________



























 ____________「やっぱ見るのやめね?」



 俺はこの後におよんでも、まだ引き返そうとしていた。情けなさすぎる。

 だって、本当に見たくなかった。まじで。



「なにいってんの圭介?馬鹿なの?」


 星乃が冷たい視線でこちらを見ている。

 少なくとも仲間になりたくてみているわけではなさそうであった。


「あ?冗談だよ?あーはやくみてーなあ。怖いビデオみてーー。(棒)」


「だよね!びっくりした!」


 俺が棒読みなのはことごとくスルーされた。ちょっと恥ずかしい。

 美晴はよほどビデオが楽しみなのかそわそわと足を動かしていた。


「…………俺がそんなのでビビるとかそんなことあるわけないだろ、はは」


 なぜ、男子という生き物はそこまでして女子の前でカッコつけなけらばならないのだろうか。これは男に定められた宿命なのか。


「よーし!じゃあ電気消すぞー……♪」


 待ちかねたかのように健太は電気のスイッチへと手を伸ばした。

ていうか、なんで怖いビデオ見る前に♪マークついてんだよ、お前本当なんなんだよ。


 パチッ♪


 健太はスイッチを押した。

 軽快な音と共にあたり一面に闇が広がる。

 俺の部屋は一瞬で暗黒大陸と化した。

 地獄のステージのはじまりである。


「じゃあ再生するぞ………!!」


 健太は暗闇の中からリモコンを回収し、その中腹に位置する再生ボタンへと手を伸ばす。


 俺の部屋に、なんともいえないゾクゾクとした空気が流れるのを感じた。閉め切っているはずなのに俺の部屋にはひんやりとした空気が漂うようだった。

 俺の恐怖は加速していく。


 かくいう二人も強がってはいたものの、いざ再生するとなると少し顔がこわばっている。やっぱ怖いんじゃねえか!なんで見ようなんていったんだよこいつら!マゾかよ!


 健太の指が再生ボタンに近づくにつれて鼓動が徐々に早くなっていくのを感じた。なんか緊張してうんこしたくなってきた。

 だが、今は我慢だ。


 ぽちっ♪


「さあ始まるぞー………!」


 ビデオの始まりとともに健太の眼鏡が光る。



    x          x           x



『おい……もう帰ろうぜ……。やばいって。本当になんかでそうじゃねえか……』



『帰るってお前……まだ来たばっかじゃんかよ。もう少し散策してみて何もいなかったら帰ろうぜ、な?』



『………………………わかったよ』



「これは心霊スポットに遊びに来てる大学生2人組ってところか?」


 健太が言うように恐らくそのようである。

 特に説明もなくいきなり物語が進展していくあたりに恐怖感をそそられる。

 2人は物々しい雰囲気のトンネルの中へと入っていった。いかにも心霊スポットといった感じである。


『おい……………………』



『…………なんだよ?』



『お前今なんか言った……?』



『いや……?何も言ってねえけど………』



『…………そうか。…………悪い』



『……。お前ビビりすぎてんじゃないの?』


 男は微笑しながらそんな言葉を吐き捨てる。

 一瞬俺はビクッとした。

 今のセリフは俺に向けてだったのだろうか。いやそんなはずはない。もしそうだったらそれはそれで凄い仕様だ。


 真っ暗闇の中を2人は淡々と歩いていく。


『……ちょ……静かに!』



『え?なんて?』



『いいから静かに! ……何か………、聞こえないか?』



「………うぅ」



 真っ暗闇の中で黙り込む2人。

 張りつめた緊張感に思わず声が漏れる。


 ……長い……長い沈黙が長い!

 いつまで黙ってんだよお前ら、なんか喋んなかったら映画として通用しねえだろ。こっちは金払って見てんだよ。なんか喋れよ。いや喋ってくださいお願いします!




 _________『いや………?なにも………………………え?ゔううわあいぎぃやゃあああぅぁああqwせdrftgyふじこlp!!!!』



 突然俺の部屋に悲鳴が鳴り響く!

