第9回
「兄と私よ」
「へぇ、そっか。これ小さい時のお前なのか。んで、隣のイケメンが兄かぁ。お前はこの時ちっちゃいな、何歳差ぐらいなの?」
「何歳差も無いわ、私の方がもう年上よ」
「え?」
「もう死んでるのよ、自殺だったの。10年前くらいかしら」
「そっか、聞いてごめん…」
「でも今日の騒動で分かったわ。兄は自殺なんかじゃない…」
「え?」
「この学校に殺されたのよ」
「殺された?」
「シュンって言ったっけ」
「ああ」
「アナタ、どうやってあの毒ガスの中生きていられたの?」
「んん、どうやってって…」
聞かれたって分からない。気付いたら俺は保健室でメイの乳を揉んでいたからな……なんてこと言えないけど、俺だって分からない。というか未だにあの朝礼の出来事が信じられないし。
「信じてないなら、体育館の写真も見せるけど?」
「いや、結構です…」
スマホを持ち出したメイは、それをポケットに入れる。ひょっとして乳のことも心を読まれていたか?不安だ。
「この孤島でね。毒ガスによる集団の死亡事件って初めてじゃないの」
「へ、知らないぞそんなの!?」
「知ってる人はそうそういないわ、今回みたいに人数が大規模でないから、あと隠ぺいもされているだろうし」
「隠ぺい……か、まあこの島なら簡単にできるよな」
この島はTVやラジオなどのニュースは、すべて島のテレビ局のみしか放送されない。そしてテレビは24時間放送されておらず、深夜になると砂嵐になる。朝と夕方に島の中であったニュースや、島の外であった大きなニュースなどが放送されるぐらいで、空いた時間はドラマの再放送や有名な海外の映画などが垂れ流しで放送されているだけである。
当然島に都合の悪いニュースは報道されないし、それもこの島に住んでいる人間はその状況を理解している。多少怪しい島だってことくらいは。
「結局、私の兄は遺書として残したテープを残して行方不明なんだけどね」
「死体は出てこなかったってこと?」
「まあ、そういうこと。まあもう生きてないとは思うんだけどね」