第3回
「先生方も、死んでいたわ。まあ行方不明の先生もいたけどね」
「ふむ…でも校長の様子からすると、毒ガスのことは校長も分かってたように見えたけど…?」
「裏切りか、もしくは最初から利用されていた、ってことになるかしら」
「もはやテロだぜ…なあ、すぐに警察に通報しようぜ」
「無駄よ、ケータイ見てみなさい」
さきほど校長の死体を写していたケータイを見せてもらう。圏外になってる。おかしい、うちの学校はどこでも5強出るほど、強力な電波が飛んでるはずなのに。そしてこれまた異常なほどに張り巡らされていたWi-Fiもまったく拾えなくなっていた。
「…じゃあ逃げようぜ学校から、まず家に帰りたい」
「アナタ、朝学校に来るまでに、異常は感じなかった?」
異常?そんなのあったっけ?
「学校に来る途中、静かじゃなかった?」
「ああ、そいえば、人がぜんぜんいなかったな~」
「おそらく、学校外にも何らかの異常が起きてると考えられるわ」
「ふーむ、そういえば朝礼でも誰かがそれを校長に聞いてたな。あ、思い出した、メイだったなアレ」
「そう、アタシよ」
「でも登校中、俺は普通に人と会ってるんだよね」
「それ本当!?」
何気ない言葉だったのだが、メイはそれに飛びついた。
「ほ、本当だよ。普通に近所のおばさんにおはようございますって挨拶したし」
じっと目を見つめるメイ。嘘をついてるわけではないが、つい目を逸らしてしまった。
「目、逸らしてるじゃん」
「そりゃまじまじと見られりゃ、こうもなるわ!」
「そうなの?ふーん」
ふふっと笑うメイ。
「とにかくな?朝のことを話すと、俺は寝坊しててな。遅刻だー!って走って学校に行ったよ。島流し決定かと思ったけど、なんか体育館に入れてもらえたんだ。でも、あの時のボクちゃん、ちょっと違和感あったな」
「ボクちゃん?」
「木刀を持ってるからボクちゃんだよ。教師。まあ、お前ら担任の先生もいるかも分からないくらい、自由に学校生活エンジョイしてるもんな
」
「私は学校の敷地内に住んでるからね」
「おお、絶対遅刻しないシステムじゃないか、羨ましい」
「アナタがそこに住んでも、どうせギリギリまで寝るクセは治らないと思うわ…」
「く、図星…」
「ふふ、まあとにかく参考になるわ。まだまだ分からないことだらけよ…」
「とにかく、ここから逃げたほうがいいんじゃねえの?」
「はぁ………逃げられてたらとっくに逃げ…」
突然、遠くからモーター音が聞こえた。普通学校では聞きなれないような、騒々しい音だ。
「来たわね…」
「何が!?」
「セキュリティロボよ」
「へ!?」
モーター音は反響し、廊下に鳴り響く。
セキュリティロボ?街中のゴミを拾ったり、買い物帰りのおばあちゃんの荷物持ったりしてる、あのセキュリティロボが?
ヒステリックな回転音を学校内にまき散らしながら、時に何か構内の物を破壊して回っていることが分かる。そしてその音は次第に保健室に近づいてきた。
「明らかに挙動がおかしいぞ。ここから逃げたほうがいいんじゃないか?」
「慌てないで」
「こっちに来てるし…」
「あれはただの巡回」
「巡回!?」
「あんたが気絶してる間に、何度も通りすぎてるし」
メイの言うとおり、セキュリティロボはモーター音と身体を軋ませる音を響かせながら保健室を通り過ぎていった。