 男は頭を豪快に食いちぎられていた。

 犯人である化け物女はバリバリと音を鳴らしながらその頭を食べていた。

 その途端に耐えきれなくなった俺もすかさず悲鳴をあげる!



「ゔゔぇいぁぁあぎゃぁあぁあああゃゔぅぇええいいいぃぅあぁぁぁぁあゔぅいいあqwせdrftgyふじこlp!!!!!」



 俺はプライドも何もかも捨てて隣にいた健太に抱きついた。だから見たくないって言ったじゃんバカ。喋れよとは言ったけどそんなシリアスな悲鳴は求めてねえんだよ。

 あんなんみたら夜寝られねえだろ。トイレとかに出てきたらどうすんだよ。


「うるせえよ!っていうかくっつくんじゃねえ!」


「いやこええよ!!これ!!これはアウトだろうが!!だって頭……頭まるごと……!」


「あんなのCGだろって!冷静になれ圭介!お前はビビりす……」




『ぐああああああ!!!あんだあぁああっみいぃいいだわあねええええっ!!!!』




 テレビ画面いっぱいにさっきの化け物女が映った!猛アピールである。

もはやこっちに出て来ちゃいそうな勢いだ。

 ていうかちょっと出てきて……

 それと同時にまたも悲鳴をあげる俺と健太。



「っゔううわああぁぁぁっっっ!!!!!」




 __________________その後、この「超絶怖い!呪いのビデオ7」は3時間あまりにわたって続いた。予想外の大長編である。

 エンドロールがはじまり、やっと終わったと俺は安堵のため息をつく。

 無論、俺は3時間の間絶叫し続けた。終わった頃にはもう声がかすれまくっていた。

 そんなこんなで気づいたら時計はもう夜の10時を回っていた。

 どんだけ長いホラービデオなんだよ。

 2人ともかなり疲れたようで、くーっと伸びをしている。


「いやあ、面白かったな!中々な傑作だったわ。超感動した…。」


 健太はかなり楽しめたようで満足の表情を浮かべていた。

 しかし、いったいどこに感動するシーンがあったのかは分からなかったが。


「あたしも!めっちゃ面白かったあ!最後のゾンビが爆発するとことか本当泣きそうになった」


 星乃もレビューの内容は意味不明だが、満点星5評価のようだ。ていうかお前ゾンビの方に感情移入してたとかマジエキセントリックだわぱねえ。


 2人とも大満足の結果といったところだろうか。いやーいい話みたわーみたいな顔をして余韻に浸っている。

 言っておくがお前らが見たのはホラービデオだからな。


 ……しかし、これではなんだか俺だけ楽しんでないみたいで悔しい気分になる。


 ので、全く楽しくなかった俺も、便乗しておくことにした。一応。


「いやー、面白かったなあ!久しぶりに映画で泣いたわ。すげー良かったな、うんうん」


「は?圭介は怖くて泣いてただけじゃん」


 すかさず放たれた美晴の言葉は、ナイフより鋭く俺のピュアなハートを切り裂いた。


「……え?いや。違うよ……?」


 違うのか?

 怖いビデオなんてのは泣くほど怖がるのが最も楽しんでたということではないのか?

