第7回
そうと決まればとメイは呪文を唱えだした。おそらく気配を消す魔術だろう。
唸るセキュリティロボの走行音が近づいてくる。やはり想像通り3階にもセキュリティロボはいた。
「おいメイ。来るぞ……」
「分かってるわよ、ほら!」
詠唱が終わったようだ。けれど気配が消える前の情報を元に、セキュリティロボはこちらに追ってくる。
「やっぱり楽にはいかないようね……!走るわよ」
「走れるのか?」
「ちょっとぐらいならね!多分10秒も持たないかも、でもそれだけあれば十分」
俺は走り出すメイの後をついていった。話の通り、上がってすぐの角部屋にメイの部屋はあった。
セキュリティロボはというと、気配を消した俺たちを捉えることができず、動きを止めていた。
「よし、思った以上にイージーだったわ、さて鍵…鍵…」
「おい!走る前から用意しとけよ」
「うるさいわね!私だって色々テンパってんだから」
「そりゃそうだけど、」
「男の人を部屋に入れるなんて初めてなんだからー!!」
そんな口喧嘩に反応し、セキュリティロボは闇雲に銃を撃ってきた。
「こんなことしてる場合じゃない!」
「あったわ!鍵!」
メイはポケットに入っていた鍵をドアノブに差し込み回し、勢いよくドアノブを開けた。二人は飛び込むように部屋にダイブする。
「シュン!鍵、鍵かけて!!!」
「は、はい…!!」
カチャリ…
部屋に入ると、人生で嗅いだことの無い女の子のフローラルな香りが鼻の奥を刺激した。
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お互いに息を切らしていたので、落ち着くまで何もしゃべらず壁にへたりこんでいた。外では、かすかにセキュリティロボの攻撃の音が聞こえる。
「ふぅ…ここの部屋の壁もドアも相当な防音設備になってて、たぶん銃も通用しないわ」
「なんでそんな設計なんだ?」
「学校側の計らいね。大規模な魔術を発動させるためには、結構な騒音と振動があるのよ。そういうのもあって、あまり魔術師はマンションとかの集合住宅には住まないんだけど、学校側は特別科の生徒は校内に住ませたいみたい。で、情報漏えいも防ぐためもあってこんなにしっかりしてるワケ」
「なるほど、これも学校側から出てるのなぁ、凄いなさすが特別科」
「まあ一応主席で入学はしてるから…ほどほどのわがままなら通るってわけ」
またセキュリティロボがドアを破壊しようとする音が聞こえた。
「ふぅ、あれぐらいの攻撃ならなんとかなるな」
「それより傷口を見ましょう、明かりつけるわね」
暗い部屋に、小さな蝋燭を灯すメイ。
「普通に蛍光灯とか無いのかこの部屋は」
「ああいうのがあると、魔術に影響が出るのよ」
「ああ、静電気とかプラスイオンとかそういうのか?」
「いや、雰囲気の問題よ」
「………」
だんだんと目が慣れてくる。そこには学習机とベッドがあった。窓は最低限の空気の入れ替え程度の大きさ。人は通れない。メイの話によるとここの校舎は特別科の生徒専用の校舎で、日々各生徒が独自の研究をしているそうだ。セキュリティ面の徹底を怠る天才肌タイプの人間が多いので、その分校舎が厳重なつくりになっているのだ。さて、部屋の説明に戻るが、この部屋の広さはひとつの教室丸ごとの広さがあり、いくつかの部屋に住宅マンションの様にパーテーションで分かれている。一番広いリビングの床には魔法陣らしきものが描かれていた。
「ここに座って、そこの中心ね」
「この魔法陣凄いな…なんか、いよいよ魔術って感じがしてきた」
「それただの魔法陣のデザインカーペットよ」
「………」