 別に監督も感動して欲しくて作ったわけではないだろ絶対。お涙頂戴なら他のジャンルもっとあるだろばかやろう。


 俺はそっと涙をふいた。


「あー、……もうこんな時間か。俺そろそろ帰るわ」


 健太は携帯で時間を確認すると、少し驚いたような表情を浮かべる。

ビデオを片付けたりしながら、帰り仕度をはじめていた。


「そうだねー、もうこんな時間……。私も帰んないとな……」



 美晴も残っていたジュースを一気に飲み干すと、携帯をポケットにしまい、俺に手を振って部屋を出て行こうとした。


「……え?あの……、帰っちゃうの?え…….え……?」


 俺は帰ろうとする2人を慌てて止めようとした。


 俺はこの時まで気づいていなかったのだ、こいつらが帰ってしまったら家には俺しかいないということに 。

 今から壮絶なリアルホームアローンがはじまろうとしていることに。

 親はずっと出張、妹は友達の家に入り浸り、ぷち家出とやらをしている。

 別に寂しいとは思ってないけどね。大音量でエロ動画流せるし、大声で俺ひとりライブとかやれるしね。楽しんでるよ。

 だから、全然寂しくは無いんだけど今日だけ帰って来てくださいお願いします。


「何?帰っちゃうの?って泊まってけってこと?女の子自分の家に泊めるとか童貞の分際でやっていいことじゃないと思うよ……?」


 美晴はドアノブに手を伸ばしながらキモ童貞は死ねよみたいな目線を送ってくる。お前は童貞になんでそんな偏見があるんだよ。

 てか、なんでこいつ俺が童貞だって知ってんだよ。エスパーかよ。


「悪かったな童貞で。じゃあ、健太は泊まってけよ?今日家に誰もいねえからさ?な?」


「……え?いいよ別に。明日学校あるしめんどくせえ。てか、なんでお前そんなに泊まって欲しいんだよ。もしかして1人でトイレ行けないとかそんなのか?」


 お前もエスパーだったのか。

 ここで素直にそうです、トイレ行けないから泊まってくださいお願いしますって言えば泊まってくれるんだろうかこいつは……。

 ……しょうがない。ここはプライドを曲げてでも泊まってもらうしかないな……!


「う…ト、トイレくらい一人で行けるに決まってんだろ!お前らがいいなら、別に泊まって欲しくなんかねーよ……!」


 なんでだよ!どうしてそうなるんだよ!

 さっきの脳内の俺はどこに行ったんだよ!

 しかもなんでちょっとツンデレみたいになってんだよ!

 あーさっき神に誓ったばっかなのにもう約束破ったよ俺。バチあたんねーかなこれ?



「……じゃあ帰るわ、またな圭介」


「……またねー、圭介!」



 2人はあっけなく帰っていった。



「え…………」


 バタァン。


 ドアの閉まる音が虚しく響き渡った。

 友達の大切さを痛感した一瞬であった。



「俺はいったい……今からどうしたら良いというんだ…………」


 俺は頭を抱え込み絶望に打ちひしがれた。

 こんなとんでもなく怖いビデオを見せられた後で家の中にひとりで放置されるなんて。

 これはなんという拷問であろうか。

 これからはじまる恐怖に身震いした。


 ああ、こんな時に誰かいてくれたらどれだけ心強いだろうか。

 俺は孤独の辛さを痛いほどに感じていた。


 この時ばかりは、淋しいと死んでしまううさぎの気持ちが分からなくもなかった。


「まだ……10時か……」


 時計を見つめた俺は思わず独り言をもらす。

 夜はまだはじまったばかりであった。

 俺は思わずため息をつく。


 あー、早く朝こねえかな。

 俺は、ただただそう願った。

 これほど朝が待ち遠しい日が今までにあっただろうか。


 普段は朝が来ると、1日のはじまりを感じてなんか憂鬱になるのにな。

 学校行きたくねー、とかいつも思ってんのにな。

 ましてや朝なんてこなくて永遠に眠っていたいと思いながら眠りについた日もあったな。


 でも今日は違う。

 俺は朝を恋い焦がれていた。

 自分はなんてわがままな生き物なのだろうと気付いてしまった。


 俺はそんなことを思いながらふと気付いた。


「あ……風呂入んねえと……」


 まあめんどくさいけど風呂だけは入っとかないとな。

 さっきのビデオで汗もかいたし。


 俺はしぶしぶ立ち上がって風呂に向かおうとする。

 しかし、一歩踏み出したとき、衝撃的な事実に気付いてしまった。



 俺シャンプーする時って目つむってることないか!?


 ____俺は風呂に入るのをやむなく断念した。

 この状況での風呂はあまりにも危険すぎる。

 ひとりで戦場に突っ込むなんて無謀なことはしない主義なんでね。


 ……まあ1日くらい入らなくて臭くなることもないだろうし。俺生きてるだけでいい香りするし。ラベンダーの香りとか。



 とはいえ、部屋にいるのはなんか怖いので、とりあえずリビングに脱出しようと思った。

 ベッドに降ろした腰をもう一度持ち上げようとした、




 その時であった



 ガタッ。



 物音がした。

 それは些細な音ではあったものの、俺の歩みを止めた。だるまさんが転んだ世界選手権ばりの静止である。

 神経質になっている今、そういうのには敏感に反応してしまうのだ。



「……………………」



 俺は開けかけたドアの前でただ立ち尽くしていた。今動いたら死ぬような気がした。


 すると、


 カタッ。


 再び物音がした。

 これも小さな音ではあったが、今の俺には何か大きな意味を持つものの様な気がして、ほっとくわけにはいかなかった。

 あんな怖いビデオを見た後ではただの物音がただの物音だと思えなくなってしまうのだ。


 俺はゆっくりと後ろを振り返る。

 緊張で上手く回らない首はギシギシと効果音をたてるようであった。


 ……部屋をざっと見渡すが、何もいる気配など無かった。いや、まあいたらマズいんだけどね。もしなんかいたら普通に卒倒する。


 で、さっきのはただの物音ってことだよな?


 そう脳で思い込もうとするも、俺の心臓は明らかに普段より早いペースで波打っていた。

 そのまま俺は物音の原因を探るようにして、部屋の景色をみわたした。

 とくに違和感を感じるポイントなんてのはない。

 やっぱさっきのは気のせ



 ガタガタッ



 ……また物音だ。

 しかも、今のは今までよりもかなり大きい音であった。空耳かなぁ?なんていう風には済ませられるレベルでは無かった。

 その音は俺に何かを主張しているように感じた。いや、何を主張してるんだ。やめろ。


 俺の息はつまる。


 もう3回連続で物音がなっている。

 これははたして偶然なのだろうか?やはりこれは___運命?

 運命とかかくとラブコメ♡な感じがしていいなと思う。ただこれはラブコメじゃなくてただの怪奇現象だ。


 確かに今の俺は神経質になっていると思う。

 だけど、3回連続だぜ?

 偶然が3回起こった時。それは、偶然でも奇跡でもなく運命である。というかっこいいセリフをどこかで聞いたことがある。

 いつかくるプロポーズの時とかに使おうと考えている。


 これもやはり偶然でなくて、何かの運命なんだろうか……?



 ………ゴトッ!



「ひぅっ……‼︎」


 思わず変な声が出てしまった。

 しかしそれも無理がないことであった。

 俺の愛してやまない美少女フィギュアりんごちゃんが床に落下したのだ。俺の書斎からワイルドにスカイダイビングっていうよりどっちかって言うと飛び降り自殺した。

 きちんと立てておいたはずなのに……これはどう考えてもおかしい……。


 つまり今のは……


「怪奇現象……?」


 背筋がゾッと冷たくなるのを感じた。

 俺はとんでもないものを見てしまったのかもしれない。下手したら今科学的に証明されちゃったんじゃないの?だって俺見たし。


 ビビりすぎている俺は床に落下したマイスイートハニーりんごちゃんの安否を確認してやることもできなかった。


「うぅ………りんごちゃん…………」


 さっきからの物音の原因はこいつだったのだろうか?


 まさか!

 りんごちゃんが意思をもって落下したのか?

 とするとこの子実は自殺願望があったのか?俺の部屋がそんなに気に入らなかったかちくしょう。


 ……ついにフィギュアも意思を持つ時代か。

そんなことを考えている間にも怪奇現象ラッシュは止まらない。



 ドンドンっドンドン!!


「おおうっ!」


 ええ!?なんか壁殴られたぞ!

 ……どうやら隣の部屋からのようだ。

 これが今流行りの壁ドンというやつか。生でくらったの初めてだわ。新鮮だな。

 いやいや冗談を言っている場合ではない。

 本当にヤバいかもしれない。

 壁ぶちぬいてでてきちゃうかもしれないよ。何がって?知らねーよ。


 実は俺は今の壁ドンで腰が抜けてしまって、へなへなと床に座り込んでしまっていた。

 ……足に力が入らない。

 しかしなぜなのだ。

 俺は座り込みながら考える。


 でかい声で歌ってるわけでもないし……爆音でギターも弾いてないのに……。

 ただ脅えてるだけの仔羊なのに……。

 隣人は何が気に食わなかったのだろうか?

 あ、さっきの呪いのビデオみてた時に叫びすぎたか……。さすがにうるさかったか。

 いやでも時差半端なさすぎだろ。なんだあれか、隣の部屋はアメリカにでもあんのか。

 ああ、全くもって意味不明である。


 しかも隣に住んでんのって、あのおとなしそうな女子大生だろ?いやーなんというかおっとりした感じだと思ったんだが。

 彼女が壁を殴っているのか。

 まるで想像がつかない。

 ていうか叩かないよね、絶対。


 てことは今壁を叩いたのは一体だれなのだ?

 女子大生じゃないとしたら……やっぱ。

 いやいやないないないない。それはない!

 や、やっぱあの女子大生だって、叩いたの。

 なんかあったんだろうな、多分。

 生きてりゃ色々あるよなそりゃ。


 そうだ、隣なんだし聞いてみればいい。

 壁ひとつはさんでるだけで、隣には女子大生がいるんだぜ?どうだ、なんかエロいだろ。


 俺は勇気を出して壁に向かって話しかけた。

 いや、違う。

 壁の向こうにいるであろうお姉さんにむけて話しかけた。



「あ…あは…は……。壁なんて叩いて……どうかしたんですか?今日は嫌なことでもあったんでしょうか………?」



 しかし、返事が返ってくることはなかった。


 変わりに___




 __ドンドンッ!!




 壁ドンが返ってきた。


「いや!壁ドンかよ!お姉さんそれ返事になってないよ!ほんとにお姉さんなの!?」


 壁に向かってつっこんだ俺は、なんだか急に馬鹿らしくなってきた。


「俺……ひとりで何やってんだよ。」


 気付いた時にはひとりミュージカルをやっていた。やっぱ幽霊とかありえないし?どう考えても俺の気のせいなんだよな。

 どっと疲れが押し寄せてきて、俺はベッドに横になった。

 神経を張り巡らせ過ぎたようだ。


「幽霊なんているわけないねーだろ。……何してんだろ俺」


 確かに実際馬鹿らしいものだ。

 普段は何も気にせずに部屋を真っ暗にして寝てるのに、今日に限って警戒しまくるというのもおかしな話である。


 別に怖いビデオを見た日に幽霊が出るなんて限らないのだ。

 幽霊なんて出ないけど、もし仮に出るとするならどの日も均等にでるはずだし。

 普段ビビってない俺が今日だけビビる必要もないんじゃないのか。

 俺は最強の理論を展開して、勝利の優越感にひたっていた。


 まあ壁ドンの件は明日お姉さんに会ったら聞いてみればいいか。今日はもう寝よう。

 俺はりんごちゃんの無事を確認したのち、そっともといた場所に置いた。


「もう落ちてくんなよ……まじで……」





















 このあと朝が来るまで、結局のところ俺は一睡もできなかった。

やはり、怖かった。

 眠気なんてこない、寝たら死ぬのに寝れるわけがない。

 と思っていた俺は今猛烈な眠気に襲われていた。眠たい。



 ……だが今日、そんな眠さも軽く吹き飛ばされてしまう事件が起こることになる。

 それは俺の想像をはるかに超えていた。





圭「眠てーzzz……にしても結果何だったんだろうなあれ?」


⁇「あ!お兄……っと危ない。あー私もホラーなビデオみたかったなあ。」


圭「あ……お前は!」


⁇「おはよう♪ついに次回で今作のメインヒロインである私が登場するよっ☆」




次回「占いなんて存在しない!」





圭「…….お前メインヒロインだったのか。でもお前出るの最後のちょっとだけだぞ。」


⁇「え?……まじで?」






_________お楽しみに!♪( ´▽`)

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